みつくりSS
陽だまりの中の秘密
あ――庭に面した廊下を歩いていた火車切はふと歩みを止めた。視線の先に良く知った姿を捉えたので。伽羅兄――呼びかけは口の中で消えた。咄嗟に身を隠すところを探すが、生憎そんな都合の良い場所は見付からない。母屋へ引き返そうとして、しかし火車切の視線は前方に釘付けだった。
弟の存在に露ほども気が付いてない様子の大倶利伽羅はやれやれといった風情でその場にしゃがみ込むと秋陽の中で座ったまま転寝 している燭台切の肩に手を触れた。火車切の耳には兄の声までは聞き取れないが、どうやら燭台切を起こしているらしい。彼がこんなところで居眠りしているのを少し珍しく思いながら、火車切は抜けるような秋晴れの蒼天を軒下から振り仰ぐ。視軸を庭に転じると五虎退の小虎が陽だまりの中で丸くなって呑気そうに眠っているのが見えた。気持ちの良い秋の陽気は午睡を誘うらしい。
火車切の視界の端で大倶利伽羅の気配が動く。再度正面を見遣ると兄が唇の端に淡い微笑みを浮かべながら燭台切の黒髪をそっと撫でている姿があった。まるで壊れ物を扱うような手付きと彼に差し向ける穏やかな眼差しはこれまで火車切が見たことがないものだった。
相手が起きないと確信したのか、大倶利伽羅は両の手で犬猫を撫でるようにわしゃわしゃと燭台切の頭を撫で乱す。それから黒い前髪を掻きあげると晒された白い額に唇が触れた。
そんな兄の仕草を目の当たりにして火車切の頬が瞬時に熱を持った。火車切は足音を殺して踵を返す。見てはいけないものを見てしまった衝撃に心臓がおかしな音を立てて胸が苦しくなる。
――あの二振りって。
燭台切は誰とでも距離が近い刀だと思っていたし、大倶利伽羅とは元の主が同じで旧知の仲だと聞いていた。だから二振りが良く一緒にいるのは単純に仲が良いからだとばかり思っていたけれど。どうやらそれだけではないらしい。
仲間、兄弟、友達。
彼等の関係を言い表すものはどれも違う。もっと緊密で強い繋がりの関係だ。特別という名の。
火車切は刹那垣間見た大倶利伽羅の酷く優しげな瞳を思い出す。
――少しだけ羨ましい、だなんて。
胸に兆した初めての感情を振り払うように火車切は母屋を目指して駆け出した。
(了)
あ――庭に面した廊下を歩いていた火車切はふと歩みを止めた。視線の先に良く知った姿を捉えたので。伽羅兄――呼びかけは口の中で消えた。咄嗟に身を隠すところを探すが、生憎そんな都合の良い場所は見付からない。母屋へ引き返そうとして、しかし火車切の視線は前方に釘付けだった。
弟の存在に露ほども気が付いてない様子の大倶利伽羅はやれやれといった風情でその場にしゃがみ込むと秋陽の中で座ったまま
火車切の視界の端で大倶利伽羅の気配が動く。再度正面を見遣ると兄が唇の端に淡い微笑みを浮かべながら燭台切の黒髪をそっと撫でている姿があった。まるで壊れ物を扱うような手付きと彼に差し向ける穏やかな眼差しはこれまで火車切が見たことがないものだった。
相手が起きないと確信したのか、大倶利伽羅は両の手で犬猫を撫でるようにわしゃわしゃと燭台切の頭を撫で乱す。それから黒い前髪を掻きあげると晒された白い額に唇が触れた。
そんな兄の仕草を目の当たりにして火車切の頬が瞬時に熱を持った。火車切は足音を殺して踵を返す。見てはいけないものを見てしまった衝撃に心臓がおかしな音を立てて胸が苦しくなる。
――あの二振りって。
燭台切は誰とでも距離が近い刀だと思っていたし、大倶利伽羅とは元の主が同じで旧知の仲だと聞いていた。だから二振りが良く一緒にいるのは単純に仲が良いからだとばかり思っていたけれど。どうやらそれだけではないらしい。
仲間、兄弟、友達。
彼等の関係を言い表すものはどれも違う。もっと緊密で強い繋がりの関係だ。特別という名の。
火車切は刹那垣間見た大倶利伽羅の酷く優しげな瞳を思い出す。
――少しだけ羨ましい、だなんて。
胸に兆した初めての感情を振り払うように火車切は母屋を目指して駆け出した。
(了)