第57話


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「--それで、ニコルが兵馬の厩の掃除を?…珍しいですわね」
 どしゃ降りとなった雨の音を何とはなしに耳にしながら、ミモザは自室に遊びに来たヴァルツの話に目を丸くした。
「そうなのだ!なぜ捕虜となった娘の部屋に強引に押し入ったのか、詳しい理由は知らんがな」
 会話の内容は捕らえたファントムの仲間である娘・エレッテに無理矢理会いに行ったニコルがクルーガーから罰を与えられたというもので、今も厩の掃除を行っていると。
「明日お兄様が出発するまでに全てなんて…出来るのでしょうか?」
「兵馬といえど兵舎内周の四棟で育てている馬達だけなのだろう?元々綺麗に掃除はされているらしいから、それくらいなら無理な話ではないらしい。寝なければだがな。なかなか滑稽な罰だと思うが、地味にきつくはあるそうだぞ」
 雨は夜の訪れと共に突然泣きじゃくるように降り始めて、今も勢いは収まらない。
 現在の時刻は幼い妹達はすでに夢を見ている頃だ。
 ミモザは窓際近くに設置されたソファーに腰を下ろしながら、太ももに顎を乗せる絡繰りの大型犬の頭を撫で続けた。
 魔力の操作で小型の飛行船に変化する絡繰り犬は、ミモザの魔力をコウェルズごしに少し流してからこちら、柔順な様子を見せながらミモザになついてくれて。
 コウェルズは犬の柔順な様子が面白くないらしく「所詮は絡繰りじゃないか」と拗ねていたが、本物の犬のように懐かれ尻尾をふられたら、可愛いに決まっている。
「まぁニコルは以前フレイムローズと共に二日間寝ずの警備をしていたのだから、無理ではないだろう。身体を動かせるのだから今回の罰の方が楽なのではないか?」
「…そうならいいのですが」
「騎士達は身体を動かしたがるからな。あまり気にするな」
 ヴァルツは絡繰り犬の背中に抱きついて、ミモザが先ほどまで撫でていた頭に頬擦りをしながら心配を払拭しようとしてくれる。
 確かにニコルは以前、エルザの王族付き時代にアリアの件で一悶着あり、罰として寝ずの番を言い渡されていたが。
「クルーガーもニコルの正体を知ったのだから無理はさせんだろう。その上での罰なら甘んじて受けさせてやればいいのだ」
 まるでニコルの今の胸中を知るかのように。
 犬にじゃれる姿は幼さを残すのに、ふとした拍子に大人の姿を見せるヴァルツに、ミモザは無意識に優しく微笑みを浮かべていた。
 しばらく年下の婚約者の可愛らしい姿を見守ってから、明日に思いをめぐらせて。
「…明日のお兄様の出発に、ヴァルツ様はついて行きませんの?」
 明日コウェルズ達が向かうラムタル国はヴァルツの祖国だ。恐らくバインド王は弟であるヴァルツに戻ってこいと告げているはずなので訊ねたが、ヴァルツは犬に深く頬擦りしたまま顔を上げなかった。
 それははたして単なる頬擦りだったのか、それとも大きく首を左右に振り否を表したのか。後者だと気付いたのは、ヴァルツの気配が落ち着いていたからだ。
「リーンを取り戻すまでは国には帰らん。兄上にもそう告げておるのだ」
 そして帰らない理由は、他ならぬバインド王の為で。
「…そういえば、リーンが生きていたのなら、改めて正式に兄上との婚約を表明できるのではないか?」
 ふと思い出したように顔を上げて、ヴァルツは重大な国の関係を口にする。
 リーンとバインド王の婚約は大々的に発表はされていなかったが、知られていないというわけでもない。
 だが今改めて婚約発表をすれば、重大というどころではなくなるだろう。
