第71話
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『--ルードヴィッヒ殿!こちらですよ!』
日差しの温かな昼前の時間帯、大会出場者達に用意された外の広い練習場でルードヴィッヒを呼ぶのは、昨日親しくなったイリュエノッド国のクイとスアタニラ国のトウヤだった。
二人の側には大型犬よりもふた回りほど大きな訓練用の絡繰りが兎の姿で鎮座しており、ルードヴィッヒは思わず笑みを浮かべて走り出しそうになった。
足が進むのを堪えることができたのは、ジュエルが気になったからだ。自然と前のめりになっていた身体を押さえつけるように片足でふんばり、後ろにいるジュエルにちらりと不安を隠さない眼差しを向ける。
「ジュエル嬢とは私が一緒にいるから安心しなさい」
訓練を行いたい気持ちとジュエルを心配する気持ちが天秤のように揺れ動くのを見てとったような笑みを浮かべながら、ダニエルがポンとジュエルの肩を叩いてくれる。
「コウェ…エテルネル殿は?」
「私はジュエルお嬢様のお側でダニエル殿と剣術訓練さ」
だから安心して楽しんでくればいい、と言葉が続くような笑みをコウェルズにも浮かべられて、まるで自分だけが気持ちを整理できていないかのようなもどかしさが胸に生まれた。
「ほら、行くぞ」
足が止まったままのルードヴィッヒの背中を押すのはジャックで、促されるままにジュエルに背を向けて。
「…あいつ、あそこにいるな」
ジャックが視線を向ける先に同じく目を向ければ、ルードヴィッヒ達からは最も離れた場所の一角で訓練を行うマガの姿があった。
薄手の動きやすそうな身なりで、踊るように長身を身軽に操る姿はまるで空中に浮かんでいるかと錯覚するほどだった。
「…流浪民族の舞踏に似てるな」
「流浪民族…エル・フェアリアの国立演劇場にも招かれるあの?」
「ああ」
マガはバオル国の武術出場者らしい青年と手合わせしていた様子で自らは手を出さずにひたすら攻撃を避けているだけだが、その身軽さは息を飲むほどで、言われてみればルードヴィッヒの記憶の中にある流浪民族の演舞に似ている気がした。
流浪民族はいくつも存在するが、いずれも互いに連絡を取り合うひとつの民族だ。定着する土地を持たずに各国を放浪し、舞踏や傭兵、独自の民芸品を売って生きている。
流浪民族を蔑む国も多いと聞くが、エル・フェアリアでは彼らの舞踏が人気で王城にも招かれるほどだった。
そんな民族の動きをなぜバオル国のマガが真似できるのか。
「…警戒を強めた方がいいかもな」
どの国にも属さない彼らには良くない噂ももちろん多い。大戦中はエル・フェアリアも苦渋を舐めたことも知っている。敵対の可能性を想定したジャックの呟きを理解してルードヴィッヒも強く頷いた。
『何かありましたか?』
絡繰りを用意してくれていたトウヤとクイの元に到着すれば、険しい表情に気付いて眉を潜めるのはクイだ。
『何もないさ。それより準備をしてくれていたんだな。助かる』
『いえ。訓練用の絡繰りは人気が高く早い者勝ちだったので、この可愛らしい兎の絡繰りしか残ってはいませんでしたが…』
少しだけ申し訳なさそうにしながら、クイとトウヤは互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。たしかに周りで使われている訓練用の絡繰りは獅子や虎などいずれも肉食のモデルで強そうだ。
『まぁ、兎もそれなりにすばしっこいから使えるでしょう』
諦めたように楽観視するトウヤはすぐにでもこの巨大な兎を試したい様子で、生きているわけでもないのに頭を撫でて可愛がる様子に遠くからキャア、と黄色い悲鳴が聞こえてきた。
