第21話
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兄と面と向かって最後に会話をしたのは二、三ヶ月前になるのか。
コウェルズが伝達鳥を使いラムタル国王バインドと話をするので気を使い部屋を出てきたヴァルツだが、出来るなら自分も少し話したかったと思ってしまう。
以前の伝達鳥での会話は勝手に絡繰りを持ち出し、なおかつ一機壊した事実を隠そうとしたことに対する長い説教だった。コウェルズも隠そうとするヴァルツをきちんと咎めなかったので共に説教を食らっていたが、ヴァルツほどではなかった。
バインドは弟の目から見ても格好良く映る。
エル・フェアリアと並ぶ大国ラムタル。前王により崩壊しかかっていた国を立ち直らせたのはバインドの手腕だ。
私利私欲に走った前王。ヴァルツとバインドの実の父親。
父を討ったのはバインドだった。
国を思う有志を揃え、迅速かつ大胆に。
後がないとわかった父は幼かったヴァルツを人質にとった。
今思い返しても恥ずかしいと顔を被いたくなるほど泣きじゃくり、兄に手を伸ばしたヴァルツ。
バインドは一瞬の隙を突いて父の首を切り落とした。ヴァルツを抱き寄せながら、ヴァルツの目の前で。
父の首が転がる様子は脳裏にこびりついたまま離れない。
断末魔の形相。この世の全てを憎むような、バインドを、ヴァルツを恨むような。
父の血飛沫を浴び、父が死んだことを知り、ヴァルツは心の底から安堵した。父が死んだことよりも何よりも、自分が助けられたことの方が、当時のヴァルツには重要だったのだ。
父の死を悼まなかった自分がひどく薄情に思えた時もあった。だがどう自分自身に弁明したとしても、事実は変わらない。
これが王族なのだ。
私欲にも走れる。家族をも討てる。
ヴァルツが成長するにつれて、ヴァルツを傀儡に仕立てようとする者達も多くいた。
操られる可能性を秘めるのも王族だった。
兄はいったいどれほどの血を浴びただろうか。どれほどの感情を切り捨てて来ただろうか。
幼稚なヴァルツの為に、荒れたラムタルの為に。
先ほどのコウェルズのように疲れきった兄の表情を見たのも一度や二度ではない。
その兄を癒してくれたのがリーンだった。
エル・フェアリアの第四姫、緑のリーン。
幼い彼女は幼いなりに、ありったけの愛をバインドに与えてくれた。
闇色を身に宿し、他の姫達と見比べられ続け、心を汚され続けた可哀想なお姫様。
今ならわかる。汚され続けたからこそ、リーンは他の誰にも真似できないほどの優しい愛情の真心をバインドに与えてくれたのだ。
リーンの死がバインドに与えた影響は計り知れない。
なぜリーンが死んだのか。
不幸な事故として伝えられている死因は、不可解な点が多い。
護衛の騎士達はどこにいたのか、魔力の暴発はどこで発生したのか。
新緑宮に宿る独特な結界とリーンの魔力が作用しあって起きた事故ならば新緑宮も大破していいはずなのに、それが見当たらない。
そしてエル・フェアリア国内では当時、姫達の中で一番人気のあったエルザとの婚約を破棄したバインドへの不信があったと聞く。
絶世の美姫を蔑ろにし、事もあろうに醜姫を選ぶなどエルザ姫への冒涜であると。
それらの要素が絡み合い、ヴァルツはある可能性を胸に抱いていた。
リーンは事故で死んだのではなく、暗殺されたのだと。
口にしたことはたった一度だけ。
昔から情報収集が趣味だったヴァルツはその可能性の強さを兄に伝え、二度と口にするなと頬をぶたれた。
説教なら何度も受けてきた。だが手を上げられたことなど今まで一度もなかった。なのに。
自分は兄の為に解明しようとしただけなのに。リーンを殺した犯人がいるなら捕らえられる機会に繋がったかも知れないのに。
自分の言動が浅はかだったことに気付いたのは最近になってからだ。
言葉は力を秘める。
特に王族であるヴァルツが口にしたなら、それを大義名分にラムタルとエル・フェアリアの戦に発展させることも可能なのだ。
きっと暗殺の疑惑については兄だって考えついたはずだ。それでも兄は国の安全を選んだ。まだ内側を完全に統率出来ていないのにエル・フェアリアに戦を仕掛けるなど、自殺と同じ行為なのだから。
もし本当に暗殺だったならリーンが浮かばれない。それとも、大国同士の戦をけしかける為に暗殺されたと考え、怒りを圧し殺し報復など行わなかった兄を褒め讃えるべきなのだろうか。
いずれにせよ、事実はわからない。
本当に事故だった可能性もある。
あまりにも謎の残る事故だが。
何もわからないまま、時間だけはゆるやかに進んで、ファントムの噂がエル・フェアリアに立った。
自分はここで何をすればいい?
