第5話:浪速の狂犬、愛の試練
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第三幕:愛の在処
真島のボロボロの軽トラの後を追う形で、八神たちが乗ったバンは、蒼天堀の煌びやかなネオン街を抜け、郊外へと向かっていた。
やがて、道は舗装もされていない、山道へと変わっていく。
その道の入り口には、『この先 道路舗装工事中につき 関係者以外 立ち入り禁止』という無機質な看板と「真島建設」のロゴが入ったバリケードが設置されていた。
「……ここか」
運転席の八神が呟く。
先に車を降りた真島は、工事現場の屈強な作業員たちに、一言、二言、声をかけるとこちらに手招きをした。
バリケードが、静かに横へと動かされる。
「……ついてきぃ」
その短い言葉だけを残し、真島は闇の奥へと歩き始めた。
一行は、その異様な雰囲気の山道を進んでいく。
「……なあ、真島さんよ」
並んで歩く海藤が、我慢できない、というように口を開いた。
「……一体、ここは何なんだ? …ただの工事現場じゃねえだろ」
その問いに、真島は足を止めることなく、肩越しに答えた。
「……見りゃわかるやろ。…墓場や」
その言葉の意味を理解したのは、数分後に視界が開けたあとだった。
山に囲まれた、盆地のようなその場所に、それはあった。
バブル時代に建てられたであろう、いくつもの巨大なリゾートホテルやラブホテル。
その全てが廃墟と化し、まるで巨大な墓石群のように、静かに月明かりの下に佇んでいる。
ここは、警察も行政も完全に見捨てた、治外法権の「無法の谷」。
戸籍を失くした者、社会から弾き出された者たちが寄り集まる、最後の行き着く場所。
「……あんたが、こいつらの元締めか?」
八神が鋭い目で問う。
「アホ抜かせ」
真島は、吐き捨てるように言った。
「ワシは、ただのカタギの建設屋や。…こいつらが、これ以上面倒事を起こさんように。そして、くだらん正義や欲望を持った外の人間が、ここに手ぇ出さんように。…見張ってるだけの、ただの『門番』や」
――その言葉。
未華子は理解した。
彼がなぜ、自分たちをここに「案内」してくれたのか。
杉浦の、亡き姉にまつわる捨て身の「覚悟」。
そして自分の、好きな男を助けたいという、ただ一つの命がけの「想い」。
彼は、その二つの「スジ」を認め、この禁断の谷への扉を開けてくれたのだ。
「……お前らが探してる男の、おる場所はあそこや」
真島が顎でしゃくった先。
丘の上に一際大きく、そして不気味にそびえ立つ廃リゾートホテル。
その最上階の一つの窓だけが、煌々と明かりが灯っていた。
「―――ここから先は、ワシの管轄外や」
真島はそこで足を止めると、こちらを振り返らずに言った。
「……死ぬなや」
不器用で短い、激励の言葉だけを残し。
彼は再び、闇の中へと静かに消えていった。
*
真島のその大きな背中が、闇に溶けていくのを見届けた後。
一行は丘の上にそびえ立つ、あの不気味な廃リゾートホテルを目指し、ゆっくりと歩み始めた。
道中は、まさに、異様というべき光景だった。
廃墟と化したホテルの割れた窓ガラスのその奥で、いくつもの焚き火の光が揺らめいている。
その周りには、痩せた犬と、言葉を失ったように虚な目をした老人たち。
廃ラブホテルの回転ベッドの上では、若い男女が春を売っている。
ここには、社会のあらゆるルールからこぼれ落ちた者たちの、どうしようもない生と死の匂いが満ち満ちていた。
やがて一行は、目的のホテルの前にたどり着く。
他の廃墟とは、明らかに雰囲気が違っていた。
入り口には見張り役であろう、目つきの鋭い男たちが数人立っている。
そして建物からは、発電機の低い唸り声が聞こえてくる。
「……当たり、だな」
八神が、低く呟いた。
彼は、隣に立つ九十九に指示を飛ばす。
「九十九。…お前は、ここで待機。ドローンで内部の状況を把握しつつ、いざとなったら外で陽動をかけてくれ」
「承知!」
