坂田銀時
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「坂田さーん!花火見ましょ!」
「……花火ってオメー、後十五分で始まるじゃねェか。今から全力疾走して行ったって間に合わないよ、ナマエちゃんよォ?」
「あはは、ごめんなさい」
万事屋で出迎えてくれた銀さんの口元がひくついてる。笑って誤魔化す私を見て、銀さんは大袈裟なため息をついた。
近くで開催される大きなイベントのひとつ、川沿いで行われる花火大会。会場には多くの出店が見物客の欲を満たし、最後には何万発もの花火があがる。その花火は銀さんの言う通り、あと十分で打ち上がり始める。
仕事が終わるのは完全に花火終わって、片付けも終わってる頃かもと事前に伝えていた。一緒に行きたかったけど、職場で夏風邪が流行り、人手が足らない今日の出勤をどうしても断れなかった。
「花火、銀さんと見に行きたかったな」
「……来年もあるだろ。今年は職場まで迎えに行ってやるよ」
その時の銀さんの少し寂しそうに見えた横顔が忘れられない。
「つーか、先に祭り楽しんじゃってね?その時に銀さん誘ってくれても良かったんじゃないの」
赤い瞳は目敏く私の持っている袋を見つけていたらしい。
「これは神楽ちゃんたちに頼んで買ってきてもらったんです」
会場近くにある職場に寄ってくれた神楽ちゃん、新八くん、お妙ちゃんに、せめて祭り気分を味わいたいと、定番のものを買ってきてもらうように頼んでいたのだ。もちろん、お礼として依頼料は別で渡してある。
その時に銀さんが万事屋に残っていることを聞いた。職場まで迎えに行くと言ってくれたけど、私の仕事が終わるのは花火が終わった後。その間は普通に出店を回ると思っていたから、申し訳ないやら嬉しいやらで走ってきてしまった。
「銀さんこそ、新八くんたちに着いていけば良かったのに」
「……祭りの日でも、困ってるやつから依頼の電話が来るかもしれねェだろ」
素直じゃない。でもきっと、電話が来たらなんだかんだ依頼に向かう彼のそんなところに惹かれた。
「そんな頑張り屋さんに」
ビニールを上に掲げる。
「我慢できなくて、たこ焼きは一個食べちゃいましたけど、焼きそばとフランクフルトはまるまるありますよ。それにたい焼きも! 一緒に食べましょう」
まさか祭りの空気に浮かされ、全員が仕事に身が入ってないからと早めに上がらせてもらうとは思わなかったけど。それが出来るなら最初から店休日にしておけばいいのにと思ったのは内緒だ。
おかげで、出店に行く時間だって、花火を下から見る時間だってあった。銀さんの言う通り、ひとりで行くか、神楽ちゃんたちと合流しても良かった。でも、それをしなかったのは銀さんが万事屋に残っていると聞いたから。
今考えれば、万事屋に電話をして銀さんに来てもらえば良かったとも思うけど後の祭り。彼と一緒に花火が見たいの気持ちで頭がいっぱいになって、あまり考えず行動してしまった。そこは後で反省したい。
「いいの?遠慮なくいただいちゃうよ?……丁度、冷蔵庫に冷えたビールがあんだよ」
「いいですね!……あ、忘れるところでした」
「ンだよ」
「花火、見ましょう」
「だから、花火はもう始まっちまうって」
「万事屋の屋根に登って見れませんか?」
上を指すと、それに釣られて銀さんの視線も上へ行く。
そう、これを目当てに来たのだ。万事屋に残っていると聞いた時、屋根に登れば遠いだろうけど、花火は見れるのではないかと思った。窓からでも見れそうだけど、どうせならもう少し高いところから、生ぬるい気温も感じてみたかった。
「まァ、見れんじゃねェか。……どうやって登るつもりだ?」
「銀さんにおんぶしてもらう気満々でした」
「……しょうがねェ。ビール持ってくるからちょっと待ってろ」
「はーい」
万事屋へ消える背中を見送る。なんだかんだ付き合ってくれる彼は優しい。そんな優しさに甘えっぱなしは良くないと思う。何かでお返しがしたい。それを探している最中だ。
一分ほどで戻ってきた銀さんの両手にはキンキンに冷えたビールが一本ずつ。それが私の手に渡る。ずっしりと重くなった袋に、わくわく感が増してくる。
花火が上がるまで後十分。広い背中が私の前にしゃがみ込む。
「ほら、乗れよ」
「お邪魔します。重かったらごめんなさい」
銀さんに近づいて、後ろから前へ腕を回し、ビニール袋は死んでも離さないように手に力を込める。足に彼の腕が回って背中に体を預ける。銀さんの体温が伝わってくる。よくよく考えたら、銀さんと密着するこの体勢、とっても心臓に良くない。段々と早くなっていく音に気づかれないように祈る。
「重かねェよ」
なんでもないように立ち上がった彼は、私を背負ったまま軽々と万事屋の屋根へ向かった。
