第31話
エルザに別れを告げて、名残惜しむように胸にすがる彼女を離し、額に口付けて。
ベッドの上にエルザを残して部屋を出た瞬間、勢揃いするかつての仲間達のにやけた笑顔に思わず室内に戻りそうになった。
にやけた野郎共の中央には満面の笑みを浮かべるコウェルズ。端には申し訳なさそうにしながらも嬉しそうにしている隊長のイストワール。
このくそ忙しい時にエルザ姫付きの護衛部隊がなぜ勢揃いしているのだ。
そして何を中央でのうのうと笑っているのだ。
「…コウェルズ様」
「すまない。君の誤解を解くためにね」
「わざとでしょう!!周りから固めようとするのはやめてください!!」
騎士達を落ち着かせながら誤解を解くのにコウェルズは最も適した人材だったろうが、ニコルはエルザへの思いをまだ胸に秘めるつもりなら、もう少し頭を使うべきだった。
コウェルズはニコルが平民であろうがエルザとの仲には強固な賛成の姿勢を見せていたのだ。
そのコウェルズに周りの誤解を解くよう願った時点で、周りにばらされることを覚悟しておくべきだった。
「いいじゃないか。恋愛は自由であるべきだよ。それにお互いが愛し合っているなら皆が幸せな事じゃないか」
コウェルズの言葉に騎士達は頷き、素晴らしいです流石は王子と拍手を送る馬鹿までいる始末だ。
自由であるべきだと宣うならば放っておいてくれないか。自由を謳いながらも、コウェルズのしていることは囲い込みに他ならない。
ニコルに他の出口から脱出させないように。
「…だから私はまだ」
エルザに手を出してしまった。その責任は重々承知している。
それでも他者にはまだ曖昧な立場を貫こうとするニコルの背後で、わずかに扉が開いた。
「ニコル…」
「え、エルザ…様」
乱れた髪を隠すように薄桃色のショールを頭から被りながら顔を見せるのはエルザで、思わず呼び捨てにしてしまいそうになって焦った。
「あの…また来てくださいますか?」
エルザには周りの騎士達が見えていないのか、精一杯の様子でニコルに訴えかけて。
周囲の目が気になりすぎて言葉にならないニコルに何を勘違いしたのか、途方に暮れる子犬のように項垂れた。
「…お時間が会いましたら…是非御一緒させてください」
何の羞恥プレイだと周りに腹が立つが、エルザの精一杯の姿にほだされて、結局はコウェルズの思う通りに転がされるのだ。
「はい!!」
とたんに嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれるエルザだけがいてくれたらよかったのに、テンションの上がった外野は酷く煩かった。
「あんたらなあ!!」
照れるエルザを室内に戻して、冷やかすように口笛を鳴らしながらコウェルズやイストワールとハイタッチを交わしていく騎士達に軽くキレて。
せめてエルザが自分の夢を叶えるまでは見守るだけでいたかったのに。それを許してくれないだろう周りに、もはや溜め息すら出てこなかった。
「さあ、エルザの誤解も解けた事だし…問題は侍女の方だね」
王城を後にしてみれば、疲れきったニコルとは正反対のコウェルズの清々しさが腹立たしい。だが問題は何も終わってはいないのだ。
「放っておくことも可能だけど、侍女同士で話を盛り上げられたら大変だ。それこそ“周りから固める”ことになる。女の子達は恋愛話が大好物だからね」
女社会など正直ニコルにはよくわからないので首をかしげるが、万が一それがアリアに向かうならば見て見ぬふりは出来ない。
ニコルと恋仲だと言いふらしたイニスが何を考えているのかわからないし関わりたくもないが、エルザに直接話すほどだ。おかしな行動力は持っているらしい。
「話し合いは大切だけど…話して聞く耳を持たない場合もある。とりあえず、話す時は二人きりになってはいけないよ」
「…なぜです?」
エルザと話した時は二人きりだったのに、なぜイニスだと駄目なのか。何も考えず、というよりも頭が働かない状況で訊ねれば、盛大に溜め息をつかれた。