そして彼は、未華子の顔を見ると静かに言った。
「……みーちゃんは危ないから、九十九と一緒に外で待ってな」
その言葉に、海藤も大きく頷く。
「そうだぜ。…こっから先はプロの仕事だ」
だが、その二人の制止に、未華子は強く首を横に振った。
「……嫌です」
未華子のその頑なな瞳に、二人が少しだけ怯む。
「私も、行かせてください。……杉浦くんが中にいるかもしれないのに。…私だけ安全な場所にいるなんて、絶対にできません」
その覚悟の強さに、八神と海藤は、顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく、小さくため息をついたのを、未華子は見逃さなかった。
「……………はぁ。…わかったよ」
八神が折れた。
その時だった。
「―――ならば、これを!」
九十九が、どこからともなく、二つの小さな黒い棒状のものを取り出した。
「これは、ボクが改造を施した、最新鋭の護身用スタンガン! スイッチを入れれば熊でも3秒は気絶しますぞ!」
「そしてこれは、チタン合金製の特殊警棒! 普段は口紅ほどのサイズですが、ボタン一つで、一瞬にして50センチにまで伸長! 鉄パイプくらいなら容易くへし折れます!」
その物騒な説明。
彼は、その二つの「武器」を未華子の手に握らせると、ニヤリと笑った。
「……これさえあれば、足手まといにはなりませんぞ!」
その、九十九なりの不器用なエール。
未華子はその二つの冷たい金属の感触を、強く握りしめた。
(……待ってて、杉浦くん。…今、助けに行くから)
未華子の覚悟は決まった。
*
覚悟を決めた三人(八神、海藤、未華子)は、ホテルの入り口へと向かった。
見張り役の男たちが、その行く手を塞ぐ。
八神は、両手を上げるジェスチャーをしながら、穏やかな口調で尋ねた。
「……どうも。…人を探してるんだけどさ。…茶髪の、少し生意気そうな若い男が、ここに来てないかな?」
この場には似つかわしくないほど、緊張感のない問いかけ。
男たちはただ、鼻で笑うだけだった。
「知らねえな。…とっとと失せな」
「……そうか」
八神は、一度だけ頷いた。
そして、隣に立つ海藤と、一瞬だけ目を合わせる。
それが合図だった。
「―――じゃあ、仕方ないな」
次の瞬間。
八神のしなやかな蹴りと、海藤のゴリラのような重い拳が、同時に見張り役たちの顔面を捉えていた。
悲鳴を上げる間もなく、崩れ落ちる男たち。
一行は、ホテル内へと侵入する。
ロビーには、カジノテーブルが無造作に置かれ、奥の部屋からは喘ぎ声のようなものも聞こえてくる。
まさに、無法地帯。
だが、そんな感傷に浸る暇はなかった。
異変に気づいた屈強な男たちが、次から次へと襲いかかってくる。
「ター坊! 俺が前をやる! お前はみーちゃんを!」
「わかってる!」
海藤が、その巨体で盾となり、敵の群れへと突っ込んでいく。
八神は、未華子の手を取り、その背後から的確に敵をいなしていく。
洗練された二人のコンビネーションに、未華子はただ呆気にとられていた。
(……この二人……強すぎる……!!!)。
一行は、エレベーターを避け、非常階段を使い最上階を目指した。
狭い階段での乱闘。
八神と海藤が、前方の敵と交戦している、その一瞬の隙を突き。
後ろから迫ってきていた一人の男が、彼女の首根っこ(服の襟)を掴んだ。
「ぐっ…!」
「このクソ女、やっと捕まえたぜェ!」
その、下卑た声。
八神と海藤は、まだ、こちらに気づいていない。
(……やるしかない!)
未華子は、覚悟を決めた。
ポケットから、九十九に渡された二つの「武器」を取り出す。
まず、右手に持った口紅サイズの警棒のボタンを押す。
シュン! という音と共に、それは一瞬で50cmの黒い棒へと変化した。
それを、無我夢中で男の脛に叩きつける!
「ぐがっ!?」
男が怯んだその隙に。
左手のスタンガンの安全装置を外し、その剥き出しになった腹に全力で押し当てた!
「死ねっ!!!」
バチバチバチッ!!!!
