日常編シリーズ その①
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日常編:メガネ男子と雨と相合い傘
その日、事務所には珍しく、未華子と佐竹の二人だけだった。
九十九は、新しいドローンの部品を買いにアキバへ。
杉浦は、准のトレーニングに付き合ってジムへ。
がらんとした、静かなオフィス。
聞こえるのは、キーボードを打つ音と、窓の外でしとしとと降る梅雨の雨音だけ。
その穏やかな空気を破ったのは、一本の電話だった。
「……はい、こちら横浜九十九課」
未華子が電話を取る。
それは、以前人探しを手伝った近所のおばあちゃんからだった。
「孫からもらったパソコンの使い方が、わからなくてねぇ……」
「……わかった。俺が行ってくる」
話を聞いていた佐竹が、静かに立ち上がった。
「え、でも……」
「大したことじゃない。すぐに、終わるだろ」
そう言って、彼はジャケットを羽織った。
「待って、暇だし。私も行く」
*
だが“調査”は、予想外に長引いた。
パソコンの設定はすぐに終わったのだが、おばあちゃんがなかなか佐竹を帰してくれなかったのだ。
「まあお兄さん、イケメンだこと! お茶でも飲んでいきなさいな!」
結局、一時間以上おばあちゃんの昔話に付き合う羽目になった。
事務所に戻るため外に出ると、雨はいつの間にか土砂降りに変わっていた。
未華子は「すぐに帰れるだろう」と高をくくり、傘を持ってきていなかった。
「……ったく。しょうがねえな」
佐竹は呆れたように、でもどこか楽しそうに、自分の折り畳み傘を広げた。
それは大柄な彼が使うには、少しだけ小さい黒い傘だった。
「ほら、入れ」
「……うん」
一つの傘に寄り添う二人。
雨音だけが、傘をリズミカルに叩いている。
触れそうで触れない、肩と肩の距離。
佐竹が、さっきおばあちゃんの家で何気なくかけた、変装用の黒縁メガネ。
そのレンズについた雨の雫を、彼が指で拭う。
その何気ない仕草に、未華子の心臓が、トクン、と大きく音を立てた。
「……なんか、変な感じだね」
未華子が、照れ隠しに呟く。
「何が?」
「だって、佐竹がメガネかけてるの珍しいじゃん。……なんか雰囲気変わるな~…と」
「……そうか?」
彼は、そう言って少しだけ、顔を赤らめた。
普段は決して見せない初々しい反応に、未華子は思わず笑ってしまった。
ザアアアッ!
突然、風が強くなり、雨が横殴りに吹き付けてくる。
「わっ!」
驚く未華子の肩を、佐竹は咄嗟に、ぐい、と引き寄せた。
「……風邪、ひくなよ」
そう言って、彼は傘をそっと未華子の方へと傾ける。
彼の右肩が、雨に濡れていくのも構わずに。
耳元で聞こえる、彼の低い声。
ジャケット越しに伝わる、彼の温かい体温。
そして、爽やかな彼の香水の匂い。
未華子の心臓は、完全に限界だった。
顔が熱くて、彼の顔をまともに見られない。
ただ黙って俯く未華子の、その小さなつむじを、佐竹は優しい目で見つめていた。
事務所までの、ほんの数百メートルの距離が、永遠のように長く、そして、短く感じられた、雨の日の午後のことだった。
<終>
その日、事務所には珍しく、未華子と佐竹の二人だけだった。
九十九は、新しいドローンの部品を買いにアキバへ。
杉浦は、准のトレーニングに付き合ってジムへ。
がらんとした、静かなオフィス。
聞こえるのは、キーボードを打つ音と、窓の外でしとしとと降る梅雨の雨音だけ。
その穏やかな空気を破ったのは、一本の電話だった。
「……はい、こちら横浜九十九課」
未華子が電話を取る。
それは、以前人探しを手伝った近所のおばあちゃんからだった。
「孫からもらったパソコンの使い方が、わからなくてねぇ……」
「……わかった。俺が行ってくる」
話を聞いていた佐竹が、静かに立ち上がった。
「え、でも……」
「大したことじゃない。すぐに、終わるだろ」
そう言って、彼はジャケットを羽織った。
「待って、暇だし。私も行く」
*
だが“調査”は、予想外に長引いた。
パソコンの設定はすぐに終わったのだが、おばあちゃんがなかなか佐竹を帰してくれなかったのだ。
「まあお兄さん、イケメンだこと! お茶でも飲んでいきなさいな!」
結局、一時間以上おばあちゃんの昔話に付き合う羽目になった。
事務所に戻るため外に出ると、雨はいつの間にか土砂降りに変わっていた。
未華子は「すぐに帰れるだろう」と高をくくり、傘を持ってきていなかった。
「……ったく。しょうがねえな」
佐竹は呆れたように、でもどこか楽しそうに、自分の折り畳み傘を広げた。
それは大柄な彼が使うには、少しだけ小さい黒い傘だった。
「ほら、入れ」
「……うん」
一つの傘に寄り添う二人。
雨音だけが、傘をリズミカルに叩いている。
触れそうで触れない、肩と肩の距離。
佐竹が、さっきおばあちゃんの家で何気なくかけた、変装用の黒縁メガネ。
そのレンズについた雨の雫を、彼が指で拭う。
その何気ない仕草に、未華子の心臓が、トクン、と大きく音を立てた。
「……なんか、変な感じだね」
未華子が、照れ隠しに呟く。
「何が?」
「だって、佐竹がメガネかけてるの珍しいじゃん。……なんか雰囲気変わるな~…と」
「……そうか?」
彼は、そう言って少しだけ、顔を赤らめた。
普段は決して見せない初々しい反応に、未華子は思わず笑ってしまった。
ザアアアッ!
突然、風が強くなり、雨が横殴りに吹き付けてくる。
「わっ!」
驚く未華子の肩を、佐竹は咄嗟に、ぐい、と引き寄せた。
「……風邪、ひくなよ」
そう言って、彼は傘をそっと未華子の方へと傾ける。
彼の右肩が、雨に濡れていくのも構わずに。
耳元で聞こえる、彼の低い声。
ジャケット越しに伝わる、彼の温かい体温。
そして、爽やかな彼の香水の匂い。
未華子の心臓は、完全に限界だった。
顔が熱くて、彼の顔をまともに見られない。
ただ黙って俯く未華子の、その小さなつむじを、佐竹は優しい目で見つめていた。
事務所までの、ほんの数百メートルの距離が、永遠のように長く、そして、短く感じられた、雨の日の午後のことだった。
<終>