この相手を小バカにするような溜め息のつき方には覚えがある。確かモーティシアに何度も同じような溜め息をつかれている。
「脱がれて大声上げられたらどうする?見た者は君の方を悪く思うよ。貴族主義の輩はこれ幸いと責めるだろうね」
言われてから、ようやく納得する。そんなことになってしまったら、王城を出る以外に道は無くなるだろう。
「セシルの言葉を借りるなら、本当に“この時期に”と思うよ…リーンの事があって王城が混乱中だというのに…それに君の事もある」
リーン姫が拐われて、ニコルの出自が発覚して、挙げ句にこの騒ぎだ。
ニコルがただの平民騎士でいたならコウェルズも捨て置いた案件だろうに。
「とっとと片しておくかい?」
「その方がいいでしょうね…アリアに伝えます。…アリアと、護衛部隊に話して、どうにかします」
エルザと王族付き達の誤解は解けた。後はコウェルズに甘えるわけにはいかないだろうと自分の所属する部隊で解決すると告げれば、とたんにコウェルズは不満そうに唇を尖らせた。
「私が一緒でもいいんだよ?」
「あなたは面白がりたいだけでしょう」
「失礼だね。私なりに従兄の心配をしているんじゃないか」
面白がりたい以外に何があるのだとコウェルズの申し出を断れば、話を根本に戻そうとされて。
「…いいかげんやめてください。何と言われようとも、私は…」
「まだ自分の出自を知ってから一日経っただけだ。時間はある。…ゆっくり考えればいい」
ゆっくりなどと口にしながら、ニコルの言い分など聞かないだろうに。
ニコルの言いたい所を理解してか、コウェルズは隠し事を諦めるようにすっきりと笑って。
「…君が自分の血を認めて王家に来てくれた方が、私も動きやすいんだよ…リーンの事もあるし、私一人では手が回らない。いくらミモザが優秀といっても、女の身では舐めてかかる輩もいるからね。いっそ死んだとされたリーンの生存に気付いて救い出した、かつての英雄ロスト・ロード様の息子だと言ってしまった方が箔が付く」
それを望んでいるというよりは、そう持っていこうと進めているような口調で。
「ガウェが復活したら黄都領主として存分に力を発揮してもらうつもりだし。新たな形の貧富コンビを見せてくれないか?」
「…リーン様が絡んだガウェと一緒にいたくありませんよ」
ようやく返せる言葉も、上手くコウェルズに乗せられている気がしてならなかった。
「暴れると思っていたが、大人しく医師団の言うことを聞いているそうじゃないか」
「…嵐の前の静けさというだけでしょう…私がファントムの息子だと知られたら…私はファントムへの見せしめに殺されますよ」
「そうならない為にも、ね?」
「…やめてください」
これ以上は本当に流されてしまう。無理矢理会話を断ち切るように口を閉じれば、ようやく諦めてくれたのか、コウェルズは「固いなぁ」と呟いた。
「じゃあ、侍女の件に私が必要なら、いつでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
今はとにかく侍女イニスの件をさっさとどうにかしておく事。
コウェルズの助言を受けながらも、昨日今日と続く訳のわからない出来事に、ニコルはそろそろ頭痛の改善方法がわからなくなってきていた。
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簡易医療棟の一室に拠点を置いて治癒に当たっているアリアの毎日三度の責務のひとつに、黄都領主でもあるガウェの治癒がある。
治癒とはいっても傷はすべて塞いだ。だがあまりにも傷の箇所が多すぎたのだ。
いずれも急所を外してはいたが、箇所が多ければそれだけ危険も伴う。
ガウェは絶対に死なせてはならない。その為にガウェだけは何があってもいいようにアリアの最も近くで休ませられ、今も本日最後の治癒を受けていた。
治癒といってもアリアの魔力を注ぎ込んで身体の代謝を上げているに過ぎないが、有ると無いでは訳が違う。
