愛しい君と夢の中
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夢と現実が行き交うような不思議な心地良さの広がる微睡みの中で、コウェルズはいつもベッドの中で感じていた温もりとは違う心地良さにわずかに身動いだ。
そっと目を開ければ、太陽の明かりでも夜に灯る魔力の明かりでもない不思議な光に部屋中が満たされていることに気付く。
いったい何だというのだろうか。
被っていたはずの布団も消えていて、自室という概念の中にはいるのだが、ベッド以外すべてがおぼろげに霞んでいた。
思わず上半身を起こすと。
「--あ、あなた、様…」
愛しい声が聞こえてきたのはすぐそばで、無意識のように声のした方へ目を向けたコウェルズは、目の前に広がる肢体に目を見開いた。
「サリア…どうして」
愛しい娘は白銀の糸で織られた淡い模様の広がる美しい薄手のショールを肩に掛けた以外は一糸纏わぬ姿でおり、自分の姿に羞恥を感じているようにショールと腕で身体を隠している。
浅黒い肌に淡い白のショールは清楚でありながら艶めかしく、恥ずかしがる表情がコウェルズの劣情を誘った。
「……どうしたんだい?そんな、格好で…」
目のやり場に困る姿だが、本能に従うように目が離せない。
「あの…私…」
サリアは戸惑うように何かを口にしようとしたが、彷徨わせていた視線がとある場所に訪れた時、言葉を無くしたかのように固まり、表情を先ほど以上に羞恥に染めた。
「なっ…いや、これは!!」
サリアが注目する場所は、衣服の上からでもはっきりと確認できるほどに硬く反り立ったコウェルズ自身で、サリアに見られてしまった事実に慌てながらも何とか隠すために身を動かそうとしたコウェルズの足に、サリアの手がそっと置かれた。
「さ、サリア…」
恥ずかしそうに瞳を潤ませながら、怯えるように唇を震わせながら。見上げてくるサリアは、コウェルズが思いもしなかった行動に出る。
「サリア!」
サリアの素肌に欲情した証であるそれに、小さな両の手が添えられる。
思わず止めようとサリアの肩を掴めば、まるで性感帯に触れられたかのようにサリアの身体がびくりと跳ねた。
「--っ」
言葉を無くしたかのように跳ねて、しかし添えた両の手は離れない。そして。
「……あ、あなた様が…ずっと我慢してくださっていることくらい気付いています…だから…せめて…」
サリアの言う意味を理解できなかったのは、頭の中が白く染まってしまったからだ。
コウェルズの目の前で、サリアがその細い指先でたどたどしく衣服を脱がせ、反り勃った性器を露出させた。
血管の筋を浮かせて硬くなるそれに、怯えた指先がそっと添えられて。
「サ--」
コウェルズの目の前で、姿勢を低くしたサリアが赤い舌を出し、恐る恐るといった様子で陰茎をほんの少しだけ舐めた。
とたんに甘い疼きが全身に駆け巡る。
上体を起こしているコウェルズからはサリアの髪ばかりが視界に入るが、ちらりちらりと垣間見える赤い舌先は最初はたどたどしく、次第に大胆に舌全体を使い始めた。
はぁ、とサリアの熱い吐息が性器全体を包み込むようにかかり、痛いほどにさらに強く反り勃って。
やめさせなければ。そう思う気持ちなどとうに無くなっていた。
サリアの癖のある焦げ茶の髪に愛おしむように指先を這わせれば、ビクビクと身体を跳ねさせる。
姿勢を低くしていた姿からわずかに腰を浮かせてもじもじと動くから、ショールが覆いきれない形の良い小ぶりのお尻が丸見えとなった。
サリアはそのことに気付いていないのか、コウェルズに頭を撫でられる度に艶かしいダンスを踊るように身動ぎ続けていた。
性器が感じる舌使いと、視覚が感じる淫靡な身動ぎと。
