読書記録
弑逆者/ロブ=グリエ
2025/05/29 19:07海外文学

弑逆者/ロブ=グリエ/白水社
ロブ=グリエのデビュー作。
霧に閉ざされた砂丘と荒野が広がる島に住む「私」と工場の会計係を務めるボリスの日常生活の2つの世界の物語が並行して展開されていくが、読み進めていくと実は「私」の住む世界はボリスの脳内イメージであることが次第に判ってくる。それまでも2つの世界は地続きであり、重なり合っているような描写があり、そういう意味で非常に映像的な作品でもある。
ボリスは政治に失望して国王暗殺を思いつき、企てて実行したかのような描写があるものの、実際は国王は死んでおらず、だがしかし終盤に死体を遺棄している描写があるので、これは個人的な解釈としてボリスの社会的な死を意味しているように思える。
またロブ=グリエの手法として似たような場面の反復、だが少しずつ異なる記述を入れ込むことでまるで鏡の迷路に迷い込んだような心地を覚える。言葉による幻惑、酩酊、それも物語の終わりへ近付くにつれて晴れていくが、出口へ辿り着いたと思ったらまた迷路の入口に立っていた――そんな面白さもある。
「われわれのまわりでは、霧がいや増し、毎日少しずつ余計に濃くなり、すこしずつ余計に重く、余計に見通しにくくなる。ところどころ晴れ間を見せてふわりと漂う靄の切れ端とか、輪郭が確かさを失う灰色がかったヴェール状の靄とかはおしまいで、いまやわれわれは不透明で切れ目のないある物質の只中で暮らしていて、それが次第次第にわれわれを窒息させる。いまだかつてこれほどの質量に押し潰されるのを感じたことはなく、これほどまわりのものが見分けられなくなったこともない。ほどなく私は、一番の親友と面と向かいあっても、その顔立ちを認められなくなろう。」
この一文が今の時代とこの物語を言い表しているように感じて誰もがボリスのように生きているのだと思った。
