読書記録

境界なき土地/ホセ・ドノソ

2025/05/28 12:43
海外文学
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境界なき土地/ホセ・ドノソ/水声社

下水も電気すらも通らない文明から取り残された町が舞台。売春宿のオーナーのオカマのマヌエラを中心に展開される群像劇は平易な文体にも拘わらず、全編に異様な緊迫感がある。その緊迫感は町が廃れて崩壊していく予兆であり、あるいは町に齎される新しい変化の予感にも感じられる。
訳者あとがきにあるように登場人物達は皆どこか異常な欲望、内面を抱えており、町の有力者であるドン・アレハンドロとハポネサの賭け――ハポネサがマヌエラを見事誘惑できたらドン・アレハンドロが所有している店をハポネサに譲り渡す――というエピソードも人の欲望のグロテスクさを描いており、「境界なき土地」である寂れた町は冒頭に掲げられたマーロウの「ファウスト博士」の一文にあるように、地獄とひと続きであることを示しているように思う。
激しい暴力を受けたマヌエラがどうなったかは書かれていないが、寂れた町の象徴のような彼(彼女)の命が尽きる時、町も息絶えるに違いない。
「終わりゆくものはいつも平和、変わらないものはいつも終わりを目指し、終わりへと近づいていく。」
ハポネシータは町に電気が引かれ、再び町が活気づくことを願っていたが、それが失意に終わっても尚頑なに町から出ようとしなかったのは、変化を恐れていたからなのかもしれない。自分を取り囲む環境が地獄であっても、未知なる天国より、慣れ親しんだ地獄の方が良い――そんなふうに彼女は言っているように思えた。

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