一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

 もうすぐイワンが留学してから一ヶ月。
 三日後はアルコン魔法学院の学院祭です。

 そして今日は最後の練習日です。
 ミーナ様がイベント用に衣装を用意してくださったのです、が……。

 男性陣はタキシードで女性陣はエプロンドレス。
 私とミーナ様、クララさんはお揃いなんです。ただ一点を除いて。

「ミーナ様、なぜ私だけネコ耳尻尾つきなんですか!?」
「うさ耳のほうが良かったかしら」

 ミーナ様が予備の衣装箱からうさ耳カチューシャとうさぎ尻尾を取り出しました。
 ピンク色のふわふわですよ。

「そうじゃないですー!! なんでネコ耳かうさ耳の二択なんですか。普通じゃだめですか。ミーナ様がつけているような普通のヘッドドレスじゃだめなんですか」
「セリスさんがかわいいネコ耳をつけていたら盛り上がると思うの。学院祭、成功させたいでしょう?」
「ううぅ……」

 逃げようとしたら、背後からクララさんにネコ耳をつけられました。

<i665551|17057>

「ふふっ。がんばりましょうね。アラセリスさん」

 なんだか丸め込まれたような気がします。
 着替え終わって講堂に行くと、先に配置についていたセシリオ様とローレンツくんが目を丸くしました。

「かわいい」
「三人とも似合っているよ」

 お世辞はいいのでネコ耳を隠したいです。ステージの下ではヴォルフラムくんが配置図と私達を交互に見て、細かな立ち位置の指定をします。

「ローレンツはあと二歩左、セシリオは一歩後ろに。ソウ、その位置ネ」
「ここだね。足元に印をつけておこう」

 椅子と楽器を配置して、セシリオ様はメモを貼っていきます。

「よし、最初から合わせてみよう」
「任せとけ!」


 セシリオ様の合図で演奏が始まります。
 ルシールに古くから伝わる歌曲のアレンジ版。大人も子供も誰もが知る名曲です。
 もうすぐ歌が終わる、というところで講堂の扉が開きました。

 藍色の長い髪、光の加減で金色に見える瞳。
 女性と見間違えられそうな綺麗な顔立ち。
 見間違いようがありません。
 イワンが講堂に入ってきました。

「イワン!?」
「セリスさん、マイクマイク!」
「あわわわっ」

 メロディを聞いて急ぎ歌に戻ります。
 曲が終わったところで、イワンが軽く拍手をしました。

 バイオリンをおろして、セシリオ様はイワンに呼びかけます。

「お帰り、イワン。留学は楽しんでいるかな」
「まあまあだな。あちらの王子がお前によろしくと言っていたぞ」

 ローレンツくんはステージを降りてイワンの肩をどつきます。

「よぅイワン。予定通りついたんだな! 土産はないのか土産は。アウグストの美味いもん!」
「あるかボケ」

 イワンは拳でどつき返します。

「話には聞いていたケド、君がイワンか。たしかにアラセリスと同じ色だネ」
「あぁ、こっちも話だけは聞いていたよ。ヴォルフラム」

 ヴォルフラムくんとは和やかな様子で握手しています。

 なんだか、セシリオ様をはじめ、私以外の誰もイワンが来たことに驚いていません。

「アラセリス、びっくりシタ? ギジェルミーナが、サプライズのほうが喜ぶから内緒にしておこうって言ったヨ」
「えええっ!?」

 クララさんも知っていたようで、胸の前で両手を合わせて、ゴメンナサイと小声で言います。

「人は無理に知らないほうがいいこともある、君が言ったンだよ」
「逆手に取ったんですか」

 確かに言いましたけど、言いましたけど!

 学院祭当日帰ってくるとばかり思っていたので、心の準備ができていません。

「アラセリス。久しぶりに会ったのに一言もないのか?」
「で、でも、ええと、あの」

 しかもこんな、ネコ耳と尻尾をつけているところを見られるなんて。

 みんなの目は楽しそうで、私の反応を待っているのがわかります。



 考えた末、


 走って逃げることにしました。


image
10/23ページ