第8話:30秒の恋人、爆炎の口づけ
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第三幕:爆炎の誓い
『爆破まで 残り 3分』
無機質な合成音声が、死刑宣告のように展望フロアの冷たい空気を震わせた。
厚いガラスの向こう、遥か眼下では、パトカーの赤色灯が血管のように明滅し、微かなサイレンの音がまるで他人事のように響いている。
「杉浦くん、しっかりして!」
未華子は、砕けた足を押さえ、苦痛に顔を歪める杉浦のそばに駆け寄った。
「……はは、かっこ悪いとこ、見られちゃったね」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く逃げないと!」
未華子は彼の腕を自身の首に回し、必死でその身体を支える。
その時、床に倒れていた羽瀬が呻きながら上体を起こした。
「羽瀬さん早く! 爆弾を止めて!」
未華子の叫びも、羽瀬は力なく笑って否定する。
「ハハ……無駄だ。一度起動したシステムは、もう誰にも止められない。……全て終わりだ」
「ふざけんなよ!」
未華子の怒号が飛ぶ。
彼女は、片足を引きずる杉浦を肩で支えながら、自暴自棄になっている羽瀬へと叫ぶ。
「終わりなんかじゃない! 死ぬなんて許さない! 生きて、ナオトくんに償いなさい!」
その剣幕に気圧されたのか、羽瀬がよろりと立ち上がる。
「まだ2分以上ある!エレベーターがまだ動いているから、間に合うかもしれない。 ……力を貸して!」
その言葉に、羽瀬の目が昏 く光った。
自暴自棄に見えた男の瞳の奥に、獣のような生の執着が蘇る。
「……エレベーター」
羽瀬がゆっくりと立ち上がり、杉浦を支える未華子に手を差し伸べようとした、その瞬間だった。
ドンッ!
横合いから、肩に強烈な衝撃を受けた。
不意を突かれ、バランスを崩した未華子は、支えていた杉浦と共にもつれるように床へ倒れ込む。
「きゃっ……!?」
「ぐうっ……!」
打ち付けた肩と足首に激痛が走る。
何が起きたのか分からないまま顔を上げると、そこには――。
エレベーターホールへと一人、駆け込んでいく羽瀬の後ろ姿があった。
「……は……?」
彼は、未華子たちが倒れ込んだ隙に、自分だけ脱出ルートへと走ったのだ。
あっという間にエレベーターの前に辿り着くと、彼は到着を待たずに管理用のカードキーを差し込み、扉を強制的にこじ開ける。
「待っ――!」
未華子が叫び、よろめきながら立ち上がろうとした。
その時、足首に骨が軋むような鋭い痛みが走った。
「―――っ!」
先ほど突き飛ばされた勢いで、床に足を変な角度で突いたらしい。
激痛で、立っていられない。
銀色の扉が開き、羽瀬が中へと滑り込む。
彼は、床に崩れ落ちた未華子を一瞥すると、唇の端を醜く歪めてみせた。
「……もっと賢く生きるべきだったな、馬鹿女。くだらねえ正義感なんか、腹の足しにもなるか」
その言葉を最後に、無慈悲な銀色の扉が音もなく閉ざされていく。
ウィィィン……と遠ざかる駆動音。
展望フロアの全ての制御盤が赤く点滅し、『LOCKDOWN』の文字が浮かび上がる。
エレベーターの操作権限も、全て彼が奪っていったのだ。
「あ……」
唯一の希望が断たれた。
足首の熱い痛み。
横で苦悶の声を上げる杉浦。
そして、無情に時を刻む、死へのカウントダウン。
『未華子氏、杉浦氏! 応答なさい! 状況は!?』
耳元のインカムから聞こえてくる九十九の悲痛な叫びも、未華子どこか他人事にしか思えなかった。
*
◎場面転換[場所:移動司令室「K-TARO」内]
うみねこタワーの足元に停められた、キッチンカーを改造した移動司令室「K-TARO」。
その中では、九十九とジュンギが、必死でエレベーターの制御や爆弾の解除コードを探っていた。
だが、羽瀬が設定したパスワードは、単純な数字の羅列でありながら、桁数が多く、パターンは天文学的な数字に上る。
総当たりで解析をかけてはいるが、時間は、絶望的に足りなかった。
*
◎場面転換[場所:うみねこタワー 展望フロア]
『爆破まで 残り 1分』
「……もう、いいよ」
床に倒れ込んだまま、杉浦が、力なく呟いた。
「……未華子ちゃん。……早く、逃げて。非常階段なら、間に合うかも、しれない」