「腕は問題なく動きますね。足も思ったより良好で良かったです。すごい回復力。これならあと二、三日で絶対安静期間は終わりですね」
魔力を注ぎ終えたアリアはいつものようにガウェの四肢を優しくマッサージして、ガウェの回復の早さに驚く。
レイトルとセクトルが見守る中でゆっくりと体を動かされながら、アリアの言葉にガウェは小さく反応を示した。
「--だ…」
あまりにも小さな声だったので、アリアを含め誰も最初はガウェの声だと気付かなかったが。
「…え?」
「あと二日待てばいいのか、三日待てばいいのか…どっちだ」
ようやくガウェが何か訊ねたのだと理解して聞き返すアリアに、ガウェは噛みつくように苛立った声をぶつけてくる。
「ガウェ、そんな風に威嚇しなくてもいいだろ」
「…三日です」
その言い方にレイトルが注意をするが、アリアは気にせずに、だが強い口調でガウェに告げた。
ガウェが目覚めた時にアリアが強く出て以来、ガウェはアリアに対して横暴な態度は見せなかった。
横暴と言ってもリーンを探しに行く行かないの悶着なのだが、最初にアリアが止めていなければ、ガウェは医師であれレイトル達であれ、誰の言葉も聞かなかっただろう。
「三日は絶対安静にしていてください」
ガウェという獣の手綱を上手くしごきながら、アリアは静かに席を立って。
「じゃあ、何か異変があったら呼んでください。医師団の人でも構いませんから。勝手だけは許しませんよ?」
ガウェを休ませる為に部屋を離れて、隣に移動して。
「…数時間ごとに目付きが悪くなってます…よね?」
今朝よりも、そして昼間よりも確実に目付きの悪いガウェを思い返しながら、アリアは隣の部屋には聞こえないように小さな声で二人に訊ねた。
「仕方ないよ。ガウェだから」
「だな」
レイトルとセクトルは慣れたものだが、アリアにはまだ馴染みが薄いので困惑してしまう。
アリアの中のガウェのイメージは兄と同じくらい頼りになる男性なのに、あんな一面もあるなんて、と。
それと同時にガウェに一途に慕われるリーン姫が少し羨ましかった。
ファントムに拐われた、死んだはずのお姫様。
はたしてファントムは本当に悪い存在なのだろうか。
少し思いをめぐらせるアリアがどう映ったのか、レイトルの手がアリアの肩にそっと乗った。
「今日はこれで治癒も終わりだし、外に食事を持って出ないかい?毎回小さい部屋で食べてても息が詰まるし、すぐそばならモーティシアも許してくれるだろうし」
それは気分転換の提案だった。
まだモーティシア達三人は戻ってこないが、食事は全員この場で食べることになっている。
「気持ち良さそうですね!」
「俺は遠慮する。肌寒いのは苦手だからな」
アリアは外での食事に好意的だったが、セクトルは辞退してしまう。
「そうですか…」
とたんにシュンとしてしまうアリアの肩をポンポンと軽く叩きながら、セクトルはちらりとレイトルに目をやった。
「晩飯当番もお前らに頼めるか?アリアも同じ姿勢のまま治癒魔術を使うから、たまには動いておいた方がいいだろ」
今日の夕食を持ってくるのはレイトルとセクトルの予定だった。
アリアを一人にはさせられないので護衛部隊の誰かが戻ってきてから夕食を取りに向かう手筈だったが、一日ほとんどをあまり動かずにいたアリアを気遣ってくれて。
「わかりました。持ってきますね。行きましょうか、レイトルさん」
「あ、ああ」
そのセクトルの言葉に裏があるなど気付きもしないアリアは簡単に受け入れて、わずかに困惑するレイトルと外に出て。
歩き行く二人を見送ってから、セクトルは自分自身への溜め息をひとつ付いた。
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部屋を出てしばらくして。黙っておこうと思ってはいたのに、胸中の微かなもどかしさから口を動かしてしまった。
「気を使わせてるみたいだなぁ…」
セクトルが何を考えているのか、わからないレイトルではない。
彼なりにレイトルの恋路を応援しているつもりなのだろうが、その胸中も複雑なはずだ。
