第77話


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 静かな時間。だが穏やかという言葉とは真逆の時間だった。
 大国の王の個人書斎。背の低い落ち着いた色合いのソファーに向かい合って座りながら、持て余すほどの時間をぬるくなろうとするお茶を飲むことで補う。
 話したいことは考えてきたが、いざ相手を前にすると微かな緊張感で心音が少し速くなっていた。
それでもコウェルズがバインドの書斎に来てまだ五分も経っていないのだろう。
「先に渡しておこう」
 流暢なエル・フェアリア語で先に口を開いたのはバインドだ。
 なんの変哲もない小箱を差し出されて、開けてみれば。
「…ありがとうございます……妹に代わり、感謝します」
 それは第五姫フェントの新しい眼鏡だった。
 しかし今までと形が少し違う。
 フェントが今までかけてきた眼鏡は一枚の透明な固いシート状のものだったが、今回の眼鏡は左右の目に合わせるように水晶の薄いレンズが二つ。
 珍しげに手に取ったコウェルズに、バインドは少し自慢するように説明してくれた。
「スアタニラ国から上質な水晶を分けてもらえたのだ。我が国の絡繰技術と融合させ、魔力を流すことによって本人に合った視界を提供することが可能となる。視力は左右で異なる場合もあるが、水晶を二つに分けることによって上手い具合に焦点が合う特別品だ」
 得意げな理由は、この眼鏡の制作者がバインド本人だからなのだろう。そして彼の作る絡繰は、どれもこれも大当たりばかりだ。
「フェントもミモザも本当に喜びます」
「ミモザの方が喜びそうだな」
「でしょうね」
 バインドもミモザをよく可愛がってくれていたが、彼の中のミモザはきっと、今より幼い女の子のままのはずだ。
「…そういえば、ヴァルツが教えてくれました。ファントムの乗っていた飛行船は、空中庭園という名の…あなたが設計した飛行船だと」
 眼鏡を少しいじった後で大切に小箱に戻して、ふと思い出したように問う。
 ヴァルツから概要は聞いていたが、コウェルズはその言葉を信じてはいなかった。
 設計図は盗まれた。なんて、素直に信じるのはヴァルツくらいのものだ。
「…膨大な魔力を消費することがわかって頓挫した船だ…形になっているとは思いもしなかった」
 あくまでも尻尾は掴ませない言葉。きっと何を聞いても、バインドは真実を語らないだろう。だが今この情報から聞きたいのは、ファントムとバインドの繋がりではない。
「設計図は大切に保管していたのでは?」
「当然だ。何よりも私がこの手で完成させたかった船なのだからな」
「…詳しく覚えているのですか?」
「当たり前だろう」
 私が考えたのだぞ、と笑うバインドは、コウェルズも微笑みを返したことにぴくりと表情を一瞬だけ固めた。
 その一瞬を、コウェルズは見逃さなかった。
「では教えていただきたいことがあります。大まかな部屋の配置、収容人数、魔力の必要量、船の能力など」
 たかが飛行船でファントムとバインドの繋がりを決定付けようとは思ってはいない。
 そんないたちごっこに時間を割くなど無意味だが、飛行船を知ることはコウェルズにとって利点となる。
「あの船はなんの前触れもなく現れました。国全体に張り巡らせた結界どころか、王都の最も強力な結界すらすり抜けた。それも、あなたが考えた設計内のひとつですか?」
 危険な問いかけに、沈黙が広がった。
 コウェルズから見たバインドの表情は、ただ真剣なだけだ。
 そして。
「…他には?」
 問いかけに、問いかけで返された。
「船には他にどんな力があった?」
 その声に宿るのは、静かだが深い怒りだ。
「…それ以外で気になる点はありませんでしたよ」
「……」
 押し潰すかのような沈黙に圧迫される。
 のらりくらりと躱されるだけだと思っていたのに、怒りに包まれるとは想定外だった。
