長編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
友好
『留三郎。』
「んっ?なんだ名前か!」
『鍛錬に励んでいるのね。お疲れ様。』
校庭の隅で、得意の鉄双節棍を振るう留三郎を見つける。
周りに誰もいないのを確認し、静かにその側へ足を向けた。
『はい、差し入れ。』
「うぉ!悪いな!」
ちょうど汲んできたばかりの竹筒を持っていたため、留三郎に差し出した。
「なんだ?お前も鍛錬しに来たのか?」
『いいえ、汗水垂らして鍛錬に励む格好いい同級生を見つけたから応援に来ただけ。』
「そっ、そうか……。その言い方は照れるな。」
投げ渡した竹筒を受け取り、中の水をあおる留三郎。水を飲み干すたび上下する喉仏に、男らしさが滲む。
普段は真面目で頼れる用具委員長だが、文次郎が絡むと途端に頭に血がのぼる。この間の実習でも、懲りずに喧嘩をしていたのを思い出した。
『そうか。お互い武闘派でもあるし、似たもの同士だからか。』
「さっきから何を言っているんだ、お前は。」
『ふふ、独り言。』
「名前、暇なら組み手に付き合ってくれ。」
『いいわよ。』
竹筒を飲み干した留三郎から、組み手の誘いがかかる。
体を動かすのは元より嫌いではない。何より、先日の実習では少々物足りなさを感じていたところだ。断る理由もなく、その誘いに乗ることにした。
上衣を脱ぎ捨て、黒の肩衣姿になる。こちらの方が断然動きやすく好みちなのだが、なぜか周囲には受けが悪い。
その証拠に、目の前の留三郎が途端に慌て始めた。
「バカ!いきなり脱ぐな!」
『あぁ、これが動きやすいのよ。』
「少しは恥じらいを持て!」
『ははっ、そんなの今更よ。』
当の本人はどこ吹く風で、腕や足を伸ばして念入りに柔軟を始め出した名前。
引き締まった筋肉としなやかさを併せ持つ体躯。すらりと伸びた手足は無駄がなく美しい。
俺たち男の忍たまより一回り華奢に見えるが、時折ハッとするほどの腕力や身軽さを見せる奴だ。だが……今の露わな肩衣姿だと、嫌でも目に入る。大きくも小さくもない絶妙な胸元の膨らみに、どうにも視線の置き場に困る。
いかん、どこを見てるんだ俺は。変態か!
安易に組み手に誘ってしまったことを、俺は今更ながら少し後悔していた。
落ち着け、食満留三郎。あんな無防備な格好をしてはいるが、相手はくのたまの上級生だ。その実力は決して侮れない。
いくら女子だからといって、油断すれば足元をすくわれるぞ。
柔軟を終えると、互いにすっと距離を取る。
息を整え、足を肩幅に広げて名前が構える。
名前に隙はない。
『いつでもいいわ、留三郎。』
「此方もだ。行くぞ!」
『来い。』
交わした視線の中で、空気の緊張が一気に跳ね上がる。この感覚がたまらない。対峙するだけで、胸の奥で心が躍る。
留三郎の言葉を合図に、同時に地面を蹴った。
名前が構えから一気に踏み込み、右手で打ち込んでくる。
その一撃を右手で薙ぎ払い、そのまま横へと身を躱した。
——打つ瞬間、身体を前傾させて間合いを強引に伸ばしてきたか。最初からえぐい攻めをしてきやがる。
躱されることすら織り込み済みだったのか、間髪入れずに懐へ潜り込まれ、再び至近距離まで詰められた。
留三郎の懐へ潜り込むと同時に、その拳が視界を覆う。狙いは腹だ。
咄嗟に身を引いて間合いを取るも、読まれていた。間髪入れずに留三郎が肉薄してくる。
降り注ぐ重い殴打。咄嗟に腕を交差させてガードしたものの、乗せられた体重と勢いに足元が削られ、わずかに身体が後退した。
流石は留三郎。圧倒的な体格差に力、そしてこの速度。これぞ武道派だ。防御した両腕をさっと払い、指先を握り直す。……まだ痺れや痛みはない。手の動きにも支障なし。
うん、問題ない。
組み手は避けてばかりいてはつまらない。この重い攻撃をあえて受けて確かめてみたが——いい。ゾクゾクする。気づけば、勝手に口元が弧を描いていた。
今のはかなりの手応えがあったはずだ。だが、名前に疲弊した様子はない。あれだけの威力を叩き込んだというのに、びくともしないのか。