思わず目を向ければ、声を上げていたのはイリュエノッドから付いてきたサポート役の娘達だ。
いずれも華やぐ年頃の娘達だが、イリュエノッドらしい薄着から垣間見えるのはエル・フェアリアではお目にかかれないようなしなやかに細い筋肉だ。
『…好かれて嬉しいか?中身はゴリラ共だぞ』
『充分嬉しいさ。俺はなよっちい女は好きじゃないからな』
『…伝えとくよ。お前相手ならあいつらもお持ち帰りされたいだろうから』
何やら不穏な会話に目を見開くのはルードヴィッヒだけだ。
血の気が多い男達の集まる大会だからこそ女性達は危険に晒されやすいと聞いていたのだから当然なのだが。
「多くはないが嫁をもらって帰る戦士もいるぞ。出場者でもない戦士が訓練サポートとして同行する理由のひとつだ」
危険とされる、その裏で。
言葉の意味が細部までわかりやすいよう母国語で話してくれるジャックの、さも当然かのような口調にさらに唖然として。
「…王子がお前には黙っておけと言っていたわけが分かったよ…大会にだけ集中しとけ」
まだ女性に夢を持ち、なおかつ色事に疎いルードヴィッヒにとっては汚らわしいと感じてしまうほどの。
『…ラジアータ殿は?』
ルードヴィッヒもこの話題を続けたくなくて、逃げ道を探していた所でもう一人の仲良くなった武術出場者がいないことを思い出す。
ラジアータとメデューサ姉弟の姿は訓練場にも見当たらず、彼らが所属するユナディクス国の者達も見えない。
『話し合いがあるから昼過ぎまで訓練できないそうだ』
『そうなんですか…』
昨日少しだけ見たラジアータの武術は一切の無駄を省くかのような最小の動きで相手を制するもので、好戦的であるが故に活発に動くエル・フェアリアでは見ない体術に目を奪われたというのに残念だ。
『よし、じゃあ訓練を開始するか。お前ら絡繰りに魔力を食わせろ』
ルードヴィッヒだけでなくトウヤとクイの訓練も見てくれる様子のジャックに、二人が今日一番と言いそうなほどの笑顔を浮かべる。
『あの、どうやれば…』
『絡繰りの身体に手を置いて魔力を移動させれば訓練相手を覚えて動いてくれるらしい。私みたいな魔力を持たない人間は、魔力持ちを媒体にすればいいそうだ』
ルードヴィッヒに準備を教えてくれるクイはトウヤの両肩に両手を置いており、トウヤはそのまま兎の大きな背中に手をついて魔力を流した。
同じようにルードヴィッヒも自分の胴体ほどもある兎の顔に触れて、初めての動作に緊張したまま魔力を流して。
『兎型の絡繰りは一体しか無いそうだ。ま、捕食される為に生まれたみたいな草食動物だから訓練にも不向きなんだろうな』
『今日は絡繰りに慣れるくらいの気持ちでいよう--』
ドン、と。
三人が魔力を流し終えた瞬間に聞こえてきた凄まじい一瞬の地鳴りに、固まるのは三人共だ。
何が起きたのか、考える間に再びドン、と大きな地鳴りが響いた。
いや、地鳴りではない。
目の前の巨大な兎が後ろ足で地面を蹴っていたのだ。
今の姿勢は低く、前足は前方に少し伸ばされて。それは、戦闘態勢のようだった。
『……気を付けろー。兎はキレたら強いぞー』
ふと遠い位置からジャックの声が聞こえてきて、いつの間にか離れていたジャックにルードヴィッヒ達は唖然と口を開いて。
よくよく見れば兎型を知っているのだろう周りの戦士達からも距離を取られている。
「ぇ、え!?」
「はあ!?」
「うわあっ!」
驚くのも束の間、最も近くにいたトウヤがまず狙われて、凄まじい速さでタックルしてきたと思った次の瞬間には兎は真横に飛んでおり、地に足を付けるよりも先に絡繰りの体をよじらせてルードヴィッヒ目掛けて突っ込んできていた。
