読書記録
わたしたちが光の速さで進めないなら/キム・チョヨプ
2026/10/05 00:38海外文学

わたしたちが光の速さで進めないなら/キム・チョヨプ
「巡礼者たちはなぜ帰らない」「スペクトラム」「共生仮説」「わたしたちが光の速さで進めないなら」「感情の物性」「館内紛失」「わたしのスペースヒーローについて」全7編収録。
SFは昔から苦手意識があり、読むのを避けていたけれど、相互さんが読んでいるのを見て手に取りました。
難しい科学用語で煙に巻く感じはなく、物語の根底にあるのは普遍的な人間の感情や情緒であり、どれだけ科学が発達しても、宇宙の謎を解き明かしても、人間は大きく変わらないのだなと感じました。
感情を物質化した商品が大流行りする「感情の物性」は私もちょっと欲しいと思った。「オチツキ」があったら毎日快適に過ごせそうだ。
「館内紛失」はその人の死後、マインドデータを図書館に保管されてるという社会。主人公と母親の関係が自分のそれと重なって見えて読んでいて少し苦しかった。もし私がこの物語の主人公であったなら、確執のある母親のデータを果たして探すことをするかはあやしい。生前の姿そっくりのマインドデータがあることで、「死」の意味もかなり変わりそうだなと思う。それは「死」の意味が軽くなるというよりは、もっと厳粛な重さを持つ方向へ行く気がする。
どれも面白かったけれど、一番心に響いたのは表題作。主人公のアンナがどんな思いでスレンフォニア惑星系行きの宇宙船を待っていたのかと思うと切ない。それでも彼女がスレンフォニア惑星系へ飛び立った物語の結末は不思議な爽快感がある。無理が承知でも、どうか彼女が家族と再会できることを願ってしまう。
本作のような雰囲気のSFなら抵抗なく読めることが分かったので、これから色々SF作品を読んでいきたい。