サリアは目の前の性器に慣れてきたのか、今までは陰茎を舐めるだけだったというのに少し頭をずらして移動し、先端をそっと口に含んだ。
とたんに先ほどとはまた違う快感が全身に駆け上り、思わずサリアの肩を掴んで離してしまって。
「ぁ--」
先端から溢れていた蜜がサリアの唇と離れたくないと伝えるように糸を引き、名残惜しむように顎にかかった。
「…サリア…」
やめろとも続けてくれとも言えないまま、熱を帯びた眼差しと声で名前だけを呼んでしまう。
サリアは恥ずかしそうに顎にかかった蜜を指先で拭い、顔色を伺うように上目遣いで見上げてきて。
そんな姿を見せられて止められるはずがなかった。
今までどれだけ我慢し続けていたか。サリアが思う以上に自分を律してきたのだ。サリアの方からコウェルズを求めてきたこの状況下で本能を押さえられるはずがない。
引き寄せるように隣に押し倒して、驚くサリアの唇に食らいつくように口付けて。
「ん、ぅ」
サリアの声にならない吐息ごと手に入れるように、両肩を掴んだまま口内に舌を押し入らせた。
先ほどまで淫らに性器を咥えていたというのに、コウェルズの強すぎる口付けに怯えるように身を引かせる。そんな反応すら劣情をそそるだけだとは気付かないのだろう。
「ンンッ」
舌を絡めとり、吸い上げ、唇を舐めて、甘噛みをして。
嚥下しきれない唾液が溢れることも許さないとでも告げるように唇を密着させてさらに口内を堪能し続ければ、コクリと喉が動く微かな振動が伝わった。
今まで軽く唇を合わす程度の口付けしかしてこなかったというのに激しく求められて、サリアの強く閉じた瞼から涙が少し滲む。
そんな姿も愛おしくて、長く堪能した唇を離し、コウェルズの腕の中に捕らえられたサリアを食い入るように見つめる。
強引すぎる動きにショールはサリアの身体から離れており、一糸纏わぬ姿に自制がさらに効かなくなる。
淡い色合いを基調としたベッドの上で、サリアの浅黒い肌だけがはっきりと見えるような気がした。
「あなた、さま…」
自分だけが裸でいることに今さら恥ずかしがるように、サリアは自分の腕で胸元を隠した。
その腕を押し退けて、手のひらに余裕で収まる小さな胸のささやかな柔らかさを堪能して。
「あっ……」
硬くなっていた乳首に舌を這わせれば、今までとは異なる上擦った甘い声が響き渡った。
サリアも自分の声に恥ずかしがって両手で自分の口を押さえていたが、胸を堪能し続けるコウェルズの肩に諦めたかのようにそっと手を置いて、淫らに浅くなった吐息を吐き出し続けていく。
左右両方の胸を味わってから、また口付けを交わす。今度はサリアも少しだが舌を動かしてくれて、それが愛おしくてまた深く味わって。
「サリア…」
身体を起こしてサリアの下半身に移動しようとしたコウェルズを、慌てた様子でサリアの手のひらが止めた。
「あなた様…なに、を…」
今さら何も知らない子供だとでも告げるような言い草に、少し笑ってしまう。
「怖がらなくても大丈夫だよ。…優しくするから」
頭を撫でてやって、2人が繋がるための大切な場所に再び下りようとして。
最初から挿入などするつもりはない。そこまで理性を止められないわけではないのだから。
サリアがつらくないように最初はきちんと慣らしてやらなければ。
しかしそう思うコウェルズを、サリアは弱い力で強く止めた。
「い、いけません…これ以上は…」
下だけは駄目だと、サリアは懸命に訴えてくる。
コウェルズを押し退けようとして、脚を閉じようと腰を動かして。
「…ここまで来てお預けは流石に酷くないかい?」
今さら怯えたのかとクスクスと笑えば、恥ずかしがりながらも拒絶の姿勢は崩さなかった。
「サリアの方から私を求めてくれたのに」
「ちが…私は…」
懸命に脚を閉じようとはするが、すでにコウェルズの片足が間にあるために閉じられないでいる。