何もかもが一瞬で、ルードヴィッヒ達は無意識に身を任せて逃げることしかできない。
着地した兎は壊れたように前進しまくった後に一瞬で反転してまた襲ってきて、合間合間に後ろ足で地鳴りを聞かせてくる。
『動きがおかしいだろ!!』
突っ込んでくるのはまだわかるが、ジャンプしながら身体をあらぬ方向へよじらせてくる意味がわからないし、何より規則性のない動きがどれもこれもあまりにも早い。
「うわ来るな!」
母国語で叫ぶルードヴィッヒ目掛けて再び突進してきて噛み付いてきて、痛くはないが恐怖に身は固まって。
「逃げろ逃げろ『逃げろルードヴィッヒ!!』
たった一機の兎型の絡繰りに三人共がパニックに陥り、それぞれの母国語とラムタル語が訓練場中に響き渡り続ける。
数時間経ったのか、はたまた一瞬なのか。ただ兎だけに集中する状況では自分の身を守り逃げ続けることしか考えられず、訓練もクソもない状況に陥ってしまった。
ようやく落ち着き始めたのは三人共動けなくなり地面に座り込んだ時で。
『…十五分か。三人とはいえ、なかなか持ったもんだな』
遠くから見守っていたらしいジャックが教えてくれた時間経過に、ルードヴィッヒとトウヤは疲れ切った顔を見合わせた。
『……ジャック殿…私は何をされてるんですか?』
ルードヴィッヒ達から二人分ほど離れた場所で座り込んでいたクイの上には兎がのしかかっており、ガガガガガガと凄まじい速さで腰を振られていた。凄まじい迫力だ。
『…繁殖行為だが絡繰りだ。気にするな』
『動けないんですよ!!助けてください!!』
恥ずかしさと屈辱から顔を真っ赤にして俯きながら叫ぶクイに満足したのか、兎はようやくクイの背中から離れ、べたりと身体を伸ばしてリラックスするような姿を見せた。
『時の絡繰り技師達が総力を上げて作り上げた“本物同然の兎”だそうだ。毎年大会に準備されるから毎年のように知らない新人が狙われる。今年はお前だったな。よかったじゃないか』
『嬉しくありませんよ!!』
『俺じゃなくてよかった…にしても、兎ってこんな凶暴なんですね…』
『愛玩用に飼われるくらいだが、噛みつかれたり引っ掻かれたりで流血することも少なくない動物だからな。まぁ、可愛いだけじゃないってことだ。こんだけ大きいと、戦力もかなりのもんだろうな』
訓練用の絡繰り達はいずれも獣の姿をしながらも訓練用としての枠から外れないというのに、この兎だけ例外だったとは。
『…次からはもっと早く来て別の絡繰りを選ぼう』
『…そうだな』
疲れきったため息をつくクイとトウヤに、ルードヴィッヒも静かに頷いた。訓練にもならずただ逃げ回っただけなのだから。
『だがラジアータ殿だけこの苦しみを味わわないのは少し気に障るな。今日か明日にでも彼にこいつをぶつけよう』
『クイ…性格歪み始めてるぞ』
三人共被害に合った中で別の意味でも襲われたのはクイだけで、その屈辱を共に噛み締める仲間を探すようにニヤリと微笑んでいた。
『ほら、兎は置いといて、訓練を続けるぞ。お前らの基礎は分かったから、今日は二対一で…』
ゴン、と何やら物騒な音が訓練場内に響き渡り、ジャックの言葉がそこで途切れた。
兎が後ろ足で地面を蹴った音ではない。
水を含んだ重い塊が地面に落ちたような、異様な音。
周りの者達もその音を聞いていて一箇所に目を向けていたのでルードヴィッヒ達も視線を移せば、そこにいたのはマガのいるバオル国の一団だった。
十名ほどが集まるその中にマガの姿がない。だが頭を抱えて地面にうずくまるマガを見つけて、何が起きたのかすぐに理解した。
