戀―REN―
彼は昔の彼ならず
赤信号に引っ掛かって安吾は静かに車を停止させた。ふぅと息を吐いて背凭れに身を預け、腕時計を一瞥する。約束の時間まで残り十分を切っていることを知って苛立たしげに握ったステアリングを指先で叩きながら、早く信号が切り替わらないかと前方を見た。と、安吾は目を見開いた。横断する人群れの中に見知った顔を見つけたから。
「……太宰君」
思わず呟いて通り過ぎる彼を目で追った。太宰は独りではなかった。彼の半歩先を行くようにして連れ立っていたのは、これまた見知った顔の国木田であった。
ふたりは非番なのか私服姿であった。太宰は楽しそうに明るい笑みを浮かべて何やら国木田に話かけている。国木田も満更ではなさそうな顔付きで。
珍しいものを見たと思っていると、ふたりが手を繋いでいることに気が付いた。
安吾は悟った。彼等の関係性を。同僚、相棒、友人以上の関係であることを。
太宰の笑顔が安吾を仕舞い込んだ記憶の奥へと連れていく。だけれども、其処にある彼の残像は今し方見たそれとは比べものにならなかった。麗らかな陽射しの中を恋人と歩く太宰の表情が酷く幸せそうであったから。
「……太宰君は、あんなふうに笑うようになったんですね」
きっと自分は友人として彼の隣に立つことはもう望めないであろう。それも仕方のないことだと思っていた。
でも。
「貴方が少しだけ羨ましいですよ、国木田さん」
通り過ぎていくふたりを何か眩しいものを見るように目を細めて、誰に云うでもなく、そっと安吾は呟くのだった。
赤信号に引っ掛かって安吾は静かに車を停止させた。ふぅと息を吐いて背凭れに身を預け、腕時計を一瞥する。約束の時間まで残り十分を切っていることを知って苛立たしげに握ったステアリングを指先で叩きながら、早く信号が切り替わらないかと前方を見た。と、安吾は目を見開いた。横断する人群れの中に見知った顔を見つけたから。
「……太宰君」
思わず呟いて通り過ぎる彼を目で追った。太宰は独りではなかった。彼の半歩先を行くようにして連れ立っていたのは、これまた見知った顔の国木田であった。
ふたりは非番なのか私服姿であった。太宰は楽しそうに明るい笑みを浮かべて何やら国木田に話かけている。国木田も満更ではなさそうな顔付きで。
珍しいものを見たと思っていると、ふたりが手を繋いでいることに気が付いた。
安吾は悟った。彼等の関係性を。同僚、相棒、友人以上の関係であることを。
太宰の笑顔が安吾を仕舞い込んだ記憶の奥へと連れていく。だけれども、其処にある彼の残像は今し方見たそれとは比べものにならなかった。麗らかな陽射しの中を恋人と歩く太宰の表情が酷く幸せそうであったから。
「……太宰君は、あんなふうに笑うようになったんですね」
きっと自分は友人として彼の隣に立つことはもう望めないであろう。それも仕方のないことだと思っていた。
でも。
「貴方が少しだけ羨ましいですよ、国木田さん」
通り過ぎていくふたりを何か眩しいものを見るように目を細めて、誰に云うでもなく、そっと安吾は呟くのだった。