それどころか——その口元が、楽しそうに笑っている。その不敵な笑みに、一瞬息を呑んだ。
俺も武道派を自負しているが、名前は六年生唯一のくのたまであり、もしかすると俺以上に戦うことを楽しんでいるのかもしれない。
昔、上級生に上がった頃、シナ先生に言われた言葉が頭をよぎる。
『今年残ったくのたまは一味違う。くノ一というより、戦忍に向いている子がいる』
その正体が名前だと知った時には、すでに実習で俺たち以上の成績を残していた。
あいつが全力で戦う姿は見たことがない。
——だが、その本気を引き出す相手が自分であってほしいと、少なからず熱望してしまうのだ。
『留三郎、さっきのは効いたわ。』
「はっ、大嘘吐け。まだピンピンしてるだろ?」
『あら、バレた?』
風になびく髪を、すっと耳の後ろへかける。
先ほど俺が打ち込んだ方の腕にふと唇を寄せ、舐めるように見つめながら佇む名前。
その姿は紛れもなく一人のくノ一であり、抗い難い色香を漂わせていた。背筋にゾクゾクと熱いものが走る。
『なら次は私からいくわ。』
「あぁ、来てみろ。」
『言ったわね。』
妖艶な笑みを浮かべた——と思った瞬間、残像すら置き去りにするような速度で目の前まで迫っていた。いきなりのトップスピードに思考が追いつかず、強引に対峙させられる。
「…くっ!」
『ここ、開いてる。』
名前の鋭い突きが俺の胸元を穿つ。咄嗟に腕を交差させてガードしようとしたが、その隙間を滑るように潜り込まれ、見事に胸を突かれた。
「ぐっ……まだだ!」
直撃に呻きながらも、目の前にいる名前へ即座に打ち返す。——だが、拳が空を切る。すでにその姿は消えていた。
刹那、背後に刺さるような気配。弾かれたように振り返ると、頭上から腕を振り下ろしてくる名前の姿があった。俺は間一髪でその腕を受け止める。
「甘いな。」
『それはどうかしら?』
掴まれた腕を支点に、名前は微塵も怯むことなく頭上へ跳躍し、空中を一回転する。なんというしなやかさと器用さだ。
慌てて拘束を解き、腕を離す俺。
だが、あいつが地面に着地した瞬間には——すでに勝負はついていた。ド、と重い衝撃が走る。
着地と同時に、胸元へ両手での強烈な掌底を叩き込まれていた。
「かはっ…!」
完全に予想の外を突かれた一撃。肺の空気を一気に吐き出させられ、足が地を滑るように身体が大きく後退する。
『ようやく打ち込めた。』
掌底を打ち込んだ姿勢のまま、名前が静かに笑う。
決して油断していたわけではない。それなのに、完全に先手を取られた。手加減をしてこの威能だ。もしあいつが本気で殺しにきていたら、今頃肋骨が数本はいかれていただろう。
「名前、やるな。」
『留三郎こそ。』
言葉を交わしながらも、互いの視線は片時も外れない。一歩も譲らぬ息詰まる攻防が、再び繰り広げられようとしていた。
『ところで留三郎。』
「何だ?」
『人が集まっているわ。』
名前の言葉に周囲を見渡すと、いつの間にかギャラリーができていた。他の忍たまやくのたま達にぐるりと囲まれ、わあわあと賑やかな声援が飛び交っている。二人の本気の立ち回りに惹きつけられたの
『……これじゃ集中できないわね。』
「……そうだな。」
『今日はここまでにしましょうか。』
ふっと息を吐き、名前がスッと構えを解こうとする。
だがその終わりを告げる言葉に、俺の身体がピクリと反応した。
冗談じゃない。こんなにも血が沸き立つ極上の組み手を、そう簡単に逃がしてやるものか。
「いいや、このまま続けるぞ。」
『………へぇ。』
「お前だって、体が熱くなってきただろう。」
『……否定はしないわ。』
確かに、全身の血が沸き立ち熱を帯びているのは事実だった。
だがこのまま長引けば周囲がさらに騒がしくなり、後で面倒なことになるのも目に見えている。
なら——早々に決着をつけるまで。
『だけど早めに決着はつけましょう。』
「望むところだ!」
息を整える間もなく、再び激しく打ち合い始める二人。だが次で終わらせる。
傍らに脱ぎ捨ててあった上衣を素早くたぐり寄せ、留三郎の顔面へ向けて投げつける。