 思わず背筋が伸びそうになるのを堪えていれば、バインドは落ち着くためのため息をひとつ吐いて、静かに立ち上がった。
 そのまま壁の書物を漁り、そう分厚くはない一冊の本を持ってくる。
 資料をまとめたものだと気付いたのは、目の前に置かれた時だ。
「…この国にいる間だけ貸してやろう」
 再び元の場所に座りながら、怒りのせいで疲れたような声で、こちらを見ることもなく許可をくれる。
 いったい何なのか、少しだけ開き見て、驚いた。
「…奪われたのでは?」
「奪われたと知った後に、思い出しながら書き出したものだ。原物とは些細な違いしかないだろう」
 それは空中庭園の設計図だった。
 ラムタルの文字で事細かに書き記された、絡繰りの巨大飛行船。
 パラパラとめくり見ただけでも、なぜこの船に膨大な魔力が必要となるのかがすぐ知れた。
 一言で言い表すなら、街だ。
 この船だけで、最低限の衣食住は完全に賄われる。
 絡繰りを使った植物や果物の栽培から、家畜の世話、水すら生成する。
 しかしそれは尽きることを知らないほど莫大すぎる魔力があることが前提だ。
 数値化された一日に必要な魔力量を見ても、コウェルズでも一日動かせるかどうかというものだった。
 膨大な魔力を持つコレーでも難しいだろう。
「お前達がこの国に来る為に乗ってきた飛ぶだけの簡単な飛行船とは訳が違う。あれは……自然災害時に全てを失った民達の簡易居住区として使う予定の船だった」
 飛行船であればどこの地域で災害が起きたとしても飛んでいける。そして巨大な船そのものが、被害にあった全ての民を受け入れる。
 その為に設計して、頓挫した。
 バインドにとっては、本当に民の為に作った船だったのだろう。それが、改造されて大国の結界を破り侵入するものになった。
「…大切にお借りします」
 貴重な資料。バインドの様子を見れば、本当に盗まれてしまったのかと思えた。だが。
「…その船に乗っていた若者の一人に、昨日会いました。ラムタル国の武術出場者でした」
 ラムタルの神官衣を着た、大柄な若者。彼の話をしたとたん、バインドの身体から怒りが消え、思案するような表情になる。
「……彼のことは私もあまり知らぬな。隊長格の者が魔力量と武術の才能に目を留めて連れて来た者だ」
「…詳しく調べずに?」
「そもそも地方の神官として我が国に勤めていたのだ」
 クルーガーがパージャを王城に連れて来た時と同じだ。パージャも王城に来る前は王都の兵士として勤めていたと聞いた。
「…連れて来た者の独断でですか?」
「いや、神殿と正規の手続きをしている。大会出場の為に貸し出されたと言った方が合っているな。武の才に関して、放ってはおけなかったのだろう」
 ラムタルは各地に神殿を置いて結界の強化や近隣の民達への支援を行なっている。神官は兵士ではないので戦闘には向かないというのに、なぜ彼は神殿にいたのか。
「…もう一度お伝えしますが、彼は我が国を襲い、リーンを奪って消えたファントムの仲間です。まさかラムタルで再会するなんて…これは偶然でしょうか?」
「我が国にファントムがいると?」
「…そう考えてしまいます」
 否定せずに見つめれば、フッと鼻で笑われた。
「確かに我が国にいるのかもしれないな。神殿から預かっているので取り調べはすぐには行えないが…大会終了後に対話の場を設けられるよう尽力しよう」
 そののらりくらりとした言葉に、コウェルズはやはりバインドから核心を突くことは不可能だと悟る。
 ラムタルの神殿は王家に等しい権力を持つ。
 幸いなことに今の神殿はバインド王と同じ志の道を歩んではいるが、だからと神殿所属の者を簡単に扱うわけにはいかないのだ。
 なら、バインドの気持ちの面はどうなのだろうか。
「…もし無事にリーンが戻ったら…どう考えていますか?」
 問うたのは、バインドとリーンは婚約していたから。
 年は離れて大々的に婚約の発表もしていなかったが、バインドは確かにリーンを大切にしていた。
