志村新八
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667訓後(2年後)
江戸の街を歩くのは約一年半ぶりになる。
一年半前のあの出来事で、家と父が経営していたお店がほとんど全壊してしまった私たち家族は、母の親戚がいる京に身を寄せていた。町の復興も手伝いたかったけど、まずは自分たちの生活を第一に、という父の言葉で慣れない土地でしばらく生活していた。
それでも江戸でもう一度お店を開きたいと父の希望で、江戸の町に戻ってこられた。これから必要なものは、やる気と前向きな気持ちだ。
歩いていたら新八くんに会えるかもしれない。万事屋として働いていた彼は町中で見かけることも多々あった。手紙のやり取りを頼めば良かったと思ってしまったくらい、私は新八くんのことが気になっている、らしい。
離れてから自覚してしまうのはなんだか悔しい。今からでも大丈夫かな。一年以上経っていれば、彼女とか。そこまで考えて、頭を振る。不確定なことを考えて暗くなるのは駄目だ。まずは、本人に聞いてみないと始まらない。雲ひとつない空の下で、冷えた空気を大きく吸い込んだ。
活気ある江戸の風景をあっちこっちと見ながら歩く。でもそれが良くなかった。ドンっと体格の良い身体にぶつかってよろける。
「す、すみません」
反射的に謝りながら顔をあげると、ぶつかってしまったのは二人組の男の一人だった。彼らは顔を見合わせると、私の行く先を阻むように立ち、鋭い目で私を見下ろす。一瞬にして恐怖で心が塗り固められた。
「おいおい、嬢ちゃん。すみませんですんだら警察はいらねぇんだよ」
「そうそう。ホントに悪いって思ってんなら、わかるよな」
「っ!」
横暴な物言いに反論も出来なくて、短く呼吸が吐き出されるだけ。私の手を捉えようとした男の手が、横から伸びてきた手に阻まれた。裾口に雲が漂う白地の着物が、ふわりとはためく。
坂田銀時。その名前が頭の中ですぐに出てきて、でも、その人ではないとすぐに否定する。記憶の中とは違う黒髪が風で揺れた。
「みっともないですよ。ひとりの女性に寄ってたかって」
「あァ? お前には関係ないだろ」
「関係ない? 確かにそうかもしれません。でも、困ってる人がいたら勝手に手を貸すのが万事屋です」
淡々とした声色が男たちを制する。安心感からか、じわっと目尻に涙が溜まった。間違いない。彼は志村新八。かつてお世話になった万事屋の一員で、私がずっと会いたかった人。
「し、」
新八くん、と彼を呼ぶ声は上手く出なくて、口で形を作るだけで終わった。
チラッと肩越しに私を見た目は驚きで一瞬、見開かれた。そしてすぐ、男たちの視線から隠すように壁になってくれる。
「……それに彼女は、僕の大切な人です」
甘く痺れるように心臓が跳ねた。じわっと頬に熱が集まるのが分かる。そんな場合じゃないのに。短く息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。
苛立ちを隠してきれていない男たちは、腰に刺していた刀を抜く。
「それなら、代わりに詫びてもらわねェとなっ!」
振り上げられた刀を避けながら、木刀で背中への一撃。それ受けて倒れる男の後ろから、別の男が斬りかかってくるのが見えた。
「後ろ!」
叫ぶよりも早く、新八くんは男の手の甲を打ち、刀が軽い音を立てて落ちる。怯んだその隙に、脇腹に木刀を叩き込んでいた。男は呻きながら仲間と共に地面に倒れ込んだ。
緊張していた空気が緩む。深く息を吐いて、木刀を腰にさす新八くんに話しかけようとしたその時、倒れ伏した男たちの近くにしゃがみ込む男が現れた。
「オレらの仲間と楽しく遊んでくれたみてェだな」
下卑た笑いを浮かべる男の後ろに、数人の男たちが集まってきた。わらわらと個から集団になっていくのを見ていると、半歩後ずさりした新八くんの大きな手が私の手首を掴む。
「す、すンませんでしたァアアアア!!」
力強く手を引かれて、男たちの間をすり抜ける。もつれそうになる足をなんとか動かして、必死に新八くんの背中を追いかける。
「待てコラァ!!」
「捕まえろ!!」
