一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 ヴォルフラムくんの留学最終日。
 放課後、クラスのみんなでささやかな送別会を開きました。
 ローレンツくんが教壇に立って音頭を取ります。

「そいじゃヴォルフの送別会はじめるぞー! みんなグラス持ったな! カンパーイ!!」
「カンパーイ!」

 みんなでジュースの入ったグラスを掲げます。

「寂しくなるね」
「また来いよ!」

 留学初日、まともにヴォルフラムくんに話しかける人がいなかったのが嘘のよう。
 みんな率先してヴォルフラムくんに話しかけるし、別れを惜しんで涙する人までいます。

 学院祭で率先して出し物の手伝いをして、それをきっかけに打ち解けたようです。ローレンツくんが毎日、あれやこれや準備で連れ回していましたものね。

 魔族は怖い、という先入観を取り払えばやっぱり分かり合えるんです。

「みんな、ありがと! 今度は留学抜きで遊びにくるカラネ!」

 ヴォルフラムくんは花束を抱えて満面の笑みです。

「ヴォルフラムくん、アウグストに戻っても元気でいてくださいね」
「うん、ありがとアラセリス。いつかイワンと二人で遊びに来テネ。アウグストのおすすめなスポットに案内するカラ」
「はい。必ず」

 交換留学がもっと盛んになれば、この約束もいつか必ず叶えられますよね。

「ヴォルフ、あっち行ったら手紙書けよな。あとアウグストでしか買えないもんあったら送ってくれ。イワンのやつ土産買ってきてくれねーんだもん」
「ムリだよ」

 ローレンツくんのお願いにスパッと切り返しました。

「ほしいものあるナラ、僕が送るんでなくローレンツが自分で買いに来てヨ。いつかできるでしょ。セシリオ殿下が王になるナラ」

 一瞬ぽかんとしたあと、ローレンツくんは笑顔になります。 

「そっか。うん。そうだな! そのほうが楽しそうだもんな」
「その時はクララも一緒につれて来るとイイ」
「は!? な、何言って」

 唐突な言葉に、ローレンツくんがぎょっとします。
 名前を出されたクララさんもキョトンとしています。

「違ったのカ。そうか。僕の魔法質が落ちたのカナ」
「いや、待て待て待て待て、ヴォルフ。その話はここでするな……」
「がんばれ、ローレンツ」

 やっぱり気のせいじゃなかったんですね。クララさんのこと気になってたんですね。
 ローレンツくん、がんばってください。


 送別会が終わり、校門までお見送りします。セシリオ様とミーナ様もいました。

「ギジェルミーナ、今回はあまり話せなかったカラ、次留学に来るときもっと話そうね。いつか教えてネ」
「残念だけど。乙女の秘密は永遠に秘密のままが一番です」

 きれいな笑顔で一刀両断するミーナ様。それでもヴォルフラムくんは諦めないようです。
 セシリオ様に促されて馬車に乗り、セシリオ様も乗り込んで、馬車が発車しました。

「ごきげんよう。どうかお元気で」
「うん。ギジェルミーナも、元気でネ!」

 みんなに惜しまれてアウグストに帰っていくヴォルフラムくん。

 イワンも……イワンも、こんなふうに別れを惜しまれているでしょうか。
 あちらで仲良くなれた人はいるでしょうか。
 アウグストでのこと、嬉しいことも悲しいことも、たくさん聞きたいです。

 イワンに会えるまで、あと少し。


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