 周りに怯えるリーンを、父のように、兄のように、恋人のように大切にしていたのだ。
 コウェルズは今でも、リーンが最も幸せになれる相手はバインドしかいないと思っている。
「…リーンがエル・フェアリアに戻るなら…私は改めて求婚しよう。今度こそ、エルザの代わりというわけでもなく」
 かつてバインドは、自国の為にエルザとの婚約を破棄し、リーンを選んだ。そして今はもう一度やり直せるならとまで告げてくれる。
 今も大切に思ってくれているのだとわかる言葉。
「あなたは、五年前にリーンが死んだとされてからも、リーンを思って他の妃を迎えずにいましたね」
 自国からも他国からも、バインドの隣の席を望む声は多かったことだろう。しかしバインドは死んだリーンの為に隣を開け続けてくれた。
「…国を思うあなたが、最も重要な跡取りを蔑ろにしてまでもリーンを思ってくれて、ありがたく思っています」
 言葉の含みにはバインドも気付いたことだろう。
 リーンが生きて戻ってくることを知っていなければ、こんな愚かな選択をするはずがない。
 バインドが纏う空気がピリついたことには気付いていたが、コウェルズはあえてその空気には触れなかった。
 そこに触れるのは、今ではないと。
「ミモザとヴァルツの仲も良好ですし、ミモザは母のように子を多く授かりたいと話しているのを聞いたことがありますから、跡取りの件はそもそも杞憂でしたね」
「ほう、そんなことをヴァルツと話していたのか」
「いえ、ミモザとサリアが二人で話していたのを盗み聞いたんです」
 さらりと真実を告げれば、数秒間を明けてから鼻で笑われた。
「バオル国の場合はどうなるのでしょう?唯一の王位継承者であるアン王女は、表向きは行方不明のまま。オリクス殿達が万一敗れることになれば…」
「必ず勝つさ」
 言葉を遮られ、言い切られた。
「…マガをエル・フェアリアに寄越す理由は何ですか?」
 ならと、改めて問う。
「マガの存在がバオル国の内乱に関係するなら、引き取ることはできません。アン王女ならまだしも、彼はオリクス殿の腹違いの弟というだけの、ただの私生児でしょう」
 身も心も蔑まれていた可哀想な私生児。しかし可哀想というだけでオリクスが切実に頭を下げるとは思えない。
「…このままバオル国にいれば、マガは近い将来死ぬことになる」
 呟くように話された内容に、コウェルズは眉を顰めた。
「それは……内乱に関わるからですか?」
「ああ。マガはアン王女を殺そうとしたのだ。父親の命令で毒を盛った」
 その事実にはさすがに驚き、眉間に皺を深く刻んだ。
「マガがバオル国に残り続ければ、いつかマガは処刑される。それを回避するには、遠くの地へ逃がすしかないのだ」
「だからと…訳ありの人間を引き取るなんてできるわけないでしょう」
 バオル国の内乱に関わるなら無理だと言った矢先に、真実は言った通りの大正解だ。
 しかも王族に毒を盛った者など恐ろしいにもほどがある。
「それに毒を盛ったというなら、処刑されて当然では?」
「事はそう簡単ではない。オリクス達が毒の情報を得たのは、マガ本人が告げたからなのだ」
 さらに混乱させられる情報に思わず頭を掻いた。
「……こちらはファントムの件で手一杯なんです。遠いバオル国の内乱に興味はありませんし関わりたくもありません……なぜそこまで彼を我が国に放り込もうとするんですか?」
 エル・フェアリア以外にも、バインドがオリクスの後ろから頼めば二つ返事で頷く国ばかりだろうに。
 エル・フェアリアの現状を知ってなお頼んでくるなど、断られることが前提にしか思えないのだが。
「…友が守りたいと願う弟を受け入れ、守りきれる国は、エル・フェアリア以外にはない」
 バインドの言葉はどこまでも曖昧に聞こえるが、吟味すればいくつかは理解できた。
 エル・フェアリアは基本が実力主義だ。現に紫都の領兵団の隊長の一人が元奴隷だった。
