第37話


ーーーーー

『--話はこちらでまとめるよ。リーンの生存に関しては早めに公開する。君達にはまた話を聞くことになるし、今後についても話さないといけない…だけど今は休もう。治癒の方もひと区切りついたと連絡が来たから、明日はみんなお休みだよ…わかったね?』

 五年前にリーン姫に何があったのか。その話し合いは最終的にコウェルズが締めの言葉を飾った。
 あらゆる情報に怒り嘆いたガウェと、知らずにリーンを苦しめたニコルと。
 長い話が終わった時には既に真夜中近くになっており、騎士装束を纏ったままのガウェはふらりと消え去るように王城を抜けた。
 自分に慣れて甘えてくる馬の手綱を引き、王城を出てから騎乗する。
 向かうのは王城からも近いガウェの個人邸だ。
 王城内で働く者達の個人邸用に用意された区画に入り、その最奥、最も立派な屋敷に。
 ガウェが騎士となった一年後に建てさせたその屋敷に馬ごと足を踏み込めば、異変に気付いた使用人達が慌てた様子で近寄ってきた。
 馬を降りて、手綱を使用人の一人に任せて。
「--ロワイエット様、なぜこのような時間に…」
 困惑顔の使用人達の誰一人に対しても目を合わせずに、ガウェは玄関に向かう。
「…何の用意も必要無い。誰も私の部屋に通すな」
「か、かしこまりました」
 久しぶりの帰宅だが、邸内は綺麗に掃除が行き届いており、管理を任せている馴染みの老人がしっかり目を光らせているのだと知れた。
 薄暗い屋敷を上がり、自分の部屋の、さらに奥の部屋に入る。
 そこはかつて父であるバルナ・ヴェルドゥーラが勝手に入り込み、ガウェの集め続けた収集品を勝手に捨てさせようとした場所だ。
 最奥に当たる室内。扉を閉めれば完全な闇に包まれるが、ガウェは慣れた足取りで室内を歩き進み。
 己の魔力で、室内に灯りをともす。
 柔らかな光に満たされたその部屋は、変わらずガウェの収集品達が迎えてくれた。
 男には不必要なそれらは、全てリーンの為だけに集められたものだ。
 緑をベースにした、大量のドレス。
 リーンを無くす前から作らせ集めた。
 リーンを無くした後も変わらず、定期的に時代の流行を取り入れたドレスを。
 リーンに似合う形、色合い。アクセサリーも。下着も。靴も。
 ガウェがリーンを思い、リーンの為だけに十年以上をかけて集め続けたものだ。
 父には気持ちの悪いと蔑まれた収集。
 気持ちの悪いものなどあるものか。
 これらは全てリーンの為のものなのだ。
 至上の存在であるリーンの。
 壁には以前フレイムローズと城下に降りた際に購入したリーンの肖像画を飾り、その隣には淡い緑の縁取りが美しい最上級のウエディングドレスを。
 いつも夢見た、ガウェの隣に立つリーンに纏わせる為の。
 ウエディングドレスの袖を手にして、片膝をつく。
「…リーン…様」
 生きてくれていた。
 リーンが生きてくれていたならば、この部屋に納められた大量のドレス達も日の光を浴びる日が訪れる。
