日常編シリーズ その①
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日常編:酔いどれ女神と二人の騎士
その夜のサバイバーのカウンターは、いつになく賑やかだった。
大きなヤマを一つ片付けた、九十九課のささやかな打ち上げ。
「いやーしかし! 今回の佐竹殿のプロファイリングも神がかってましたな!」
「九十九の、ドローンによる陽動があったからだよ」
「まあ最後、犯人をボコボコにしたのは僕だけどねー」
男たちが、それぞれの武勇伝を楽しそうに語り合う。
その横で未華子は、いつもより少しだけ酒のペースが早かった。
「……んふふ。みーんなすごいんだからー」
頰をほんのり赤く染め、ろれつが少し回っていない。
その後もしばらく、間髪入れずにハイボールをひたすら飲み進める未華子。
「……未華子。ちょっと、飲みすぎじゃねえか? そろそろ水飲んどけ」
佐竹が、心配そうに声をかける。
「だいじょーぶ、だってー。今日は、経費で飲み放題の日なんだからー!」
その言葉を最後に、彼女はカウンターに突っ伏した。
すー、すー、と、穏やかな寝息を立てて。
「……あ」「……寝たな」「……ですな」
残された男三人。
顔を見合わせる。
「……さて、と」
最初に動いたのは、佐竹だった。
彼は、慣れた手つきでマスターからタクシー会社の番号を聞き、電話をかける。
「……ええ。タクシー1台。……はい、お願いします」
完璧なエスコート。
「……じゃあ僕、会計してくる」
杉浦はそう言って、おぼつかない足取りの九十九を支えながら、会計へと向かう。
タクシーが到着する。
問題は、ここからだった。
「……で、誰が送ってく?」
佐竹の冷静な問いに、杉浦は言葉に詰まる。
未華子の家を知っているのは、ここにいる全員。
そして、この天使のように無防備な寝顔を独り占めしたい、と、思っているのも、また全員(酔っぱらって前後不覚の九十九は除く)だった。
「……ここは公平に」
佐竹がポケットから、コインを一枚取り出した。
「コイントスで決めよう」
スマートな提案に、杉浦は頷くことしかできない。
そして……。
――ピンッ
コインが宙を舞う。
結果は―――表。
佐竹の勝ちだった。
「……じゃ、そういうことで」
佐竹は未華子の身体を、ひょいと軽々と横抱きにした。
お姫様抱っこ、というやつだ。
「ちょっ、佐竹く……!」
「文句あるか? これは、勝負の結果だろ」
そう言って悪戯っぽく笑う佐竹。
ぐったりと彼の腕の中で、眠る未華子。
その無防半な唇から、小さな寝言が漏れた。
「……んー……すぎうら、くん……」
―――ぴたり。
その場にいた、全員の動きが止まった。
時が止まる。
お姫様抱っこをしていた、佐竹はゆっくりと天を仰いだ。
そして、これ以上ないくらい深いため息を一つ。
「……はぁ。……わかったよ」
彼はまるで大切な宝物を手渡すかのように、未華子の身体を杉浦の腕の中へと移した。
「……え?」
「……聞こえなかったのか? 行けよ早く」
佐竹のその少しだけ寂しそうな、でも、どこまでも優しい笑顔に、杉浦はコクリと頷いて返した。
タクシーの後部座席。
杉浦の肩にもたれかかり、幸せそうに眠る未華子。
その小さな寝顔を見つめながら。
杉浦は自分の心臓が、今まで聞いたこともないくらい大きな音で鳴っているのを聞いていた。
(……反則でしょ。こんなの)
その夜、彼が、彼女を無事にマンションの部屋まで送り届けた後。
玄関のドアの前で、そっと、その寝顔(おでこ)にキスをしたことを。
そして、その瞬間を向かいのビルの屋上から、九十九の高性能ドローンがバッチリと録画していたことを。
杉浦文也は、まだ、知らない。
【エピローグ:秘密の観賞会】
翌朝の横浜九十九課。
そこには、二日酔いで死んだようにソファに沈む、未華子の姿があった。
そして、その向かいのデスクでは二人の男がモニターを囲んで、何やらコソコソとやっている。
「……いやはや、これは、決定的瞬間ですぞ!」
九十九が、興奮気味に声を潜める。
「……ったく。あいつ、やるときはやるな」
佐竹も、呆れたように、でもどこか楽しそうに笑っていた。
モニターに映し出されていたのは、昨夜のドローン映像。
杉浦が眠る未華子のその寝顔に、そっと唇を寄せる一部始終。
「……これ、どうしますかな、佐竹殿」
「……どうするって?」
「杉浦氏に見せますか? それとも……」
九十九の悪戯っぽい問いに、佐竹はニヤリと笑った。
「……まあしばらくは、俺たちのとっておきの『切り札』として、保管しておくのが一番面白いんじゃないか?」
性格の悪い二人の会話が、まさか自分たちの恋の行方を左右することになるとは。
ソファで、頭を抱える未華子も。
そして今頃、寝坊して事務所に急いで出勤する道すがら、昨夜の自分の行動を思い出して、一人悶絶しているであろう杉浦文也も。
まだ、知る由もなかった。
<終>
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