みつくりSS

幸福の欠片

 光忠が大倶利伽羅から借りた本の頁を捲った時、ひらりと何かが滑り落ちた。
「ん? 何だろうこれ?」
 訝しみながら膝の上に落ちた短冊状の紙片を拾うと、そこには褪色した四葉のクローバーが押し花となってあった。途端に光忠の頬が緩んで隻眼が喜悦に細められる。
「伽羅ちゃんまだ大切に持ってくれてたんだ」
 独白しながら褐色を帯びた四葉のクローバーを指先でなぞる。
 この四葉のクローバーは物吉貞宗が本丸に顕現した時、皆で探したものだ。光忠も短刀達に混じって四葉のクローバー探しに興じた。
 四葉のクローバーの発生確率は一般的に一万分の一から十万分の一とされている。見付けるのが非常に困難なのだが、物吉貞宗の「幸運の王子」効果なのか、その時は面白いように四葉のクローバーが見付かり、皆一様に驚きながらも喜びはしゃいでせっせと幸運の象徴である葉草を摘み取っていた。
 光忠も幾つか摘んで鶴丸や太鼓鐘、大倶利伽羅に幸運のお裾分けだとしてプレゼントしたのだ。恐らくこの四葉のクローバーは光忠から貰ったものを本の持ち主手ずから押し花にして栞を作ったのだろう。一体どんな顔をして押し花を作ったのか、想像をして光忠は小さく微苦笑を洩らす。
「何だか僕の方が幸運を貰ってしまったような気分だ」
 愛しい相手がささやかな贈り物をこうして大事にしてくれていることが嬉しい。まるで自分自身そのものを大切にしてくれているようでもあり、擽ったいような気持ちになる。
「また今度伽羅ちゃんにお花をプレゼントしようかな」
 目が醒めるような美しい花を一輪。
 君を愛していると言葉を忍ばせて。

(了)
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