誰もマガを起こそうとはしていない。それどころか遠目でもはっきりとわかるほど、彼らはマガを見下して笑っていた。
『…何があったんだ?…初日にトウヤと一度手合わせした戦士みたいだが』
『…バオル国か…身軽だった私生児の戦士だな』
クイとトウヤもマガを知っている様子で、ポツリポツリと状況を理解しようと窺って。
私生児。そう耳にしたルードヴィッヒの視界に唯一動くのは藍色の小柄な少女だった。
「…ジュエル?」
誰もが動きを止めている中でジュエルだけがマガの元へと駆け寄っていく。
朝にあんなことがあったばかりだというのになぜ駆け寄るのか。不愉快に思う身体は、それが当然であるかのように立ち上がってジュエルのいる場所へと駆け出していた。
「ルードヴィッヒ!」
後ろからジャックの足音も聞こえてきて、ジュエルの少し後ろからコウェルズとダニエルも駆けつけていて。
『どうして誰も助けませんの!?』
マガの元に真っ先に辿り着いたのはジュエルで、マガを見下すバオル国の者達に幼いながらの強い不快感を示した。
いまだに頭を抱えて倒れたままのマガの側に膝をついて彼に触れようとしたところで、コウェルズが肩に触れて阻む。
『…お嬢様、彼は脳震盪を起こしている可能性があります。迂闊に触らないで下さい』
『でも…』
『ジュエル嬢、少し下がりなさい』
マガを心配するジュエルの腕をコウェルズが引き起こして、替わりにダニエルがマガの側につく。
「何があったんだ?」
「…訓練中に彼らが魔力でマガ殿の足を引いて、地面に叩きつけたんだ」
一部始終を知らないジャックの問いかけに何があったのか教えてくれるコウェルズは、その卑劣な手口に怒りを覚える様子を見せた。
「魔力って…大会では魔力の使用は認められていないはずですよね」
「そうだよ」
剣武大会は文字通り剣術と武術のみの戦いだ。そこに魔力は込められてはいけないはずだというのに。
『エル・フェアリアの皆さん。これは私達の訓練道具なので、何も心配はいりませんし介入も不要ですよ』
マガの最も側にいた出場者らしい青年が涼しげに微笑みながら、マガの頭を蹴ろうとする。その足をダニエルが無言で掴み、引き寄せながら上へと持ち上げた。
『--う、わ!』
「ジャック、ラムタルの救護班を呼んできてくれ。意識はあるが治療は必要だ」
ドスン、と腰から落ちる青年を完全に無視して、ダニエルが冷たい声で指示を出す。
『何をするんだ!無礼だぞ!』
『彼は我が国の出場者だ。今の暴力に関して厳重な抗議をさせていただく…これだから野蛮な国の者は嫌なんだ』
倒された青年は顔を真っ赤にしてダニエルを睨みつけており、その青年を庇うサポートの男も全員を睨みつけた後にジュエルに目を留めた。
まるで舐め回すようにジュエルの身体を眺めてから、ク、と口元を歪ませるように笑って。
『これはこれは、あなたがエル・フェアリアの藍都の姫ですか…お初にお目にかかります』
まるで何かを含ませるような言い方にジュエルは少し怯えたように表情を強張らせた。その姿にルードヴィッヒの胸に滲んだのは不愉快な怒りだ。
『今朝方にマガがあなたに求婚したとか…どうです?貴女のような女性にこのマガはとても似合うと確信しているのですが』
『今朝の謝罪もせずに何様なんだ!』
出場者の青年を起こした後に何事もなさそうにジュエルに一歩近付くから、ルードヴィッヒの怒りが爆発した。
ジュエルを庇うように細い手首を強く引いて自分の背中に隠し、自分より背の高い男を睨みつける。
『…エル・フェアリアの武術出場者ですか…飾り立てた娼婦のような見た目とは聞いていましたが、ここまでとは』
『何だと!?』
『ルードヴィッヒ!…ジュエル嬢とジャックと一緒にマガ殿について行くんだ』
