長編
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合同
合戦場に到着し、それぞれ二手に分かれる。
い組とは組の仙蔵と文次郎、伊作と留三郎。
ろ組の長次と小平太に私。
合戦場に一歩踏み込んだ瞬間、鼻を突くのは生ぬるい血と足軽たちの汗の臭い。
鬼気迫る凄惨な匂いが肌にまとわりつく。
今更だが合戦場の雰囲気は初めてではない
一斉に分かれ、所定の場所で始める。
近くの巨木へ素早く駆け上がると、幹の陰に身を隠しながら眼下の光景を見下ろす。
彼方此方で激しく交差する刃、飛び交う矢尻。
ついさっきまで生きていた人間が、まるで呆気なく泥の中に倒れていく。
とてもじゃないが後輩達にはまだ本物の合戦場を見せられない。
『……命って呆気ないものね。』
合戦など、無駄な資材と命を消費するだけに過ぎない。
思考を頭の隅に置きながら、敵の陣営近くまで静かに忍び寄る。
息を殺し、完全に気配を消して影に溶け込む。
侍の数、足軽の配置、兵力の差……眼下の動向を一つひとつ冷徹に観察し、脳内で素早く情報をまとめていく。
この戦力差なら、勝敗がつくのは早い
そう分析しつつも、深追いはしない。今日の己の役目は、あくまで情報収集だ。
必要な情報をすべて頭に叩き込むと、私は足音ひとつ立てず、木々の枝から枝へと滑らかに飛び移った。
向かっている最中、突如として足軽の悲鳴が耳に届いた。
声のした方へ駆け付けると、そこには槍を構えた足軽と対峙する小平太の姿だ。
大方、合戦の熱気に当てられた小平太が飛び出し、足軽に見つかってそのまま喧嘩を売られたのだろう。
念のため懐から苦無を抜き、気配を消して足軽の背後へと忍び寄る。
完全に戦闘態勢へ入った小平太の瞳は、肉食獣のようにギラギラと輝いている。その凄まじい形相に完全に怯えた足軽が、腰を抜かしながら必死に逃げ出そうとしている。
――忍びの存在が露見したら厄介。
素早く口布を当て、行動を起こす。
「くっ! くるな、来……ッ!?」
背後に滑り込み、足軽の首筋へ素早く手刀を打ち込む。足軽は言葉を詰まらせ、そのままドサリと崩れ落ちて気絶した。
「名前!今から面白い所になりそうだったのに!」
『小平太、先生にバレたら私達、実習の単位落とすのよ。』
「なはは!すまん!」
『ったく……で、長次は?』
「まだだ!」
むっと口を尖らせて文句を言うものの、小平太にはあっけらかんと笑い飛ばされ、私はハァと深いため息を漏らした。
そうだ、すっかり忘れていたけれど、小平太は戦いになりさえすれば楽しそうに首を突っ込む男だった。普段は長次が隣で手綱を握っているから失念していたのだ。早く長次に帰ってきてほしいと、心から切実に願う。
その時、近くの茂みからかすかな気配を感じた。
追手の足軽かと思い、咄嗟に身を潜めたがそれは杞憂に終わる。
「………今戻った。」
『長次、良かった。』
「………何をしている。」
呆れる長次に、事の詳細をかいつまんで説明する。けれど、肝心の原因である小平太本人は、相変わらず他人事のように笑っているだけだった。
「………小平太。」
「なんだ長次!」
「……戦うの、駄目。……絶対」
「おぅ!分かった!」
どこまでも無邪気な小平太の笑顔に、私はハッと苦笑いを漏らす。
まぁともあれ、全員無事に情報収集と分析を終えることができた。私たちは報告のため、先生達の待つ場所へと戻ることにした。
『ろ組とくのたま、只今戻りました。』
「うむ、報告を!」
「『はい』」
無事報告を終え、本日の野外実習はひとまず終了となった。
『そう言えばあの四人は?』
「……喧嘩の声が聞こえたからまだだろう……モソ……」
『忍ばないといけないの分かってるのかしら。』
それから数刻後、ボロボロになった文次郎、留三郎、伊作の三人。そして額に青筋が浮かべた仙蔵が戻ってきた。
