戀―REN―
沈「 」黙
太宰と国木田はうずまきで昼休憩中だった。昼時とあって店内は程良く混雑し、来店客の控えめな話声が寛いだ雰囲気を漂わせていた。彼等は丁度食事を終えたところで、夫々 白い陶器に注がれた珈琲に口を付けていた。国木田は愛用の手帳を広げて午後の業務の確認に余念がなく、一方太宰は右手にある窓に視線を投げてぼんやりと往来を眺めていた。
今日も善く晴れてはいるがヨコハマを照る白い陽射しがとても寒そうだった。休憩の後は相棒と外回りだったなと思い出して僅かに瘦身を竦めた。と、その拍子に脚が向かいに座る国木田の脚にぶつかった。あ、ごめん――反射的に口を突いて出ようとする言葉の代わりに太宰は口元に薄笑みを浮かべて、正面にある端正な顔を見詰めながら、すぅと自身の脚で彼の長い脚をなぞり上げた。緩慢なその動作は酷く意味深長であった。
国木田は僅かに目を見開いてカップに伸ばしかけた手を卓子 の上に置くと悪戯っぽく目を細めている相棒を凝視した。開きかけた形の佳い薄い唇は惑いに封じられて、不可解に鋭い目を瞬かせる。
太宰は一口、珈琲を飲んでカップを手放す。陶器を充たす漆黒の液体は半分程。
問いかけるように、謎を誘うように、片手で頬杖をついて、もう一方の白い手を卓子の上に置く。すると眼鏡の奥にある月色の瞳が刹那、熱を帯びて太宰を捉えた。
国木田は無造作に置かれた恋人の左手に自身の右手を重ねると、そっと包み込んでゆっくりと撫でた。
その動作は太宰が仕掛けた悪戯に対する解答であった。
覚えのある大きな手の触れ方に目許を淡く染めて視線を外し、細く息を吐き出す。やられた――そんな言葉が目に見えるようだ。
国木田は目の奥で笑いながら取り澄まして、残りの珈琲を飲み干した。
――彼と共に夜を過ごすことを思いながら。
太宰と国木田はうずまきで昼休憩中だった。昼時とあって店内は程良く混雑し、来店客の控えめな話声が寛いだ雰囲気を漂わせていた。彼等は丁度食事を終えたところで、
今日も善く晴れてはいるがヨコハマを照る白い陽射しがとても寒そうだった。休憩の後は相棒と外回りだったなと思い出して僅かに瘦身を竦めた。と、その拍子に脚が向かいに座る国木田の脚にぶつかった。あ、ごめん――反射的に口を突いて出ようとする言葉の代わりに太宰は口元に薄笑みを浮かべて、正面にある端正な顔を見詰めながら、すぅと自身の脚で彼の長い脚をなぞり上げた。緩慢なその動作は酷く意味深長であった。
国木田は僅かに目を見開いてカップに伸ばしかけた手を
太宰は一口、珈琲を飲んでカップを手放す。陶器を充たす漆黒の液体は半分程。
問いかけるように、謎を誘うように、片手で頬杖をついて、もう一方の白い手を卓子の上に置く。すると眼鏡の奥にある月色の瞳が刹那、熱を帯びて太宰を捉えた。
国木田は無造作に置かれた恋人の左手に自身の右手を重ねると、そっと包み込んでゆっくりと撫でた。
その動作は太宰が仕掛けた悪戯に対する解答であった。
覚えのある大きな手の触れ方に目許を淡く染めて視線を外し、細く息を吐き出す。やられた――そんな言葉が目に見えるようだ。
国木田は目の奥で笑いながら取り澄まして、残りの珈琲を飲み干した。
――彼と共に夜を過ごすことを思いながら。