ダニエルの強い口調は珍しく、それだけで冷静さを取り戻すことはできた。だが納得のできない命令に眉をひそめて。
『私とダニエル殿だけで十分だということです。お嬢様に付いていてください』
ダニエルとは違いコウェルズは爽やかに微笑むが、その瞳までは笑っていない。
『…行くぞ、ルードヴィッヒ』
その間にも戻ってきたジャックがラムタルの救護班と共にマガを担架に乗せて、ジュエルと共に強引にその場を離れさせられた。
いまだに頭を押さえ、朦朧としつつも苦悶の表情を浮かべるマガに付き添おうとするバオル国の者は誰ひとり人おらず、その異様な様子は他の国の者達からの奇異の視線としてルードヴィッヒ達に向けられた。
「…なかなかの騒動になったな」
「…すみませんでした…私が駆け寄ってしまったから…」
周りの目の向けられ方に独り言のように呟いたジャックに、ジュエルがマガを心配そうに見つめながらも弱々しく謝罪してくる。
国が絡む行事だ。軽率な行動だったと思っているのだろう。
「ジュエル嬢が行かなければ誰も行けなかっただろう。怪我人にとっては最善だった。それが一番重要だ」
ルードヴィッヒがジュエルを慰められない目の前で、ジャックはいとも簡単に幼い肩をねぎらうように軽く叩いて自然に慰めてしまう。
「…私のせいで残った二人に迷惑がかかりはしませんか?」
ジュエルも自分の不安を取り除く存在は今この場ではジャックだけだと言わんばかりに見上げていたから、ルードヴィッヒは思わず目を逸らしてしまった。
「あの二人なら何も心配はないさ」
羨ましいと感じるのはいつも男の余裕を漂わせる姿で、そしてそれはジュエルが関係している時に多く感じる気がして。
「…その手、どうした?」
「え?」
ふとジャックが何かに気付いてジュエルの手首を示した。
首を傾げるジュエルは自分の両手を前に持ち上げ、その片側の手首が赤くなっていることに驚いたように息を飲んで。
「どこかでひねったか」
「……いえ、あの…」
そこでちらりと、ジュエルの視線がルードヴィッヒに向けられる。
何なのだ、と尋ねることはできなかった。その手首のアザはルードヴィッヒにも身に覚えがあったからだ。
「…さっき掴んだ時の…」
力無く呟いたのは、自分自身が信じられなかったからだ。
「マガ殿を医務室に運んだら、氷嚢を用意するんだぞ」
「…はい…すみませんでした…」
ジャックの呆れたような、冷めたような口調がルードヴィッヒの胸をえぐる。
ジュエルの手首についた赤いアザは、先ほど怒りに任せて手首を掴んで引き寄せた時に出来たアザで間違いないはずだ。
バオル国の者の下衆な言葉からジュエルを庇うように強く手首を引いた。
結局ルードヴィッヒはジュエルを傷つけることしかできなかったということだ。
どこまでも情けない。
「…落ち込むくらいなら大人になるんだな」
ジャックがルードヴィッヒの失態を慰めることは当然のように無くて、それが惨めで悔しくて。
到着した救護室の扉は最初から開放されており、すでに数名の怪我人が軽い手当てを受けている室内に足を踏み込む。
ラムタルの救護班が予め準備してくれていたベッドにマガは連れて行かれ、ジャックは当然のように救護班を手伝い、ジュエルも自分にできることを探していく。
--なぜ私は、上手く動けないんだ…
いつもそうだ、と。
唇を噛み締めて俯くことしか出来ないのは、なぜなのか。
自分の不甲斐なさが自分の首を絞めていくような感覚が取れなくて、ルードヴィッヒの心にただ鋭い棘だけが刺さり続けていた。
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