 美談にしようと思えば出来るだろう。しかしラムタル王との婚姻を狙う国内の貴族や諸外国からすればいくらエル・フェアリアであれ問題無しとはいかないはずだ。
 今の状況でしこりを残したくはない。
 特にリーンは汚物姫と他国からも蔑まれていたのだから、エル・フェアリア王に閉じ込められ、ファントムに救われるように奪われたリーンは完全に清らかなイメージを消されている。いくら大国の姫だろうが、得体の知れぬ中で汚された娘を大国のラムタル王に捧げるなど、軽んじるにも程があるだろうと。
 ミモザがどれほど妹達を愛していようが、リーンを思っていようが、客観的な見方を消すわけにもいかない。
「…発表はまだ難しいでしょう」
 今はそれだけしか口にできなかったが、ヴァルツは深層を理解できないかのように首を傾げて。
 人々が全て、ヴァルツのように素直な心根の持ち主ばかりならよかったのに。
「…さあ、明日も早いのですから部屋にお戻り下さいませ」
 時間を見計らい別れの言葉を告げれば、ヴァルツがあからさまに眉をひそめた。
 ミモザの傍にいたいと全身で告げてくれるのは嬉しいが、婚約者とはいえまだ婚前だ。夜遅くまで共にいることは出来ない。
 それにヴァルツにも悪いだろうと。
 年下とはいえヴァルツはエル・フェアリアでは成人を迎えている歳の男だ。愛し合う行為を知らないはずがない。
 毎夜のことだが別れの時間に不貞腐れるヴァルツの頬に手を添えて、ミモザは自らヴァルツの額に唇をそっと合わせた。
「…さあ、眠る時間ですよ」
 ゆっくりと離れれば、ヴァルツは頬を真っ赤に染めていて。
「わ、私はもう大人だ!」
 子供扱いしてしまったせいで照れ臭そうにしながらも急に立ち上がるから、絡繰り犬がびくりと尻尾をすぼめながらヴァルツから離れてソファーに飛び乗り、ミモザの影に隠れてしまった。
 だがそんな絡繰りには気を使わず、ヴァルツはすぐに気を取り直して改まるようにミモザの手に触れて引き寄せ、先ほどミモザが行ったようにそっと頬に口付けをくれた。
 二人立ち上がると目線は同じくらいだ。少しだけヴァルツの方が高いだろうか。
 ミモザの履くかかとの高いヒールを脱げば一気にヴァルツの方が背が高くなるが、履いたままでもヴァルツの目線が少し上にあるということはエル・フェアリアに到着した頃に比べれば身長が伸びていることを意味していて。
 いつかヴァルツを完全に見上げる日が来るのだろう。少し名残惜しくて、でも楽しみで。
 年下の幼い婚約者は、日に日に男性としての魅力に溢れていくから。
 ミモザの頬から離れた唇がもどかしげに震えて、ヴァルツがあからさまに視線を逸らす。
 ヴァルツが求めているものが何であるのか理解していたが、意地悪をするようにミモザはそっと離れた。
 唇同士の触れ合いは、ミモザにはまだたまにで充分なのだ。
 大切に大切に取っておきたいと思う気持ちは、ヴァルツにはわからないかも知れないけれど。
 部屋の中央に設置されたテーブルに向かい、金縁の美しい呼び鈴を一度鳴らす。
 耳に心地良い音は激しい雨音に掻き消されることなく室内に響き渡り、ノック音と共に部屋の扉が少し開かれた。
「失礼いたします。お呼びでしょうか?」
 部屋の外から姿を見せるのはミモザの護衛騎士のゲオルグで、呼び出した理由を訊ねながらも視線はミモザではなくヴァルツに向けられていた。
 この時間の恒例となっているのでなぜミモザが呼び鈴を鳴らしたのか理解しているのだ。
「ヴァルツ様を部屋まで送ってください」
「かしこまりました」
 恒例となりながらも優しく命じれば、ゲオルグはすぐに扉を大きく開けてヴァルツを待つ。
 拗ねながらも諦めるヴァルツも、最後に絡繰り犬の頭を撫でてからすぐに扉に向かって。