「大丈夫だよ…全て私に任せていて」
コウェルズの肩にあったサリアの手を取って口付けてから、逃げようとする汗ばんだ足に指先を這わせて。
「違いますっ…どうか、これ以上は…正式に結婚するまではお許しください!」
その約束だけは守ってくれと懸命に拒絶を続けるサリアに、流石に眉間に皺を寄せてしまう。
「ここまで煽っておいてこれ以上は我慢なんて、なかなか酷くないかな?」
「っ…も、申し訳ございません…ですが…」
意志は固いと。
しかしコウェルズの我慢も限界を超えたのだ。
「無理だよ…君が欲しくてたまらない…」
嫌がる弱々しい腕を押さえつけて、強引に脚を開かせて。
「いやぁっ!」
悲鳴のような声を出されて、さすがにもう一度止まってしまった。
「…サリア…ここまでしてしまうと、止められないんだよ…」
まさかここからは自分で沈めろとでも言うつもりなのだろうか。それはあまりにも酷すぎやしないか。
しかしサリアの返答は思いもしないものだった。
「そのために、きちんと学んできました!」
悲鳴のように声を上擦らせたまま、必死に説得するように。
「どうすれば、喜んでもらえるのか…口でも喜んで頂けるように、学んできたんです!ですから、どうか…」
その言葉に、身体が強く強張った。いま何と言ったのか、理解するのに長い時間を使ってしまう。
「……は?」
サリアを組み敷いたままようやく口にできたのは、その言葉を聞いてしまった自分の耳を疑うための安定剤のような疑問符。
「--痛っ…」
ふつふつと湧き上がる怒りに苛まれて、サリアの両腕を掴んで力を込めてしまった。
痛みを堪えるサリアが苦しそうに訴えるが、その言葉でも彼女を思いやれる気持ちは勝らなかった。
「どういうことだ?…まさか君は、私以外の男のものを咥えたことがあるのか?」
口調が普段よりも少し荒くなる。
学んできたとサリアは言った。
口でも喜ばせることができるようにと。
それは、誰で学んだというのだ。
「君は…私という婚約者がいながら…私の知らない所で他の男と寝たのか?」
「そんな!違います!」
「何が違うんだ!!」
間近で怒鳴ってしまい、サリアが恐怖で強くすくんでしまう。
その姿すら、今はさらに苛立つ要因にしかならなかった。
婚約が決まったのはコウェルズもまだ未成年だった頃で、そんな昔からずっと一緒にいられるはずがなくて。
海を隔てた島国で守られていたサリアなら、コウェルズに気付かれないように他の男に性技を仕込まれることも可能だろう。
「…私の衣服を剥がして、自分から舐めてくるわけだ。はは…慣れているなら簡単に出来て当然だな」
「あなた様っ!」
「君が非難できる立場にいると思っているのか!?」
最初コウェルズはサリアを止めた。それでも行為を始めたのはサリアだ。
最初。コウェルズが目覚めた時から。
いや、その前からか。
「…あはは…そうか」
「…あなた様…どうか私の話を」
「君は私が目覚める前から裸でいたんだもんね?私の足元で、身を守りきれるわけもないショールだけを纏って目覚めた私を煽って。…男に飢えたんだろう?」
コウェルズの言葉に、サリアが言葉を無くしたように愕然とした表情を見せた。
「婚姻前の私との関係を嫌がったのは、自分が初めてではないとバレないようにしたかったわけだ。自分の不誠実が理由で破棄にならないように。でも身体が疼いたからせめて咥えたかったんだね…君は悪魔のような王女様だね」
「っ…ひどい…」
「それはこちらの台詞だよね?」
なんとか自分の怒りを押さえようとしても、言葉の端々が荒くなる。
コウェルズに責められてとうとう涙をこぼしたサリアの悲しみの表情も、今は怒りを増やすだけだ。
なぜ彼女が被害者のような顔をするのだ。コウェルズの心を掻き乱したのはサリアの方だというのに。
「あなた様…どうか話を聞いてください…」
