戀―REN―
愛を語る場所、或いは官能の言語について
口とは不思議な器官だ。言葉を発して誰かとコミュニケーションをとったり、生命維持に必要な食べ物の入口でもある。息を吐いたり吸ったりと云う機能も兼ね備えている。それ以外にも、まだある。少し特殊な、特別な使い方が。
私は目の前にある口――唇を見詰める。
形の佳い薄いその唇の持ち主は自らのそれを使って私を愛する。そう、口と云う器官は人を愛する器官でもあるのだ。私は彼を― ―国木田君を知るまで、そんな極当たり前の、とても単純なことを失念していた。
「……国木田君……」
目を薄く伏せれば、彼の気配が濃くなる。唇が静かに近付いてくるのが解る。唇が合わさる直前に頬をそっと撫でるのは彼の癖。やがてそれは合図と成り変わる。
唇を触れ合わせて柔らかな熱を享受する。あまり厚みがないのに彼の唇はとても柔らかくて、優しい。寒い季節になると少しかさつくそれも何だか彼らしくて好きだ。
唇が離れてゆっくりと目蓋を開ける。
目の前で国木田君が淡く微笑んでいる。
それだけで胸がいっぱいになってしまう。
「……好きだ」
ぎゅっと抱き締められて耳元で密やかに告げる愛の言葉。私も彼の背中に腕を回して抱き返す。すると「……俺には、云ってはくれないのか」ぽそりと声が落ちる。何処か恥ずかしそうな声音に胸の奥がきゅんとする。この『きゅん』はきっと『愛しさ』が生まれる音なのだ。
国木田君、今どんな顔をしているのかな。
確かめたかったけれど、腕の力は緩みそうにない。只、視界の端に見えたのは朱が灯っている耳殻。きっと顔も真っ赤になっているに違いない。そんな彼が可愛い。
「私も、国木田君が好きだよ。大好き」
やがて愛の言葉だけでは足りなくなる。
囁き交わす愛の言語は、今度は官能の言語へと翻訳される。この言葉は私と彼にしか通じない、身体の言語でもある。ふたりで少しずつ織り上げ、微妙なニュアンスを持つ言葉ひとつひとつを躰に記憶して、それらを駆使して私達は愛し合う。そうしてまた官能の言語は深く、深く、編まれていく。
今夜も、また。
口とは不思議な器官だ。言葉を発して誰かとコミュニケーションをとったり、生命維持に必要な食べ物の入口でもある。息を吐いたり吸ったりと云う機能も兼ね備えている。それ以外にも、まだある。少し特殊な、特別な使い方が。
私は目の前にある口――唇を見詰める。
形の佳い薄いその唇の持ち主は自らのそれを使って私を愛する。そう、口と云う器官は人を愛する器官でもあるのだ。私は彼を― ―国木田君を知るまで、そんな極当たり前の、とても単純なことを失念していた。
「……国木田君……」
目を薄く伏せれば、彼の気配が濃くなる。唇が静かに近付いてくるのが解る。唇が合わさる直前に頬をそっと撫でるのは彼の癖。やがてそれは合図と成り変わる。
唇を触れ合わせて柔らかな熱を享受する。あまり厚みがないのに彼の唇はとても柔らかくて、優しい。寒い季節になると少しかさつくそれも何だか彼らしくて好きだ。
唇が離れてゆっくりと目蓋を開ける。
目の前で国木田君が淡く微笑んでいる。
それだけで胸がいっぱいになってしまう。
「……好きだ」
ぎゅっと抱き締められて耳元で密やかに告げる愛の言葉。私も彼の背中に腕を回して抱き返す。すると「……俺には、云ってはくれないのか」ぽそりと声が落ちる。何処か恥ずかしそうな声音に胸の奥がきゅんとする。この『きゅん』はきっと『愛しさ』が生まれる音なのだ。
国木田君、今どんな顔をしているのかな。
確かめたかったけれど、腕の力は緩みそうにない。只、視界の端に見えたのは朱が灯っている耳殻。きっと顔も真っ赤になっているに違いない。そんな彼が可愛い。
「私も、国木田君が好きだよ。大好き」
やがて愛の言葉だけでは足りなくなる。
囁き交わす愛の言語は、今度は官能の言語へと翻訳される。この言葉は私と彼にしか通じない、身体の言語でもある。ふたりで少しずつ織り上げ、微妙なニュアンスを持つ言葉ひとつひとつを躰に記憶して、それらを駆使して私達は愛し合う。そうしてまた官能の言語は深く、深く、編まれていく。
今夜も、また。