長編
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結果
「ったく、この間の実習は最悪なものだ。」
授業を終えた放課後、私は作法委員会の手伝いをしていた。
首実験の練習に使う生首フィギュアの髪を整え、丁寧に汚れを拭き取っていく。その横で、仙蔵が苦笑いとも溜め息ともつかない不満を漏らした。
『この間のね、実際はどうだったの?』
そう言われて思い出す。先日の実習の際、厄介事に巻き込まれたくなかった私は、自分の課題が終わるやいなや早々に帰宅してしまったのだ。ここは静かに話を聞いてあげるのが賢明だろう。手を動かしたまま、仙蔵の言葉に耳を傾ける。
この間の実習では合戦場に到着したと思ったら、文次郎と留三郎が喧嘩を始め、其処に伊作の不運が発生した。どことも分からない落とし穴に落ち、それに私も巻き込まれ収集がつかなくなった。
普段から冷静沈着と言われているこの私が、あれしきの事で荒れないと思っていたが、犬猿のあの馬鹿者達が足軽にまで被害を及ぼして危うく実習が失敗に終わりそうだったのだ。
眉間をしわで深く寄せ、仙蔵は忌々しそうに吐き捨てる。
一気に吐き出された愚痴を、私は黙って受け止める。惨状を想像するだけで眩暈がしそうだ。
自分のペアがろ組の二人で良かったと心底思う。
『……災難だったわね、仙蔵。でも、あなたが冷静さを失わずにまとめてくれたおかげで、失敗せずに済んだのでしょう?』
「……フン、当たり前だ。私が誰だと思っている。」
短い労いの言葉をかけると、仙蔵は鼻を鳴らしつつも、どこか誇らしげに肩の力を抜いた。
「名前はどうだったんだ?」
仙蔵から振られた問いに、私は生首フィギュアの髪を整えながら短く答えた。
『小平太が危うく、足軽を襲いそうになったわ。』
「あの阿呆め。大方興奮して飛び出た所を足軽に見つかったんだろう。」
流石は仙蔵、小平太の行動パターンを完全に把握している。
『ただ、足軽は即座に気絶させたから大事には至らなかったわ。……仙蔵のところの惨状に比べたら、まだマシだったかもしれないけれど。』
「フッ……お互い、苦労が尽きんな。」
仙蔵が自虐気味に小さく鼻で笑う。
その場の空気に静かな同情が漂い、二人して小さく溜め息をついた。言葉はなくとも、お互いの苦労が身に沁みて分かってしまう。
私たちは無言のまま、生首フィギュアを磨く手に少しだけ力を込めた。
「しかし名前、普段の実習は一人でこなしているんだろう?」
『そうね。くのたまの上級生は私しかいないから。でも今回のように協力が求められる時は、貴方達と組むけれど。』
「そうか。くのたまの上級生にもなると、何かと苦労が多いな。」
『まぁね。でも、後輩たちに癒やされる時間は格別よ。みんな、本当によく慕ってくれるし。』
「ふっ…それは同感だな。」
心底満足そうにそう言った私に、仙蔵も柔らかく笑みを返した。
本来、くのたまと忍たまが合同で実習を行う機会は決して多くない。だからこそ、こうした場での会話や、互いの苦労を分かち合える時間は思いのほか心地よかった。
学年が上がるにつれて、実習の難易度は跳ね上がる。内容によっては当然のように危険が伴うが、まだ下級生の後輩たちがそこに加わることはない。そもそも、くのたまの半数以上は「良家のお行儀見習い」として入学してきた者たちだ。忍びとしての道を歩む後輩は決して多くない。
……できることなら、あの子たちをこんな危険に巻き込みたくはない、というのが本音だった。
忍びとして生きるということは、光を捨て、闇の中に身を置くということ。それは私たちくのたまも、彼ら忍たまも同じだ。
『あの子達が、これから闇の中で生きると思うと……少し複雑ね。』
「だが、その道を選んだのはあいつら自身だ。お前が気に病むことではない。」
いかにも仙蔵らしい、容赦なくも芯の通った返答。その厳しさの裏にある彼なりの優しさを感じて、私は「それもそうね」と小さく笑った。
ここは戦国、生きるか死ぬかの時代だ。本来なら、他人の未来を案じている余裕などない。
