第5話:浪速の狂犬、愛の試練
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第二幕:狂犬の裁定
九十九と未華子の二人は、静岡県湊上市へと向かった。
新幹線の車窓を流れる景色が、未華子の焦る心とは裏腹に、やけにのどかに見えた。
隣の席の九十九は、景色には一瞥もくれず、ノートPCのキーボードを一心不乱に叩きながら何かのデータを復旧させていた。
大久保新平の家は、懐かしさを感じる穏やかな田園風景の中にあった。
日に焼けた、人の良さそうな男。
彼が、あの事件の中心にいた人物だとは、にわかには信じがたい。
「杉浦くん、あ……いえ、文也くんが、土曜日にここに……?」
「ええ。本当に、突然でした」
縁側で麦茶を差し出しながら、大久保は静かに語り始めた。
その様子は、どこか思い詰めているようで、でも、何かを振り切ったようにすっきりした顔をしていた、と。
そして、彼は戸惑う未華子に、はにかむように言った。
「あなたが、未華子さんですね。……会いたかったです」
「え?」
「文也くん、手紙でよくあなたのことを書いてくれていたんです。横浜で、新しい仲間ができたって。とても楽しそうでしたよ」
その言葉に、未華子の胸が温かくなる。
嬉しい。
本当に嬉しい。
でも、だからこそ、あの置き手紙の嘘が鋭いナイフとなって心を抉る。
(どうして……? どうして私たちに嘘をついたの? 一体、どれだけ危険な場所に、一人で行ってしまったの……?)
喜びと、絶望的な不安が、彼女の中で渦を巻いていた。
その時、九十九のスマートフォンが鳴った。
別軸で調査を進めていた八神からだった。
『杉浦が向かったのは、大阪の可能性が高い。さっき九十九が復旧させた、杉浦がここ数日やり取りをしていたメール……その発信源を辿ると、蒼天堀付近のある一点に行き着く。俺たちも、すぐに大阪に向かう』
九十九と未華子は、大久保に礼を言うと、その足で大阪へと向かった。
新大阪駅で八神・海藤と合流し、蒼天堀の裏社会を調べ始めると、すぐに一つの壁にぶち当たった。
杉浦が向かったと思われるエリアは、東城会と近江連合が解散後のパワーバランスの歪みが生んだ、危険な無法地帯。
そこへ足を踏み入れるには、ただ一人の男の「案内」が要るという。
その男の名は、真島吾朗。
かつて「嶋野の狂犬」と恐れられた、伝説の男。
夜の蒼天堀。
ネオンが妖しく光る雑居ビルに、「真島警備」の看板はあった。
八神と海藤が名を名乗ると、奥から、あの男が姿を現した。
眼帯の奥の瞳が、値踏みするように一同を射抜く。
その威圧感は、十朱雅とはまた違う、獣のような獰猛さを秘めていた。
「桐生ちゃんのダチか? 何の用や」
杉浦のことを尋ねると、真島は心底どうでもよさそうに、鼻で笑った。
「知らんなぁ。ワシはカタギや。面倒事はごめんやで」
どんなに説得しても、暖簾に腕押し。
海藤が食い下がっても、「はよ、帰ってくれるか」と一蹴される。
その場を支配する絶対的な空気に、四人はなすすべもなく、事務所を後にした。
ホテルに戻り、途方に暮れる男たち。
その夜、未華子は一人で部屋を抜け出した。
杉浦を助けられるのは、もう自分しかいない。
再び、真島警備の社長室。
一人で現れた未華子を見て、真島は少し驚いた顔をしたが、すぐに面白そうに口の端を上げた。
「なんや、忘れもんか?」
「助けてください。彼を……杉浦くんを、助けたいんです」
未華子は、コンビニのATMで下ろしてきたばかりの、通帳の全額が入った分厚い封筒を、デスクに置いた。
「これは、今用意できる私の全財産です。どうか、これで……」
真島は、その封筒を一瞥すると、フン、と笑った。
「金なんかいらんわ」
その言葉に、未華子は震える声で、最後のカードを切った。
「……なら、なんでも言うことを聞きます。私のこと……売ってもらって構いません」
その瞬間、真島の纏う空気が変わった。
彼はゆっくりと立ち上がると、未華子の目の前に立つ。
眼帯の奥の瞳が、彼女の覚悟の底を見抜こうとするかのように、じっと見つめていた。
「……面白いこと言うやないか」
その声は、静かだが、有無を言わさぬ響きがあった。
「ほんなら、ワシの愛人にでもなるか?」
未華子の身体が、小さく震える。
脳裏をよぎるのは、杉浦の、あの不器用な笑顔。
彼が助かるなら。
「……はい。喜んで」
その、覚悟に満ちた瞳を見て、真島は満足そうに、そしてどこか哀しそうにフッと息を漏らした。
「……よう言うた。その覚悟、気に入ったわ」
彼は、デスクの内線を取ると、誰かに短い指示を飛ばした。
「お前が探してる男の居場所、案内したる。……ついてきぃ」
一人の女の、命をかけた覚悟が、ついに伝説の狂犬の心を動かしたのだ。
九十九と未華子の二人は、静岡県湊上市へと向かった。
新幹線の車窓を流れる景色が、未華子の焦る心とは裏腹に、やけにのどかに見えた。
隣の席の九十九は、景色には一瞥もくれず、ノートPCのキーボードを一心不乱に叩きながら何かのデータを復旧させていた。
大久保新平の家は、懐かしさを感じる穏やかな田園風景の中にあった。
日に焼けた、人の良さそうな男。
彼が、あの事件の中心にいた人物だとは、にわかには信じがたい。
「杉浦くん、あ……いえ、文也くんが、土曜日にここに……?」
「ええ。本当に、突然でした」
縁側で麦茶を差し出しながら、大久保は静かに語り始めた。
その様子は、どこか思い詰めているようで、でも、何かを振り切ったようにすっきりした顔をしていた、と。
そして、彼は戸惑う未華子に、はにかむように言った。
「あなたが、未華子さんですね。……会いたかったです」
「え?」
「文也くん、手紙でよくあなたのことを書いてくれていたんです。横浜で、新しい仲間ができたって。とても楽しそうでしたよ」
その言葉に、未華子の胸が温かくなる。
嬉しい。
本当に嬉しい。
でも、だからこそ、あの置き手紙の嘘が鋭いナイフとなって心を抉る。
(どうして……? どうして私たちに嘘をついたの? 一体、どれだけ危険な場所に、一人で行ってしまったの……?)