「よい夢を見るのだぞ!」
「ありがとうございます。お休みなさいませ」
 今日最後にくれる言葉に、ミモザは最近では珍しいほどに表情をほころばせた。
 ヴァルツが名残惜しそうに扉の境界線を越えて、扉は閉められて。
 彼がいなくなれば、慣れたはずの自室は異様なほど大きく感じてしまった。
 そんなミモザの寂しさに気付いたように絡繰り犬が近付いて腰の位置辺りにすり寄って。
「…読書を終えたら私達も眠りましょうか」
 毎夜の日課を行おうと書棚に向かえば、絡繰り犬もゆったりとした動きでついてきてくれた。
 昨日うまい具合に一冊読み終えたので、新しい本を探す。新しいとは言っても全て読み終えてはいるが、どれにしようか。
 知識書もいいが、眠る前なら物語の方が好きだ。できれば恋愛の織り込まれた優しい物語がいい。
 何にしようかと首をかしげれば、隣に来た絡繰り犬がそっと鼻先で一冊の本を示した。
「…それがいいの?」
 それはエル・フェアリアの創始から語り継がれる恋物語の本だった。
 初代エル・フェアリア王ロードと虹の女神エル・フェアリアの恋物語。
 この国の名は女神エル・フェアリアの名前からいただいたものなのだ。
 ミモザ達王族はロード王と女神エル・フェアリアの末裔で、二人の愛により争乱のただ中にあった国は秩序を取り戻した。
 エル・フェアリアの民なら誰もが幼い頃から話して聞かされる耳に馴染んだ物語。
 特に女の子達はその恋物語を深く愛していた。
 ミモザが幼い頃に与えられた本は、大切にしていたとはいえ月日が経って端は擦りきれてしまっている。
 書棚に並ぶ中では比較的薄い本を取り出して、表紙の文字をなぞって。
「これにしましょうか」
 エル・フェアリアの恋物語を読むのは久しぶりだ。
 絡繰り犬と共にベッドに向かい、端に腰を下ろす。
 触り慣れた表紙をめくれば、エル・フェアリアの恋物語は争乱時代の説明から始まった。
 美しい虹の女神エル・フェアリアを奪い合う痛ましい争乱の中で出会ったロードとエル・フェアリア。
 ロードは女神エル・フェアリアの為に争乱を終結させて王となった、いわば英雄だ。
 今はファントムとなってしまった悲劇の王子ロスト・ロードも、初代の王であるロードから名付けられたものだと聞いている。
 雨が窓や露台を強く叩く音を耳にしながら読み進めていく。絡繰り犬はミモザの足に顎をのせて休む体勢となっていた。
 犬の鼻先を指でくすぐるように撫でながら、静かに物語に夢中になって。
--カタン、と。
 雨とは別のおかしな音が露台から聞こえてきて、ミモザは意識を本から離してしまった。
 ちょうどエル・フェアリアがロードと出会った頃合いで物語から引き離されて、ミモザは無意識に唇を尖らせる。
 一番好きなシーンだったのだ。
 なんだろうと耳を傾けても雨の音だけで何も聞こえてこないから再び本の世界に浸ろうとしたところで、またも何かの音が露台から響いた。
 聞き間違いではない。
 何かが。
 ベッドに本を置いて、自分は立ち上がる。
 絡繰り犬もついてこようとベッドを降りたが、ミモザはそこにいなさいと犬の頭を撫でて押さえた。
 天空塔がまたいたずらをしたのだと思ったからだ。
 エル・フェアリア王城上空に浮かぶ塔の形をした生命体はファントムの襲撃の際に半壊してしまったが、自己修復で最近ようやく元の姿を取り戻した。
 元の姿を取り戻しさえすれば天空塔も普段通りに戻り、たまに見えないように蔓をおろしていたずらしてくることがあるのだ。
 かつて天空塔には治癒魔術師であるメディウムの一族が住んでいたが、彼女達が36年前に忽然と姿を消してからは天空塔も寂しい毎日を送っているはずで。
