400字小説

まばたき(一次創作)

 眸を射る陽射しの眩しさに瞬きをすると右眼から涙が落ちた。哀しくはないのに次から次へと涙は頬を流れて広げた掌の上に散った。すると雲一つない蒼穹から雨が降ってきた。驚いて瞠目すると不意に雨の帳から白無垢姿が立ち現れ、鮮やかな紅をひいた口許が莞爾する。朱脣が音もなく囁いた。――みぃつけた。
 その刹那、記憶の扉が開け放たれた。膨大な過去の記憶が還ってくる。瞬きと片眼からの落涙、天気雨。
 ――私が瞬きをした瞬間、貴方の右眼から涙が落ちるでしょう。それは私と貴方との永久の約束の証。晴天の降雨の中、きっと私は貴方を見付ける。
 もう一度瞬きをすると涙で滲んだ視界はクリアになって雨が止んだ。跡形もなく白無垢姿も消え失せていた。全ては束の間の出来事だった。
 ――本当に。
 本当に彼女はやって来た。結ばれなかった過去を成就するために。胸裡に去来するのは畏れか歓喜か或いは、また。
 雨に濡れた地面を呆然と見詰めて今夜の褥を想う。
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