私自身、いつこの世を去ることになるか分からないのだから。
「ったく、この間の実習は最悪なものだ。」
授業を終えた放課後、私は作法委員会の手伝いをしていた。
首実験の練習に使う生首フィギュアの髪を整え、丁寧に汚れを拭き取っていく。その横で、仙蔵が苦笑いとも溜め息ともつかない不満を漏らした。
『この間のね、実際はどうだったの?』
そう言われて思い出す。先日の実習の際、厄介事に巻き込まれたくなかった私は、自分の課題が終わるやいなや早々に帰宅してしまったのだ。ここは静かに話を聞いてあげるのが賢明だろう。手を動かしたまま、仙蔵の言葉に耳を傾ける。
この間の実習では合戦場に到着したと思ったら、文次郎と留三郎が喧嘩を始め、其処に伊作の不運が発生した。どことも分からない落とし穴に落ち、それに私も巻き込まれ収集がつかなくなった。
普段から冷静沈着と言われているこの私が、あれしきの事で荒れないと思っていたが、犬猿のあの馬鹿者達が足軽にまで被害を及ぼして危うく実習が失敗に終わりそうだったのだ。
眉間をしわで深く寄せ、仙蔵は忌々しそうに吐き捨てる。
一気に吐き出された愚痴を、私は黙って受け止める。惨状を想像するだけで眩暈がしそうだ。
自分のペアがろ組の二人で良かったと心底思う。
『……災難だったわね、仙蔵。でも、あなたが冷静さを失わずにまとめてくれたおかげで、失敗せずに済んだのでしょう?』
「……フン、当たり前だ。私が誰だと思っている。」
短い労いの言葉をかけると、仙蔵は鼻を鳴らしつつも、どこか誇らしげに肩の力を抜いた。
「名前はどうだったんだ?」
仙蔵から振られた問いに、私は生首フィギュアの髪を整えながら短く答えた。
『小平太が危うく、足軽を襲いそうになったわ。』
「あの阿呆め。大方興奮して飛び出た所を足軽に見つかったんだろう。」
流石は仙蔵、小平太の行動パターンを完全に把握している。
『ただ、足軽は即座に気絶させたから大事には至らなかったわ。……仙蔵のところの惨状に比べたら、まだマシだったかもしれないけれど。』
「フッ……お互い、苦労が尽きんな。」
仙蔵が自虐気味に小さく鼻で笑う。
その場の空気に静かな同情が漂い、二人して小さく溜め息をついた。言葉はなくとも、お互いの苦労が身に沁みて分かってしまう。
私たちは無言のまま、生首フィギュアを磨く手に少しだけ力を込めた。
「しかし名前、普段の実習は一人でこなしているんだろう?」
『そうね。くのたまの上級生は私しかいないから。でも今回のように協力が求められる時は、貴方達と組むけれど。』
「そうか。くのたまの上級生にもなると、何かと苦労が多いな。」
『まぁね。でも、後輩たちに癒やされる時間は格別よ。みんな、本当によく慕ってくれるし。』
「ふっ…それは同感だな。」
心底満足そうにそう言った私に、仙蔵も柔らかく笑みを返した。
本来、くのたまと忍たまが合同で実習を行う機会は決して多くない。だからこそ、こうした場での会話や、互いの苦労を分かち合える時間は思いのほか心地よかった。
学年が上がるにつれて、実習の難易度は跳ね上がる。内容によっては当然のように危険が伴うが、まだ下級生の後輩たちがそこに加わることはない。そもそも、くのたまの半数以上は「良家のお行儀見習い」として入学してきた者たちだ。忍びとしての道を歩む後輩は決して多くない。
……できることなら、あの子たちをこんな危険に巻き込みたくはない、というのが本音だった。
忍びとして生きるということは、光を捨て、闇の中に身を置くということ。それは私たちくのたまも、彼ら忍たまも同じだ。
『あの子達が、これから闇の中で生きると思うと……少し複雑ね。』
「だが、その道を選んだのはあいつら自身だ。お前が気に病むことではない。」
いかにも仙蔵らしい、容赦なくも芯の通った返答。その厳しさの裏にある彼なりの優しさを感じて、私は「それもそうね」と小さく笑った。
ここは戦国、生きるか死ぬかの時代だ。本来なら、他人の未来を案じている余裕などない。
私自身、いつこの世を去ることになるか分からないのだから。