 ガウェの為に。
 ガウェだけのリーンを彩る為に。
 それは定められた運命なのだ。
 だからガウェは、リーンが死んだとされた五年間も、変わらずドレスを作らせ集め続けたのだ。
「リーン様…」
 愛しい少女。ガウェだけの女。
 生きてくれていたリーン。
 必ず取り戻そう。
 かつてリーンが愛した物語のように。
 誰からも疎まれる黒い烏が、高い塔に囚われた姫君を救い出す物語がある。
 リーンはその物語をこよなく愛し、ガウェはそんなリーンの為だけに、物語の主人公である烏を模した生体魔具を生み出した。
 人を乗せて空を飛ぶ、巨大な烏を。
 何もかもリーンの為のものだ。
 ガウェを司る全てが。
「…愛しています…リーン様」
 今はまだ、リーンは目前にはいない。だがその代わりにするようにガウェは立ち上がり、ウエディングドレスをそっと抱き締めた。
 リーンがこのウエディングドレスを纏う姿を想像して、ガウェに身を預けてくれる姿を想像して。
 可愛らしい笑顔を向けてくれて、ガウェの名を呼んでくれるのだ。
 嗚呼、それだけで。
「…リーン様…」
 ウエディングドレスを抱いたまま、熱の集まり始めた自身に手を向ける。
 不自然な形に抱かれたウエディングドレスはドレス掛けから滑り落ちて、ガウェも再び膝をついて。
 今度は両膝を床に。
 抱え込むようにウエディングドレスを抱き締めて、頭の中ではリーンを抱き締めて。
「くっ…リーン様…」
 固く熱く昂る自身を、自分で慰める。
 今はまだ妄想の中でしかリーンを抱くことは許されない。
 白い肌を、深い闇色の緑の髪を、甘い唇を。
 リーンの全てを。
 足を開かせて、口付けを落として、小さな入り口に自身をあてがって、中に。
 リーンは全身でガウェを受け入れてくれて、甘い鳴き声を上げるのだ。
 ガウェの動きに合わせて、何度も何度も。
 ガウェだけを欲しがって、自ら好みの体勢に身体を動かして。
 美しく、あられもなく。
「--リーン様っ」
 頭の中が弾けて白く染まる。
 妄想ではリーンの中に、現実には自分の手の中に。
 大量の熱を放って、荒い呼吸をそのままに片腕でウエディングドレスを強く抱き締める。
 リーンを失ってから、長く不能状態だったのに。
 もう生を放つことなど一生無いと思っていたのに。
 久しぶりの感覚だった。
 なんて虚しくて、同時に満たされた感覚なのだろうか。
 リーン。
 ガウェだけの姫君。
 ガウェが愛する唯一の女。
 リーンの為ならば、何もかもを投げ出せる。
 一度は決めた黄都領主の地位でさえ。
 だがその前に、リーンを取り戻さねばならない。
 ファントムから。
 ニコルの父親から。
 エル・フェアリアの王族から。
 どこまでが真実なのかなど、ガウェにはわからないしどうでもいい。
 ただリーンの為だけに。
 リーンをこの腕に抱き締める為だけに。
 リーンは、ガウェの為に産まれてきてくれたのだから。