 それほどの快挙を成し遂げる者は少ないが、マガの身体能力なら身体を使う分野のどこでも受け入れ可能だろう。オデットが運営する国立演劇場の舞踏団でもマガを欲しがることは確実だ。
 そして万が一マガを裏切り者として暗殺者を差し向けようとしても、エル・フェアリアまではあまりにも遠く、そして危険な道のりだ。わざわざ訪れるくらいなら捨て置くだろう。
「諸々考えた結果として私の国にマガを受け入れるとして、あなたに売れる恩とは何でしょう?」
 ファントムの件は尻尾を掴ませない、その仲間である神殿所属らしい若者のことも対応を快諾してくれたとなると、ほかに何が残るのか。
「この大会期間中に行わなければならない事がまだ他にも残っているだろう」
 優雅に微笑まれて、ああ、と納得の笑みを返す。
 コウェルズがわざわざ大会に訪れた理由。
 ファントムとラムタルの繋がりを見つけることと、もうひとつ。
「突然すぎる王位継承に、同盟国訪問もひとまとめに行いたいというなら、私にしっかり恩を売るべきではないか?」
 どこか意地悪に見える笑みを浮かべてくるものだから、コウェルズはお手上げだとばかりにおどけて両手を上げた。
「…承諾してくれたわりに眉を顰めていた理由がわかりましたよ」
 それは同盟国同士の親交の証。
 王位を受け継いだ者は、同盟国に対して和平がこれからも続くことを約束する為に国外へと足を運ばなければならない。
 しかしコウェルズには、エル・フェアリアには他国に時間割いている暇など無いのだ。
 だから一度に済ませようとした。
 エル・フェアリアと並ぶ大国ラムタルで、世界規模の大会で各国の重鎮が集まる中で。
 大会は壮大であればあるほど開催国の権威が示される。大会中にコウェルズがラムタル国で王位を継承するドラマチックな演出は、賛否を含め大きすぎるラムタルの功績となるだろう。ラムタルの懐深さを印象付けられるのだから。
 コウェルズは当然バインドには伝えていたが、ここへ来てこんな注文が待っていたとは。
 恩を売るなら今だと言いながら、バインドの言葉は恩を返せと聞こえるようだ。
「さすがに二つ返事でマガを引き取る事はできませんよ」
「わかっているさ」
 バインドがどこまで考え、どんな思惑を持つかなどわかるはずもない中で、マガの存在はコウェルズ達にとって有益なのか否か。
 友の為などと平気で口にできることが疑問だったが、マガのことは前向きに検討せざるを得ない可能性が出てきたことにわずかに眉を顰めた。
「…あと、これをジュエル・ガードナーロッド姫に渡してくれ」
 バインドが懐から取り出したのは、白い宝石で作られた、白百合の形をした小さな髪飾りだった。
 絡繰り細工であることは、誰の目にも明らかだ。
「簡単な防御結界程度の代物だが、彼女には目につく形で必要となるだろう」
 髪飾りを受け取りながら、バインドの思惑に苦笑して。
 ジュエルがわざと泣いたということは黙っておいた方がいいだろう。
「…他国からもジュエルの為に多くの贈り物を頂いたところです。ここにバインド王の直々の賜り物となったら…相手は顔面蒼白ですね」
 相手とはもちろんバオル国の武術出場者側の面々のことだ。
 バインドとしても、静かにしていろという牽制もあるのだろう。
「まだ12歳だというのに非常に優秀だと聞いた。エル・フェアリアの侍女の質が確実に上がっているようで喜ばしい」
「……数年前のことは忘れていただければと思います」
 腐敗し尽くしていた前侍女長時代を思い出して、コウェルズもさすがに頭を抱えた。
「その時代があったから今ジュエル姫がバオル国の愚か者共に絡まれる事態になっているのだ。だが愚か者共がマガを使ってきた事は、こちらとしては朗報だった。ジュエル姫のおかげで上手く保護できたのだからな。彼女にはその感謝の印として渡してくれたらよい」
「…まるでマガをエル・フェアリアに引き取らせることは最初から決まっていたかのような口振りに聞こえますね」