凄まじい放電音と、肉の焼ける匂い。
白目を剥き、完全に気絶した男は、階段をゴロゴロと転げ落ちていった。
「……………はぁ、はぁ……」
荒い息をつく、未華子のその姿。
前方の敵を片付け終えた、八神と海藤が呆然と見つめていた。
「……………」
「……………」
やがて、八神が親指をグッと立てて言った。
「……みーちゃん、やるじゃん」
そして、海藤が、心底感心したような、でも、どこか少しだけ引いているような顔で、こう付け加えたのだ。
「…………俺らより、100倍はつええな」
その二人の賞賛(?)の言葉を背中に受けながら。
三人は再び、最上階へと続く薄暗い階段を登り始めた。
一歩、また一歩と、踏みしめるたびに、心臓が大きく脈打つ。
その、張り詰めた沈黙の中。
未華子は、隣を歩く八神の横顔に問いかけた。
「……八神さん」
「……ん?」
「……八神さんには、もう、見えているんですか? …杉浦くんを呼び出した、この事件の黒幕が誰なのか」
その未華子の問いに、彼は足を止めることなく静かに答えた。
「……ああ。だいたいな」
彼の瞳の奥に、深く冷たい怒りの光が宿っていた。
「……これは、俺と、そして杉浦の、ケリをつけなきゃならない問題だ」
それ以上の言葉はなかった。
だが、その一言だけで、未華子は全てを悟った。
この事件は、あの5年前の悪夢と地続きなのだ、と。
やがて一行は、最上階の廊下へとたどり着く。
その時、未華子の耳につけたインカムから、九十九の緊迫した声が聞こえてきた。
『―――こちら、九十九! 聞こえますかな!?』
「聞こえる。状況は?」
未華子が、声を潜めて応じる。
『ドローンによる内部偵察、完了! …このフロアの一番奥! 左手のスイートルームと思しき部屋! そこに、熱源反応多数!』
モニターを見つめる九十九の、焦ったような息遣いが伝わってくる。
『…部屋にいる人数は、およそ8名! …そしてその中央に、一人椅子に拘束されていると思しき熱源が! …おそらく、それが杉浦氏ですぞ!』
その報せに、全員が息を呑む。
一行は、音もなくその部屋のドアへと近づいた。
中から微かに、男たちの話し声と、苦しげな呻き声のようなものが、聞こえてくる。
八神と海藤が、顔を見合わせる。
そして、未華子を振り返ると、これまでで、一番、真剣な目で言った。
「「―――絶対に、俺たちから離れるなよ」」
その二人の言葉に、未華子は強く頷いた。
次の瞬間。
海藤の巨体が、その重厚なドアへと叩きつけられた。
凄まじい轟音と共に、ドアが内側へと弾け飛ぶ。
そして三人は、光の中へと突入した。
そこに、広がっていたのは―――。
真島のボロボロの軽トラの後を追う形で、八神たちが乗ったバンは、蒼天堀の煌びやかなネオン街を抜け、郊外へと向かっていた。
やがて、道は舗装もされていない、山道へと変わっていく。
その道の入り口には、『この先 道路舗装工事中につき 関係者以外 立ち入り禁止』という無機質な看板と「真島建設」のロゴが入ったバリケードが設置されていた。
「……ここか」
運転席の八神が呟く。
先に車を降りた真島は、工事現場の屈強な作業員たちに、一言、二言、声をかけるとこちらに手招きをした。
バリケードが、静かに横へと動かされる。
「……ついてきぃ」
その短い言葉だけを残し、真島は闇の奥へと歩き始めた。
一行は、その異様な雰囲気の山道を進んでいく。
「……なあ、真島さんよ」
並んで歩く海藤が、我慢できない、というように口を開いた。
「……一体、ここは何なんだ? …ただの工事現場じゃねえだろ」
その問いに、真島は足を止めることなく、肩越しに答えた。
「……見りゃわかるやろ。…墓場や」
その言葉の意味を理解したのは、数分後に視界が開けたあとだった。
山に囲まれた、盆地のようなその場所に、それはあった。
バブル時代に建てられたであろう、いくつもの巨大なリゾートホテルやラブホテル。
その全てが廃墟と化し、まるで巨大な墓石群のように、静かに月明かりの下に佇んでいる。
ここは、警察も行政も完全に見捨てた、治外法権の「無法の谷」。
戸籍を失くした者、社会から弾き出された者たちが寄り集まる、最後の行き着く場所。
「……あんたが、こいつらの元締めか?」
八神が鋭い目で問う。
「アホ抜かせ」
真島は、吐き捨てるように言った。
「ワシは、ただのカタギの建設屋や。…こいつらが、これ以上面倒事を起こさんように。そして、くだらん正義や欲望を持った外の人間が、ここに手ぇ出さんように。…見張ってるだけの、ただの『門番』や」
――その言葉。
未華子は理解した。
彼がなぜ、自分たちをここに「案内」してくれたのか。
杉浦の、亡き姉にまつわる捨て身の「覚悟」。
そして自分の、好きな男を助けたいという、ただ一つの命がけの「想い」。
彼は、その二つの「スジ」を認め、この禁断の谷への扉を開けてくれたのだ。
「……お前らが探してる男の、おる場所はあそこや」
真島が顎でしゃくった先。