「嫌だ! 杉浦くんを置いてなんて、行けるわけないでしょ!」
「いいから、早く行って!」
「嫌だ!」
「言うこと、聞けよ……!」
杉浦が叫ぶ。
未華子が初めて聞く、彼の悲痛な絶叫だった。
「僕のせいで……また、君を……危ない目に遭わせるなんて……もう、たくさんなんだよ……!」
その声に、未華子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……違う。違うよ、杉浦くん」
彼女は、彼の隣にそっと身を横たえた。
そして、血の気を失って冷たくなった彼の手を、自分の両手で優しく包み込む。
脈打つ互いの心音が、掌を通じて重なり合う。
「私は、ずっと、杉浦くんに守ってもらってばっかりだった……。でも今日ぐらいは、私が杉浦くんを守りたかったの……!」
『未華子……! 本当に時間が無い! 早く逃げてくれ……!』
インカム越しの佐竹の悲痛な声も、もう彼女の耳には届かない。
世界には今、目の前の彼と、自分しかいなかった。
『爆破まで 残り 30秒』
「……ごめんね、未華子ちゃん」
杉浦が、掠れた声で呟く。
視線が、未華子の濡れた瞳を捉えた。
「……僕、本当は、ずっと……。初めて、会った日から、ずっと、君のこと……」
最期の瞬間に紡がれる、遅すぎた愛の告白。
未華子はその言葉を遮るように、小さく首を横に振る。
「―――知ってる」
そして彼女は、一番悲しい笑顔で笑った。
「……私もだよ」
言葉にならなかった想いが、二人の間で溶け合う。
「だから大丈夫。……杉浦くんと一緒なら、怖くないかな」
それは、彼女の生まれて初めての、心からの愛の告白だった。
『10、9、8……』
電子音声が、無慈悲に終わりの時を刻む。
もう思い残すことは何もない。
『7、6、5……』
杉浦は、最後の力を振り絞り、彼女の背中に腕を回して引き寄せた。
『4、3、2……』
そして、その唇を、彼女の唇にそっと重ねた。
温かくて、しょっぱい、涙の味がした。
『―――1』
―――さようなら。
『0』
………。
…………。
………………。
……………………。
……………………………………。
覚悟した熱波も爆音も、来なかった。
しんと静まり返った展望フロアに、ただ二人の荒い呼吸音だけが残る。
重なり合ったまま、呆然とする杉浦と未華子。
『……は?』
インカムから、九十九の気の抜けたような声が聞こえてきた。
『……ば、爆弾、解除……成功、ですぞ……?』
◎場面転換:爆発の30秒前[場所:移動司令室「K-TARO」内]
『爆破まで 残り 30秒』
「K-TARO」の中は、地獄と化していた。
鳴り響く、無機質なカウントダウンの警告音。
排熱でうなるサーバー。
汗だくになった九十九とジュンギが、神業のような速さでキーボードを叩き続けているが、モニターの赤いゲージは無情にも減り続けていく。
「ダメだ! パスワードの階層が深すぎる!」
ジュンギが、苛立ちを隠さずに叫ぶ。
「総当たりのパターン解析では、どうやってもあと2時間はかかりますぞ!」
九十九の声も絶望に染まっている。
もはや、ロジックでは間に合わない。
――その二人の背後。
鬼のような形相で、別のキーボードを乱れ打っていた真島吾朗が、獣のような咆哮を上げた。
「あああああああ、もう! どないなっとんねん、このクソシステムは! はよ、吐き出さんかい!」
『爆破まで 残り 10秒』
「ああ……杉浦氏……未華子氏……」
九十九が、杉浦と未華子がいる展望台の方を仰ぎ見る。
その瞬間だった。
「―――どけや、お前ら」
真島の声のトーンが、ふらりと落ちた。
地獄の底から響いてくるような絶対的なドスを含んだ凄み。
彼は九十九とジュンギを強引に突き飛ばすと、メインコンソールの前に陣取った。
『7、6、5……』
真島の指が、常人の目には追えないほどの残像となって、キーボードの上を舞い踊る。
それは、もはやハッキングではなかった。
プログラムの構造など無視した、神の領域へと踏み込んだ、暴力的なまでの「破壊」と「再構築」。
システムの奥の奥、設計者ですら予期しなかった、裏の裏の、そのまた裏のバグを、真島はその獣のような「勘」だけでこじ開けた。
『3、2、1……』
彼の震える小指が、最後の一つ、エンターキーを叩きつけた。
―――ッターン!!!!!!
