11月22日開催のペーパーウェル15に先駆けて一次創作「薔薇の館」のDLを公開します。DLは無料です。
下に冒頭サンプルがあります。
【薔薇の館】DLページはこちら。BOOTHに飛びます
B5サイズ/全年齢/8ページ
※プリントの際は右綴じを選択してください。

セブンイレブンにてネットプリント配信してます。
予約番号 36060967
B5サイズ 全8ページ 白黒
※印刷の際は右綴じを選択してください
期限 12/22 まで

【あらすじ】
近所にある「薔薇屋敷」の秘密を知ってしまう「あなた」の話。
ペーパーウェル15、テーマ「すくう」(巣食う)の参加作品です。

【冒頭サンプル】
　やたらと坂道が多い――というのがあなたの印象である。だらだらと続く緩やかで長い坂、急で短い坂、大きく弧を描く坂。どこへ行くにも坂道を上らなくてはならず、あなたは難儀することが多い。坂道が多いのは海が近いからなのかもしれない。尤も自宅からは海は見えず、潮騒も聞こえないけれど。時々湿った風と共に運ばれてくる磯の匂いで海が近くにあることを感じ取るだけだ。あなたはもう何年も海を見ていない。
　傾斜十八度の道を上りきったところに公民館のような佇まいのプロテスタント教会があり、その向かいに『薔薇屋敷』と呼ばれる洋館がある。『薔薇屋敷』とは勿論、通称で住人の名はシキガミという。だが一体どんな漢字を書くのかまではあなたは知らない。赤煉瓦の外観に合せるかのように表札はSHIKIGAMIと書かれている。敷上、と書くのが一番ありえそうだが確証は全くない。色神と書くなら面白いなとあなたは無為な言葉遊びに興じる。
鉄門扉の向こう側に建つ洋館は『薔薇屋敷』と呼ばれる通り、年中美しい薔薇が庭に咲いている。花に詳しくないあなたは品種までは判らないものの、洋館の前を通るたびに見事だと感嘆を洩らしたものだ。瀟洒(しょうしゃ)な建物と咲き乱れる薔薇の様子は恰もお伽噺の世界のようでいて、道行く人の目を集めるには充分な眺めだ。
　あなたは『薔薇屋敷』の前で足を止め、物々しい鉄門扉の中に視軸を転じて洋館を仰ぎ見る。赤煉瓦の外壁の一部は蔦に覆われ、曇天を映じる窓ガラスはどれもカーテンが閉じられていてひっそりと息を潜めている。あなたは長年この近所に住んでいるが『薔薇屋敷』の住人を見かけたのは片手で数える程度である。一度目は黒いワンピース姿の中年の女で二度目は二十歳に手が届くかどうかくらいの青年、三度目は中年の女と青年が二人で庭にいる姿だった。親子にしてはあまり似ていないと感じたのを今でも憶えている。姉弟にしては年齢が離れすぎているし、もしかしたら血縁関係ではないのかもしれない。