国太SS
匣の中の美青年
今日は天気が善くて気持ちが良いなそうだねぇ桜も咲き始めてるしすっかり春だね何だか眠たくなってしまうよお前は猫かふふっだって国木田君の傍は心地が良いのだよ優しくて温かくてしかもこんな陽気だからねうっかり川に流れるのも悪くない貴様は阿呆かちょっと云ってみただけだよ大丈夫今の私には此処しか居場所がないからね入水するにも君と一緒じゃなきゃそれとも私と心中してくれるかい莫迦なことを云うな真っ平御免だ俺はこうしてお前と一緒にいたいんだそれくらい解れ熱烈な告白どうもありがとう大好きだよ国木田君私を何時までも傍に置いてね無論だお前を手放すつもりはないそのために俺は――
長身の男は独りでぶつぶつと何やら呟いていました。良く見ると彼は匣を抱えていました。彼は相槌を打ったり首を横に振ったりと、まるで匣に話しかけているようでした。気になったわたしは男の方に歩み寄って擦れ違うように彼の側を通り過ぎました。
その時、わたしは彼の手元――匣の中をちらりと覗きました。何か小動物でも入っているのかと思われたその匣には黒い干物のような、一瞥しただけでは正体が知れないものがみっしり詰まっているのでした。
男は匣に向かってまるで恋人に睦言を囁くように好きだとか愛してるだとか云いながら足早にわたしから遠ざかっていきました。もしかしたら、彼は春の陽気で少し頭が変になっていたのかもしれません。あの美しい匣を持った彼は何処へゆくのでしょう。わたしは少しだけ彼が羨ましく思って、小さくなる真っ直ぐな背中を見送るのでした。
(了)
今日は天気が善くて気持ちが良いなそうだねぇ桜も咲き始めてるしすっかり春だね何だか眠たくなってしまうよお前は猫かふふっだって国木田君の傍は心地が良いのだよ優しくて温かくてしかもこんな陽気だからねうっかり川に流れるのも悪くない貴様は阿呆かちょっと云ってみただけだよ大丈夫今の私には此処しか居場所がないからね入水するにも君と一緒じゃなきゃそれとも私と心中してくれるかい莫迦なことを云うな真っ平御免だ俺はこうしてお前と一緒にいたいんだそれくらい解れ熱烈な告白どうもありがとう大好きだよ国木田君私を何時までも傍に置いてね無論だお前を手放すつもりはないそのために俺は――
長身の男は独りでぶつぶつと何やら呟いていました。良く見ると彼は匣を抱えていました。彼は相槌を打ったり首を横に振ったりと、まるで匣に話しかけているようでした。気になったわたしは男の方に歩み寄って擦れ違うように彼の側を通り過ぎました。
その時、わたしは彼の手元――匣の中をちらりと覗きました。何か小動物でも入っているのかと思われたその匣には黒い干物のような、一瞥しただけでは正体が知れないものがみっしり詰まっているのでした。
男は匣に向かってまるで恋人に睦言を囁くように好きだとか愛してるだとか云いながら足早にわたしから遠ざかっていきました。もしかしたら、彼は春の陽気で少し頭が変になっていたのかもしれません。あの美しい匣を持った彼は何処へゆくのでしょう。わたしは少しだけ彼が羨ましく思って、小さくなる真っ直ぐな背中を見送るのでした。
(了)
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