一瞬で視界を奪われた留三郎が素早く衣を払い除けたときには——すでに勝負はついていた。
払われた一瞬の隙を突き、首筋へと腕を滑り込ませる。そのまま相手の勢いを利用し、軸足を内側から容赦なく蹴り払った。
激しい砂埃とともに、留三郎の巨体が豪快に地面へと倒れ込む。
「っ!…くっそ!」
『はい、終わり。』
倒れた留三郎を見下ろすとその瞬間、周囲のギャラリーから一斉に歓声が上がった。見世物ではないのだから正直反応に困るのだが、特にくのたまの後輩たちからは黄色い悲鳴のような歓声が飛んできている。
二人して土まみれになりながら起き上がり、衣についた砂を手で払う。だが、勢いよく倒れ込んだときの砂埃のせいで、これはちょっとやそっとじゃ落ちそうにない。
『留三郎、大丈夫?』
「あぁ。……だが、クソッ、悔しいな!」
あーあ、と大の字に足を広げて地面に座り込んだまま、留三郎が悔しそうに天を仰ぐ。
後輩たちが興奮冷めやらぬ様子で散り散りに去っていく中、私はそんな彼の傍らに歩み寄り、トントンと衣の汚れを払いながら軽くしゃがみ込んだ。
『ふぅ…疲れたわね。』
「俺は疲れたことより悔しさが勝ってるがな。」
『あら、でも力比べなら負けそうだった。』
「そうだとしても、負けは負けだ。…次は絶対勝つ!」
「ふふ…なら私も負けないようにもっと鍛錬しておかなくちゃね。」
どこか子どもっぽく拗ねている留三郎が急に可愛らしく見えてくる。
そう言ってクスリと笑うと、私は彼の顔を覗き込み、その頬へ軽く唇を寄せた。
「っ……!? お、お前……っ!」
唐突な不意打ちに、さっきまで負けん気を滾らせていた留三郎の顔が一瞬で爆発したように真っ赤に染まった。
『じゃあね、留三郎。』
不意打ちの接吻を残したまま、彼女は風のように軽やかな足取りで待っていたくのたまの後輩たちの元へ駆け寄っていく。
真っ赤になった顔を押さえたまま、俺はその背中をただぼう然と見送る事しかできなかった。
『留三郎。』
「んっ?なんだ名前か!」
『鍛錬に励んでいるのね。お疲れ様。』
校庭の隅で、得意の鉄双節棍を振るう留三郎を見つける。
周りに誰もいないのを確認し、静かにその側へ足を向けた。
『はい、差し入れ。』
「うぉ!悪いな!」
ちょうど汲んできたばかりの竹筒を持っていたため、留三郎に差し出した。
「なんだ?お前も鍛錬しに来たのか?」
『いいえ、汗水垂らして鍛錬に励む格好いい同級生を見つけたから応援に来ただけ。』
「そっ、そうか……。その言い方は照れるな。」
投げ渡した竹筒を受け取り、中の水をあおる留三郎。水を飲み干すたび上下する喉仏に、男らしさが滲む。
普段は真面目で頼れる用具委員長だが、文次郎が絡むと途端に頭に血がのぼる。この間の実習でも、懲りずに喧嘩をしていたのを思い出した。
『そうか。お互い武闘派でもあるし、似たもの同士だからか。』
「さっきから何を言っているんだ、お前は。」
『ふふ、独り言。』
「名前、暇なら組み手に付き合ってくれ。」
『いいわよ。』
竹筒を飲み干した留三郎から、組み手の誘いがかかる。
体を動かすのは元より嫌いではない。何より、先日の実習では少々物足りなさを感じていたところだ。断る理由もなく、その誘いに乗ることにした。
上衣を脱ぎ捨て、黒の肩衣姿になる。こちらの方が断然動きやすく好みちなのだが、なぜか周囲には受けが悪い。
その証拠に、目の前の留三郎が途端に慌て始めた。
「バカ!いきなり脱ぐな!」
『あぁ、これが動きやすいのよ。』
「少しは恥じらいを持て!」
『ははっ、そんなの今更よ。』
当の本人はどこ吹く風で、腕や足を伸ばして念入りに柔軟を始め出した名前。
引き締まった筋肉としなやかさを併せ持つ体躯。すらりと伸びた手足は無駄がなく美しい。
俺たち男の忍たまより一回り華奢に見えるが、時折ハッとするほどの腕力や身軽さを見せる奴だ。だが……今の露わな肩衣姿だと、嫌でも目に入る。大きくも小さくもない絶妙な胸元の膨らみに、どうにも視線の置き場に困る。
いかん、どこを見てるんだ俺は。変態か!
