一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。
ヴォルフラムくんをお見送りしてから二日後、イワンが帰国する日です。
学校がお休みの日だったので、港まで迎えにいきました。
お父様もお仕事の都合がついたということで港に来ています。
船がつくより前にしーちゃんが飛んできて、『あと少しで着く』と教えてくれました。
待合室を出たり入ったりして、船が見えないか何度も確認します。
「あと何分ですか」
『さすがに分刻みで予測はできないな』
「そうですか……」
しーちゃんと会話する私を見て、お父様が微笑みます。
「ふふふ。アラセリスさんは本当にイワンのこと好きなんだね。父としてとても嬉しいよ」
『親父は黙ってろ』
しーちゃん越しにイワンがツッコみます。お父様と話すときのイワンって本当に口が悪いんですよね。
「照れることないじゃないか」
『だいたい、アラセリスだけでよかったのになんで親父も来てるんだ』
「イワンが、どんな顔をして婚約者に出迎えられるのか見たかったからかな」
『悪趣味な』
そんな話をしているうちに、船が港に到着しました。
渡し橋から次々に船員さんが降りてきて、その中にイワンの姿が見えました。
たまらなくなって飛びつきます。
「おかえりなさい、イワン! 聞いてください! 私、首席になれたんです!」
「落ち着け」
優しい手つきで背中をなでてくれて、おでこに口づけが降ってきます。
「ただいま、アラセリス」
「おかえりなさい。えへへ。やっぱり会えると嬉しいです」
つがいになったからでしょうか。
ひだまりの中でおひるねしているような気分。イワンの側にいるとあたたかくて、すごく心が安らぐんです。
「イワン。学院や陛下への報告は、明日落ち着いてからで構わないと言われている。今日はゆっくり休みなさい」
「そうさせてもらう」
イワンとお父様と一緒にラウレール邸に行って、夜になってから、イワンは約束通り星を見る旅に連れ出してくれました。
約束してましたから。ずっと楽しみにしてましたから。
嬉しくて心が踊ります。
「掴まってろよ」
「はい」
晩秋のひんやりした夜の空、抱き上げられて空を舞います。
街明かりははるか足元。
月と星が近くなります。遮るものが何もないから、地上で見るよりもずっときれい。
手を伸ばせば星を掴めるんじゃないかとすら思えます。
風は冷たいけれど、イワンと触れ合う箇所は熱を帯びてとても温かい。
星を眺めながら、イワンは呟きます。
「あちらは翼を隠さなくても生きていられたが、微妙なことも言われたな。元敵国の人間が祖母で大変だな、なんて頼みもしない同情をされて」
「……悲しいです。ランヴァルドさんもディアナちゃんも、あんなにお互い大切にしているのに」
二人が想い合っていても、傍から見れば『国の都合で無理やり結婚させられた夫婦』。真実は二人を知る人にしかわからないんです。
いつか、他の人たちにもわかってもらえる日がくるでしょうか。
星を眺めて思います。
「私にも翼があったら良かったのに。そうしたら、イワンと一緒に、もっともっと色んなところに飛んでいけるのに」
「望むなら連れて行ってやる。どこにだって。オレたちの時間は何百年だってあるんだから」
「はい。一緒に、いろんなところに行きたいです」
優しい口づけを受けて、私はイワンの胸に顔を埋めます。
そうですね。時間はたくさんあるから。
一生の間に、世界の隅々まで旅できてしまうかもしれません。
どこまでも、ずっとずっと一緒にいきましょう。
学校がお休みの日だったので、港まで迎えにいきました。
お父様もお仕事の都合がついたということで港に来ています。
船がつくより前にしーちゃんが飛んできて、『あと少しで着く』と教えてくれました。
待合室を出たり入ったりして、船が見えないか何度も確認します。
「あと何分ですか」
『さすがに分刻みで予測はできないな』
「そうですか……」
しーちゃんと会話する私を見て、お父様が微笑みます。
「ふふふ。アラセリスさんは本当にイワンのこと好きなんだね。父としてとても嬉しいよ」
『親父は黙ってろ』
しーちゃん越しにイワンがツッコみます。お父様と話すときのイワンって本当に口が悪いんですよね。
「照れることないじゃないか」
『だいたい、アラセリスだけでよかったのになんで親父も来てるんだ』
「イワンが、どんな顔をして婚約者に出迎えられるのか見たかったからかな」
『悪趣味な』
そんな話をしているうちに、船が港に到着しました。
渡し橋から次々に船員さんが降りてきて、その中にイワンの姿が見えました。
たまらなくなって飛びつきます。
「おかえりなさい、イワン! 聞いてください! 私、首席になれたんです!」
「落ち着け」
優しい手つきで背中をなでてくれて、おでこに口づけが降ってきます。
「ただいま、アラセリス」
「おかえりなさい。えへへ。やっぱり会えると嬉しいです」
つがいになったからでしょうか。
ひだまりの中でおひるねしているような気分。イワンの側にいるとあたたかくて、すごく心が安らぐんです。
「イワン。学院や陛下への報告は、明日落ち着いてからで構わないと言われている。今日はゆっくり休みなさい」
「そうさせてもらう」
イワンとお父様と一緒にラウレール邸に行って、夜になってから、イワンは約束通り星を見る旅に連れ出してくれました。
約束してましたから。ずっと楽しみにしてましたから。
嬉しくて心が踊ります。
「掴まってろよ」
「はい」
晩秋のひんやりした夜の空、抱き上げられて空を舞います。
街明かりははるか足元。
月と星が近くなります。遮るものが何もないから、地上で見るよりもずっときれい。
手を伸ばせば星を掴めるんじゃないかとすら思えます。
風は冷たいけれど、イワンと触れ合う箇所は熱を帯びてとても温かい。
星を眺めながら、イワンは呟きます。
「あちらは翼を隠さなくても生きていられたが、微妙なことも言われたな。元敵国の人間が祖母で大変だな、なんて頼みもしない同情をされて」
「……悲しいです。ランヴァルドさんもディアナちゃんも、あんなにお互い大切にしているのに」
二人が想い合っていても、傍から見れば『国の都合で無理やり結婚させられた夫婦』。真実は二人を知る人にしかわからないんです。
いつか、他の人たちにもわかってもらえる日がくるでしょうか。
星を眺めて思います。
「私にも翼があったら良かったのに。そうしたら、イワンと一緒に、もっともっと色んなところに飛んでいけるのに」
「望むなら連れて行ってやる。どこにだって。オレたちの時間は何百年だってあるんだから」
「はい。一緒に、いろんなところに行きたいです」
優しい口づけを受けて、私はイワンの胸に顔を埋めます。
そうですね。時間はたくさんあるから。
一生の間に、世界の隅々まで旅できてしまうかもしれません。
どこまでも、ずっとずっと一緒にいきましょう。