「今さらしおらしく言い訳なんかいらないよ。君には失望したけど、手放すつもりなんてないからね。でも優しくしてもらえるなんて思わないことだ。今後も、君の城内での行動は制限させてもらう」
それがコウェルズを裏切った罰だと。
サリアの不誠実がわかったとしても、長く我慢し続けていたコウェルズの昂ぶりが収まるはずもない。
邪魔されずに行為を再開するためにサリアの両の手を拘束してサリアの頭上で押さえつけて、空いた利き手は何の愛撫もしないまま秘部に向かわせた。
「いやあぁっ!!」
結婚するまでは守りたいと告げていた場所は、呆れてしまうほどに蜜で溢れかえっている。
「とんだ淫乱だね」
これでは何の前戯も必要ないではないか。すぐに中に押し入っても平気なほどだ。
「お願いします!どうかそれ以上は!」
「まだ清楚な自分でいるつもり?私を裏切っておいて」
「裏切ってなどいません!!あなた様!!私が言いたかったのは--」
それ以上の言い訳など聞きたくなくて、一気に中指と薬指を奥に押し入らせた。
途端にビクビクと鮮魚のように跳ねる腰に、渇いた笑いが溢れる。
「指でも気持ちいいんだ?」
愛液でじゅくじゅくになった膣内の肉壁はコウェルズの2本の指を離さないとでも言うかのように何度も何度も締め付けてくる。
「それとも指だけで達した?」
尋ねれば、何度も首を左右に振って涙を散らす。
溢れる吐息は少し苦しそうに、しかし熱く艶かしい。
「…私の知らない間にどこまで感じる身体にされたのか見せてもらうよ。嘘つきな君の言葉とは違って、この身体は正直に答えてくれるだろうからね」
「や、ぁ!」
膣内の奥を指の腹で押すようにわずかに動かせば、たったそれだけのことでまた腰がガクガクと跳ね震える。
「ああああっ」
それは完全に感じている声だった。
いったい誰にここまで。
サリアが嬌声を上げれば上げるほど、腹の奥に冷たい怒りが蓄積していく。
まだ幼い子供の頃からコウェルズの女となることが決まっていたサリアをここまで淫らにした者は誰なのか。
どんな手段を使ってでも探し出して、相応の報いを受けさせなければ。
そしてサリアは、城の奥に閉じ込めなければ。
昂ぶる性欲とは裏腹に、腹の芯から冷え込んでいく。
ボロボロと涙をこぼしながら荒い呼吸を繰り返すサリアを眺めながら、なんの思いやりもなく指を引き抜いた。
「っ…」
とたんに強く目を閉じて、また新たな涙の筋を作る。
どこまでも被害者を装うサリアの秘部に、痛いほどに固くなった性器の先端を合わせた。
「いやっ」
自分が動きやすいようにサリアの頭上で拘束していた手を離して両脚を掻き抱くように引き寄せれば、サリアは自由になった腕を突っ張らせてコウェルズを自分から離そうとする。
「あなた様!!いやです!!」
顔色が恐怖から微かに白くなっているサリアの表情を見下して、嫌がる腕をものともせずに一気に貫いた。
途端にコウェルズの全身に凄まじい快感が駆け巡る。味わいたかったサリアの中を、一滴の快楽すら逃さないとでも言うように。
下手をするとすぐに達してしまいそうになるほどの快楽に、コウェルズはサリアの最奥で動きを止めた。
膣壁は柔らかくて、しかしほどよく狭くて締め付けてくる。
「--ぁ…」
サリアから小さく溢れた声はあまりにもつらそうで、同時に悲しそうでもあった。
全身を強張らせて、繋がった箇所に目をやっていて。
「待ちわびたものが得られたんだ。開き直って喜んだらどう--」
コウェルズの言葉も止まったのは、すぐに達しない為の自制を得てから律動を開始しようと最奥からわずかに引き抜いた時だった。
中を堪能して愛液にまみれた陰茎に、赤が混じる。
それは血の色ではないか。
「…サリア」
動揺して思わず呼んだ彼女の名前に、サリアはようやくコウェルズが勘違いに気付いてくれたのだと察したようだった。