 たまに蔓を下ろして構ってもらおうとするいたずらを、ミモザ達は甘んじて受けていた。
 聞けばニコルの元にも蔓を下ろしていた様子なので、王族の魔力を敏感に感じ取っているのだろう。
 カーディガンを羽織って窓に近付いてカーテンごしに外を覗いたが、露台は夜の闇に染まるだけで雨が降る以外に何も見えはしない。
 雨水が部屋に入ってしまうことは躊躇われたが露台への扉を開けば、髪に強い雫が降り注ぎ。
「---あなた…」
 部屋からは見えなかった露台の端に、ミモザは彼を見つけてしまった。
 兄から生存を聞かされていた、生きているはずのない人。彼はファントム襲撃の際にミモザの視界の中でファントムの仲間に首を落とされたはずなのに。
「ナイナーダ!」
 思わず駆け寄ってしまったのは、彼が苦痛に耐えるように露台の手すりに身を寄せて屈んでいたからだ。
 腹を庇うように、腰の曲がった老人のように。闇の中の男がナイナーダだとわかったのは、彼がそれだけの存在感を放つから。
「どうしてここに!?」
 駆け寄って、彼の身を庇う。苦しむ人が目の前にいるのに怪しめるほど、ミモザは不審者に慣れてはいない。
「ミ…モザ…様」
 ナイナーダの声はかすれ、すがるように見上げてくる。
 どしゃ降りの中にどれほどいたのか、服越しだったとしてもナイナーダの体は冷たく、ミモザは全身で彼を支えながら部屋に戻った。その瞬間にほんの微かな魔力の流れを感じたが、気にしている暇など今はなくて。
 絡繰り犬はミモザに待っていろと言われた場所で素直におすわりをしているが、顔はこちらに向けられている。
 雨が入らないよう扉を閉めて、床にうずくまるナイナーダを見下ろす。
 濡れ鼠となっているナイナーダは立ち上がることもままならない様子で、ミモザは頭の中でコウェルズだけを呼ぶべきか、アリアも呼ぶべきか一瞬迷った。
 こんな非常事態の対応などすぐにはわからない。だが放っておくことなどできるはずもなくて。
「ミモザ…様」
 力を振り絞るように見上げてくるナイナーダはすがるような眼差しをミモザに向け、その弱々しい姿に迷いを捨てる。
 今は迷っている暇などないはずだ。騎士を呼んで、すぐにナイナーダの手当てをしなければ。
 ヴァルツを部屋に送る為に護衛の騎士は一人欠けているだろうが、まだ一人は扉の向こうに立っている。
 ミモザは励ますようにナイナーダの前にしゃがみ、
「待っていなさい。すぐに人を--」
 すぐに離れようとしたが、腕を掴まれて阻まれてしまった。
「お待ちください…」
 囁くように力の無い声だが、ミモザの腕を掴む手の力は男のもので、困惑に身を固める。
 ナイナーダの瞳はミモザだけを映し、その様子にぞくりと背筋が粟立った。
「ミモザ様…」
 またも名前を呼ばれ、さらに強く腕を引かれる。
 その力に抗うことができず、ミモザは雨に濡れた床に尻餅をついてしまった。
 そうなればナイナーダとの距離は一気に近付き、彼が雨以外の液体にも濡れていることに気付いた。
 赤い液体。
 血だと理解できるまで、頭の中は白く染まり続けた。
 ナイナーダは自分の腕の中に収まるミモザに覆い被さるように身を寄せて。
「…ミモザ様、どうか私の唯一の願いを…」
 ナイナーダは苦痛に歪む声を震わせながら、ミモザの頬を血に濡れた指先で恐る恐るなぞる。
 圧迫するようなナイナーダへの恐怖心に身が強張り、雨と血の匂いに噎せそうになり。
 ナイナーダの指先はミモザの胸部に降りて。
「…あなたの全ての愛を私だけに--」
 ナイナーダに全てを絡め取られそうになる刹那、視界の端から黒い塊が嵐のように襲いかかってきた。