まだ同盟を結んではいないことから、ラムタルはエル・フェアリアに力を貸さないとの見解を兄は発表した。それに反発して、多くの貴重な絡繰りを持ち出して国を出た。
まさか上辺だけの見解だったなどと気付きもせずに、婚約者であるミモザの無事を思いエル・フェアリアを目指して。
ファントムの狙いはまだ名前が上がってはいない。
だが噂の内容からコレーであることが濃厚で、ヴァルツもそう思っている。
コレーの魔力は七姫の中で一番だ。
持ち出した絡繰りを駆使しコレーを守るか、ファントムの捕獲に力を使うか。
コレーは大切な義妹だ。万が一姫が奪われる様なことがあれば、それはラムタルをも敵に回すということになるとせめて兄が公言してくれたなら。
コウェルズの部屋を出て、コレーの元に向かおうと天空塔への道を歩いていたヴァルツは、通路の先にエルザとクレアが騎士達を引き連れてコソコソと歩いている姿を見かけて走り寄った。
身を隠しつつ前へ進んでいる様子だが、騎士達は隠れるつもりが毛頭無いらしくまったく意味がない。
「何をしているのだ?」
「「きゃあ!」」
背後から近づけば、二人は驚いて悲鳴を上げた。騎士達は途中でヴァルツの存在に気付いていたが、面白がって二人には伝えなかったらしい。
その証拠に驚く二人を見て笑いを堪えている。
「ヴァルツ様!?」
「ひどい!普通に声かけてよ!」
「…私は普通に声をかけたぞ?コソコソしていたのはお前達ではないか」
さくりと言い返せば、エルザとクレアはばつが悪そうに互いに顔を見合わせた。
二人は揃いのシンプルなドレスに袖を通しており、見ただけでも人前に立ったのだとわかるが。
「コウェルズから聞いておるぞ。コウェルズとミモザに代わり、二人で民達にファントムの件についての説明をしに行ったのだろう?」
終わったのか?と訊ねれば、エルザが小さく頷いた。
エルザとクレアの王族付き達が全員揃っているので、終わってすぐなのかもしれない。
「何だガウェもいるではないか。二日酔いは治まったのか?」
昨夜の晩餐会後から炎の矢が射ち上がった今朝方まで、ノンストップで飲まされていたと聞いているが。
案外平気だったのかと思ったが、ガウェは不機嫌そうに眉根を寄せて据わった目を向けてくるだけだ。駄目ではないか。
「民達にはどんな説明をしたのだ?」
「簡単な現状説明だけのはずでしたが…天空塔の説明に少し時間を取りました」
やや疲れたように語るエルザが、上手く説明できたかどうかと不安がる。
民への説明は王城正門で行われたと聞く。
数千の民が集まる中で、二人は緊張しなかったのだろうか。
「なぜ天空塔に説明が必要なのだ?コレーがそこにいることは伝えていないのだろう?」
「そうなのですが…」
コレーがどこにいるかは箝口令が敷かれている。民にも知らせることは出来ないが。
「天空塔が目視できるくらい降りてきてるでしょ?民の多くは天空塔が意思のある生命体だって知らないから、落ちてきてるんじゃないかって心配になったみたい。コレーよりもそっちを不安がる民の方が多かったわ」
「そういうことか…まあ建物が生きているなど誰も思わぬわな」
それに実際に天空塔に入らねば、天空塔に意思があることなどわからないだろう。どれほど説明を重ねた所で民の不安は消えはしない。
天空塔は普段は空高くを遊泳し、魔力で姿も見えないようにしているのだから尚更だ。
「それで、なぜコソコソしておったのだ?」
民への説明はそれくらいだろうと二人が隠れるように進んでいた理由を訊ねれば、二人はまたウッと言葉を詰まらせた。
何やらやましいことでも考えている様子だが、クレアはともかくエルザがイタズラをしでかすとは思えない。
