読書記録

襲撃/ハリー・ムリシュ

2025/08/08 18:08
海外文学
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襲撃/ハリー・ムリシュ/河出書房新社

1945年のオランダが舞台。12歳のアントンの家の前で射殺された男は対独協力者の警視だった。この偶然の出来事によってアントンは両親、兄をナチスによって殺され、家も焼かれてしまう。この強烈な襲撃事件によってどこか冷めた大人へと成長していく。
当時のことを過去として深く考えないようにしていたが、ある時思いがけない形で襲撃事件の関係者と出会う。彼から聞かされる事件の真相、平和デモで偶然再会した近所に住んでいた住人から打ち明けられた秘密。
読んでいると戦争というのはあるはずの価値観すらも滅茶苦茶に破壊してしまうのだと強く思ったし、そのことでアントンは葬ったはずの過去の事件をどう考えていいものか激しく懊悩する姿は読み手とも重なる。「有罪は無罪で、無罪は有罪なのか?」
アントンは死ぬまでこの問からは逃れられない。あの過酷で苛烈な戦争を体験した人は皆そうだろう。忘れたくても忘れられず、心の奥底に暗い傷を抱えて。
「地獄なのだ。たとえ明日、地上に天国が創られたとしても、過去に起こったすべてのことによって、天国であることはできないだろう。もはや二度と償いはできないのだ。宇宙における人類の営みは失敗したのだ。大いなるしくじり。人類は誕生しない方がよかっただろう。人類がもはや存在せず、あらゆる人のいまわの叫びの記憶もなくなってこそ、ようやく世界は再び秩序を取り戻すだろう。」
この一節も強烈に刺さった。

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