第2話
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続々と訓練に敗れた騎士達が帰ってくるのを眺めれば、やはりと言うべきなのだろう、王族付き達は半数弱しか戻っていない。最初にぶつかるのが王族付き同士であることはわかっていたのでそこで敗れた組が戻ってきて以降、勝った組はまだ勝ち進んでいる様子だ。
番狂わせだったのはニコルとガウェが早々に敗退したことくらいだろう。理由を聞けば、二人が戦っていた時に後ろで見学していた若騎士達が結果的に邪魔になったらしい。
若騎士二人の腹を切る勢いの謝罪には鬼気迫るものがあった。
ニコルとガウェに勝った王族付き二人もしばらくすると負けて戻ってきたので大分体力は削られていた様子で、まぐれ当たりだったのだろうが。
「中の様子がお分かりで?」
「…いつも通り、だな」
各々自主訓練に入る騎士達を眺めながら、いつもとは様子の違う訓練風景に手応えを感じる。
「まあ、城内での戦いにくさが理解できれば万々歳でしょうね」
副団長オーマの言葉に、クルーガーは無言で頷く。
騎士達はほとんどが訓練を欠かさないが、いつも開けた訓練場での手合わせである為に必然的に動きも大立ち回りが増えてくる。だが建物内部での戦闘になればそうはいかない。
効率良く最小の動きが求められる場所もあるということに気付けた者は、また新たな訓練方法を見つけて実行するだろう。
「後は、ファントムの狙いが何かだな」
「それは後々わかるでしょうから、今はとにかく優秀な者を見つけて育てましょう」
「…あの人数からたった四人だけ…情けない…」
七百名もの騎士達の中で、王族付きにも億さない騎士はたった四人しかいなかった。
それだけで他の騎士達が無能であると決めつけるわけではないが、王族付きに選ばれる為に必要な素質が無ければ、どれほど優秀であろうと意味が無いのだ。
向上心は持っていて当たり前の心構えであり、特別なものではない。
だが今の王城騎士達は目に余る。
大戦から数十年が経ったが、これほどまでに人は平和に甘んじるのか。
大戦時代を生きたクルーガーには考えられないことだ。
「まあまあ、残り三分の二に賭けましょう。甘ったれた騎士達を叩き直すのも、我々の仕事ですよ」
「…うむ」
なだめるオーマは大戦時代にはまだ子供だった。
今でも思い出す。絶対的だった“彼”と共に戦場を駆けた高揚感。忘れられるはずがない感覚を。
「そういえば王都の兵士達に聞いたのですが、新たに王都兵に入団した新兵の中に魔力持ちがいるとか。会ってみてはいかがです?上手くいけば、第二のニコルになるでしょう」
今では悲劇の存在となってしまった彼の人を思い返せば、オーマからまるで気分転換を促されるような提案をされる。
王都の兵士といえば、優秀なのだろうが平民だ。その平民が魔力を持つことがどれほど珍しいか。
クルーガーの頭の中は、すぐにその兵士の件で埋まってしまった。
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エル・フェアリアには、不必要なほどに大勢の兵士がいる。
「…あーあ…当分独りぼっちか」
“実力”と“運”さえあれば、この国では平民でも伸し上がることが許されている。
その実力と運を運命に無理矢理持たされた青年は、鏡に写る見慣れない薄茶色の髪を弄りながら、静かに呟いた。
第2話 終