「わ、私は…誰にも身体を許したことなどありません!!…学んだと言ったのは…イリュエノッドの女官達から口頭でという意味です!!」
ひきつけを起こすようにしゃくりあげながら、それでも懸命に真実を伝える為に言葉を紡ぐ。
サリアの表情ばかり目にしていたから気付かなかった。コウェルズが突き立てた2本の指にも、微かな赤がコウェルズを責めるようにこびり付いている。
それはサリアがコウェルズを裏切ってなどいないという証拠ではないか。
一気に血の気が引いて、未だにサリアの中にいた先端もゆっくりと引き抜いた。
その動きにサリアの腰がぶるりと震え、強張っていた全身から力を抜いたのがわかった。
「サリア…私は……」
自分がしてしまった過ちに声が震える。そんなコウェルズを見上げたサリアは、目があった途端に今まで以上に涙をこぼして泣き始めてしまった。
「っひ、ぐぅ…」
涙を止めようと必死になっているのか、上がりそうになった声は潰れておかしな音となる。唇を噛み、瞳を閉じてなおも止まらない涙を忌むように眉根を強く寄せて。
「…すまなかった…君の言葉を…聞かなくて」
恐怖に震えて顔色を悪くするサリアの頬にそっと触れれば、華奢な肩が怯えて強く強張った。
また怯えさせてしまった。
それも、またコウェルズの手でだ。
どうすればよいのかわからなくなり、だがサリアから離れることもできなくて濃い色の髪を恐る恐る撫でた。
もう傷つけない、もう酷いことなどはしないと態度で示すように優しく何度も。
ベッドの端に蹴られていた淡い白のショールを引き寄せて、サリアの身体を守るようにそっとかけて。
それでもサリアの涙は止まらない。
「サリア…抱きしめてもいい?」
誤解で酷い仕打ちをしたコウェルズをサリアが許してくれるかどうかなどわからないが、どうすればいいかわからない心が救いを求めるようにサリアを求めていた。
サリアは言葉を発さない。だが少し経ってから小さく頷いてくれた。
その優しさに甘えるように、未だに組み敷くように横たわるサリアの二の腕から背中に手を回し、不安がらせないように指先に力を入れることはしないまま上半身を起こして抱きしめた。
謝罪を態度で示すために何度も背中に回した手でサリアの肩や頭を撫でて、悲しい涙が止まるのを待つ。
コウェルズの腕の中で時折強くしゃくり上げて、鼻をすする微かな音を聞かせてくる。その全てがコウェルズを責め立てているような気がして、どうしようもない不安からサリアの髪に唇を寄せた。
その行動に、ようやくサリアが顔を上げてくれる。
「……」
何か告げようとして開いた唇は、しかし微かな呼吸音を響かせただけで音を出しはしなかった。
先ほど深く味わった赤い舌が唇の奥に見えて、唇ごと震えていることに気付いて、胸が締め付けられる。
サリアは一度視線を外したが、すぐに顔をまたコウェルズに戻し、自分を取り戻すように瞳に力を込めた。
しかし涙の筋はそのままで、涙そのものもまだ止まってはいない。それでも懸命に。
何かを伝えようとして、しかし強張って声が出ない様子を何度か見せて。
「…………さ、ぃ」
ようやく溢れた言葉は、サリア自身にも聞き取ることは出来なかったようだ。
一度視線を外してから、再び開かれた唇は。
「…してください」
何をとは言わずに、コウェルズに身を寄せながら。
「初めてが…こんな形でなんて…」
再び溢れた涙が、先ほどの酷い行為の上書きを求めてくる。
コウェルズは何度もサリアに酷い言葉を浴びせてしまったのだ。サリアの言葉に耳を貸さず、サリアにとってつらすぎる言葉で罵り続け、正式な夫婦になってからとサリアが大切にしてきたものを奪ってしまった。優しい愛情などかけらも無かった。
「あなた様…」
