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すっかり日が落ちるのが早くなった気がする。つい最近まで万事屋を出る時は夕日が出ていたけど、今では月に変わっている。
そろそろ帰りますと腰を上げたところに、銀さんが長谷川さんと合流して呑みに行くと言う。酢昆布を咥えながらテレビを見ていた神楽ちゃんに見送られて、銀さんと万事屋を出た。
夜に輝くネオンが眩しい。銀さんと他愛ないことを話しながら、長谷川さんと合流して、ふらりと居酒屋が連なる道を歩く。
「今日はどこにする?」
「どっかテキトーに……あの赤提灯のとことかどうよ」
「海鮮!いいねェ」
「お店決めるのテキトーなんですね」
「まァ、女と行くってなりゃ、ちったァ考えるが、男二人だつたら空いてるところでいいんだよ」
「そうそう、銀さん相手に悩んだって仕方ねーや」
そういうものなのか。そういえばナマエさんとも呑むと聞いたことがある。まだお酒が呑めない僕からすればすごく羨ましいことだと思った。
「ンじゃ、気ィ付けて帰れよ」
「はい、お疲れ様です」
「銀さんが呑みすぎないように見張っとくよ」
「お願いします」
二人が店の引き戸を開くのを見て、帰路に着こうと背中を向けた時だった。
「お、ナマエ」
「あ、坂田さんと長谷川さんだ」
ガラガラと扉が閉まる途中で、銀さんと長谷川さんの名前を呼んだ声が聞こえて足がとまる。ナマエさんいるんだ。大人だから居酒屋にいてもおかしくは無い。だけど、と心に引っ掛かりができる。
誰かと一緒なんだろうか。男の人、とか。そう考えるとモヤモヤした気持ちが湧いてくる。誰といても僕には関係ないはずなのに。ため息がひとつこぼれた。
「まだ帰ってなかったのか」
「銀さん?」
先程、店の中に入っていった銀さんがもう出てきた。満席だったんだろうか。一緒に入っていった長谷川さんの姿が見えず首を傾げる。面倒くさそうな顔をした銀さんが親指でクイッと店を指した。
「丁度いい、ぱっつあん。お迎えのご指名だ」
「ご指名って、ここホストクラブじゃないんですから。というか、誰に」
「いいから」
言葉の途中で背中を押されて賑やかな店内に入る。柔らかなオレンジの照明に目を細めていると、扉のすぐ近くのカウンターから陽気な声が聞こえてきた。
「あ、ほんとに新八くんだ」
「ナマエさん、こ、こんばんは」
ひらひらと手を振るナマエさんは、いつから呑んでいるのか明らかに酔っている。そんな彼女にふわふわと柔らかい調子で名前を呼ばれて、ドキドキと心臓が早くなる。
いつもと少し違うだけで、こんなに落ち着かない気持ちになるのはなんでだろう。初めて見る顔だからだろうか。
落ち着かせるために少しナマエさんから視線を外すと、隣には長谷川さんが座っていて、陽気に枝豆を口にしていた。他に人がいないのを見るに、ナマエさんはひとりで呑んでいたみたいだ。他に男の人がいなくて良かった。ホッと胸を撫で下ろす。
「ここおいでよ」
トントンとナマエさんに椅子を叩かれた。魅力的なお誘いに乗っていいのか。悩んでいると銀さんに後ろから襟首を引っ張られる。
「テメーは帰ンの。新八いたら帰るって言ってただろ」
「いたらって言うか、もし迎えに来てくれるなら新八くんだったらいいなって」
「新八って……えェエエエエぼぼ僕ですか!?」
「お前以外に誰がいンだよ。メガネのオマケが二個いても困るだけだっつーの」
「誰がオマケだ!!」
銀さんにツッコミながらも、思考は別のところにも向いていた。迎えに来てくれるならってどういう意味だ。困惑する僕に長谷川さんが笑った。
「ナマエちゃん、だいぶ呑んでるみたいだからさ、そろそろ帰りなよって話してたんだよ」
「そしたら、コイツが新八くんが迎えに来てくれるなら帰るとか言い出しやがるから。一応店出たらまだ新八がいてよかったな、酔っ払い」
「坂田さんに言われたくないです」
「俺ァまだ酔ってねェよ。……ほら新八、送ってってやれよ」
「あ、は、はい。でも、なんで僕?」
「……頭の中でパッと浮かんだのがオマエで、深い意味なんてないんじゃねーの。そんなに気になるんならテメーで聞きゃいいだろ」
やれやれと言いたげに頭を搔く銀さんに、それ以上理由を聞いても無駄そうだ。銀さんたちを見て連想されたのが僕だったのかもしれない。
「まだ呑みたかったのに」
ボヤきながらもナマエさんは素直に支払いを始めた。彼女の荷物を持ってレジに向かう。そこそこの長さのレシートを受け取っていた。長谷川さんが言った通りだいぶ呑んでいたみたいだ。陽気に踊る後ろ髪を追って僕も店を出た。