「え?」
「いや、こっちの話…結局ニコルは帰ってこなかったね」
聞こえてしまったらしく首をかしげてくるアリアに、誤魔化すように話を変える。変えるとはいってもニコルの件はそれで心配事のひとつなのだが。
いくらコウェルズ様命令だとしても、ニコルは昨夜から不調なのだろうに。
「夜はゆっくりできたらいいけど…昨日はすごく顔色が悪かったから心配です」
「また無理矢理休ませるか」
「ふふ」
思い出されるのは島国イリュエノッドのサリア姫が訪れた日だ。
あの日はアリアとニコルの休暇になっていた。
ニコルはアリアだけの休暇でいたつもりだったろうが、アリアと共に根詰め一直線だったニコルも無理矢理休ませて医師団の特別マッサージを味わわせたのだ。
あの日からまだ数日程度しか経っていないのにひどく懐かしい気がするのは、ファントムという濃厚な事件が起こってしまったからだろう。
「さてと…やっぱり人は多いね」
簡易医療棟として使用している為か、兵舎外周のひとつであるこの棟には騎士だけでなく魔術師や医師達も訪れる。広い食堂は簡単な休憩スペースとしても使用されており、足を踏み入れた瞬間にレイトルとアリアは人の多さに互いに顔を見合わせた。
食事は盆に纏めるようあらかじめ告げているので、アリアに離れないよう告げて進もうとして、
「--アリア嬢、レイトル殿」
ふと背後から呼び止められて、二人は足を止めて振り返った。
「ミシェルさん!」
呼び止めた騎士はミモザの王族付きであるミシェルで、馴染みのある人物の出現をアリアは無邪気に喜んだ。
「…これは…なんだか久しぶりと言いたくなる感覚ですね」
「同感だな。ファントムの件からまだ数日しか経っていないというのに」
レイトルには少し複雑な遭遇だが、アリアのいる手前露骨に顔には出せない。
それでも満面の笑みを向けるのもおかしいので流れにまかせて曖昧な笑みを浮かべれば、ミシェルの方はなかなか挑戦的な笑みを返してきた。
「ミシェルさんは今何を?」
二人の男の戦いに気付かないアリアはどこまでも無邪気なもので。
「ミモザ様の命令でサリア様の護衛を。今は丁度休憩で、食事をね」
その丁度の食事で、サリア姫がいるはずの王城から最も遠いこの棟を選んでいるのだ。なかなか健気に努力しているらしい。
「あたし達もですよ。一緒ですね!」
「それは奇遇だな。簡易医療棟の一室で缶詰めだと聞いているが」
「はい、その通りですよ」
奇遇じゃない気付けアリアと念じるが、気付かれた所でやばいかと考え直して、レイトルも口を開いた。
「ですが思ったより早く治癒も済みそうですよ。医師団の皆様が有能で助かります」
さらりと会話に加われば、その辺りの事情はミシェルも少しは聞かされている様子だった。
「王族付き騎士を優先的に治癒していると聞くが?」
「そうですよ。“血の気が多い”からなるべく早く出ていってほしいという医師団の気持ちの現れなんです」
「あははははっ!!」
とたんに大きく笑うミシェルに、周りの視線が集まった。
笑える分には笑えばいいさ。レイトルは苦笑いだけ浮かべて、わずかに膨れたアリアに気付く。これ以上は口を閉じておくべきか。
「王族付き歴が長い人から率先して動き出すから困ってます!笑い事じゃないですよ…治癒中に動こうとするし…子供の方がまだ落ち着きがあります!」
アリアの責める口調は、かつての王族付きであるレイトルとセクトルも八つ当たりの対象にされた時に聞いている。
「…笑えるんだが、胸に刺さるのはなんでだろうな」
「大丈夫です。私やセクトルもすごくわかる気持ちです」
ようやく事態を把握したミシェルは、王族付き代表としてアリアに頭を下げた。
そのまま三人で食事を取りに向かい、まずレイトルが大皿の乗る盆を手にする。持とうと思えば盆は二枚共持てるが、アリアが二枚目の盆に手をかけようとして、
「私も手伝おう」
アリアの隣からさらりとミシェルが横取りしてしまった。