サリアの願いを叶えるためなのか、それとも未だにくすぶる自分の欲望を叶えたいからなのかわからなくなってくる。それでも、顔を向けてくれるサリアの震える唇に、そっと自分の唇を合わせた。
今まで自分でも体験したことのないほどの優しさで、唇だけでなく瞼や頬、額、コウェルズがサリアを傷つけた全ての場所に口付けてまわり、最後にまた唇に戻って。
吐息を震わせながらわずかに開いた口内に、そっと舌を侵入させた。
奥まで堪能はしない。サリアの口内にある舌の先端をそっとなぞる程度の、たどたどしい愛情表現。
ゆっくりとした動作で、これ以上は駄目だと自分を抑えながら。
先ほどの酷い交わりを忘れさせる為に、これがサリアの初めてなのだと伝えるように大切に。
「ぁ…」
唇を微かに触れ合う程度に離してから下唇を舐めれば、甘い声を聞かせてくれた。
その声を合図にするように、再びサリアをベッドに横たえさせる。
薄い白のショールに守られたままの小ぶりの胸をショールごしに包み込むように手のひらに収めて、固くなった乳首を親指の腹で何度も撫でて、もう片方の胸はショールをはだけさせて直接触れていく。
「ん…」
またこぼれた甘い吐息交じりの声に、コウェルズはたまらなくなって彼女の胸よりも大きな自分の手でその薄くも柔らかな肉を集めるように中心に寄せ、ぺろりと乳房ごと乳首を舐めあげた。
とたんにサリアはびくんと震え、そこにはまだ恐怖の感情が存在していた。
何度か乳首を舐め転がして、ちゅ、と軽く吸い上げる。
「や、んんんっ」
吸い上げられる行為の方が好きなのか、困惑したような甘い声を上げるサリアの姿に自分の欲望が理性を押し退けようとするから、たまらなくなって胸から顔を離し、もう一度サリアの唇に戻った。
どれほど優しく1からやり直そうと心に決めたとしても、コウェルズはサリアの膣奥まで堪能した後なのだ。
その時の快楽を今すぐ味わいたいと渇望する本能は何度もコウェルズの理性を圧倒しようとした。
「…痛くない?」
自分をごまかすために、サリアの身体を思いやるような言葉で尋ねて。
頷いたサリアの頭をそっと撫でてからまた触れ合うだけの口付けをして、理性を強く保ってから再び胸へと顔を寄せた。
ショールは下腹部までずらして、両胸を直接堪能する。
今度は軽い口付けばかりを行い、甘い先端からはわざと目を逸らした。
「あなた様…」
それに気付いたのかサリアはコウェルズに遠慮しないよう促そうとするから、指輪の光る左手を取って、その薬指をぺろりと舐め上げた。
それだけでサリアは怖がりながらも気持ち良さそうに震えてくれるのだ。そんなものばかりを目にしていたら、また傷付けてしまう。
「…優しくしたいんだ」
コウェルズの我慢を、その言葉だけでサリアも理解してくれて。
本当はもっと味わいたい。口が裂けてしまうほど深く口付けて、嬌声が悲鳴に変わるほど強く吸い上げて、最奥が押し潰されるほど何度も突き立てたい。
でも、できないから。
もどかしさを感じるほどの軽い口付けばかりをサリアの身体に与え続ける。
腹部に口付けて、足に口付けて、指先に口付けて、サリアの身体でコウェルズの知らない場所などもう無いと言えるほど口付けを続けたが、わざとショールで隠した秘部にだけは触れなかった。
足の付け根には口付けたが、甘く香る秘部だけは、先ほど苦しめてしまったサリアの表情が思い出されて避けてしまうのだ。
わざとらしくショールで隠した秘部から逃れるように、しばらく身動きも取れずに時間を流してから、サリアには聞こえないほど小さいため息をついて身体を起こした。
「…やめておこう」
この先が怖くて、サリアの身体も引き起こして。
「あなた様…」
「君をこれ以上傷付けるのが怖い。もし許してくれるなら、今日のことは忘れてほしい…」
いっそ無かったことにしてくれたら。