「…私は今からコレーに会いに行くつもりだが、まさか二人もか?」
ふと通路の道筋から推理してみれば、怒られるとでも思ったのかびくりと肩を震わせるしまつだ。
「…何なのだ?」
「いや…コレーに会いに行くつもりなんだけど…」
「…お父様から止められていますの。コレーに会いに行った先でファントムが攻めてきたら、姫の数だけ護衛の力が分散するからと」
コソコソしていた理由はそれでか。
ようやく納得がいき、ヴァルツはそんな命令、と鼻で笑った。
「コウェルズも言っておったぞ。デルグ王の言葉など聞く必要は無いと。大手を振って会いに行けばいい」
兄の言葉を教えてやれば、エルザとクレアはパッと表情を一気に綻ばせた。
「ふん。そもそも今まで音沙汰無しだったのに、ようやく顔を出したと思えば見当違いな命令をするなど。引きこもりすぎて頭の使い方を忘れたのではないか?」
「…まあ、元気そうで何よりでしたわ」
さすがに父の悪口は聞きたくないのだろう、エルザは少し居づらそうに視線を泳がせた。
「お父様もうどうしようもないからねー!」
かわってクレアはアハハと高笑いだ。
「とっとと政務をコウェルズに譲ってしまえばいいものを。そうすれば重圧からも解放されるだろうに」
肩の力が抜けたなら、きっと昔のままのデルグ王が戻ってくる。王の器には相応しくないが、とても優しい“父親”なのだから。
「じゃあ今からは、大手を振って天空塔に行こう!」
元気はつらつと満面の笑顔を浮かべたクレアが先頭を歩き出そうとしたところで、一羽の純白の伝達鳥が軽やかに飛んできてエルザの頭に留まった。
「…あら?」
「伝達鳥?姉様に?」
エルザがそっと手を差し出せば、伝達鳥は再び舞い上がってからエルザの手のひらに降りる。
『--エルザ、申し訳ないけれど政務棟へ急いで来てちょうだい。頼みたいことがあります』
伝達鳥が口を開き告げる言葉は、姉のミモザだった。
「…何でしょうか」
「緊急っぽいね」
「私には?ミモザは私には何も言っておらんのか!?」
ミモザの声に反応してヴァルツは伝達鳥に訊ねるが、可愛らしい伝達鳥から、はぁ?という顔を返されただけだった。
「この伝達鳥は覚えた言葉以外は話さないよ」
「うむぅ…わかっておる…」
しゅんと項垂れるのはヴァルツとエルザだ。
「…仕方ありませんね。クレア、ヴァルツ様と行ってきて下さいませ。私もお姉様の用件が終わり次第向かいますので」
「仕方ないよね…。コレーにも言っておくわ」
「お願いします」
エルザが深く頭を下げて、肩に伝達鳥を留まらせて通路を戻っていく。
騎士達と戻る姿を見送りながら、ヴァルツとクレアも天空塔までの道を歩き始めた。
「…魔術師がいないと不思議な感覚だな」
「ちょっと慣れちゃってたもんね」
七姫を守る護衛の中に、すでに魔術師団の姿は無い。
フレイムローズの魔眼蝶は健在だが、馴染み始めた者がいなくなるのはやはりどこか寂しかった。
「そんなことより、コレーコレー」
「そうだな!よし、私の持ち出したからくりで特別に遊んでやるぞ!」
「あ、いいなー」
天空塔に登るための階段を進みながら、コレーに会ったら何をしようかと話し合う。
せめて穏やかに接してやらねば、寂しがり屋の姫はすぐに泣いてしまうだろう。だが。
「うむぅ…とっておきのからくりを部屋に忘れたようだ…取ってくるから先に行っててくれ!」
「え?わ、わかった」
袖をめくったヴァルツは腕に絡むいくつかの金色のベルトの数を数えた後で、コレーが喜ぶだろう遊具用の絡繰りを部屋に置いてきたことを思い出して慌てて走り去ってしまった。