 しかしそれはミモザではなくナイナーダを襲い。
「っぐ…」
 鈍い悲鳴。
 ミモザからナイナーダを引き剥がしてくれたのは、絡繰りの身体を戦闘型に変化させた犬だった。
 鋭い爪と牙を剥き出しにしながらナイナーダに襲いかかる様子を目の前にして全身がすくんだが、ミモザは思い出すかのように口をひきつらせながら開いた。
「だ…だれか…誰かっ!!」
 騎士の名も呼べないほど気が動転してしまって、でも何とか大きな声で助けを求めて。
「--ミモザ様!?」
 すぐに開かれる扉と同時に、絡繰り犬とナイナーダがもつれ合いながら窓を割って露台に身を投げた。
 扉を開くのは先ほども呼び鈴に応じてくれたゲオルグで、彼は状況を一瞬で理解したかのように魔力の玉を放って人を呼び、すぐにミモザに駆け寄ってくれた。
 現状で騎士は一人しかいない為に露台に向かうことは出来ない。
 ゲオルグはミモザを抱き上げると廊下に繋がる扉の近くまで離してくれて、そこでようやく血濡れたミモザに息を飲んだ様子を見せた。
「わ…、は…」
 自分は平気だという言葉が出ない。
 喉が凍りついたように言葉が発せなくなり、カタカタと全身が震え始める。
「ご安心ください。すぐに他の騎士達も訪れます」
 ゲオルグはミモザを励ましてくれて、その言葉通りに騎士達の駆ける足音が近付いて。
「ミモザ様!?」
「何が!!」
 真っ先に訪れたのは、ミモザとの部屋の近さからエルザとクレアの騎士達だった。
「露台へ!侵入者がいるはずだ!!」
 ゲオルグの言葉に二人がすぐに露台に向かい、扉を開ける暇も惜しんで割れた窓から身を踊らせる。
 そうする間にも次々に騎士達がミモザの部屋に到着し、
「ミモザ!!」
 最後に訪れてくれたコウェルズとヴァルツは、すぐにミモザのそばに膝をついてくれた。
 ヴァルツは慌てふためくようにうろたえるが、コウェルズは静かにミモザの身体全身に目をやる。
「…君の血かい?」
 訊ねられたがまだ声は出てこなくて、代わりに何度も首を横にふる。
「何があったのだ!?」
 怪我はない。だが血にまみれたミモザの両腕をヴァルツが掴んで揺すぶる。その腕の力が先ほどのナイナーダの力に似ていて、思わず全身でヴァルツを拒絶してしまった。
 腕を振り払われてヴァルツは困惑の様子をいっそう強くするが、拒絶してしまったことを否定したくともミモザの喉は凍りついたまま、どうしても動いてくれなかった。
 その間にコウェルズは静かに立ち上がってゲオルグからわずかな説明を受けて窓に目を向ける。
 数秒後に窓際の扉が開かれて室内に戻ってくるのは絡繰り犬と騎士達だけで、ナイナーダの姿は見当たらなかった。
「侵入者は?」
「ユージーン副隊長とエドワード殿が追ってはいますが…」
 侵入者がナイナーダであると知っているのはミモザだけだ。それを早く説明しなければとミモザは立ち上がろうとしたが、腰を抜かしていたらしく立つことすらままならなかった。
「…大丈夫だよ。私達に任せていなさい」
 立ち上がろうとする様子に気付いてくれたコウェルズが再び膝をつき、雨と血に濡れた頭を優しく撫でてくれる。
「ビアンカ達を呼べ。ミモザの身体を清める。騎士と魔術師は例外なく全員王城敷地内全てを捜索、並びに警備強化に当たるよう命じろ。侵入者を逃がすな」
 頭を撫でてくれる手の動きは優しいのに、声は怒りを含んで。
 コウェルズの命令に、騎士達の動きはさらに洗練されたものに変化した。

第57話 終
 
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