男たちの足音が追いかけてくる。追われている緊張のせいか、手汗で手首からずるっと滑った手は、手を繋ぐ形に収まった。本来なら怖いはずなのに、その気持ちがあまり無いことに気がついた。ぎゅっと握られた手のぬくもりと、知らないうちに逞しくなった、なりすぎた背中に安心感を貰ったからかもしれない。
息も絶え絶えに路地裏に入り、右へ左へ曲がり角を利用して撒く。地面の上を駆ける足音は、曲がる度に少しずつ減っていくように感じた。時には表へ出て、また路地裏へ。何度か繰り返してようやく、私たちの足が止まった。
陽の光が差す路地で、新八くんが表の様子を確認してくれている間に息を整える。こんなに走ったのは久しぶりだ。冷えた空気が肺と頭にも回ってようやく、落ち着いてきた。
なにはともあれ、お礼を伝えたい。それから、久しぶりに会えて嬉しいってことも。
「さっきの人達は、もう追ってきてないみたい」
「確認してくれてありがとう。……新八くん、だよね。久しぶり」
彼の目を見ようと顔を上にして思う。こんなに背、高かったかな。前に会った時はそこまで顔を上げなかった気がする。記憶よりも伸びた身長も、髪も私の心を揺らすのに充分過ぎた。
「うん。ナマエちゃん、久しぶり」
「助けてくれてありがとう」
「いや……。結局、逃げ出しちゃったし」
目を逸らしながら、気まずさを誤魔化すようにメガネのブリッジをあげた。逃げ出した、とは私は思わなかった。私が肩を並べて戦えてたら、そんな顔させずにすんだのかな。無力さに歯痒い思いをしながら、それでも安心してほしくて彼に向かって、笑って両腕を軽く広げる。
「逃げた、なんて思ってないよ。新八くんに護ってもらったもの。ほら、私、傷一つない」
両手をぐっぱーと握って開いて、動くことを見せた後、その場でくるっと回転してみせる。
「それなら良かった。本当に」
私を目で追っていた新八くんは、ようやく安心した顔を見せてくれた。とくんと、穏やかにでも力強く鼓動が高鳴る。
そして、今更ながら思い出した。さっき男たちの間に入ってくれた時に彼が言っていた僕の大切な人、というフレーズのことを。場違いに感情が昂り始める。状況を考えろ、と自身にツッコミをいれるけど、一度早まった鼓動はすぐには落ち着きそうにない。
聞いてもいいのかな。どういう意味で言ったのか。聞く想像をするだけで、鼓動が痛くてうるさい。どう切り出そうか言葉を探していると、新八くんの方から話し始めた。
「しばらくは大きな通りを歩いた方がいいよ」
「あ、うん。そうするね」
「うん。……じゃあ、僕はこれで」
「まっ、待って!」
路地から出ていこうとする背中を見て、思わず手首を掴む。このまま別れてしまいたくないと思った。逃げていた時とは立場が逆だ。
お互いに視線が重なる。引き止めておいて、何も言わない私を、不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返す目が見た。引き止めた理由を今すぐに絞り出さないといけない。何も考えていない頭を必死に働かせる。そして、新八くんとまた会えて、話す時間も取れる案を思いつく。
「万事屋さんに依頼してもいいかな?」
「……うん。僕にできることなら」
伏せた新八くんの目の中から寂しさを感じた気がした。どうしてそんな顔をするんだろう。言わなかった方が良かったのかもしれない。
でも、依頼をする事を撤回するのも変に映ってしまう。私は気づかないフリをして、新八くんに笑みを向ける。
「今度、今の江戸の街を案内して欲しいの。今日、助けてもらったお礼も兼ねて、ご飯も一緒に。……どうかな?」
これなら一緒にいられる時間も確保できるし、ゆっくりお話だってできるはずだ。
「そっ、それって、デッ……! いやいやいや、これは依頼……」
ブツブツと何か呟き始めてしまった、新八くんの頬がぼっと赤く染まっていくのが見えた。私の知っている顔だ。助けてくれた時のかっこいい姿も、真剣な顔も見たことはあったけど、馴染み深く感じるのはこっち。江戸に帰ってきたんだと改めて実感した。
「ナマエちゃんがいいなら、明日にでも」
「本当!? ありがとう、新八くん!」
嬉しさのあまり口元が緩む。明日のことを考えると、飛んでいってしまえるくらいに舞い上がっている。
「送るよ。歩きながら明日のことを話そう」
「うん。お願いします」
路地裏から出て、頭の上に広がる青空と穏やかな陽気に目を細める。明日もこんな天気だったらいいな。楽しみと期待感を胸に新八くんと並んで歩き始めた。