すると、モニターを埋め尽くしていた無数のエラーコードと赤い警告が、突風に吹かれたように吹き飛んだ。
一瞬の静寂。
漆黒の画面の中央に、ぽつりと緑色の「SUCCESS」の文字が静かに浮かび上がったのだ。
――奇跡は起きた。
「「…………………は?」」
九十九とジュンギが、信じられない、という顔で、モニターと真島を交互に見る。
「……ば、爆弾、解除……成功、ですぞ……?」
真島は、その場に崩れ落ちるように椅子にもたれかかった。
その手は小刻みに震え、額からは滝のような汗が流れている。
彼は、息も絶え絶えに、しかし口角だけを吊り上げて言った。
「……………見たか、コラ」
「…………」
「…………」
「…………ワシに、かかれ、ば…………」
「…………」
「…………」
「…………こんなもん……屁でも、ないわ……(がくり)」
言い終わると同時に、彼は白目を剥き、完全に燃え尽きて気絶した。
とてつもなく格好良く、そして最高にダサい伝説の男の背中に。
天才ハッカーと殺し屋は、涙目になりながら、たただだ無言で敬礼を送っていた。
『爆破まで 残り 3分』
無機質な合成音声が、死刑宣告のように展望フロアの冷たい空気を震わせた。
厚いガラスの向こう、遥か眼下では、パトカーの赤色灯が血管のように明滅し、微かなサイレンの音がまるで他人事のように響いている。
「杉浦くん、しっかりして!」
未華子は、砕けた足を押さえ、苦痛に顔を歪める杉浦のそばに駆け寄った。
「……はは、かっこ悪いとこ、見られちゃったね」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 早く逃げないと!」
未華子は彼の腕を自身の首に回し、必死でその身体を支える。
その時、床に倒れていた羽瀬が呻きながら上体を起こした。
「羽瀬さん早く! 爆弾を止めて!」
未華子の叫びも、羽瀬は力なく笑って否定する。
「ハハ……無駄だ。一度起動したシステムは、もう誰にも止められない。……全て終わりだ」
「ふざけんなよ!」
未華子の怒号が飛ぶ。
彼女は、片足を引きずる杉浦を肩で支えながら、自暴自棄になっている羽瀬へと叫ぶ。
「終わりなんかじゃない! 死ぬなんて許さない! 生きて、ナオトくんに償いなさい!」
その剣幕に気圧されたのか、羽瀬がよろりと立ち上がる。
「まだ2分以上ある!エレベーターがまだ動いているから、間に合うかもしれない。 ……力を貸して!」
その言葉に、羽瀬の目が
自暴自棄に見えた男の瞳の奥に、獣のような生の執着が蘇る。
「……エレベーター」
羽瀬がゆっくりと立ち上がり、杉浦を支える未華子に手を差し伸べようとした、その瞬間だった。
ドンッ!