「そこまで都合良く考えてはいないさ。エル・フェアリアの現状は、私もよく理解している」
 理解しているなんて都合の良い言葉を使いながら。
「……さあ、夜はまだ長い。久しぶりにゆっくりと話そうではないか。お前もまだまだ私に聞きたいことがあるのだろう?」
 飲み物をお茶から酒に変えて。
 本格的に始まる化かし合いの時間に、コウェルズは手渡された資料にもう一度軽く目を通して、落ち着くように優雅に微笑んだ。

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 どうだった?と。
 戻ってきたコウェルズを出迎えてくれたのは、夜中まで待ってくれて少し眠たそうなジャックだった。
 酒の匂いを漂わせるコウェルズに水を用意してくれて、気疲れからソファーに深く座り込めば労るように肩を揉んでくれて。
「……」
 話そうとして、先に小さな結界を張った。
「…尻尾は掴ませてくれなかったさ。でも…バインド王はファントムと繋がっている…どこまで繋がっているかはわからないけどね」
「…確信を?」
 問われて、頷いた。
 もちろんバインドが下手を打つはずがない。だが。
「バインド王が何度も私を正座させて説教してきたのを覚えているだろう?」
 それは、幼い頃から彼を知るが故の。
「常に厳しい正しさを自分にも周りにも求めてきた人が…ラムタルの武術出場者がファントムの仲間だと伝えたのに、穏便に済ませようとしたんだ」
 それは、コウェルズが一番強く感じた違和感。
 コウェルズの知るバインドなら、すぐに神殿に掛け合ってくれたはずだ。
「ここにファントムとリーンがいる保証はない。でも、繋がっているのは…確かだ」
 証拠はない。だが心が告げる。
「……水を飲め」
 手渡されて、一気に飲み干す。
 唇の端から漏れた水が冷たく伝うから、拳で無作法にふいた。
「…ジュエルは?」
「今晩は他国のサポートの娘達と晩餐を楽しんでいた。バオル国の奴らもさすがに大人しくしていたな」
「……ならよかった。バインド王がジュエルに髪飾りをくれたから、もっと穏やかになるよ」
「陛下が直々に?」
「そう…そこまでしてくれる人が…」
 酒の力が作用しているのか、気持ちが感傷に浸ろうとする。
 子供の頃は、怖くて、格好良くて、憧れていた。無条件の信頼は今も心のどこかにあったようで、それが潰された気がした。
 あまり仲良くしすぎるな。信頼しすぎるな。とは幼い頃から側近達に言われていたが。
「…こういうことか」
「…何か?」
「いや…何でもないさ」
 またひとつ、大人になる。
 失望から心が分厚く覆われる。
「…マガの件は?」
「エル・フェアリアの得にならないから、断るよ」
 不穏分子などいらない。
 これは損得勘定の結果の判断だ。国の利益にならないことがわかったから、いらない。
「伝えるのは、大会が終わってからにするよ」
 このままソファーで眠ってしまいそうになるのを何とかこらえて、結界を解いてから寝室に向かって。
「…俺はダニエルと話すことがある。明日は昼まで寝てろ」
 何か悟ったのだろう。ジャックはコウェルズの心の変化に気付いたように労ってくれた。
 寝室に入るまで背中に感じていた視線は暖かい気がしたが、気付かないふりをし続けた。
「王ともあろう者が友など…くだらない」
 独り言は自分にしか聞こえない。
 今のコウェルズが持つバインドへの感情は、オリクスを友と告げてマガを押し付けようとしてきた事に関する侮蔑が大半を占めていた。
 そんなものに感情を動かされることなどコウェルズはしない。
 全ては国の得となるか否か。
 それこそ、コウェルズが幼い頃から脳裏に刻みつけてきた信念なのだから。

第77話 終
 
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