高杉晋助
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Final(最終訓)、龍脈を回っている途中を想定
足元で何かが触った感覚がした。下を見ると、綺麗な彼岸花が咲いている。綺麗だ、と彼岸花とそれを見る私をぼんやり眺める。
何かが落ちる音にハッとして意識が覚醒する。あと一歩踏み出せば、波打つ川に落ちるところだった。バクバクと鳴る心臓を落ち着かせるように、手を置きながら周囲を見渡す。青空の下、彼岸花が一面に咲き誇っており、ちょうど正面、対岸に人が立っていた。
これは夢だ。髪が風になびき、頬に触れる感覚が分かるのに、夢だと断言できるのは、鮮やかに咲き誇る彼岸花と対岸に晋助さんが立っているからだ。
晋助さん、と呼んだつもりの声が彼に届いたかどうかは分からない。ただ、煙管を吹かせ、私をじっと見つめる目に知ってるあたたかさだと思った。
「一緒にいかせてください」
「……好きにしな」
そう言ってくれた晋助さんの顔を覚えてる。忘れられるはずがなかった。
手を伸ばしても届かない。私と彼を隔てる川を渡らない限り、隣に行けるはずもない。
「その川は深い。こっちに来ようなんざ思わないことだな」
それだけ言うと、こちらに背中を向けてしまう。ひらりと彼を追いかけるように舞う蝶は、彼岸花の赤に映える黄色。
「……嫌です。そっちに行きますから」
深呼吸して川に足を入れる。ちゃぷっと音が立って、冷たくないのに、弁慶の泣き所くらいまで濡れる感覚が妙にリアルで、思わずしかめてしまった。
「おい、なにしてんだ」
「大丈夫です、すぐに浅くなります」
振り向いた彼の少しの驚きと焦りが混じった声に笑って返す。晋助さんは深くなると言っていた。ここは紛れもなく私が見ている夢で、主導権は私にある。だから、私が浅くなると言えば川だって浅くなって、彼の元へ歩いて行ける。
そうでないと困る。もう、触れることすら出来ない晋助さんに焦がれ続けて燃え尽きてしまう。川に入ったのは鎮火も兼ねているかもしれないと、波立つ川の音を聞く。
ざばざばと水を蹴り進む私を、晋助さんは黙って待っていた。彼と過ごしていた頃は、こういう場面が多かった気がする。歩くのは川ではなくて、普通の道だったり、船のなかだけど。歩を止めて、隣に立つのを待ってくれると気づいたのは後の方だったことが残念だ。もっと早く気づいていれば、彼の隣を歩く時間が少しでも長かったかもしれないのに。
長かったような短かったような横断を終え、晋助さんの前に立つ。
「お待たせしました」
「本当に来るとはな」
くくっと楽しそうに笑う顔を見て、滲んできた涙を拭う。
「晋助さん」
名前を呼ぶと屈んで顔を近づけてくれる。愛おしくて、既に懐かしくなってしまった距離。ゆっくりと交わる視線に、惹かれるように触れるだけの口付けを交わす。嬉しいはずなのに、泣きたくなって、ぎゅっと締めつけられるような気持ちになるのはなぜだろう。
「ナマエ」
ふわっと知っている香りに包まれる。晋助さんが抱きしめてくれる時にするものだから、私の体に回る腕と一緒に落ち着くものだとずっと覚えていた。
だから気づいてしまった。回ったはずの腕の感覚がしない。どうして今、夢から覚めるの。一緒にいられるなら夢でも良い。彼の存在を刻んでしまったから離れたくない。
彼岸花の赤が薄くなり、晋助さんの香りも姿も揺らぐ。必死に手を伸ばしても、届かない場所へ向かうのを今度は見送るしか無かった。
パッと意識が浮上する。空いていた窓から見えるオレンジに、やってしまったと体を起こす。少しの昼寝のつもりが、だいぶ寝過ごしてしまったらしい。
記憶にない布団を掛けてくれたのは、また子ちゃんか武市さんか。どちらにせよお礼を言わないと。畳んでいると、ひらりと黄色い蝶が一匹、部屋に迷い込んできた。目尻に溜まった涙が流れる。