丘の上に一際大きく、そして不気味にそびえ立つ廃リゾートホテル。
その最上階の一つの窓だけが、煌々と明かりが灯っていた。
「―――ここから先は、ワシの管轄外や」
真島はそこで足を止めると、こちらを振り返らずに言った。
「……死ぬなや」
不器用で短い、激励の言葉だけを残し。
彼は再び、闇の中へと静かに消えていった。
*
真島のその大きな背中が、闇に溶けていくのを見届けた後。
一行は丘の上にそびえ立つ、あの不気味な廃リゾートホテルを目指し、ゆっくりと歩み始めた。
道中は、まさに、異様というべき光景だった。
廃墟と化したホテルの割れた窓ガラスのその奥で、いくつもの焚き火の光が揺らめいている。
その周りには、痩せた犬と、言葉を失ったように虚な目をした老人たち。
廃ラブホテルの回転ベッドの上では、若い男女が春を売っている。
ここには、社会のあらゆるルールからこぼれ落ちた者たちの、どうしようもない生と死の匂いが満ち満ちていた。
やがて一行は、目的のホテルの前にたどり着く。
他の廃墟とは、明らかに雰囲気が違っていた。
入り口には見張り役であろう、目つきの鋭い男たちが数人立っている。
そして建物からは、発電機の低い唸り声が聞こえてくる。
「……当たり、だな」
八神が、低く呟いた。
彼は、隣に立つ九十九に指示を飛ばす。
「九十九。…お前は、ここで待機。ドローンで内部の状況を把握しつつ、いざとなったら外で陽動をかけてくれ」
「承知!」
そして彼は、未華子の顔を見ると静かに言った。
「……みーちゃんは危ないから、九十九と一緒に外で待ってな」
その言葉に、海藤も大きく頷く。
「そうだぜ。…こっから先はプロの仕事だ」
だが、その二人の制止に、未華子は強く首を横に振った。
「……嫌です」
未華子のその頑なな瞳に、二人が少しだけ怯む。
「私も、行かせてください。……杉浦くんが中にいるかもしれないのに。…私だけ安全な場所にいるなんて、絶対にできません」
その覚悟の強さに、八神と海藤は、顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく、小さくため息をついたのを、未華子は見逃さなかった。
「……………はぁ。…わかったよ」
八神が折れた。
その時だった。
「―――ならば、これを!」
九十九が、どこからともなく、二つの小さな黒い棒状のものを取り出した。
「これは、ボクが改造を施した、最新鋭の護身用スタンガン! スイッチを入れれば熊でも3秒は気絶しますぞ!」
「そしてこれは、チタン合金製の特殊警棒! 普段は口紅ほどのサイズですが、ボタン一つで、一瞬にして50センチにまで伸長! 鉄パイプくらいなら容易くへし折れます!」
その物騒な説明。
彼は、その二つの「武器」を未華子の手に握らせると、ニヤリと笑った。
「……これさえあれば、足手まといにはなりませんぞ!」
その、九十九なりの不器用なエール。
未華子はその二つの冷たい金属の感触を、強く握りしめた。
(……待ってて、杉浦くん。…今、助けに行くから)
未華子の覚悟は決まった。
*
覚悟を決めた三人(八神、海藤、未華子)は、ホテルの入り口へと向かった。
見張り役の男たちが、その行く手を塞ぐ。
八神は、両手を上げるジェスチャーをしながら、穏やかな口調で尋ねた。
「……どうも。…人を探してるんだけどさ。…茶髪の、少し生意気そうな若い男が、ここに来てないかな?」
この場には似つかわしくないほど、緊張感のない問いかけ。
男たちはただ、鼻で笑うだけだった。
「知らねえな。…とっとと失せな」
「……そうか」
八神は、一度だけ頷いた。
そして、隣に立つ海藤と、一瞬だけ目を合わせる。
それが合図だった。
「―――じゃあ、仕方ないな」
次の瞬間。
八神のしなやかな蹴りと、海藤のゴリラのような重い拳が、同時に見張り役たちの顔面を捉えていた。
悲鳴を上げる間もなく、崩れ落ちる男たち。
一行は、ホテル内へと侵入する。
ロビーには、カジノテーブルが無造作に置かれ、奥の部屋からは喘ぎ声のようなものも聞こえてくる。
まさに、無法地帯。
だが、そんな感傷に浸る暇はなかった。
異変に気づいた屈強な男たちが、次から次へと襲いかかってくる。
「ター坊! 俺が前をやる! お前はみーちゃんを!」
「わかってる!」
海藤が、その巨体で盾となり、敵の群れへと突っ込んでいく。
八神は、未華子の手を取り、その背後から的確に敵をいなしていく。
洗練された二人のコンビネーションに、未華子はただ呆気にとられていた。
(……この二人……強すぎる……!!!)。
一行は、エレベーターを避け、非常階段を使い最上階を目指した。
狭い階段での乱闘。
八神と海藤が、前方の敵と交戦している、その一瞬の隙を突き。
後ろから迫ってきていた一人の男が、彼女の首根っこ(服の襟)を掴んだ。
「ぐっ…!」
「このクソ女、やっと捕まえたぜェ!」
その、下卑た声。
八神と海藤は、まだ、こちらに気づいていない。
(……やるしかない!)
