一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 生徒会のイベントが終わって早々に、セリスさんはイワンのところに走っていった。
 この一ヶ月寂しそうだったものね。飾りのネコ耳がピコピコ動いていて可愛らしい。

「あなたたちも自由行動にしていいわよ。幕を下ろしておくから、楽器の片付けは学院祭が終わってからにしましょう」

 ローレンツが待ってましたとばかりに飛び跳ねる。

「よっしゃ! うちのクラスの手伝いもしねーとな、行くぞクララ、ヴォルフ!」
「ええ〜。僕ギジェルミーナを誘いタイ」
「会長の親御さんも来てるってのに変なことすんな」
「変なことしないヨ。一緒に見たいだけナノに」
「いいから! 行くぞ!」

 舞台衣装のまま走り出すローレンツ。ヴォルフラムもアタシの方をチラチラ見ながら渋々ローレンツを追いかけた。
 心の中でローレンツに拍手喝采する。
 クララはアタシとセシリオに一礼をしてから、小走りで二人を追いかけていった。

「さて、わたしたちはどうしようか。せっかくの学院祭だ。二人で見てまわるかい?」
「遠慮しておきますわ」

 幕の隙間から客席を覗き見ると、国王陛下と王妃様、その護衛、そしてウィルフレドがいる。

 セシリオと二人きりで学院祭をまわったら、彼に変な誤解をされてしまうじゃない。

「そんなにウィルが気になるのかい」
「わたくし、そのようなことを言ったことはありません!」

 セシリオは訳知り顔でほくそ笑む。

「海であれだけアプローチしてたら、鈍感でない限り気づくよ。肝心のウィルは全く気づいてないみたいだったけれど」

 気づいて欲しい人は気づかないのに、セシリオには気づかれてしまった。恥ずかしくて顔が熱くなる。

「どうしようかな。わたしと行動を共にするなら、護衛のウィルも一緒に来ることになるんだけど。会長は一人でまわりたいんだろう?」
「卑怯ですわ」

 睨んでも効果は無し。
 セシリオはアタシの鼻先に指を当てて目を細める。

「わたしといるときは、素のまま君で話をしてくれないか。そうしたらウィルとお近づきになれるよう協力してあげる」

 なにこれ。こんなの聞いてない。
 これは本来セリスさんの、セシリオ純愛ルートでのみ起こるイベントなのに。
 セリスさんがウィルフレドに恋していると勘ぐって、セシリオが意地悪をする。

 しかも、勘違いでも何でもなく、アタシが好きなのはウィルフレド。
 ゲーム通りなら、ここで断るを選べば監禁フラグになる。
 アタシに残された選択肢は一つ。

「わかったわ。言えばいいんでしょう。そうよ。アタシはウィルフレドが好きなの。協力してくれるというのなら、手を借りようじゃない」
「うん。君は澄ましているよりそっちのほうが魅力的だ」



 セシリオの計らいで、ウィルフレドを加えた三人で学院祭をめぐることになったけれど……。

「会長、エスコートしようか。さぁ、わたしの腕に手を」
「必要ありません」

 ウィルフレドに変な勘違いされたくないわ。

「ウィルフレド様。貴方は、何か見てみたいものはありますか」
「ギジェルミーナ様。私は護衛。お二人の邪魔はいたしません。空気と思っていただければ」

 早速勘違いされてるじゃない!!
 セシリオ。わかっててやっているわね。ニヤニヤとアタシの様子を見ているし!

「貴方は空気ではないわ。れっきとした人間よ。希望がないなら手始めにそこに入りましょう」
「ですが」
「かまわないよウィル。会長と一緒に入ってくるといい」

 勢いのまま入ってしまったけれど、失敗したわ。ここ、イワンのクラスの幽霊屋敷じゃない!
 怖いのが苦手だから、ゲームだとスキップしちゃってたイベント。
 目の前を黒いものが横切りどこからか女性の悲鳴も聞こえてくる。顔になにか落ちてきて、息が止まった。

「きゃああ!!」
「ギジェルミーナ様」

 思いきり抱きついてしまって、ウィルフレドが硬直している。恋人でもない女に抱きつかれたら無理もないわよね。

「ご、ごめんな、さ」

 涙が止まらなくて、ウィルフレドに支えられながらなんとか外に出た。

「ううぅ、こわ、かった。ご、ごめんなさい、ウィルフレド様」
「いえ、こちらこそすみません。騎士なのになんのお役にも立てず」

 魔法で映し出されたお化け相手に剣なんか通用しない。謝る必要なんてないのに。本当に真面目な人。

「けれど、意外でした。ギジェルミーナ様は普段、毅然としているように見えましたので」
「わ、悪いですか? わたくしだって怖いものもあります」
「いいえ。女の子らしくていいんじゃないでしょうか」

 ウィルフレドは微笑む。
 かなり怖い思いをしたけれど、ウィルフレドの笑顔が見られたから、今日はいい日だったわ。

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