視点が高くなると、いつも見ている風景も新鮮に感じる。
「ちょうど花火見えそうですね」
横並びに座って、花火を見る時は少し横を向く体勢にはなるけど、障害物が少ないのが良い。花火が始まると銀さんを見れなくなるのが残念ではあるけど。
あと少しで打ち上げが始まる。透明なパックを開くとソースの香りが鼻をくすぐる。冷めてしまっても、この香りで美味しさが保たれる気がするから不思議だ。
「ン、ビール」
「ありがとうございます」
缶を受けとって、代わりに焼きそばのパックを渡す。食べ飲む準備は出来た。プシュッと鳴らした後、お互いに缶をぶつける。
「乾杯」
「乾杯」
ビールの喉越しの良さを味わっていると、パアンと花火が打ち上がる音が聞こえ始めた。音の方に向くと、夜空に色とりどりの花が広がり、遅れて音が鳴る。綺麗な景色に目も心も全て奪われた。
「綺麗」
「そーだな」
優しい声色。くすぐったさが心を揺らす。銀さんは今どんな顔をしているのだろう。少し寂しい顔をしていたことを思い出して余計に気になって仕方なくなった。
見てみたい。これが花火大会の会場なら、横目でそっと見れるのに。顔がすぐに見れないのももどかしい。
意識が花火から離れた私の選択肢、花火と銀さん、天秤にかけるまでもなかった。
薄暗い中でもはっきりと分かる、花火を眺めている楽しそうな表情が見えた。
「……花火見るんじゃねェの?」
さすがに気づかれてしまった。愛おしさを持った赤い目がふっと笑う。さっきまで普通だった鼓動が少し駆け足になるくらいには、私はこの目に弱い。
「見ます、見るんですけど……」
無言で私の言葉を待つ視線がゆっくりで良いと言っている。小さく深呼吸をして、呼吸を落ち着かせた。
「花火見てる銀さんの顔が見れないのも、寂しいなって思いまして……」
言っている途中から、とんでもないことを本人に言っている気がして、語尾がしりすぼみになっていく。頭を搔く彼は、あー、と声を出して、言葉を選んでいるように見える。
「せっかくの花火なんだ、男の顔見てねェで花火に集中しろよ。……こっちだって我慢してんだ」
「え」
「ほら、フィナーレ見逃しちまうぞ」
肩を掴まれ、花火が打ち上がる方向へ身体を半回転させられる。最初見ていた時よりもとめどなく打ち上がっていき、ド派手に散っていく。
今この瞬間の花火の音と、楽しげな銀さんの顔をずっと覚えている、と思った。
2025.8.20
「……花火ってオメー、後十五分で始まるじゃねェか。今から全力疾走して行ったって間に合わないよ、ナマエちゃんよォ?」
「あはは、ごめんなさい」
万事屋で出迎えてくれた銀さんの口元がひくついてる。笑って誤魔化す私を見て、銀さんは大袈裟なため息をついた。
近くで開催される大きなイベントのひとつ、川沿いで行われる花火大会。会場には多くの出店が見物客の欲を満たし、最後には何万発もの花火があがる。その花火は銀さんの言う通り、あと十分で打ち上がり始める。
仕事が終わるのは完全に花火終わって、片付けも終わってる頃かもと事前に伝えていた。一緒に行きたかったけど、職場で夏風邪が流行り、人手が足らない今日の出勤をどうしても断れなかった。
「花火、銀さんと見に行きたかったな」
「……来年もあるだろ。今年は職場まで迎えに行ってやるよ」
その時の銀さんの少し寂しそうに見えた横顔が忘れられない。
「つーか、先に祭り楽しんじゃってね?その時に銀さん誘ってくれても良かったんじゃないの」
赤い瞳は目敏く私の持っている袋を見つけていたらしい。
「これは神楽ちゃんたちに頼んで買ってきてもらったんです」
会場近くにある職場に寄ってくれた神楽ちゃん、新八くん、お妙ちゃんに、せめて祭り気分を味わいたいと、定番のものを買ってきてもらうように頼んでいたのだ。もちろん、お礼として依頼料は別で渡してある。
その時に銀さんが万事屋に残っていることを聞いた。職場まで迎えに行くと言ってくれたけど、私の仕事が終わるのは花火が終わった後。その間は普通に出店を回ると思っていたから、申し訳ないやら嬉しいやらで走ってきてしまった。
「銀さんこそ、新八くんたちに着いていけば良かったのに」
「……祭りの日でも、困ってるやつから依頼の電話が来るかもしれねェだろ」
素直じゃない。でもきっと、電話が来たらなんだかんだ依頼に向かう彼のそんなところに惹かれた。
「そんな頑張り屋さんに」
ビニールを上に掲げる。
「我慢できなくて、たこ焼きは一個食べちゃいましたけど、焼きそばとフランクフルトはまるまるありますよ。それにたい焼きも! 一緒に食べましょう」
まさか祭りの空気に浮かされ、全員が仕事に身が入ってないからと早めに上がらせてもらうとは思わなかったけど。それが出来るなら最初から店休日にしておけばいいのにと思ったのは内緒だ。
