国太SS
月色佳人
集 く虫の音が涼やかに秋の夜を彩る。過ぎ去った夏が燃え尽きたような匂いと何処かでひっそりと咲いている金木犀の甘やかな香りが夜陰を深めて、時折吹く風に秋特有の寂寥が運ばれてくる。
「良い月だな」
「そうだねぇ。こんなに良い月夜は久し振りだね」
国木田と太宰は共に縁側に出て空にかかった金色の満月を眺めていた。
今夜は中秋の満月。
一年のうちで一番、月が美しい夜。
月は煌々と明るく澄んで、その輪郭は微かに蒼く燃えている。
ふたりは縁側で酒杯を傾けながら月見を楽しんでいた。酒の他に供え物の薄 と月見団子も用意され、観月の宴は手抜かりなく整えられていた。十五夜に因んで十五個盛られた月見団子は昼間、乱歩と賢治がついた餅で作った特製の団子である。夕方、彼等は楽しげに国木田や谷崎、与謝野の家を廻って配って歩ていた。月見団子は仄かな甘みがある、手作りの素朴な味わいがあった。餡やみたらしをつけて食しても美味しい。しかし今は酒である。
ふたりは手にした互いの杯に酒を注ぎ合いながら、上質なそれを楽しんだ。国木田は早々に酒が廻ったのか、月光に白い顔の目許が染まっている。肩に流れる長い後ろ髪は光が零れるように月明かりに淡く輝いていた。そんな様を太宰は上機嫌に眸に映して、手中にある小さな満月を飲み干すとこてん、と広い肩に頭を凭れた。
「太宰?」
不思議そうに彼を見遣ると太宰は満足そうに微笑みながら国木田の手を握る。触れる手の冷たさに国木田は細い手を包むように握り直した。寒くないかと問えば「ううん。大丈夫。君が温かいもの」身を擦り寄せてくる。国木田は「そうか」と小さく頷きながら黒い蓬髪に手櫛を入れて梳 った。ふわりと立ち上る馴染んだ彼の匂いに一瞬、鼓動が跳ねてしまう。
「来年も、見られると良いね」
「ああ、そうだな」
国木田は目を細めて月を眺めた。天に差し向けられた何かを慈しむような眼差しは、約束された未来へと続いていた。変わらずに共にあることを寿ぐように月が照らしている。
ふたりは身を寄せ合いながら、無言のまま何時までも月を見ていた。
天高く坐す月はゆっくりと西の空へと傾いてゆく。
(了)
「良い月だな」
「そうだねぇ。こんなに良い月夜は久し振りだね」
国木田と太宰は共に縁側に出て空にかかった金色の満月を眺めていた。
今夜は中秋の満月。
一年のうちで一番、月が美しい夜。
月は煌々と明るく澄んで、その輪郭は微かに蒼く燃えている。
ふたりは縁側で酒杯を傾けながら月見を楽しんでいた。酒の他に供え物の
ふたりは手にした互いの杯に酒を注ぎ合いながら、上質なそれを楽しんだ。国木田は早々に酒が廻ったのか、月光に白い顔の目許が染まっている。肩に流れる長い後ろ髪は光が零れるように月明かりに淡く輝いていた。そんな様を太宰は上機嫌に眸に映して、手中にある小さな満月を飲み干すとこてん、と広い肩に頭を凭れた。
「太宰?」
不思議そうに彼を見遣ると太宰は満足そうに微笑みながら国木田の手を握る。触れる手の冷たさに国木田は細い手を包むように握り直した。寒くないかと問えば「ううん。大丈夫。君が温かいもの」身を擦り寄せてくる。国木田は「そうか」と小さく頷きながら黒い蓬髪に手櫛を入れて
「来年も、見られると良いね」
「ああ、そうだな」
国木田は目を細めて月を眺めた。天に差し向けられた何かを慈しむような眼差しは、約束された未来へと続いていた。変わらずに共にあることを寿ぐように月が照らしている。
ふたりは身を寄せ合いながら、無言のまま何時までも月を見ていた。
天高く坐す月はゆっくりと西の空へと傾いてゆく。
(了)