あの仙蔵をあそこまでブチ切れさせるなんて、逆に大したものだ。触らぬ神に祟りなし——そっと視線を逸らした。
合戦場に到着し、それぞれ二手に分かれる。
い組とは組の仙蔵と文次郎、伊作と留三郎。
ろ組の長次と小平太に私。
合戦場に一歩踏み込んだ瞬間、鼻を突くのは生ぬるい血と足軽たちの汗の臭い。
鬼気迫る凄惨な匂いが肌にまとわりつく。
今更だが合戦場の雰囲気は初めてではない
一斉に分かれ、所定の場所で始める。
近くの巨木へ素早く駆け上がると、幹の陰に身を隠しながら眼下の光景を見下ろす。
彼方此方で激しく交差する刃、飛び交う矢尻。
ついさっきまで生きていた人間が、まるで呆気なく泥の中に倒れていく。
とてもじゃないが後輩達にはまだ本物の合戦場を見せられない。
『……命って呆気ないものね。』
合戦など、無駄な資材と命を消費するだけに過ぎない。
思考を頭の隅に置きながら、敵の陣営近くまで静かに忍び寄る。
息を殺し、完全に気配を消して影に溶け込む。
侍の数、足軽の配置、兵力の差……眼下の動向を一つひとつ冷徹に観察し、脳内で素早く情報をまとめていく。
この戦力差なら、勝敗がつくのは早い
そう分析しつつも、深追いはしない。今日の己の役目は、あくまで情報収集だ。
必要な情報をすべて頭に叩き込むと、私は足音ひとつ立てず、木々の枝から枝へと滑らかに飛び移った。
向かっている最中、突如として足軽の悲鳴が耳に届いた。
声のした方へ駆け付けると、そこには槍を構えた足軽と対峙する小平太の姿だ。
大方、合戦の熱気に当てられた小平太が飛び出し、足軽に見つかってそのまま喧嘩を売られたのだろう。
念のため懐から苦無を抜き、気配を消して足軽の背後へと忍び寄る。
完全に戦闘態勢へ入った小平太の瞳は、肉食獣のようにギラギラと輝いている。その凄まじい形相に完全に怯えた足軽が、腰を抜かしながら必死に逃げ出そうとしている。
――忍びの存在が露見したら厄介。
素早く口布を当て、行動を起こす。
「くっ! くるな、来……ッ!?」
背後に滑り込み、足軽の首筋へ素早く手刀を打ち込む。足軽は言葉を詰まらせ、そのままドサリと崩れ落ちて気絶した。
「名前!今から面白い所になりそうだったのに!」
『小平太、先生にバレたら私達、実習の単位落とすのよ。』
「なはは!すまん!」
『ったく……で、長次は?』
「まだだ!」
むっと口を尖らせて文句を言うものの、小平太にはあっけらかんと笑い飛ばされ、私はハァと深いため息を漏らした。
そうだ、すっかり忘れていたけれど、小平太は戦いになりさえすれば楽しそうに首を突っ込む男だった。普段は長次が隣で手綱を握っているから失念していたのだ。早く長次に帰ってきてほしいと、心から切実に願う。
その時、近くの茂みからかすかな気配を感じた。
追手の足軽かと思い、咄嗟に身を潜めたがそれは杞憂に終わる。
「………今戻った。」
『長次、良かった。』
「………何をしている。」
呆れる長次に、事の詳細をかいつまんで説明する。けれど、肝心の原因である小平太本人は、相変わらず他人事のように笑っているだけだった。
「………小平太。」
「なんだ長次!」
「……戦うの、駄目。……絶対」
「おぅ!分かった!」
どこまでも無邪気な小平太の笑顔に、私はハッと苦笑いを漏らす。
まぁともあれ、全員無事に情報収集と分析を終えることができた。私たちは報告のため、先生達の待つ場所へと戻ることにした。
『ろ組とくのたま、只今戻りました。』
「うむ、報告を!」
「『はい』」
無事報告を終え、本日の野外実習はひとまず終了となった。
『そう言えばあの四人は?』
「……喧嘩の声が聞こえたからまだだろう……モソ……」
『忍ばないといけないの分かってるのかしら。』
それから数刻後、ボロボロになった文次郎、留三郎、伊作の三人。そして額に青筋が浮かべた仙蔵が戻ってきた。
あの仙蔵をあそこまでブチ切れさせるなんて、逆に大したものだ。触らぬ神に祟りなし——そっと視線を逸らした。