日常編シリーズ その①
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日常編:夜空の華と、迷子の金魚
その夜、伊勢佐木異人町は、夏の熱気に包まれていた。
年に一度の夏祭り。
提灯の柔らかな光が、行き交う人々の楽しそうな顔を照らし出している。
「―――おお! 皆さん、実にお似合いですぞ!」
待ち合わせ場所に現れた九十九が、目を輝かせた。
横浜九十九課、初の浴衣で夏祭り。
未華子は、白地に爽やかな淡い水色の花が描かれた浴衣。
九十九はなぜか、アニメのキャラクターがプリントされた派手な浴衣。
そして、未華子の目は二人の男に釘付けになった。
佐竹は、漆黒の上質な浴衣を完璧に着こなしていた。
きっちりと締められた帯。隙のない着こなし。
だが、そのきっちりとした襟元から覗く、鍛えられた首筋と鎖骨のラインが、スーツ姿とはまた違う生々しい色気を放っている。
まるで、どこかの若き組長のような圧倒的な風格。
対照的に杉浦は、紺色の少し着崩した浴衣姿だった。
帯は少し緩めに結ばれ、大きく開いた胸元からはしなやかな筋肉のラインが惜しげもなく晒されている。
無防備で、どこか少年のような危うい色気に、未華子の心臓は大きく跳ねた。
(……ダメだこれ)
(……目のやり場に困る……!)
「……何ニヤニヤしてんの」
「……してない!」
顔が熱い。
――ぜんぶ、夏のせいだ。
*
四人は、祭りの喧騒の中へと繰り出した。
射的の屋台で、佐竹が元・公安の驚異的な集中力で全ての景品を撃ち落としたり。
杉浦が、子供のように目を輝かせながらりんご飴を頬張ったり。
そんな平和な時間が、未華子には夢のように感じられた。
その時だった。
屋台の裏で、しくしくと泣いている小さな女の子を見つけた。
手には、水の抜けたビニール袋。
「……どうしたの?」
未華子が屈み込み、優しく声をかける。
「……きんぎょしゃんが……いなくなっちゃったの……」
どうやら、金魚すくいですくった金魚を人混みの中で落としてしまったらしい。
そのあまりに悲しそうな顔を見て。
九十九課の男たちが、動かないはずがなかった。
「お任せください、お嬢さん!」(九十九)
「……俺たちが見つけてやる」(佐竹)
「……大丈夫。絶対見つかるよ」(杉浦)
―――九十九課、第二回・最強ミッションの始まりだった。
九十九が、ドローン(もちろん夏祭り仕様に提灯でデコレーションされている)を飛ばし、上空から捜索を開始する。
佐竹は、その卓越したプロファイリング能力で女の子の行動パターンを予測し、最も可能性の高いルートを割り出した。
そして、杉浦がその人間離れした身体能力で、屋台の屋根の上を飛び移りながら、地上から捜索を進める。
未華子は、ただ泣きじゃくる女の子の手を優しく握りしめていた。
「―――いたよ!」
杉浦の声。
彼が指さす先。
綿あめの屋台の裏。
水溜りの中で、小さな赤い金魚がぴちぴちと跳ねていた。
絶体絶命のピンチ。
杉浦は、屋根から軽やかに飛び降りると、その小さな命をそっと両手で掬い上げた。
そして、女の子の元へと駆け寄る。
「……ほら」
差し出された手のひらの上で、金魚は元気に泳いでいた。
女の子の顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
純粋な感謝の言葉と笑顔。
それが、何よりの報酬だった。
――その夜。
祭りの喧騒から、少しだけ離れた神社の境内で。
四人は夜空を見上げていた。
ヒュ〜〜〜、ドン!
大輪の花火が、夜空を鮮やかに彩る。
その光に照らし出された、杉浦の横顔。
はだけた胸元。
そして、その瞳に映る綺麗な花火。
未華子はその美しい光景から、目を逸らすことができなかった。
隣で佐竹が、その様子をどんな優しい目で見ていたのか。
この時の未華子は、まだ気づいていなかった。
最高の仲間たちと過ごす、最高の夏の夜。
どうか、この時間が、永遠に続きますように。
未華子は、夜空の花火にそっと願うのだった。
<終>