未華子は、覚悟を決めた。
ポケットから、九十九に渡された二つの「武器」を取り出す。
まず、右手に持った口紅サイズの警棒のボタンを押す。
シュン! という音と共に、それは一瞬で50cmの黒い棒へと変化した。
それを、無我夢中で男の脛に叩きつける!
「ぐがっ!?」
男が怯んだその隙に。
左手のスタンガンの安全装置を外し、その剥き出しになった腹に全力で押し当てた!
「死ねっ!!!」
バチバチバチッ!!!!
凄まじい放電音と、肉の焼ける匂い。
白目を剥き、完全に気絶した男は、階段をゴロゴロと転げ落ちていった。
「……………はぁ、はぁ……」
荒い息をつく、未華子のその姿。
前方の敵を片付け終えた、八神と海藤が呆然と見つめていた。
「……………」
「……………」
やがて、八神が親指をグッと立てて言った。
「……みーちゃん、やるじゃん」
そして、海藤が、心底感心したような、でも、どこか少しだけ引いているような顔で、こう付け加えたのだ。
「…………俺らより、100倍はつええな」
その二人の賞賛(?)の言葉を背中に受けながら。
三人は再び、最上階へと続く薄暗い階段を登り始めた。
一歩、また一歩と、踏みしめるたびに、心臓が大きく脈打つ。
その、張り詰めた沈黙の中。
未華子は、隣を歩く八神の横顔に問いかけた。
「……八神さん」
「……ん?」
「……八神さんには、もう、見えているんですか? …杉浦くんを呼び出した、この事件の黒幕が誰なのか」
その未華子の問いに、彼は足を止めることなく静かに答えた。
「……ああ。だいたいな」
彼の瞳の奥に、深く冷たい怒りの光が宿っていた。
「……これは、俺と、そして杉浦の、ケリをつけなきゃならない問題だ」
それ以上の言葉はなかった。
だが、その一言だけで、未華子は全てを悟った。
この事件は、あの5年前の悪夢と地続きなのだ、と。
やがて一行は、最上階の廊下へとたどり着く。
その時、未華子の耳につけたインカムから、九十九の緊迫した声が聞こえてきた。
『―――こちら、九十九! 聞こえますかな!?』
「聞こえる。状況は?」
未華子が、声を潜めて応じる。
『ドローンによる内部偵察、完了! …このフロアの一番奥! 左手のスイートルームと思しき部屋! そこに、熱源反応多数!』
モニターを見つめる九十九の、焦ったような息遣いが伝わってくる。
『…部屋にいる人数は、およそ8名! …そしてその中央に、一人椅子に拘束されていると思しき熱源が! …おそらく、それが杉浦氏ですぞ!』
その報せに、全員が息を呑む。
一行は、音もなくその部屋のドアへと近づいた。
中から微かに、男たちの話し声と、苦しげな呻き声のようなものが、聞こえてくる。
八神と海藤が、顔を見合わせる。
そして、未華子を振り返ると、これまでで、一番、真剣な目で言った。
「「―――絶対に、俺たちから離れるなよ」」
その二人の言葉に、未華子は強く頷いた。
次の瞬間。
海藤の巨体が、その重厚なドアへと叩きつけられた。
凄まじい轟音と共に、ドアが内側へと弾け飛ぶ。
そして三人は、光の中へと突入した。
そこに、広がっていたのは―――。