安易に組み手に誘ってしまったことを、俺は今更ながら少し後悔していた。
落ち着け、食満留三郎。あんな無防備な格好をしてはいるが、相手はくのたまの上級生だ。その実力は決して侮れない。
いくら女子だからといって、油断すれば足元をすくわれるぞ。
柔軟を終えると、互いにすっと距離を取る。
息を整え、足を肩幅に広げて名前が構える。
名前に隙はない。
『いつでもいいわ、留三郎。』
「此方もだ。行くぞ!」
『来い。』
交わした視線の中で、空気の緊張が一気に跳ね上がる。この感覚がたまらない。対峙するだけで、胸の奥で心が躍る。
留三郎の言葉を合図に、同時に地面を蹴った。
名前が構えから一気に踏み込み、右手で打ち込んでくる。
その一撃を右手で薙ぎ払い、そのまま横へと身を躱した。
——打つ瞬間、身体を前傾させて間合いを強引に伸ばしてきたか。最初からえぐい攻めをしてきやがる。
躱されることすら織り込み済みだったのか、間髪入れずに懐へ潜り込まれ、再び至近距離まで詰められた。
留三郎の懐へ潜り込むと同時に、その拳が視界を覆う。狙いは腹だ。
咄嗟に身を引いて間合いを取るも、読まれていた。間髪入れずに留三郎が肉薄してくる。
降り注ぐ重い殴打。咄嗟に腕を交差させてガードしたものの、乗せられた体重と勢いに足元が削られ、わずかに身体が後退した。
流石は留三郎。圧倒的な体格差に力、そしてこの速度。これぞ武道派だ。防御した両腕をさっと払い、指先を握り直す。……まだ痺れや痛みはない。手の動きにも支障なし。
うん、問題ない。
組み手は避けてばかりいてはつまらない。この重い攻撃をあえて受けて確かめてみたが——いい。ゾクゾクする。気づけば、勝手に口元が弧を描いていた。
今のはかなりの手応えがあったはずだ。だが、名前に疲弊した様子はない。あれだけの威力を叩き込んだというのに、びくともしないのか。
それどころか——その口元が、楽しそうに笑っている。その不敵な笑みに、一瞬息を呑んだ。
俺も武道派を自負しているが、名前は六年生唯一のくのたまであり、もしかすると俺以上に戦うことを楽しんでいるのかもしれない。
昔、上級生に上がった頃、シナ先生に言われた言葉が頭をよぎる。
『今年残ったくのたまは一味違う。くノ一というより、戦忍に向いている子がいる』
その正体が名前だと知った時には、すでに実習で俺たち以上の成績を残していた。
あいつが全力で戦う姿は見たことがない。
——だが、その本気を引き出す相手が自分であってほしいと、少なからず熱望してしまうのだ。
『留三郎、さっきのは効いたわ。』
「はっ、大嘘吐け。まだピンピンしてるだろ?」
『あら、バレた?』
風になびく髪を、すっと耳の後ろへかける。
先ほど俺が打ち込んだ方の腕にふと唇を寄せ、舐めるように見つめながら佇む名前。
その姿は紛れもなく一人のくノ一であり、抗い難い色香を漂わせていた。背筋にゾクゾクと熱いものが走る。
『なら次は私からいくわ。』
「あぁ、来てみろ。」
『言ったわね。』
妖艶な笑みを浮かべた——と思った瞬間、残像すら置き去りにするような速度で目の前まで迫っていた。いきなりのトップスピードに思考が追いつかず、強引に対峙させられる。
「…くっ!」
『ここ、開いてる。』
名前の鋭い突きが俺の胸元を穿つ。咄嗟に腕を交差させてガードしようとしたが、その隙間を滑るように潜り込まれ、見事に胸を突かれた。
「ぐっ……まだだ!」
直撃に呻きながらも、目の前にいる名前へ即座に打ち返す。——だが、拳が空を切る。すでにその姿は消えていた。
刹那、背後に刺さるような気配。弾かれたように振り返ると、頭上から腕を振り下ろしてくる名前の姿があった。俺は間一髪でその腕を受け止める。
「甘いな。」
『それはどうかしら?』
掴まれた腕を支点に、名前は微塵も怯むことなく頭上へ跳躍し、空中を一回転する。なんというしなやかさと器用さだ。
慌てて拘束を解き、腕を離す俺。
