高杉晋助
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天が高い。
夜空の上を漂う船から下を見れば、街の光が米粒に見える高さでも、星が瞬いているのが見える。地上よりも近いが、手を伸ばしても届きそうには無い。
流れる星が消える前に三回、心の中で願いを唱えれば願いが叶うと話していたのを聞いた。
願い事、と考えて浮かんだのは、晋助さんの顔だった。私自身より、晋助さんを優先しているのに自分の事ながら少し、笑ってしまった。
「星を眺めるのが趣味だとは知らなかった」
星の瞬きから晋助さんへと視線を向ける。横にいる彼は、変わらず煙管をゆったりと吹かしていた。
空に浮かんでいる時、たまにこうして過ごすのがお決まりになっていた。兵法書を読み戦略について学ぶ私の横で、晋助さんは静かに煙管を吸う。
ただ今日は、兵法書は私の膝の上で閉じられたまま、窓の傍で流れる星を眺めていた。
「晋助さんは、流れる星が消える前に願い事を三回すると叶うという話を知っていますか?」
あァと、納得したように返事をした彼は空を見上げた。
「星に願わないといけねぇ程、難解な願いとは、本当に神様がいりゃ、叶えるのも大変だろうなァ」
晋助さんの押し殺した笑いが響く。
「で、何を願った」
「え、ええっと……」
晋助さんの事です、と出かかって呑み込む。彼はきっと、私の願いを聞いてもきっと喜びはしない。
なんと返そうか。まだ何も思いついていない、とでも言っておけば良かった。
煙管を吸う口から煙が吐き出される。時間が経つほど、なんでもないですとは言いづらい。煙がくゆる先、立ち上る葉の苦い香りを感じてみたいと思った。
「それを、吸ってみたいです」
「……そりゃあ大層な願いだ」
驚きで右目が開いたのも一瞬のことで、すぐに戻った瞳はコンコンッと灰吹に灰が落ちるのを見た。
そして、晋助さんの手がタバコの葉に伸びた。叶えてくれるのだろうか。慣れた手つきで小さく丸まった葉が、雁首へと詰め込まれる。
知らず知らず止まっていた息を吐き出す。無言で行われていた作業に見入ってしまっていた。
「…… ナマエ」
「はい」
とんとん、と普段の定位置を叩かれた。隣で吸い方を見ていろ、という事だろうか。彼の右側へ腰を下ろし、晋助さんの手元を見る。煙管の先端に火がともり、ゆっくりと一服。
そして、ふっ、とひと息、煙を吹きかけられた。
「ごほっごほっ」
避けられず、顔に直撃した。瞬間、頭の中は煙の香り一色になった。私が求めていたのはこの香りだ。くらり、と酔った気持ちになるのは、晋助さんの纏う香りだと認識してしまっているから。普段はこんなに意識しないのに、それはもう毒のように効力を持つ。
涙で滲む視界の向こうでは、突然の事に咳き込む私を横に、晋助さんは再び煙管を口に運ぶ。
「咳き込んでるようじゃまだ早ェな」
「ひ、卑怯ですよ」
誰だって、突然煙を吹きかけられれば咳き込む。小さく笑う彼に目で無言の抗議をするも、残る煙の向こうに逃げられてしまった。
「ナマエ」
確かめるように名前を呼ばれた。そして、伸びてくる晋助さんの手を見て、鼓動が早まっていくのが分かる。
骨ばった指で唇を撫でられる。これから触れるぞ、と宣言されているようで落ち着かない。煩い鼓動が聞こえてしまいそうだ。恥ずかしさからゆっくり目を閉じる。
燻された木の香りが近づいて、唇が重なった。熱とともに煙の微かな苦味。こんなに感じたことは無かった。
味わうような口付けは、私に晋助さんの香りを満たすのに充分な時間だったように思う。離れていく熱に、切なさを感じてしまったのは、胸を満たす苦味のせいなのかもしれない。
晋助さんは、こんなにも近くにいるのに。
「どうだ?お望みのコレの味は」
「……もう、充分です」
「そうか」
私の答えをどう受け取ったかは分からない。
煙管が置かれ、右肩に回った晋助さんの手に軽く引き寄せられた。
「他には無ェのか」
「他……」
「くくっ、なんだもう終ェか」
案外欲がねぇな、と小さく笑った彼の声。本当にもうそれで充分だった。
お返しに私も晋助さんの願いを叶えたい。国をひっくり返せるほどの強大な力など持っていないけど、少しでも何か力になれればいい。
「晋助さんは、その……。私に叶えられることはありますか」
「そうさなァ……。星の神様とやらに夢中になってたお前を、こうして手前に夢中にさせられたんだ。今はそれで充分だ」
確かめるように手を握られる。そこから伝わる体温と、落ち着く香り。ゆるりと眠気がやってきた。