2025.12.13
江戸の街を歩くのは約一年半ぶりになる。
一年半前のあの出来事で、家と父が経営していたお店がほとんど全壊してしまった私たち家族は、母の親戚がいる京に身を寄せていた。町の復興も手伝いたかったけど、まずは自分たちの生活を第一に、という父の言葉で慣れない土地でしばらく生活していた。
それでも江戸でもう一度お店を開きたいと父の希望で、江戸の町に戻ってこられた。これから必要なものは、やる気と前向きな気持ちだ。
歩いていたら新八くんに会えるかもしれない。万事屋として働いていた彼は町中で見かけることも多々あった。手紙のやり取りを頼めば良かったと思ってしまったくらい、私は新八くんのことが気になっている、らしい。
離れてから自覚してしまうのはなんだか悔しい。今からでも大丈夫かな。一年以上経っていれば、彼女とか。そこまで考えて、頭を振る。不確定なことを考えて暗くなるのは駄目だ。まずは、本人に聞いてみないと始まらない。雲ひとつない空の下で、冷えた空気を大きく吸い込んだ。
活気ある江戸の風景をあっちこっちと見ながら歩く。でもそれが良くなかった。ドンっと体格の良い身体にぶつかってよろける。
「す、すみません」
反射的に謝りながら顔をあげると、ぶつかってしまったのは二人組の男の一人だった。彼らは顔を見合わせると、私の行く先を阻むように立ち、鋭い目で私を見下ろす。一瞬にして恐怖で心が塗り固められた。
「おいおい、嬢ちゃん。すみませんですんだら警察はいらねぇんだよ」
「そうそう。ホントに悪いって思ってんなら、わかるよな」
「っ!」
横暴な物言いに反論も出来なくて、短く呼吸が吐き出されるだけ。私の手を捉えようとした男の手が、横から伸びてきた手に阻まれた。裾口に雲が漂う白地の着物が、ふわりとはためく。
坂田銀時。その名前が頭の中ですぐに出てきて、でも、その人ではないとすぐに否定する。記憶の中とは違う黒髪が風で揺れた。
「みっともないですよ。ひとりの女性に寄ってたかって」
「あァ? お前には関係ないだろ」
「関係ない? 確かにそうかもしれません。でも、困ってる人がいたら勝手に手を貸すのが万事屋です」
淡々とした声色が男たちを制する。安心感からか、じわっと目尻に涙が溜まった。間違いない。彼は志村新八。かつてお世話になった万事屋の一員で、私がずっと会いたかった人。
「し、」
新八くん、と彼を呼ぶ声は上手く出なくて、口で形を作るだけで終わった。
チラッと肩越しに私を見た目は驚きで一瞬、見開かれた。そしてすぐ、男たちの視線から隠すように壁になってくれる。
「……それに彼女は、僕の大切な人です」
甘く痺れるように心臓が跳ねた。じわっと頬に熱が集まるのが分かる。そんな場合じゃないのに。短く息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。
苛立ちを隠してきれていない男たちは、腰に刺していた刀を抜く。
「それなら、代わりに詫びてもらわねェとなっ!」
振り上げられた刀を避けながら、木刀で背中への一撃。それ受けて倒れる男の後ろから、別の男が斬りかかってくるのが見えた。
「後ろ!」
叫ぶよりも早く、新八くんは男の手の甲を打ち、刀が軽い音を立てて落ちる。怯んだその隙に、脇腹に木刀を叩き込んでいた。男は呻きながら仲間と共に地面に倒れ込んだ。
緊張していた空気が緩む。深く息を吐いて、木刀を腰にさす新八くんに話しかけようとしたその時、倒れ伏した男たちの近くにしゃがみ込む男が現れた。
「オレらの仲間と楽しく遊んでくれたみてェだな」
下卑た笑いを浮かべる男の後ろに、数人の男たちが集まってきた。わらわらと個から集団になっていくのを見ていると、半歩後ずさりした新八くんの大きな手が私の手首を掴む。
「す、すンませんでしたァアアアア!!」
力強く手を引かれて、男たちの間をすり抜ける。もつれそうになる足をなんとか動かして、必死に新八くんの背中を追いかける。
「待てコラァ!!」
「捕まえろ!!」
男たちの足音が追いかけてくる。追われている緊張のせいか、手汗で手首からずるっと滑った手は、手を繋ぐ形に収まった。本来なら怖いはずなのに、その気持ちがあまり無いことに気がついた。ぎゅっと握られた手のぬくもりと、知らないうちに逞しくなった、なりすぎた背中に安心感を貰ったからかもしれない。