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ぴりぴりとした空気が騎士団と魔術師団の間に生まれ始めていた。
七姫の護衛の為に行動を共にするようになり打ち解け始めた所に流れたファントムの最新の噂は見事に二つの団に溝を作り上げた。
ファントムの狙いはまだはっきりと決まった訳ではないとする騎士団と、ファントムの狙いはコレーであり、何としても守る為にコレーを隔離した魔術師団。
今朝、騎士団が動くより先に魔術師団はコレーを天空塔に隔離した。
それだけで済むなら騎士団は魔術師団に異議を唱えはしないだろうが--
騎士団は強引にコレーを隔離した魔術師団に怒りを覚えたが、コレー姫付きの騎士達にとってはまだ怒りの度合いは薄い。
彼らの護衛対象がコレーであることがその理由だ。天空塔の大広間には不貞腐れたコレーを中心に騎士と魔術師達が何人も立っていた。
円形の大広間の壁際に等間隔で立つ魔術師達と、コレーをあやす者達と。
あやしているのはもっぱら騎士達だ。
コレーも朝早く無理矢理魔術師達に起こされて強引に天空塔に連れてこられた事に対し立腹の様子で、魔術師が近付けば頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。
その様子を扉の外側から眺めていたスカイは、今にもぐずつき泣き出しそうなコレーにただ拳を握りしめることしかできなかった。
コレーは聡い。現状を理解してはいる。だがそれ以上に危うい存在なのだ。
「--スカイ」
「おお、…どうだ?」
これからどうなるのかと予想をいくつかしていたところで、スカイに近付く男が落ち着いた声で名を呼んだ。
コレーの王族付き達を纏める隊長のトリックだ。
コレーが生まれるまでは魔術師団に所属していた、魔術師団長リナトの孫。
今後についてコウェルズやミモザ達と話し合ってくれたはずだが。
「…ミモザ様が何とか別の方法で考えてくれてはいるが…」
「…そうか」
今は天空塔にいられるが、話が進めば地下に降りる可能性が高くなっていることに、ここにいる全員が気付いている。王城敷地内の最奥に位置する幻泉宮ではなく、王城地下の幽棲の間にと。
そこはなんの変鉄も無いはずのただの地下の間のはずだ。
スカイも中を見たことはある。何もないただの空洞。それがスカイの感想だった。
だがその場所を、王家の人間は近付くことすら嫌がっていた。
理由はわからない。
なのに何かがあると、頑なに拒絶するのだ。特に昔一度、怖いもの見たさで中に入ったことのあるクレア以上の年齢の王族達はことごとく怯え、それからそこに、地下に向かう螺旋階段にすら王族が降りることは無かった。
唯一泣かずにいた幼い頃のコウェルズでも青い顔をして呟いたのだから。
何かがあると。
「魔術師団長の考えは今後も変わらないだろう。ファントムの狙いはコレー様ではなく、コレー様の魔力だと…」
淡々と事務的に語るトリックの言葉は、普段の穏やかな優しさは見当たらない。リナトの口調が移ったような誰彼構わず孫扱いするような口調を閉ざし、つまらない流れ作業でもこなすように感情が無かった。
「コレー様の魔力はコウェルズ様に次いで膨大だ。…使い方を知っていれば、小国一つ程度なら簡単に落とせるだろう。それを阻止する為にも、膨大な魔力をコレー様ごと」
「もういい…やめろ。…言うな」
トリックの意見は完全に魔術師団寄りだった。話を拒絶するスカイに解せないとでも言いたそうに片眉を上げるトリックが隊長だなどと。
「…死ぬ訳じゃない」
「同じなんだよ!!結局お前は魔術師団側の人間だ!!“こんな時”の為に魔術師でありながらわざわざ騎士団に入ったんだろ!!お前のじいさんの命令でな!!」