-----

 ガウェが王城を出た時間、ニコルはふらつく足取りのまま自室のある兵舎内周棟を歩いていた。
 深夜帯の為に申し訳程度の明かりしか灯らない廊下を歩き、向かうのは自室ではない。
 アリアが自室に戻っている事は聞いた。
 今日の夕方近くにとりあえずの治癒が全て終わったのだ。
 簡易医療棟も同時に解体されて、全員が自室に戻り休めるようになった。
 アリアの護衛の為に誰か立っているだろうが、予想はつく。
 三階に足を踏み込み、向かうアリアの部屋の扉の前には。
「お帰り。こんな時間までコウェルズ様達と?」
「ああ…」
 案の定というべきなのか、アリアの護衛にはレイトルが立っていた。
 夜中なので互いに小声だが、レイトルはニコルの消沈した様子に気付いたらしい。
「…どうしたの?」
 心配してくれるのは申し訳ないが、理由など口にできるはずもない。
 リーンが闇の中に突き落とされた原因のひとつに自分が絡んでいるなど。
 たとえリーンとガウェを目にしただけだったとしても、その報告さえしなければリーンは。そしてガウェは。
「…何でもない。明日の事は聞いたか?」
「王城警備の者以外は全員休みだとか…」
 はぐらかす為に訊ねても、レイトルの視線は離れない。
 明日の突然の休暇はアリアや護衛達も例外ではなく、恐らくレイトルはアリアの傍にいることを望むのだろう。
 ニコルの居場所を。そうとは知らずに取って代わろうと。
「…アリアの護衛、今から代わる。明日はレイトルも休んでくれ」
 やや突っぱねるような口調になってしまい、
「…そんなボロボロの状態で?」
 精神的に参っている現状を指摘される。
 反論はできなかった。元気だと告げられるほどの気力は今のニコルには存在しないのだ。
 そうだとしても、アリアの傍にいたい。
「私がアリアといるよ」
「いや…」
「…アリアといさせてくれないか?」
 レイトルの申し出を拒もうとして、だがレイトルの真剣な口調に。
 察して見上げたレイトルの眼差しは、いつもとは様子が違っていた。
 まるでアリアを守るのは自分だとでもいうように。
 兄としてニコルがアリアの傍にいられるように、レイトルは男として、アリアの傍に。
 何かあったのだとすぐにわかった。
 レイトルとアリアの間に。
 でなければ、レイトルがここまで頑なになるはずがない。
 ニコルがいない間に。
 アリアの傍らに立てる理由を手に入れたというのか。
「…悪い。アリアに話しておきたい事もあるんだ」
 思わず目を背けてしまい、何としても自分がアリアの傍にいる口実を告げる。
 話したいことなど存在しない。だがニコルとアリアは兄妹だ。
 何よりも深い絆で繋がる家族なのだから、と。
 アリアの未来はアリアが決めるのだと口にしたのはニコルだ。アリアが傍らにレイトルを求めるなら拒否などしない。
 だが思考のどこかに、それを許せない自分がいる。
 アリアの傍に、自分以外の男など…
「なら半日交代。君が休まないのは許せない。これは友として言わせてもらうよ。君は休むべきだ。こんなクタクタボロボロのニコル見たことないよ」
 なおも引き下がろうとしないレイトルに、だが口調がアリアではなくニコルを慮るものに変わり、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
 視野の狭くなっている自分と違い、レイトルにはまだ仲間を思いやれる視力が残っているのだ。
 それは護衛としても、必要なものだろう。
「いいね?」
 レイトルには珍しく強い口調に、わずかに妥協して。
「…なら明日の昼から任せる。…今は俺と代わってくれ」
 それでも今は、アリアの傍にいさせてくれと。
 レイトルは難しい表情を浮かべるが、こればかりは譲れない。
「…頼む。名目だけでも何かしておかないと…潰れそうなんだ…」
 あらゆる情報に揉まれ、あらゆる事実に揉まれ。
 ニコルの中にある物事を受け入れる為の容量は、もう溢れかえって収まりきらない。
 それでもさらに詰め込もうとするから、圧迫されて気が狂いそうなのだ。
 そうならない為に。アリアという安定剤を。
「…余計なお世話かも知れないけど、エルザ様とは話した?」
 レイトルから出された名前に、言葉は詰まった。
 まるで喉の奥に張り付くように。
 エルザは?
「…エルザ様だって今の君を見たら、心を痛めてしまうよ。愛し合ってるなら、エルザ様と話すことも」
「…お前…アリアが好きなんだよな…」
「--…」
 それ以上聞きたくなくて、わざとレイトルの思いを指摘する。
 レイトルがアリアに抱く思いを。
 繊細な面だ。兄という立場のニコルから問われるのはやりづらいだろう。
「好きだから…守りたいんだろ?」
「…ああ」
 だがレイトルは逃げなかった。
 少し動揺してみせたが、すぐにニコルを真っ直ぐ見据えて。
 拒絶せず、アリアの傍にいたい理由を。
 好きだから守りたい。
 率直な理由に、また苦笑いを浮かべてしまう。
「…俺もエルザ様が好きなはずなんだ…」
 愛している。
 そうでなければエルザの一挙一動に胸が高鳴ったり消沈したりしないはずだ。
 エルザには激しすぎるだろう口付けも交わした。
 愛していると、公言していいほどに。
 でも。
「でも…守りたいのはアリアだ…」
 エルザを愛しているはずなのに、エルザとアリアを天秤に掛けてしまったら。
「エルザ様に王族付き達がいるからじゃない…俺は…同じ状況で二人に何かあったら…任務関係無しにアリアを選ぶ」
 以前はそうではなかったはずだ。
 何があっても任務を優先しようとした。
 エルザの護衛であったとして、アリアに万が一があった場合。
 ニコルは心を殺してアリアを見捨ててしまう。
 それがニコルだったはずだ。そうならない為に、アリアの護衛となることを望んだのだ。
 なのに今は、アリアを優先すると自覚できる。
 何が起きても。
 たとえエルザを愛していたとしても。
 アリアを優先する理由は、自分が救われたいからで。
「…頼む…今の俺から…アリアを奪わないでくれ…」
 切実な願いに、それ以上レイトルが口を出すことはなかった。