秋の夜は少し肌寒い。いつもならそう思う気温だけど、今は違う。僕の左側には肩を貸したナマエさんがいる。肩に回された手を軽く握ったりとか、彼女の腰周りに腕を回してるとか。密着したところから沸き立つような熱が身体を駆け巡った。
相手は酔っていて、酔っぱらいの対応なんて姉上や銀さんで慣れている。だから変に意識したらダメだ。ナマエさんは明日には記憶は無いかもしれないのに。
ふらっと身体が揺れたナマエさんの身体をしっかり支える。ふふふ、と楽しそうに微笑む彼女はやっぱりただの酔っぱらいだ。意識しすぎるな。そう自分に言い聞かせて、介抱することに集中する。
「呑みすぎですよ」
「そんなに呑んでないよ」
「呑んでる人はみんなそう言います」
「いじわる」
今のナマエさんの思考がふわふわしてるのは分かった。だからって、ずるい、可愛すぎる。電灯の灯りだけで良かった。今の僕の顔はとても見られたものじゃない。顔の火照りを冷ましたい。
「どうして、そんなになるまで呑んでたんですか」
「美味しいご飯とお酒って最高の組み合わせなんだ。たまにある自分へのご褒美の日」
「ヘェ、いいですね」
ぽつぽつと話しながら歩く。点々と連なる電灯のひとつの下で、ナマエさんがゆるりと足を止めた。そして、ふわっとアルコールの香りが近づく。首が少しくすぐったい。
「ナマエさん!?どどどどうかしましたか?」
予想外すぎるスキンシップに心臓が暴れ始めた。今日は本当にいくつ心臓があっても持たない。
「新八くんは……」
喧騒から離れた夜道で彼女の声がすんなり耳に入る。顔が見えないから、彼女の様子は分からない。数秒、待ってみてもナマエさんの言葉の続きは出てこない。
「ナマエさん?」
「ううん、なんでもない。……お酒呑めるようになったら、一緒に呑もうね」
ようやく上げられた顔は、アルコールのせいか別の理由があるのか頬が赤い。何を言うつもりだったんだろう。
「はい、もちろん。……その時は何を言うつもりだったか教えて貰ってもいいですか」
「うん。……覚えてたらね」
「ず、ずるい!」
楽しそうに笑う声。これだから酔っぱらいは、と肩が落ちる。
もし酔って記憶が無くなってても僕はこの夜のことを忘れない。月に照らされて伸びる二人重なった影はしっかりと僕の記憶に残った。
2025.10.16
そろそろ帰りますと腰を上げたところに、銀さんが長谷川さんと合流して呑みに行くと言う。酢昆布を咥えながらテレビを見ていた神楽ちゃんに見送られて、銀さんと万事屋を出た。
夜に輝くネオンが眩しい。銀さんと他愛ないことを話しながら、長谷川さんと合流して、ふらりと居酒屋が連なる道を歩く。
「今日はどこにする?」
「どっかテキトーに……あの赤提灯のとことかどうよ」
「海鮮!いいねェ」
「お店決めるのテキトーなんですね」
「まァ、女と行くってなりゃ、ちったァ考えるが、男二人だつたら空いてるところでいいんだよ」
「そうそう、銀さん相手に悩んだって仕方ねーや」
そういうものなのか。そういえばナマエさんとも呑むと聞いたことがある。まだお酒が呑めない僕からすればすごく羨ましいことだと思った。
「ンじゃ、気ィ付けて帰れよ」
「はい、お疲れ様です」
「銀さんが呑みすぎないように見張っとくよ」
「お願いします」
二人が店の引き戸を開くのを見て、帰路に着こうと背中を向けた時だった。
「お、ナマエ」
「あ、坂田さんと長谷川さんだ」
ガラガラと扉が閉まる途中で、銀さんと長谷川さんの名前を呼んだ声が聞こえて足がとまる。ナマエさんいるんだ。大人だから居酒屋にいてもおかしくは無い。だけど、と心に引っ掛かりができる。
誰かと一緒なんだろうか。男の人、とか。そう考えるとモヤモヤした気持ちが湧いてくる。誰といても僕には関係ないはずなのに。ため息がひとつこぼれた。
「まだ帰ってなかったのか」
「銀さん?」
先程、店の中に入っていった銀さんがもう出てきた。満席だったんだろうか。一緒に入っていった長谷川さんの姿が見えず首を傾げる。面倒くさそうな顔をした銀さんが親指でクイッと店を指した。
「丁度いい、ぱっつあん。お迎えのご指名だ」
「ご指名って、ここホストクラブじゃないんですから。というか、誰に」
「いいから」
言葉の途中で背中を押されて賑やかな店内に入る。柔らかなオレンジの照明に目を細めていると、扉のすぐ近くのカウンターから陽気な声が聞こえてきた。
「あ、ほんとに新八くんだ」
「ナマエさん、こ、こんばんは」