ちゃっかり自分の食事も手にしている辺り考えが読み取れる。
そう来たか、と関心してしまうレイトルを尻目にアリアは慌てながら盆を奪い返そうとするが、ミシェルの「こぼれるよ」の一言で簡単に動きを封じられてしまった。
「…ミシェルさんも疲れてるじゃないですか。休める時にゆっくり休んでください」
「王族付きの騎士達はね、動いている方が体が休まるんだよ。そうだろう?レイトル殿」
「…私に振らないでください。答えによっては睨まれるのですから」
「あはは」
ミシェルの先手必勝だ。ここまでされたら、もはや断る方が悪いだろう。任せようと口にすれば、アリアは不満そうに眉をひそめた。
「…でも」
「手伝いたいのは口実だよ。君と話していたいんだ」
「……」
困ったようにレイトルとミシェルを交互に見るアリアは、ミシェルからの意味深な発言に一瞬で固まった。
レイトルも固まりはしたが、アリアとは訳が違う。アリアが恋愛面に関して逃げ腰の姿勢を見せるのを、ミシェルはまだ知らないのだ。
そして今気付いた。
「…サリア様も心苦しいみたいでね、王城が今どうなっているのか、どう動くのか知りたいみたいなんだが…私はそこまで情報を持っていないからな。だから治癒魔術師と護衛部隊の話を聞かせてもらえないか?」
さも最初からそのつもりだったように語るが、真実は違うはずだ。
それでも、逃れる道を与えられてアリアはすぐに逃げ込む。
「…そういう事でしたら…あ、あたし手拭きも貰ってきます!」
取り忘れていた手拭きに気付いて、アリアは逃げるように慌てながら離れていく。
その後ろ姿を目に映しながら、隣のミシェルの溜め息を聞いた。
「急ぎすぎたか?」
「いや、あれで急ぎすぎは無いでしょう…アリアが特殊なだけです」
恋敵に塩を贈るようでもどかしいが、その程度ならとフォローして。
「それで、君は今アリア嬢とは懇意なのかな?」
爽やかにど直球で訊ねられて、パージャの口真似で「急ぎすぎっすねー」くらい言ってやればよかったと内心で舌打ちをした。
「どうしてそんなことを?」
「わざわざ聞かなくとも君なら理解できるだろう?」
はぐらかすなと鼻で笑いながら小馬鹿にするように告げるミシェルは、やはり傲慢と名高い藍都ガードナーロッド家の子息だと気付かされる。
今現在の藍都現当主と精神面では似ても似つかないが。
「私は諦めるつもりはないぞ。彼女に婚約を申し込む。断られたとしても諦めない。懇意の者が現れたとしてもだ」
なぜそれをレイトルに言うのか。
簡単すぎる理由だった。ミシェルの恋路に最も邪魔な存在がレイトルだからだ。
「お好きにどうぞ」
「…それは自信の現れかな?」
「自信なんてあるはずないでしょう…魔力量の少ない私の方が、彼女には釣り合わないのですから」
ミシェルにとって厄介な存在がレイトルであるように、レイトルにとってもミシェルは厄介すぎる相手だった。
そもそもアリアは治癒魔術師として次代を切望されているのだ。
魔術師団入りも視野に入っていたミシェルが名乗りを上げるなら、国が全力で後押しするだろう。
それに比べてレイトルの魔力量は。
「…また随分弱気な…」
さすがに不憫に思われたらしく同情されて、ですが、と返した。
「私も諦めるつもりはないですけどね」
ニコルに聞かれたら槍持って追いかけられそうだなぁ、なんて緩い思考も持ち合わせながら。
最初は一目惚れだった。
その後はアリアの側にいて、話す度にアリアの全てが愛しく思えた。
周りにいないタイプだからなんて簡単な奴らとは一緒にされたくない。職務抜きで誰かを守りたいと心から思えたのは初めてだった。
「…最大の敵になりそうだ」
「同感です」
レイトルの決意でも垣間見たのか、ミシェルはクスクスと微笑んで。
「取ってきました!戻りましょうか!」
物事の中心にいながらも台風の目のように穏やかなアリアは、二人に同量の笑顔を見せてくれた。
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