喜びと、絶望的な不安が、彼女の中で渦を巻いていた。
その時、九十九のスマートフォンが鳴った。
別軸で調査を進めていた八神からだった。
『杉浦が向かったのは、大阪の可能性が高い。さっき九十九が復旧させた、杉浦がここ数日やり取りをしていたメール……その発信源を辿ると、蒼天堀付近のある一点に行き着く。俺たちも、すぐに大阪に向かう』
九十九と未華子は、大久保に礼を言うと、その足で大阪へと向かった。
新大阪駅で八神・海藤と合流し、蒼天堀の裏社会を調べ始めると、すぐに一つの壁にぶち当たった。
杉浦が向かったと思われるエリアは、東城会と近江連合が解散後のパワーバランスの歪みが生んだ、危険な無法地帯。
そこへ足を踏み入れるには、ただ一人の男の「案内」が要るという。
その男の名は、真島吾朗。
かつて「嶋野の狂犬」と恐れられた、伝説の男。
夜の蒼天堀。
ネオンが妖しく光る雑居ビルに、「真島警備」の看板はあった。
八神と海藤が名を名乗ると、奥から、あの男が姿を現した。
眼帯の奥の瞳が、値踏みするように一同を射抜く。
その威圧感は、十朱雅とはまた違う、獣のような獰猛さを秘めていた。
「桐生ちゃんのダチか? 何の用や」
杉浦のことを尋ねると、真島は心底どうでもよさそうに、鼻で笑った。
「知らんなぁ。ワシはカタギや。面倒事はごめんやで」
どんなに説得しても、暖簾に腕押し。
海藤が食い下がっても、「はよ、帰ってくれるか」と一蹴される。
その場を支配する絶対的な空気に、四人はなすすべもなく、事務所を後にした。
ホテルに戻り、途方に暮れる男たち。
その夜、未華子は一人で部屋を抜け出した。
杉浦を助けられるのは、もう自分しかいない。
再び、真島警備の社長室。
一人で現れた未華子を見て、真島は少し驚いた顔をしたが、すぐに面白そうに口の端を上げた。
「なんや、忘れもんか?」
「助けてください。彼を……杉浦くんを、助けたいんです」
未華子は、コンビニのATMで下ろしてきたばかりの、通帳の全額が入った分厚い封筒を、デスクに置いた。
「これは、今用意できる私の全財産です。どうか、これで……」
真島は、その封筒を一瞥すると、フン、と笑った。
「金なんかいらんわ」
その言葉に、未華子は震える声で、最後のカードを切った。
「……なら、なんでも言うことを聞きます。私のこと……売ってもらって構いません」
その瞬間、真島の纏う空気が変わった。
彼はゆっくりと立ち上がると、未華子の目の前に立つ。
眼帯の奥の瞳が、彼女の覚悟の底を見抜こうとするかのように、じっと見つめていた。
「……面白いこと言うやないか」
その声は、静かだが、有無を言わさぬ響きがあった。
「ほんなら、ワシの愛人にでもなるか?」
未華子の身体が、小さく震える。
脳裏をよぎるのは、杉浦の、あの不器用な笑顔。
彼が助かるなら。
「……はい。喜んで」
その、覚悟に満ちた瞳を見て、真島は満足そうに、そしてどこか哀しそうにフッと息を漏らした。
「……よう言うた。その覚悟、気に入ったわ」
彼は、デスクの内線を取ると、誰かに短い指示を飛ばした。
「お前が探してる男の居場所、案内したる。……ついてきぃ」
一人の女の、命をかけた覚悟が、ついに伝説の狂犬の心を動かしたのだ。
