一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 休日をイワンと過ごして、アウグストに発つのをお見送りしました。
 次イワンに会うときは、定期テスト首席と取ったと報告できるようがんばります。

「いってらっしゃい、イワン」
「ああ。行ってくる」


 
 イワンのいない日々は目まぐるしくすぎて、明日は定期テスト本番。
 放課後、図書室で最後の自主勉強をします。

 何人かの生徒がテーブルについて、教本とノートを広げています。
 その中にはローレンツくんとクララさんの姿もありました。

 学院祭で意気投合したみたいで、最近よく一緒にいるのを見かけます。
 まだ恋愛がよくわからないと言っていたクララさんですが、もしかしたらもしかするかもしれませんね。


 二人も私に気づいたようで手を振っています。軽く会釈して、私も空いた席の椅子を引きました。
 ふたりきりなのを邪魔しちゃいけません。空気を読みますよ。

 前にここで勉強していたら、イワンが教えてくれたんですよね。
 薬草学の先生は補足説明の細かなところを出題するクセがあるって。
 懐かしいです。


 二時間ほど勉強してから校舎を出ると、夕焼けが出迎えてくれました。冷たい風が吹き抜けて身震いしちゃいます。
 吐いた息が白くなって、空気に溶けていきました。

 もう十の月も終わり。冬が近づいているのを肌で感じます。
 あと二週間でイワンが帰ってくる。
 がんばりましょう。

「あら、セリスさんも今帰り?」
「ミーナ様」

 ふわふわのコートに身を包んだミーナ様が歩いてきました。そしてミーナ様を追いかけて、ヴォルフラムくんも走ってきます。

「待ってよギジェルミーナー! 僕まだ話をしたいノニ」
「ですから、テスト勉強の邪魔をしないでくださいませ!」

 もしかしてこの時間まで追いかけっこしてたんですか。大変ですね。

「何度言ったらわかるんだ、ヴォルフ。会長に迷惑をかけるのはやめるんだ」
「あーれー」

 セシリオ様に首根っこ掴まれて引きずられていきました。

 ようやく静かになったところで、ミーナ様は咳払いを一つして言います。

「ここまで乗り越えてこれたのだから、この先もきっと大丈夫よ、セリスさん。アタシが保証するわ。だから今持てる力すべてでがんばりなさい」
「はい。ありがとうございます!」

 ミーナ様が背中を押してくれて、がぜんやる気が増しました。



 そしてきたるテスト本番。
 実技も座学も、前回よりずっとずっと手応えを感じました。

 テストの結果が貼りだされて、神さまに祈りながら一覧表を見つめます。

 一年定期テスト二、 
 首席 アラセリス
 次席 クララ・セレッソ

 息が止まるかと思いました。

「おめでとう、アラセリスさん。すごいわ!」

 クララさんが拍手をして祝福してくれます。

「ありがとう、クララさん」

 嬉しくて泣けてきちゃいました。
 ローレンツくんにヴォルフラムくん、クラスメートたちも「すごいな」「おめでとう」と言ってくれて、本当に、がんばって良かったと思います。

 イワンが帰ってきたら一番に教えましょう。
 一緒に星を見に行くんです。 
 

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