長編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
意識
この間の組み手で名前に負けた。
勝敗を決める内容ではないが俺の中で名前に負けた事実の衝撃は大きかった。
上級生になってからも鍛錬を疎かにしたつもりはない。だが、実力の差は残酷なほど明白だった。どうしたら同じ歳であそこまでの実力を身につけることができる?
別に彼女を軽んじていたわけではない。名前の動きについていけなかったのが本音だ。
普段の様子からさ想像もつかない、組み手中の妖艶な身のこなし。そして——最後の、あの口づけ。
今思い出しても顔が熱くなり、俺は思わず両手で顔を覆った。
上級生になってから、名前と関わる機会が増えた。
最初こそ「こんな奴いたか?」くらいの認識だった。
だが、共に過ごすうちに彼女の実力が並外れていることはすぐに分かった。
……なら、なおさらおかしい。
これほどの腕前なら、嫌というほど噂が耳に入ってきてもおかしくないはずだ。
なぜ俺は、今まで彼女の存在に気づかなかったんだ?
答えの出ない問いに頭を悩ませていると、ガラリと敷居の開く音がして同室の伊作が部屋へ戻ってきた。
「あれ、留三郎。帰ってたんだ」
「伊作……」
どこか上の空な俺の様子に首を傾げる伊作に、俺はこれまでの経緯と拭いきれない疑問をそのまま打ち明けた。
すると伊作は驚く風でもなく、どこか遠い目をして「ああ、彼女のことか」と小さく頷いた。
驚いたことに伊作は昔から名前の存在を、その実力も含めて知っていた様子だった。
「名前は昔から大人びてるよね。君知らなかったのかい?」
「上級生になってからだ。……お前は昔からあいつを知ってたのか?」
「少しね。」
「そうか、知らなかったのは俺だけか…」
苦く吐き捨てた俺に、伊作は困ったように苦笑いを浮かべた。
「いや、僕が知っていたのは保健委員の兼ね合いだよ」
「……ん? どういう意味だ」
しまった、と言わんばかりに伊作の表情が曇る。その微かな変化に、俺の喉がゴクリと鳴った。
あの伊作が顔を曇らせるということは、ろくな内容ではないということだ。怪我か、病か、あるいはもっと複雑な事情か——。
余計なおせっかいだとは分かっている。だが、一度芽生えた疑問と嫌な予感は膨らむばかりで、俺はどうしても名前の過去が気になって仕方がなかった。
「伊作……その話、俺に話せる内容なのか?」
「……昔、医務室で先生方が話しているのを小耳に挟んだんだ。だから、名前には絶対に黙っていてよ。」
「……分かった。」
重苦しい沈黙の中、伊作の口から語られた言葉。
それはあまりにも残酷で——けれど、あの組み手で見せた驚異的な身のこなしや妖艶さ、そしてどこか影のある微笑みの理由として、納得せざるを得ない衝撃的な事実だった。
この間の組み手で名前に負けた。
勝敗を決める内容ではないが俺の中で名前に負けた事実の衝撃は大きかった。
上級生になってからも鍛錬を疎かにしたつもりはない。だが、実力の差は残酷なほど明白だった。どうしたら同じ歳であそこまでの実力を身につけることができる?
別に彼女を軽んじていたわけではない。名前の動きについていけなかったのが本音だ。
普段の様子からさ想像もつかない、組み手中の妖艶な身のこなし。そして——最後の、あの口づけ。
今思い出しても顔が熱くなり、俺は思わず両手で顔を覆った。
上級生になってから、名前と関わる機会が増えた。
最初こそ「こんな奴いたか?」くらいの認識だった。
だが、共に過ごすうちに彼女の実力が並外れていることはすぐに分かった。
……なら、なおさらおかしい。
これほどの腕前なら、嫌というほど噂が耳に入ってきてもおかしくないはずだ。
なぜ俺は、今まで彼女の存在に気づかなかったんだ?
答えの出ない問いに頭を悩ませていると、ガラリと敷居の開く音がして同室の伊作が部屋へ戻ってきた。
「あれ、留三郎。帰ってたんだ」
「伊作……」
どこか上の空な俺の様子に首を傾げる伊作に、俺はこれまでの経緯と拭いきれない疑問をそのまま打ち明けた。
すると伊作は驚く風でもなく、どこか遠い目をして「ああ、彼女のことか」と小さく頷いた。
驚いたことに伊作は昔から名前の存在を、その実力も含めて知っていた様子だった。
「名前は昔から大人びてるよね。君知らなかったのかい?」
「上級生になってからだ。……お前は昔からあいつを知ってたのか?」
「少しね。」
「そうか、知らなかったのは俺だけか…」
苦く吐き捨てた俺に、伊作は困ったように苦笑いを浮かべた。
「いや、僕が知っていたのは保健委員の兼ね合いだよ」
「……ん? どういう意味だ」
しまった、と言わんばかりに伊作の表情が曇る。その微かな変化に、俺の喉がゴクリと鳴った。
あの伊作が顔を曇らせるということは、ろくな内容ではないということだ。怪我か、病か、あるいはもっと複雑な事情か——。
余計なおせっかいだとは分かっている。だが、一度芽生えた疑問と嫌な予感は膨らむばかりで、俺はどうしても名前の過去が気になって仕方がなかった。
「伊作……その話、俺に話せる内容なのか?」
「……昔、医務室で先生方が話しているのを小耳に挟んだんだ。だから、名前には絶対に黙っていてよ。」
「……分かった。」
重苦しい沈黙の中、伊作の口から語られた言葉。
それはあまりにも残酷で——けれど、あの組み手で見せた驚異的な身のこなしや妖艶さ、そしてどこか影のある微笑みの理由として、納得せざるを得ない衝撃的な事実だった。