日常編シリーズ その①
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日常編:元公安の本気、ダーツバーでの一夜
「―――最近、我々の身体は、完全に鈍っておりますぞ!」
その日、九十九は、事務所のソファで腹筋ローラーを転がしながら、高らかに宣言した。
「探偵たるもの、知力だけでなく、体力、そして集中力も鍛えねばなりません! というわけで、今から全員でダーツバーへ行きますぞ!」
唐突すぎる提案に、杉浦は「えー面倒くさい」と、いつものように顔をしかめた。
だが、未華子が「あいいね、行きたい!」と、目を輝かせたその瞬間。
「……まあ、たまには、いいけどさ」
現金な男は、即座に、手のひらを返した。
*
伊勢佐木異人町の、少し薄暗いお洒落なダーツバー。
壁には、ビリヤードのキューや、古いレコードが飾られている。
「よーし! まずはボクから、お手本を見せますぞ!」
九十九が、意気揚々とスローラインに立つ。
そして、彼が取り出したのは―――ドローンだった。
「この最新鋭のマイクロドローンに、ダーツを搭載し、風速、湿度、的までの距離を完璧に計算して放つのです!」
「……それ、もうダーツじゃないじゃん」
杉浦のもっともなツッコミも虚しく。
ドローンは、ふわりと浮き上がるとあらぬ方向へと飛んでいき、バーの一番高い場所にあった、高級そうなウイスキーのボトルに激突した。
―――ガシャーン!
店中に響き渡る破壊音。
青ざめる九十九。
頭を抱える佐竹。
その夜の酒代が、とんでもないことになるのを全員が覚悟した。
次に、投げたのは杉浦。
彼は、その驚異的な身体能力で、まるでアクロバットのような華麗なフォームで矢を放つ。
だが、その矢はことごとく的の外側の壁に突き刺さっていった。
「……あれ? おかしいな……」
どうやら彼は、精密なコントロールは苦手らしい。
「……じゃあ、次は俺が」
それまで、黙って見ていた佐竹が、静かにスローラインに立った。
「佐竹、ダーツとかやったことあんの?」
未華子の問いに、彼は「いや、初めてだ」と首を横に振った(大嘘)。
彼は、三本の矢を手に取ると、値踏みするようその重さを、確かめている。
そして、気だるげに腕を振るった。
シュッ、という静かな音と共に放たれた矢は、吸い込まれるように、的のど真ん中―――BULLに、突き刺さった。
「……おお!」(九十九)
「……ま、まぐれまぐれ」(杉浦)
だが、二投目。三投目。
彼が放つ矢は、全て寸分の狂いもなく、先に刺さった矢を弾き飛ばすように、ど真ん中の同じ場所に吸い込まれていった。
―――HAT TRICK。
しんと静まり返った、バーの中で。
佐竹は、悪戯っぽく笑った。
「……ま、ビギナーズラックってやつ?」
その完璧すぎる離れ業と、甘いマスク。
バー中の女性客たちの視線が、佐竹に釘付けになっていたのは言うまでもない。
――その夜。
店の常連客たちとの賭けダーツで、佐竹は面白いように勝ち続けた。
その有り金、全てを巻き上げて。
「……これも、元公安の嗜みだよ」
そう言ってウインクする彼の姿は、いつもの“良き兄貴分”でも“好青年”でもなく、どこか危険で退廃的な色気を放っていた。
「……あの、佐竹殿」
帰りの夜道。
「あのウイスキー代、そのお金で、払っておいてくれないでしょうか?」
「……それは、所長のポケットマネーでお願いします」
三人の笑い声(と一人の泣き声)が、横浜の夜空に響き渡ったのだった。
<終>
