400字小説

微睡む春よ

 光坊は夢の中か――聞き慣れた声に視軸を転じるとにやけ顔の鶴丸。拙いところを見られと思ったがどうしようもない。
 今、俺の膝の上には光忠の頭があった。所謂膝枕という奴だ。隻眼は閉じられ、すうすうと寝息を立てる様は実に気持ち良さそうだ。眺めているとつい俺まで眠くなる。
 珍しいなあと呟く鶴丸に用がないのなら去れと手で追い払うと彼は邪魔したなと意味深に笑って白い衣を翻して立ち去った。
 周囲に誰もいないことを確かめてから麗らかな春陽を受けて艷めく烏玉ぬばたまの髪にそっと触れる。さらりとした手触りに俄に胸が高鳴った。こんなふうに光忠に触れられるなんて夢のようだ。
 膝枕をしているのも半ば彼が寝ぼけていたせいだ。転寝うたたねしているところを起こしたらひょいと膝に頭を乗せられてしまったのだ。彼に甘えられてるみたいで嬉しいが本当のところは判らない。それでも。
 どうかまだ目醒めないでくれと想い人に念じながら安らかな寝顔を見詰めるのだった。 
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