-----

 レイトルの部屋はアリアの真下にあり、ニコルと護衛を交代して自室に戻った時にセクトルはベッドに寝転がりながら読んでいた本を閉じて、早く帰ってきたレイトルに驚いた表情を見せた。
「…どうした?護衛は」
 アリアの護衛で一晩中三階にいるはずのレイトルが早い段階で帰ってきた事実に困惑の様子を見せはするが、端から見れば無表情そのものだろう。
「ニコルと代わった。私は明日の昼からアリアの護衛だ」
「…そうか」
 事情を理解したセクトルをそのままに自分のベッドに腰かけて、すぐに項垂れるように倒れ込む。
「疲れてるな」
「…精神的に来たよ」
 代わって上体を起こすセクトルは、本を枕元に起きながらレイトルの戻った理由を何かしら悟るように勘付いた様子だった。
「ニコルか?」
 訊ねられて、頷いて。
「…あっちも相当すり減ってるよ」
 何があったのかは知らないが、ニコルの消耗ぶりは今まで見たこともないほどだ。
 貴族達の嫌がらせでさえ適当に躱すニコルが、あれほど落ち込むなど。
 アリアの護衛に立ちたいと言っていたが、まるでアリアに救いを求めるかのようだった。
 アリア。
 不意打ちで思いを告げてしまったが、断られた訳ではないと思いたい。
 アリアが泣きながら謝罪したのは、レイトルを拒むわけではなく、まだ思いを抱く元婚約者を思い出したからだ。
「…なあ、聞いていいか?」
 ふと気になった事があって、レイトルも静かに上体を起こした。
 壁際同士で目があったセクトルは、今まで何度もレイトルとアリアを近付けようとしてくれたが。
「何だよ、気持ち悪いな」
「はは…君さ…」
 レイトルはアリアに一目惚れした。なら。
「…アリアのこと好きだよね?」
「---…」
 問いかければ、向かいからは息を飲む様子が窺えた。
「…何でだよ?」
「私がアリアを好きになったのに…お前がアリアを好きにならないはずないだろ。今までどれだけ好み被ってきたと思ってるんだよ」
 産まれてからの幼馴染みだ。似た名前を付けられ、家にいた頃から両親達に遊ばれて同じような格好をさせられて。
 それだけでなく、色々な好みが被ってきた。
 その中では勿論、出会ってきた女の子の好みも被っていて。
 レイトルがアリアに一目惚れしたのに、セクトルが一目惚れしていないはずがないのだ。
 そしてアリアを知る度にさらに内面も好きになった。これも、セクトルと同じはずなのだ。なのに。
「…どうして私に遠慮するんだ?」
 たずねてみても、答えはない。
 最初、遠慮するなら容赦しないとまで思った。
 ニコルの妹だから気を使ったのかと。だが違う。
「…魔力の量も質も…私よりお前の方がアリアに相応しいだろ」
 セクトルにアリアの婚約者候補の話がされたことは既に聞き出した。
 以前アリアが騎士達から連続して告白された時、セクトルはあまり知られていないはずの情報を持っていたのだから。
 元々魔術師団に入団を進められていたセクトルだ。治癒魔術師の夫としては申し分無いし、もしセクトルが本気でアリアに好意を見せたなら、周りがバックアップしてレイトルに入り込む隙間を与えなかっただろう。
 それでもセクトルは好意を隠した。その理由は。
「…アリアと出会う前から…俺はお前に負けてんだよ」
 まるで吐き捨てるように、セクトルは低く呻くような声を出す。
 アリアと出会う前から。
 レイトルには意味がわからなかった。
 勝ち負けを言うならば、負けているのは魔力の少ないレイトルのはずだ。だというのに、セクトルは自分の負けを確信していた。
「アリアが治癒魔術師とわかった時…ニコルはアリアが王城で酷い目に合うと思って、団長に伝えに行こうとした俺達を止めただろ?」
 アリアの力が発覚した時。