「違う!私はっ!」
「トリック?スカイ?」
緊迫した空気の中に柔らかな声色が浸入してくる。
名を呼ばれた方へ目を向ければ、大広間の中心にいたはずのコレーが不安に瞳を潤ませてすぐそばに立っていた。
「コレー様…」
「申し訳ございません。煩かったですね」
立ち尽くすスカイとは正反対に、トリックはいつも通りの温和な表情で片膝を付いて、コレーのわずかに溢れた涙を拭う。
「何かほしいものはありますか?以前気にされていた童話集でも何でも持ってきますよ?他にも」
「…お姉さま」
幾つかの提案を出そうとするトリックを遮って、コレーは願いを口にする。
「お姉さま達に会いたい…オデットにも…お兄さまにも会いたい…」
デルグ王が姫達に接触禁止令を出したことは朝に聞かされていた。
恐らくコレーも耳にいれたのだろう、沈んだ声で切実に会いたいと願った。
「コレー様、それは出来ません」
「昨夜の晩餐会で、みんなでお揃いの髪型にする約束をしたのよ。アリアとニコルみたいに。証人だっていっぱいいるんだから!」
立ち上がってコレーの手を引き、大広間の中央に連れ戻して。
コレーの要望に、大広間中の人間が強く唇を閉じた。
「…御辛抱下さい」
トリックには悪いとは思う。だが言いにくい言葉を、自分が言うはめにならなくてよかったと誰もが思った。
「何でもって言ったわ…嘘つき」
唇を尖らせて、涙を堪えて俯く。そんな姫の姿など誰も見たくはないのに。
「…今は難しいですが、夕方になればコウェルズ様となら」
「私はどうなるの?」
再びトリックの言葉を遮って、コレーは先のわからない恐怖に肩を震わせる。
「本当のことを教えて?…私はこれからどうなるの?」
「…エル・フェアリア全兵力を持ってファントムを捕らえます。ご安心下さい。我らの力があればファントムなど」
「ごまかさないで…」
トリックに代わり安心させようとしたスカイの言葉すら、コレーは聞きたい内容とは違うことに気付いてごまかしを許さなかった。
「みんなが怖いの…魔術師団のみんなよ。…ずっと私を睨んでるわ」
とうとう涙をこぼしながら、コレーは抱っこをせがむ。
いつもはスカイにせがむというのに、今日はなぜかトリックに抱きついて。
「睨んでいるわけではありませんよ」
コレーが望むままに抱き上げてやり、安心させるように背中をポンポンと叩いて。
もう11歳のはずなのに、いつだって甘やかされることを望む甘えん坊の姫の為に。
「私、どうなるの?…教えて…トリック」
危険信号は抱き上げて暫くしてから気付いた事だった。
ざわりと全身が戦慄く。大広間にいた全員がだ。
「…持ち場に戻れ、トリック隊長」
「駄目!!これは命令です!!答えてトリック!!」
トリックを逃がそうとしたスカイの言葉すら遮り、コレーは真正面からトリックの瞳を捕らえた。
油断していたトリックにはそれを拒むことなど出来ない。
「…ぁ」
「やめろ…話すな!」
無理矢理引き剥がそうとコレーを掴もうとするスカイだが、無体だとでも思われたのか、天空塔が太い蔓を伸ばしてそれを遮った。
トリックは完全にコレーの術中にはまった。
真実だけを口にできる術を。
本来は結界のように空間に使用する術を、コレーはトリックの頭に一瞬で叩き込んでしまったのだ。
トリックは懸命に口を閉じようとするが、すでにコレーの手中にある脳がそれを許さなかった。
「…王城地下『幽棲の間』にて…隔離させていただく可能性があります」
「トリック!!」
「----」
スカイが仲間を案じるのと、大広間中に閃光が放たれたのは同時のことだった。
第21話 終