息も絶え絶えに路地裏に入り、右へ左へ曲がり角を利用して撒く。地面の上を駆ける足音は、曲がる度に少しずつ減っていくように感じた。時には表へ出て、また路地裏へ。何度か繰り返してようやく、私たちの足が止まった。
陽の光が差す路地で、新八くんが表の様子を確認してくれている間に息を整える。こんなに走ったのは久しぶりだ。冷えた空気が肺と頭にも回ってようやく、落ち着いてきた。
なにはともあれ、お礼を伝えたい。それから、久しぶりに会えて嬉しいってことも。
「さっきの人達は、もう追ってきてないみたい」
「確認してくれてありがとう。……新八くん、だよね。久しぶり」
彼の目を見ようと顔を上にして思う。こんなに背、高かったかな。前に会った時はそこまで顔を上げなかった気がする。記憶よりも伸びた身長も、髪も私の心を揺らすのに充分過ぎた。
「うん。ナマエちゃん、久しぶり」
「助けてくれてありがとう」
「いや……。結局、逃げ出しちゃったし」
目を逸らしながら、気まずさを誤魔化すようにメガネのブリッジをあげた。逃げ出した、とは私は思わなかった。私が肩を並べて戦えてたら、そんな顔させずにすんだのかな。無力さに歯痒い思いをしながら、それでも安心してほしくて彼に向かって、笑って両腕を軽く広げる。
「逃げた、なんて思ってないよ。新八くんに護ってもらったもの。ほら、私、傷一つない」
両手をぐっぱーと握って開いて、動くことを見せた後、その場でくるっと回転してみせる。
「それなら良かった。本当に」
私を目で追っていた新八くんは、ようやく安心した顔を見せてくれた。とくんと、穏やかにでも力強く鼓動が高鳴る。
そして、今更ながら思い出した。さっき男たちの間に入ってくれた時に彼が言っていた僕の大切な人、というフレーズのことを。場違いに感情が昂り始める。状況を考えろ、と自身にツッコミをいれるけど、一度早まった鼓動はすぐには落ち着きそうにない。
聞いてもいいのかな。どういう意味で言ったのか。聞く想像をするだけで、鼓動が痛くてうるさい。どう切り出そうか言葉を探していると、新八くんの方から話し始めた。
「しばらくは大きな通りを歩いた方がいいよ」
「あ、うん。そうするね」
「うん。……じゃあ、僕はこれで」
「まっ、待って!」
路地から出ていこうとする背中を見て、思わず手首を掴む。このまま別れてしまいたくないと思った。逃げていた時とは立場が逆だ。
お互いに視線が重なる。引き止めておいて、何も言わない私を、不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返す目が見た。引き止めた理由を今すぐに絞り出さないといけない。何も考えていない頭を必死に働かせる。そして、新八くんとまた会えて、話す時間も取れる案を思いつく。
「万事屋さんに依頼してもいいかな?」
「……うん。僕にできることなら」
伏せた新八くんの目の中から寂しさを感じた気がした。どうしてそんな顔をするんだろう。言わなかった方が良かったのかもしれない。
でも、依頼をする事を撤回するのも変に映ってしまう。私は気づかないフリをして、新八くんに笑みを向ける。
「今度、今の江戸の街を案内して欲しいの。今日、助けてもらったお礼も兼ねて、ご飯も一緒に。……どうかな?」
これなら一緒にいられる時間も確保できるし、ゆっくりお話だってできるはずだ。
「そっ、それって、デッ……! いやいやいや、これは依頼……」
ブツブツと何か呟き始めてしまった、新八くんの頬がぼっと赤く染まっていくのが見えた。私の知っている顔だ。助けてくれた時のかっこいい姿も、真剣な顔も見たことはあったけど、馴染み深く感じるのはこっち。江戸に帰ってきたんだと改めて実感した。
「ナマエちゃんがいいなら、明日にでも」
「本当!? ありがとう、新八くん!」
嬉しさのあまり口元が緩む。明日のことを考えると、飛んでいってしまえるくらいに舞い上がっている。
「送るよ。歩きながら明日のことを話そう」
「うん。お願いします」
路地裏から出て、頭の上に広がる青空と穏やかな陽気に目を細める。明日もこんな天気だったらいいな。楽しみと期待感を胸に新八くんと並んで歩き始めた。
2025.12.13