その思いが自分本位であることには気付いていなかった。
サリアの瞳からまた涙が溢れ始める。そのサリアの両手のひらは、コウェルズに触れてはくれなかった。
「私は…あなた様をとても怖く感じてしまっているんです。…このまま、婚姻を迎える時まであなた様に怯えたまま暮らせと仰るのですか?部屋を分けることも許していただけないのに…毎夜怯えていろと命じるのですか?」
涙が溢れるまま、鼻のつまった声で懸命に本音を伝えてくれる。その思いは貫かれた時とよく似た悲しみの表情で、優しさでもなんでもないコウェルズの提案を否定していた。
「あなた様への恐怖を取り除いてくださらないなら、私をイリュエノッドに返してください…」
その言葉に思わず反論しようとして、しかしその通りだと俯き、唇を噛んだ。
サリアにエル・フェアリアに留まるよう強制などしていない。しかし、コウェルズの態度の全てはサリアを自分の傍に限定するものばかりだった。
時に甘え、時に冗談半分に脅して。
そしてこれからも、コウェルズはサリアが自分から離れることは許さない。
「…傍にいてほしい」
遠い島国には帰らせない。でも、今はこれ以上サリアを抱くこともできない。
自分勝手にサリアを抱いた後で、どうやってその時に味わった凄まじい快楽に負けずに優しく抱けるというのだ。
「……どうやっても、これ以上は自分を抑えられないんだ…これ以上続けてしまったら、私はまた君を最初と同じようにしてしまう」
離れてほしくない。怯えられたくもない。でも。
たった1人の存在にここまで自分の愚かさを思い知らされるなど想像もつかなかった。
しかもそれが、自分よりも若い女の子だなんて。
「……あなた様は、私に強くなれと仰られるのですね。あなた様を全て受け入れられるほどに」
俯くコウェルズの頬に、サリアの手が触れた。
「どうして…抱いてくださる手を止めたのですか?」
サリアの細い指先を頬に感じながら、自分の思いを探していく。
「……君を傷付けたくないから」
ようやく見つけた返答は先ほどと変わらないもので、それをサリアは許してくれなかった。
「…それだけなのですか?」
それだけのことで、恐怖を消してほしかったサリアの願いは聞き入れられなかったのかと。
自分自身にも問いかける。傷付けたくないと、そう思う本質はどこにあるのか。そして。
「…愛して、いるから」
その思いは、頭の中に浮かぶより先に口からこぼれていた。
愛しているから嫉妬にかられて傷付けてしまった。愛しているから傍にいてほしい。愛しているから滅茶苦茶に味わいたい。愛しているからもう傷付けたくない。
「…君を愛しているんだ」
どうしようもないほどの思いがこみ上げる。
その矛盾した感情の全てがそこに行きついた。
「……でしたら」
ようやくはっきりとした思いを示したコウェルズの頬から指先を離して、今度は両手を取ってくれる。
小さな手で、コウェルズの大きな手を包もうと。
「…毎晩、その思いを伝えて、優しく口付けてください。あなた様に怯える必要などどこにも無いのだと、毎晩きちんと私に教えてください。…あなた様と結ばれるその時に、あなた様に心から全てを預けられるように」
それが、サリアを傷付けたコウェルズの罪滅ぼしとなると。
「…私も毎夜、あなた様に思いを伝えますから。…あなた様のお傍にずっといますと」
「サリア…」
サリアの言葉に、劣情とはちがうどうしようもなく甘くて苦しい感情に胸が苛まれた。
「…愛しているよ」
怖がらせないように引き寄せて、優しいだけの口付けをして。
「…私もです」
近すぎる距離から見つめ合い、次は互いに唇を引き合わせた。
そして--
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