ひらひらと手を振るナマエさんは、いつから呑んでいるのか明らかに酔っている。そんな彼女にふわふわと柔らかい調子で名前を呼ばれて、ドキドキと心臓が早くなる。
いつもと少し違うだけで、こんなに落ち着かない気持ちになるのはなんでだろう。初めて見る顔だからだろうか。
落ち着かせるために少しナマエさんから視線を外すと、隣には長谷川さんが座っていて、陽気に枝豆を口にしていた。他に人がいないのを見るに、ナマエさんはひとりで呑んでいたみたいだ。他に男の人がいなくて良かった。ホッと胸を撫で下ろす。
「ここおいでよ」
トントンとナマエさんに椅子を叩かれた。魅力的なお誘いに乗っていいのか。悩んでいると銀さんに後ろから襟首を引っ張られる。
「テメーは帰ンの。新八いたら帰るって言ってただろ」
「いたらって言うか、もし迎えに来てくれるなら新八くんだったらいいなって」
「新八って……えェエエエエぼぼ僕ですか!?」
「お前以外に誰がいンだよ。メガネのオマケが二個いても困るだけだっつーの」
「誰がオマケだ!!」
銀さんにツッコミながらも、思考は別のところにも向いていた。迎えに来てくれるならってどういう意味だ。困惑する僕に長谷川さんが笑った。
「ナマエちゃん、だいぶ呑んでるみたいだからさ、そろそろ帰りなよって話してたんだよ」
「そしたら、コイツが新八くんが迎えに来てくれるなら帰るとか言い出しやがるから。一応店出たらまだ新八がいてよかったな、酔っ払い」
「坂田さんに言われたくないです」
「俺ァまだ酔ってねェよ。……ほら新八、送ってってやれよ」
「あ、は、はい。でも、なんで僕?」
「……頭の中でパッと浮かんだのがオマエで、深い意味なんてないんじゃねーの。そんなに気になるんならテメーで聞きゃいいだろ」
やれやれと言いたげに頭を搔く銀さんに、それ以上理由を聞いても無駄そうだ。銀さんたちを見て連想されたのが僕だったのかもしれない。
「まだ呑みたかったのに」
ボヤきながらもナマエさんは素直に支払いを始めた。彼女の荷物を持ってレジに向かう。そこそこの長さのレシートを受け取っていた。長谷川さんが言った通りだいぶ呑んでいたみたいだ。陽気に踊る後ろ髪を追って僕も店を出た。
秋の夜は少し肌寒い。いつもならそう思う気温だけど、今は違う。僕の左側には肩を貸したナマエさんがいる。肩に回された手を軽く握ったりとか、彼女の腰周りに腕を回してるとか。密着したところから沸き立つような熱が身体を駆け巡った。
相手は酔っていて、酔っぱらいの対応なんて姉上や銀さんで慣れている。だから変に意識したらダメだ。ナマエさんは明日には記憶は無いかもしれないのに。
ふらっと身体が揺れたナマエさんの身体をしっかり支える。ふふふ、と楽しそうに微笑む彼女はやっぱりただの酔っぱらいだ。意識しすぎるな。そう自分に言い聞かせて、介抱することに集中する。
「呑みすぎですよ」
「そんなに呑んでないよ」
「呑んでる人はみんなそう言います」
「いじわる」
今のナマエさんの思考がふわふわしてるのは分かった。だからって、ずるい、可愛すぎる。電灯の灯りだけで良かった。今の僕の顔はとても見られたものじゃない。顔の火照りを冷ましたい。
「どうして、そんなになるまで呑んでたんですか」
「美味しいご飯とお酒って最高の組み合わせなんだ。たまにある自分へのご褒美の日」
「ヘェ、いいですね」
ぽつぽつと話しながら歩く。点々と連なる電灯のひとつの下で、ナマエさんがゆるりと足を止めた。そして、ふわっとアルコールの香りが近づく。首が少しくすぐったい。
「ナマエさん!?どどどどうかしましたか?」
予想外すぎるスキンシップに心臓が暴れ始めた。今日は本当にいくつ心臓があっても持たない。
「新八くんは……」
喧騒から離れた夜道で彼女の声がすんなり耳に入る。顔が見えないから、彼女の様子は分からない。数秒、待ってみてもナマエさんの言葉の続きは出てこない。
「ナマエさん?」
「ううん、なんでもない。……お酒呑めるようになったら、一緒に呑もうね」
ようやく上げられた顔は、アルコールのせいか別の理由があるのか頬が赤い。何を言うつもりだったんだろう。
「はい、もちろん。……その時は何を言うつもりだったか教えて貰ってもいいですか」
「うん。……覚えてたらね」
「ず、ずるい!」
楽しそうに笑う声。これだから酔っぱらいは、と肩が落ちる。
もし酔って記憶が無くなってても僕はこの夜のことを忘れない。月に照らされて伸びる二人重なった影はしっかりと僕の記憶に残った。
2025.10.16
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