『俺はアリアに俺と同じような思いをさせたくない!!』

 ニコルは自分が王城で受けた苦しみをアリアに味わわせたくないと告げた。
「…お前はまだ会ってもないアリアを心配して知らせるのを躊躇った。…俺はそれでも治癒魔術師の確保を優先した」
 レイトルはニコルの受けてきた嫌がらせを知っていたので、アリアの存在を団長に告げることを躊躇った。
 セクトルはニコルの受けてきた嫌がらせを知っていたにも関わらず、国を優先した。
「これからもそうだろう。俺にとってアリアは…守るべき治癒魔術師だ…俺はアリア個人より、治癒魔術師としてのアリアを優先する」
 私事よりも国を、仕事を優先するセクトル。
 セクトルはそのせいで、今まで懇意となった娘達とも別れてきた。
「…お前は治癒魔術師のアリアじゃなくて、一人の女としてのアリアを守りたいんだろ?」
 セクトルではアリア個人を守ってやれない。
 暗にそう告げるセクトルに、返す言葉は見つからなかった。
「…俺ってやっぱ冷めてんのかな」
「…どうだろうね」
 仕事を優先することは確かだが、だからといって冷たいわけではない。思い詰めるセクトルを何度も見てきた。
 ただ、元々表情に乏しいせいで、周りからは冷めた男だと思われがちなのだ。
「私は明日はアリアの護衛に立つけど、君はどうするんだ?」
「まだ決めてない。モーティシア達は三人で他国の治癒魔術師について調べるらしいが」
 やること無いな、と思案するセクトルに、
「…なら手伝ってくれないか?」
 レイトルは静かに願い出た。
 全ては話せないが、セクトルはレイトルがこの世で最も信頼できる人間なのだ。
「アリアの元婚約者について調べたい」
 全てを語らずそれだけを告げれば、さすがに困惑した表情を向けられた。
「--…なんで」
「アリアからどういう経緯で別れたのか聞いたんだ…アリアはショックが大きすぎて考えないようにしている様子だけど…まるで誰かに操作されたみたいな内容だった」
「…どういうことだ?」
 五年間、婚約者として共にいたらしい男は“時期が来た”とアリアを呼び出し、アリアの目の前で別の女を抱き締めた。
 ただの別れ話などでなく、アリアとの全てを拒絶する形で。抱き締めた女を本気で愛する仕草を見せながら、と。
 その話はあまりにも違和感しか感じられなかった。
「ニコルとアリアの育ったカリューシャ地方はオズ家とも繋がりがあったろ」
「…申し訳程度の繋がりしかないぞ?」
「ミシュタト家はその申し訳程度も無いからね…頼まれてくれないか?」
 セクトルの家はぎりぎりニコル達の育った地方とも交流を持っている。そのつてを何とか生かせたなら。
「…やるなら穏便にしないとな…あそこはガードナーロッドが事実上仕切ってるから」
 かつてガードナーロッド家の次女はニコルに想いを抱き、完全に相手にされず見事に玉砕した。
 それは七年も前の話で。
「…ガードナーロッドか」
 今回アリアの噂を流したのも、恐らくは。
 まるで何かしらの策略が存在するかのような繋がりに、レイトルは上階にいるはずのアリアとニコルの身を静かに案じた。

第37話 終
 
4/4ページ
スキ