だが、あいつが地面に着地した瞬間には——すでに勝負はついていた。ド、と重い衝撃が走る。
着地と同時に、胸元へ両手での強烈な掌底を叩き込まれていた。
「かはっ…!」
完全に予想の外を突かれた一撃。肺の空気を一気に吐き出させられ、足が地を滑るように身体が大きく後退する。
『ようやく打ち込めた。』
掌底を打ち込んだ姿勢のまま、名前が静かに笑う。
決して油断していたわけではない。それなのに、完全に先手を取られた。手加減をしてこの威能だ。もしあいつが本気で殺しにきていたら、今頃肋骨が数本はいかれていただろう。
「名前、やるな。」
『留三郎こそ。』
言葉を交わしながらも、互いの視線は片時も外れない。一歩も譲らぬ息詰まる攻防が、再び繰り広げられようとしていた。
『ところで留三郎。』
「何だ?」
『人が集まっているわ。』
名前の言葉に周囲を見渡すと、いつの間にかギャラリーができていた。他の忍たまやくのたま達にぐるりと囲まれ、わあわあと賑やかな声援が飛び交っている。二人の本気の立ち回りに惹きつけられたの
『……これじゃ集中できないわね。』
「……そうだな。」
『今日はここまでにしましょうか。』
ふっと息を吐き、名前がスッと構えを解こうとする。
だがその終わりを告げる言葉に、俺の身体がピクリと反応した。
冗談じゃない。こんなにも血が沸き立つ極上の組み手を、そう簡単に逃がしてやるものか。
「いいや、このまま続けるぞ。」
『………へぇ。』
「お前だって、体が熱くなってきただろう。」
『……否定はしないわ。』
確かに、全身の血が沸き立ち熱を帯びているのは事実だった。
だがこのまま長引けば周囲がさらに騒がしくなり、後で面倒なことになるのも目に見えている。
なら——早々に決着をつけるまで。
『だけど早めに決着はつけましょう。』
「望むところだ!」
息を整える間もなく、再び激しく打ち合い始める二人。だが次で終わらせる。
傍らに脱ぎ捨ててあった上衣を素早くたぐり寄せ、留三郎の顔面へ向けて投げつける。
一瞬で視界を奪われた留三郎が素早く衣を払い除けたときには——すでに勝負はついていた。
払われた一瞬の隙を突き、首筋へと腕を滑り込ませる。そのまま相手の勢いを利用し、軸足を内側から容赦なく蹴り払った。
激しい砂埃とともに、留三郎の巨体が豪快に地面へと倒れ込む。
「っ!…くっそ!」
『はい、終わり。』
倒れた留三郎を見下ろすとその瞬間、周囲のギャラリーから一斉に歓声が上がった。見世物ではないのだから正直反応に困るのだが、特にくのたまの後輩たちからは黄色い悲鳴のような歓声が飛んできている。
二人して土まみれになりながら起き上がり、衣についた砂を手で払う。だが、勢いよく倒れ込んだときの砂埃のせいで、これはちょっとやそっとじゃ落ちそうにない。
『留三郎、大丈夫?』
「あぁ。……だが、クソッ、悔しいな!」
あーあ、と大の字に足を広げて地面に座り込んだまま、留三郎が悔しそうに天を仰ぐ。
後輩たちが興奮冷めやらぬ様子で散り散りに去っていく中、私はそんな彼の傍らに歩み寄り、トントンと衣の汚れを払いながら軽くしゃがみ込んだ。
『ふぅ…疲れたわね。』
「俺は疲れたことより悔しさが勝ってるがな。」
『あら、でも力比べなら負けそうだった。』
「そうだとしても、負けは負けだ。…次は絶対勝つ!」
「ふふ…なら私も負けないようにもっと鍛錬しておかなくちゃね。」
どこか子どもっぽく拗ねている留三郎が急に可愛らしく見えてくる。
そう言ってクスリと笑うと、私は彼の顔を覗き込み、その頬へ軽く唇を寄せた。
「っ……!? お、お前……っ!」
唐突な不意打ちに、さっきまで負けん気を滾らせていた留三郎の顔が一瞬で爆発したように真っ赤に染まった。
『じゃあね、留三郎。』
不意打ちの接吻を残したまま、彼女は風のように軽やかな足取りで待っていたくのたまの後輩たちの元へ駆け寄っていく。
真っ赤になった顔を押さえたまま、俺はその背中をただぼう然と見送る事しかできなかった。