横合いから、肩に強烈な衝撃を受けた。
不意を突かれ、バランスを崩した未華子は、支えていた杉浦と共にもつれるように床へ倒れ込む。
「きゃっ……!?」
「ぐうっ……!」
打ち付けた肩と足首に激痛が走る。
何が起きたのか分からないまま顔を上げると、そこには――。
エレベーターホールへと一人、駆け込んでいく羽瀬の後ろ姿があった。
「……は……?」
彼は、未華子たちが倒れ込んだ隙に、自分だけ脱出ルートへと走ったのだ。
あっという間にエレベーターの前に辿り着くと、彼は到着を待たずに管理用のカードキーを差し込み、扉を強制的にこじ開ける。
「待っ――!」
未華子が叫び、よろめきながら立ち上がろうとした。
その時、足首に骨が軋むような鋭い痛みが走った。
「―――っ!」
先ほど突き飛ばされた勢いで、床に足を変な角度で突いたらしい。
激痛で、立っていられない。
銀色の扉が開き、羽瀬が中へと滑り込む。
彼は、床に崩れ落ちた未華子を一瞥すると、唇の端を醜く歪めてみせた。
「……もっと賢く生きるべきだったな、馬鹿女。くだらねえ正義感なんか、腹の足しにもなるか」
その言葉を最後に、無慈悲な銀色の扉が音もなく閉ざされていく。
ウィィィン……と遠ざかる駆動音。
展望フロアの全ての制御盤が赤く点滅し、『LOCKDOWN』の文字が浮かび上がる。
エレベーターの操作権限も、全て彼が奪っていったのだ。
「あ……」
唯一の希望が断たれた。
足首の熱い痛み。
横で苦悶の声を上げる杉浦。
そして、無情に時を刻む、死へのカウントダウン。
『未華子氏、杉浦氏! 応答なさい! 状況は!?』
耳元のインカムから聞こえてくる九十九の悲痛な叫びも、未華子どこか他人事にしか思えなかった。
*
◎場面転換[場所:移動司令室「K-TARO」内]
うみねこタワーの足元に停められた、キッチンカーを改造した移動司令室「K-TARO」。
その中では、九十九とジュンギが、必死でエレベーターの制御や爆弾の解除コードを探っていた。
だが、羽瀬が設定したパスワードは、単純な数字の羅列でありながら、桁数が多く、パターンは天文学的な数字に上る。
総当たりで解析をかけてはいるが、時間は、絶望的に足りなかった。
*
◎場面転換[場所:うみねこタワー 展望フロア]
『爆破まで 残り 1分』
「……もう、いいよ」
床に倒れ込んだまま、杉浦が、力なく呟いた。
「……未華子ちゃん。……早く、逃げて。非常階段なら、間に合うかも、しれない」
「嫌だ! 杉浦くんを置いてなんて、行けるわけないでしょ!」
「いいから、早く行って!」
「嫌だ!」
「言うこと、聞けよ……!」
杉浦が叫ぶ。
未華子が初めて聞く、彼の悲痛な絶叫だった。
「僕のせいで……また、君を……危ない目に遭わせるなんて……もう、たくさんなんだよ……!」
その声に、未華子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……違う。違うよ、杉浦くん」
彼女は、彼の隣にそっと身を横たえた。
そして、血の気を失って冷たくなった彼の手を、自分の両手で優しく包み込む。
脈打つ互いの心音が、掌を通じて重なり合う。
「私は、ずっと、杉浦くんに守ってもらってばっかりだった……。でも今日ぐらいは、私が杉浦くんを守りたかったの……!」
『未華子……! 本当に時間が無い! 早く逃げてくれ……!』
インカム越しの佐竹の悲痛な声も、もう彼女の耳には届かない。
世界には今、目の前の彼と、自分しかいなかった。
『爆破まで 残り 30秒』
「……ごめんね、未華子ちゃん」
杉浦が、掠れた声で呟く。
視線が、未華子の濡れた瞳を捉えた。
「……僕、本当は、ずっと……。初めて、会った日から、ずっと、君のこと……」
最期の瞬間に紡がれる、遅すぎた愛の告白。
未華子はその言葉を遮るように、小さく首を横に振る。
「―――知ってる」
そして彼女は、一番悲しい笑顔で笑った。
「……私もだよ」
