日常編シリーズ その①
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日常編:嘘つきは、探偵の始まり?
それは、梅雨の晴れ間の、奇跡のように穏やかな午後だった。
「ででーん! 完成しましたぞ! 我が九十九課の、最終秘密兵器!」
九十九が、どこからか引っ張り出してきたのは、無数のケーブルと電極がついた、いかにも怪しげなヘッドセットだった。
「その名も、『真実のヘッドフォン Mark II』! 脳波の微細な乱れ、心拍数の上昇、皮膚電気反応を統合的に分析し、対象者が嘘をついた瞬間に、99.8%の確率で見抜くという、画期的な発明ですぞ!」
得意げに胸を張る所長に、杉浦と佐竹は、冷ややかな視線を送る。
「……また、変なもん作ってるじゃん、九十九くん」
「九十九。その開発費、経費で落とすのはさすがに……」
「まあまあ二人とも! すっごいじゃん、九十九氏!」
未華子が、目を輝かせて、そのヘッドフォンを手に取った。
「これで、依頼人が何か隠してても、一発で見抜けちゃうってこと?」
「その通り! さあ、未華子氏! 早速かぶってみてくだされ!」
ヘッドフォンをかぶった未華子の頭上で、青いランプが、ピコン、と点灯した。
「では、テストですぞ! 未華子氏、あなたの好きな食べ物はなんですか!」
「え? えっと……お寿司、とか?」
『ピーンポーン!』
ヘッドフォンの横についたスピーカーから、軽快な正解音が鳴り響く。
「おお! すごい!」
「では、次! 杉浦氏のことは、好きですか!」
唐突すぎる質問に、事務所の空気が一瞬で凍りついた。
「……え、ええ!? な、何言ってんの、九十九氏!」
未華子の顔が、カッと赤くなる。
「え、えっと……仲間としては、もちろん、好き、だよ?」
『ブッブーーーー!』
スピーカーから、耳障りなブザー音と、『嘘ヲツイテイマス。嘘ヲツイテイマス』という無機質な電子音声が、大音量で鳴り響いた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「ちょ、九十九氏! なに、これ!?」
「い、いや、そんなはずは……! 少し、感度を調整しすぎたようですな……!」
慌てて、九十九が機械をいじったその瞬間。
バチッ! という嫌な音と共に、ヘッドフォンから火花が散った。
そして、スピーカーから、ノイズ混じりの全く別の「声」が聞こえ始めた。
『……あーもう、なんなのこの機械……! ていうか、今の質問心臓に悪すぎる……! 顔、絶対赤いよね……杉浦くんに、見られてないといいけど……』
「…………え?」
それは、紛れもなく未華子の心の声だった。
「……ちょ、え、うそ、これ……!?」
「……どうやら、故障して、思考を直接音声化してしまっているようですな……!」
時、既に遅し。
スピーカーからは、未華子の悲鳴のような心の声が、流れ続けている。
『うわああああ、最悪! 最悪すぎる! なんでこんな時に限って! もう、杉浦くんの顔見れない! ていうか、佐竹がめっちゃニヤニヤしながらこっち見てんじゃん! やめろぉ!』
「……杉浦」
佐竹が、必死で笑いを堪えながら、肩を震わせている。
「……ん?」
「……お前、顔、真っ赤だぞ」
その指摘に、杉浦は、茹でダコのように顔を赤くして固まっていた。
その杉浦の近くに、暴走した機械の電極ケーブルが、だらりと垂れ下がっていたことに、誰も気づいていなかった。
ケーブルの先が、杉浦の腕に触れた、その瞬間。
スピーカーから、今度は男の低い声が響き渡った。
『……やば。……なに今の。可愛すぎだろ……。ていうか、嘘ってバレたってことは、つまり……そういうことだよね?… マジで…どうしよ』
しーーーーーん。
今度、固まったのは、未華子だった。
彼女はゆっくりと、信じられない、という顔で杉浦の方を見る。
杉浦は、もう、魂が抜けたかのように口をパクパクさせている。
「……えっと、所長」
佐竹が、冷静に九十九に告げた。
「この機械、今すぐ叩き壊した方が、いいんじゃないか?」
「……さ、賛成ですぞ……!」
こうして、横浜九十九課の最終秘密兵器は、その絶大すぎる性能の故に、開発からわずか10分でその生涯を終えることとなった。
事務所には、ただ顔を見合わせることもできず、真っ赤になって俯く、男女二人の姿だけが、残されていたという。
<終>