おかげで、出店に行く時間だって、花火を下から見る時間だってあった。銀さんの言う通り、ひとりで行くか、神楽ちゃんたちと合流しても良かった。でも、それをしなかったのは銀さんが万事屋に残っていると聞いたから。
今考えれば、万事屋に電話をして銀さんに来てもらえば良かったとも思うけど後の祭り。彼と一緒に花火が見たいの気持ちで頭がいっぱいになって、あまり考えず行動してしまった。そこは後で反省したい。
「いいの?遠慮なくいただいちゃうよ?……丁度、冷蔵庫に冷えたビールがあんだよ」
「いいですね!……あ、忘れるところでした」
「ンだよ」
「花火、見ましょう」
「だから、花火はもう始まっちまうって」
「万事屋の屋根に登って見れませんか?」
上を指すと、それに釣られて銀さんの視線も上へ行く。
そう、これを目当てに来たのだ。万事屋に残っていると聞いた時、屋根に登れば遠いだろうけど、花火は見れるのではないかと思った。窓からでも見れそうだけど、どうせならもう少し高いところから、生ぬるい気温も感じてみたかった。
「まァ、見れんじゃねェか。……どうやって登るつもりだ?」
「銀さんにおんぶしてもらう気満々でした」
「……しょうがねェ。ビール持ってくるからちょっと待ってろ」
「はーい」
万事屋へ消える背中を見送る。なんだかんだ付き合ってくれる彼は優しい。そんな優しさに甘えっぱなしは良くないと思う。何かでお返しがしたい。それを探している最中だ。
一分ほどで戻ってきた銀さんの両手にはキンキンに冷えたビールが一本ずつ。それが私の手に渡る。ずっしりと重くなった袋に、わくわく感が増してくる。
花火が上がるまで後十分。広い背中が私の前にしゃがみ込む。
「ほら、乗れよ」
「お邪魔します。重かったらごめんなさい」
銀さんに近づいて、後ろから前へ腕を回し、ビニール袋は死んでも離さないように手に力を込める。足に彼の腕が回って背中に体を預ける。銀さんの体温が伝わってくる。よくよく考えたら、銀さんと密着するこの体勢、とっても心臓に良くない。段々と早くなっていく音に気づかれないように祈る。
「重かねェよ」
なんでもないように立ち上がった彼は、私を背負ったまま軽々と万事屋の屋根へ向かった。
視点が高くなると、いつも見ている風景も新鮮に感じる。
「ちょうど花火見えそうですね」
横並びに座って、花火を見る時は少し横を向く体勢にはなるけど、障害物が少ないのが良い。花火が始まると銀さんを見れなくなるのが残念ではあるけど。
あと少しで打ち上げが始まる。透明なパックを開くとソースの香りが鼻をくすぐる。冷めてしまっても、この香りで美味しさが保たれる気がするから不思議だ。
「ン、ビール」
「ありがとうございます」
缶を受けとって、代わりに焼きそばのパックを渡す。食べ飲む準備は出来た。プシュッと鳴らした後、お互いに缶をぶつける。
「乾杯」
「乾杯」
ビールの喉越しの良さを味わっていると、パアンと花火が打ち上がる音が聞こえ始めた。音の方に向くと、夜空に色とりどりの花が広がり、遅れて音が鳴る。綺麗な景色に目も心も全て奪われた。
「綺麗」
「そーだな」
優しい声色。くすぐったさが心を揺らす。銀さんは今どんな顔をしているのだろう。少し寂しい顔をしていたことを思い出して余計に気になって仕方なくなった。
見てみたい。これが花火大会の会場なら、横目でそっと見れるのに。顔がすぐに見れないのももどかしい。
意識が花火から離れた私の選択肢、花火と銀さん、天秤にかけるまでもなかった。
薄暗い中でもはっきりと分かる、花火を眺めている楽しそうな表情が見えた。
「……花火見るんじゃねェの?」
さすがに気づかれてしまった。愛おしさを持った赤い目がふっと笑う。さっきまで普通だった鼓動が少し駆け足になるくらいには、私はこの目に弱い。
「見ます、見るんですけど……」
無言で私の言葉を待つ視線がゆっくりで良いと言っている。小さく深呼吸をして、呼吸を落ち着かせた。
「花火見てる銀さんの顔が見れないのも、寂しいなって思いまして……」
言っている途中から、とんでもないことを本人に言っている気がして、語尾がしりすぼみになっていく。頭を搔く彼は、あー、と声を出して、言葉を選んでいるように見える。
「せっかくの花火なんだ、男の顔見てねェで花火に集中しろよ。……こっちだって我慢してんだ」
「え」
「ほら、フィナーレ見逃しちまうぞ」
肩を掴まれ、花火が打ち上がる方向へ身体を半回転させられる。最初見ていた時よりもとめどなく打ち上がっていき、ド派手に散っていく。
今この瞬間の花火の音と、楽しげな銀さんの顔をずっと覚えている、と思った。
2025.8.20