言葉にならなかった想いが、二人の間で溶け合う。
「だから大丈夫。……杉浦くんと一緒なら、怖くないかな」
それは、彼女の生まれて初めての、心からの愛の告白だった。
『10、9、8……』
電子音声が、無慈悲に終わりの時を刻む。
もう思い残すことは何もない。
『7、6、5……』
杉浦は、最後の力を振り絞り、彼女の背中に腕を回して引き寄せた。
『4、3、2……』
そして、その唇を、彼女の唇にそっと重ねた。
温かくて、しょっぱい、涙の味がした。
『―――1』
―――さようなら。
『0』
………。
…………。
………………。
……………………。
……………………………………。
覚悟した熱波も爆音も、来なかった。
しんと静まり返った展望フロアに、ただ二人の荒い呼吸音だけが残る。
重なり合ったまま、呆然とする杉浦と未華子。
『……は?』
インカムから、九十九の気の抜けたような声が聞こえてきた。
『……ば、爆弾、解除……成功、ですぞ……?』
◎場面転換:爆発の30秒前[場所:移動司令室「K-TARO」内]
『爆破まで 残り 30秒』
「K-TARO」の中は、地獄と化していた。
鳴り響く、無機質なカウントダウンの警告音。
排熱でうなるサーバー。
汗だくになった九十九とジュンギが、神業のような速さでキーボードを叩き続けているが、モニターの赤いゲージは無情にも減り続けていく。
「ダメだ! パスワードの階層が深すぎる!」
ジュンギが、苛立ちを隠さずに叫ぶ。
「総当たりのパターン解析では、どうやってもあと2時間はかかりますぞ!」
九十九の声も絶望に染まっている。
もはや、ロジックでは間に合わない。
――その二人の背後。
鬼のような形相で、別のキーボードを乱れ打っていた真島吾朗が、獣のような咆哮を上げた。
「あああああああ、もう! どないなっとんねん、このクソシステムは! はよ、吐き出さんかい!」
『爆破まで 残り 10秒』
「ああ……杉浦氏……未華子氏……」
九十九が、杉浦と未華子がいる展望台の方を仰ぎ見る。
その瞬間だった。
「―――どけや、お前ら」
真島の声のトーンが、ふらりと落ちた。
地獄の底から響いてくるような絶対的なドスを含んだ凄み。
彼は九十九とジュンギを強引に突き飛ばすと、メインコンソールの前に陣取った。
『7、6、5……』
真島の指が、常人の目には追えないほどの残像となって、キーボードの上を舞い踊る。
それは、もはやハッキングではなかった。
プログラムの構造など無視した、神の領域へと踏み込んだ、暴力的なまでの「破壊」と「再構築」。
システムの奥の奥、設計者ですら予期しなかった、裏の裏の、そのまた裏のバグを、真島はその獣のような「勘」だけでこじ開けた。
『3、2、1……』
彼の震える小指が、最後の一つ、エンターキーを叩きつけた。
―――ッターン!!!!!!
すると、モニターを埋め尽くしていた無数のエラーコードと赤い警告が、突風に吹かれたように吹き飛んだ。
一瞬の静寂。
漆黒の画面の中央に、ぽつりと緑色の「SUCCESS」の文字が静かに浮かび上がったのだ。
――奇跡は起きた。
「「…………………は?」」
九十九とジュンギが、信じられない、という顔で、モニターと真島を交互に見る。
「……ば、爆弾、解除……成功、ですぞ……?」
真島は、その場に崩れ落ちるように椅子にもたれかかった。
その手は小刻みに震え、額からは滝のような汗が流れている。
彼は、息も絶え絶えに、しかし口角だけを吊り上げて言った。
「……………見たか、コラ」
「…………」
「…………」
「…………ワシに、かかれ、ば…………」
「…………」
「…………」
「…………こんなもん……屁でも、ないわ……(がくり)」
言い終わると同時に、彼は白目を剥き、完全に燃え尽きて気絶した。
とてつもなく格好良く、そして最高にダサい伝説の男の背中に。
天才ハッカーと殺し屋は、涙目になりながら、たただだ無言で敬礼を送っていた。