秋の涼しい柔らかな風が吹く。少し目を離しただけなのに、舞っていた蝶はもうどこにも居なかった。
2025.9.26
足元で何かが触った感覚がした。下を見ると、綺麗な彼岸花が咲いている。綺麗だ、と彼岸花とそれを見る私をぼんやり眺める。
何かが落ちる音にハッとして意識が覚醒する。あと一歩踏み出せば、波打つ川に落ちるところだった。バクバクと鳴る心臓を落ち着かせるように、手を置きながら周囲を見渡す。青空の下、彼岸花が一面に咲き誇っており、ちょうど正面、対岸に人が立っていた。
これは夢だ。髪が風になびき、頬に触れる感覚が分かるのに、夢だと断言できるのは、鮮やかに咲き誇る彼岸花と対岸に晋助さんが立っているからだ。
晋助さん、と呼んだつもりの声が彼に届いたかどうかは分からない。ただ、煙管を吹かせ、私をじっと見つめる目に知ってるあたたかさだと思った。
「一緒にいかせてください」
「……好きにしな」
そう言ってくれた晋助さんの顔を覚えてる。忘れられるはずがなかった。
手を伸ばしても届かない。私と彼を隔てる川を渡らない限り、隣に行けるはずもない。
「その川は深い。こっちに来ようなんざ思わないことだな」
それだけ言うと、こちらに背中を向けてしまう。ひらりと彼を追いかけるように舞う蝶は、彼岸花の赤に映える黄色。
「……嫌です。そっちに行きますから」
深呼吸して川に足を入れる。ちゃぷっと音が立って、冷たくないのに、弁慶の泣き所くらいまで濡れる感覚が妙にリアルで、思わずしかめてしまった。
「おい、なにしてんだ」
「大丈夫です、すぐに浅くなります」
振り向いた彼の少しの驚きと焦りが混じった声に笑って返す。晋助さんは深くなると言っていた。ここは紛れもなく私が見ている夢で、主導権は私にある。だから、私が浅くなると言えば川だって浅くなって、彼の元へ歩いて行ける。
そうでないと困る。もう、触れることすら出来ない晋助さんに焦がれ続けて燃え尽きてしまう。川に入ったのは鎮火も兼ねているかもしれないと、波立つ川の音を聞く。
ざばざばと水を蹴り進む私を、晋助さんは黙って待っていた。彼と過ごしていた頃は、こういう場面が多かった気がする。歩くのは川ではなくて、普通の道だったり、船のなかだけど。歩を止めて、隣に立つのを待ってくれると気づいたのは後の方だったことが残念だ。もっと早く気づいていれば、彼の隣を歩く時間が少しでも長かったかもしれないのに。
長かったような短かったような横断を終え、晋助さんの前に立つ。
「お待たせしました」
「本当に来るとはな」
くくっと楽しそうに笑う顔を見て、滲んできた涙を拭う。
「晋助さん」
名前を呼ぶと屈んで顔を近づけてくれる。愛おしくて、既に懐かしくなってしまった距離。ゆっくりと交わる視線に、惹かれるように触れるだけの口付けを交わす。嬉しいはずなのに、泣きたくなって、ぎゅっと締めつけられるような気持ちになるのはなぜだろう。
「ナマエ」
ふわっと知っている香りに包まれる。晋助さんが抱きしめてくれる時にするものだから、私の体に回る腕と一緒に落ち着くものだとずっと覚えていた。
だから気づいてしまった。回ったはずの腕の感覚がしない。どうして今、夢から覚めるの。一緒にいられるなら夢でも良い。彼の存在を刻んでしまったから離れたくない。
彼岸花の赤が薄くなり、晋助さんの香りも姿も揺らぐ。必死に手を伸ばしても、届かない場所へ向かうのを今度は見送るしか無かった。
パッと意識が浮上する。空いていた窓から見えるオレンジに、やってしまったと体を起こす。少しの昼寝のつもりが、だいぶ寝過ごしてしまったらしい。
記憶にない布団を掛けてくれたのは、また子ちゃんか武市さんか。どちらにせよお礼を言わないと。畳んでいると、ひらりと黄色い蝶が一匹、部屋に迷い込んできた。目尻に溜まった涙が流れる。
秋の涼しい柔らかな風が吹く。少し目を離しただけなのに、舞っていた蝶はもうどこにも居なかった。
2025.9.26