長編
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整然
後日、私は学園長室へと呼び出されていた。
理由には心当たりしかない。緊張を胸に敷居を跨ぐと、座敷の奥から学園長先生がじっとこちらを見つめていた。
「名前よ。お主……随分と顔付きが変わったな。」
『……そうでしょうか。』
「ほっほっほ、気分は晴れたかの?」
『はい。もう、大丈夫です。』
その言葉に、一切の偽りはなかった。
あの日、留三郎に全てを曝け出したこと。そして学園長先生から課された過酷な忍務をやり遂げたこと。暗闇の中にいたあの頃とは違い、今の胸の中には静かで穏やかな風が吹いていた。
「名前や。儂は別にお主の復讐を止めたりはせんよ。」
『……! 止め、ないのですか……!?』
思わず目を見開き、弾かれたように顔を上げる。
その驚きを愉しむように、学園長先生の高笑いが静かな室内に響き渡った。
「ほっほっほっ!」
——ああ、この方には最初から、私の考えることなど全て見透かされていたのだ。
自分の浅はかさを思い知ると同時に、包み込むような器の大きさに私は諦めと感謝の混ざった微かな苦笑を漏らした。この方には、どう足掻いても隠し事などできそうにない。
高らかだった学園長先生の笑い声が静まり返り、忍び寄るような重々しい声が耳元を通り抜けた。
「……じゃが。必ずこの学園へ戻ってくること。それが、儂との約束じゃ。」
『……はい。』
私は深く、深く頭を下げた。迷いや揺らぎは、もうどこにもない。
『私の帰る場所は、この学舎しかありません。……この命に代えても、学園長先生との約束は必ず果たしてみせます。』
言葉に一切の偽りはなかった。かつてただ生き残るためだけに身を置いていたはずのこの場所が、いつの間にか自分にとってかけがえのない「帰るべき家」になっていたのだと、いま強く実感していた。
重い引き戸を静かに閉め、学園長室を辞する。
一歩外へ踏み出すと、夜の静寂に包まれた校舎の先で、木々がカサカサと冷たい夜気に揺れていた。
忍び寄る秋の気配を含んだ風が吹き抜け、樹々から零れ落ちた一枚の枯れ葉が足元でカサリと音を立てる。
舞い上がった葉は瞬く間に姿を消していった。
——かつての自分なら、あの風に舞う落ち葉のように、ただ暗闇の中へ消えていくような孤独を感じていただろう。
敵を討ち、己の存在すら消し去るような自暴自棄な運命を当たり前のように受け入れていたはずだった。
けれど、いまは違う。
冷えた身体の奥底にはあの夜に叩きつけられた留三郎の熱い体温と学園長先生と交わした「必ず戻る」という重い約束が、確かな灯火となって灯っていた。
一度だけ振り返って、慣れ親しんだ学舎を見上げると私は静かに忍装束の紐を締め直す。
さあ――すべての過去と、決別しよう。
私にはもう、必ず帰るべき場所があるのだから。
後日、私は学園長室へと呼び出されていた。
理由には心当たりしかない。緊張を胸に敷居を跨ぐと、座敷の奥から学園長先生がじっとこちらを見つめていた。
「名前よ。お主……随分と顔付きが変わったな。」
『……そうでしょうか。』
「ほっほっほ、気分は晴れたかの?」
『はい。もう、大丈夫です。』
その言葉に、一切の偽りはなかった。
あの日、留三郎に全てを曝け出したこと。そして学園長先生から課された過酷な忍務をやり遂げたこと。暗闇の中にいたあの頃とは違い、今の胸の中には静かで穏やかな風が吹いていた。
「名前や。儂は別にお主の復讐を止めたりはせんよ。」
『……! 止め、ないのですか……!?』
思わず目を見開き、弾かれたように顔を上げる。
その驚きを愉しむように、学園長先生の高笑いが静かな室内に響き渡った。
「ほっほっほっ!」
——ああ、この方には最初から、私の考えることなど全て見透かされていたのだ。
自分の浅はかさを思い知ると同時に、包み込むような器の大きさに私は諦めと感謝の混ざった微かな苦笑を漏らした。この方には、どう足掻いても隠し事などできそうにない。
高らかだった学園長先生の笑い声が静まり返り、忍び寄るような重々しい声が耳元を通り抜けた。
「……じゃが。必ずこの学園へ戻ってくること。それが、儂との約束じゃ。」
『……はい。』
私は深く、深く頭を下げた。迷いや揺らぎは、もうどこにもない。
『私の帰る場所は、この学舎しかありません。……この命に代えても、学園長先生との約束は必ず果たしてみせます。』
言葉に一切の偽りはなかった。かつてただ生き残るためだけに身を置いていたはずのこの場所が、いつの間にか自分にとってかけがえのない「帰るべき家」になっていたのだと、いま強く実感していた。
重い引き戸を静かに閉め、学園長室を辞する。
一歩外へ踏み出すと、夜の静寂に包まれた校舎の先で、木々がカサカサと冷たい夜気に揺れていた。
忍び寄る秋の気配を含んだ風が吹き抜け、樹々から零れ落ちた一枚の枯れ葉が足元でカサリと音を立てる。
舞い上がった葉は瞬く間に姿を消していった。
——かつての自分なら、あの風に舞う落ち葉のように、ただ暗闇の中へ消えていくような孤独を感じていただろう。
敵を討ち、己の存在すら消し去るような自暴自棄な運命を当たり前のように受け入れていたはずだった。
けれど、いまは違う。
冷えた身体の奥底にはあの夜に叩きつけられた留三郎の熱い体温と学園長先生と交わした「必ず戻る」という重い約束が、確かな灯火となって灯っていた。
一度だけ振り返って、慣れ親しんだ学舎を見上げると私は静かに忍装束の紐を締め直す。
さあ――すべての過去と、決別しよう。
私にはもう、必ず帰るべき場所があるのだから。