願わくば、この時間が永遠に続きますように。流れた星を見送って、そう思った。
2026.2.28
夜空の上を漂う船から下を見れば、街の光が米粒に見える高さでも、星が瞬いているのが見える。地上よりも近いが、手を伸ばしても届きそうには無い。
流れる星が消える前に三回、心の中で願いを唱えれば願いが叶うと話していたのを聞いた。
願い事、と考えて浮かんだのは、晋助さんの顔だった。私自身より、晋助さんを優先しているのに自分の事ながら少し、笑ってしまった。
「星を眺めるのが趣味だとは知らなかった」
星の瞬きから晋助さんへと視線を向ける。横にいる彼は、変わらず煙管をゆったりと吹かしていた。
空に浮かんでいる時、たまにこうして過ごすのがお決まりになっていた。兵法書を読み戦略について学ぶ私の横で、晋助さんは静かに煙管を吸う。
ただ今日は、兵法書は私の膝の上で閉じられたまま、窓の傍で流れる星を眺めていた。
「晋助さんは、流れる星が消える前に願い事を三回すると叶うという話を知っていますか?」
あァと、納得したように返事をした彼は空を見上げた。
「星に願わないといけねぇ程、難解な願いとは、本当に神様がいりゃ、叶えるのも大変だろうなァ」
晋助さんの押し殺した笑いが響く。
「で、何を願った」
「え、ええっと……」
晋助さんの事です、と出かかって呑み込む。彼はきっと、私の願いを聞いてもきっと喜びはしない。
なんと返そうか。まだ何も思いついていない、とでも言っておけば良かった。
煙管を吸う口から煙が吐き出される。時間が経つほど、なんでもないですとは言いづらい。煙がくゆる先、立ち上る葉の苦い香りを感じてみたいと思った。
「それを、吸ってみたいです」
「……そりゃあ大層な願いだ」
驚きで右目が開いたのも一瞬のことで、すぐに戻った瞳はコンコンッと灰吹に灰が落ちるのを見た。
そして、晋助さんの手がタバコの葉に伸びた。叶えてくれるのだろうか。慣れた手つきで小さく丸まった葉が、雁首へと詰め込まれる。
知らず知らず止まっていた息を吐き出す。無言で行われていた作業に見入ってしまっていた。
「…… ナマエ」
「はい」
とんとん、と普段の定位置を叩かれた。隣で吸い方を見ていろ、という事だろうか。彼の右側へ腰を下ろし、晋助さんの手元を見る。煙管の先端に火がともり、ゆっくりと一服。
そして、ふっ、とひと息、煙を吹きかけられた。
「ごほっごほっ」
避けられず、顔に直撃した。瞬間、頭の中は煙の香り一色になった。私が求めていたのはこの香りだ。くらり、と酔った気持ちになるのは、晋助さんの纏う香りだと認識してしまっているから。普段はこんなに意識しないのに、それはもう毒のように効力を持つ。
涙で滲む視界の向こうでは、突然の事に咳き込む私を横に、晋助さんは再び煙管を口に運ぶ。
「咳き込んでるようじゃまだ早ェな」
「ひ、卑怯ですよ」
誰だって、突然煙を吹きかけられれば咳き込む。小さく笑う彼に目で無言の抗議をするも、残る煙の向こうに逃げられてしまった。
「ナマエ」
確かめるように名前を呼ばれた。そして、伸びてくる晋助さんの手を見て、鼓動が早まっていくのが分かる。
骨ばった指で唇を撫でられる。これから触れるぞ、と宣言されているようで落ち着かない。煩い鼓動が聞こえてしまいそうだ。恥ずかしさからゆっくり目を閉じる。
燻された木の香りが近づいて、唇が重なった。熱とともに煙の微かな苦味。こんなに感じたことは無かった。
味わうような口付けは、私に晋助さんの香りを満たすのに充分な時間だったように思う。離れていく熱に、切なさを感じてしまったのは、胸を満たす苦味のせいなのかもしれない。
晋助さんは、こんなにも近くにいるのに。
「どうだ?お望みのコレの味は」
「……もう、充分です」
「そうか」
私の答えをどう受け取ったかは分からない。
煙管が置かれ、右肩に回った晋助さんの手に軽く引き寄せられた。
「他には無ェのか」
「他……」
「くくっ、なんだもう終ェか」
案外欲がねぇな、と小さく笑った彼の声。本当にもうそれで充分だった。
お返しに私も晋助さんの願いを叶えたい。国をひっくり返せるほどの強大な力など持っていないけど、少しでも何か力になれればいい。
「晋助さんは、その……。私に叶えられることはありますか」
「そうさなァ……。星の神様とやらに夢中になってたお前を、こうして手前に夢中にさせられたんだ。今はそれで充分だ」
確かめるように手を握られる。そこから伝わる体温と、落ち着く香り。ゆるりと眠気がやってきた。
願わくば、この時間が永遠に続きますように。流れた星を見送って、そう思った。
2026.2.28
