一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。

「話してくれてありがとう。未来を知っているなんて、信じない人も多いだろうから勇気がいっただろう」
「一度話してしまうと気が楽になったわ。信じてくれてありがとう」

 セシリオ様が微笑み、ミーナ様もホッとしたように笑います。

「会長はそんなふうにくだけた口調で話す人だったんだね。新鮮だ」
「そうですわ。気を抜くとつい地が出てしまいます。きちんとしなければいけませんわね」

 言葉遣いを指摘されて、ミーナ様は慌てて取り繕います。
 セシリオ様はその反応を楽しんでいるように見えます。

「わたしとセリスくんの前にいるときはそのままでいい。いつも気を張っていると疲れるだろう」
「不敬には当たらない?」
「君の言葉遣いが不敬になるなら、ローレンツはどうなる」

 ローレンツくんは幼馴染だから気遣い無用っていう感じで、町中にいる男の子と大差ない態度で接しています。
 セシリオ様がそれを受け入れているのだから、ミーナ様の素の口調もごく普通に受け止めているようです。

 ミーナ様も普段のローレンツくんとセシリオ様のやり取りを思い出したらしく、声を上げて笑いました。

「フフフッ。そうね。ありがとう。そうさせてもらうわ」
「いっそ君がわたしの婚約者になれば、ヴォルフラムは手出しできないと思うけれど」
「アタシに王妃は荷が重いわ」
「君にこなせないなら、他の誰にもできないよ」

 セシリオ様は本気なのか冗談なのか判断のつかないことを言って笑います。
 ミーナ様は「褒め言葉として受け取っておくわ」と軽く流して生徒会室を出ました。



 予鈴が鳴って、私達はそれぞれの教室に戻ります。
 教室に入るなり、ヴォルフラムくんが迫ってきます。

「アラセリス、戻ったネ。ギジェルミーナの話聞かせてよ」
「だから、やめろっつーに!」

 ローレンツくんに首根っこ掴まれて席に戻されました。ありがとうローレンツくん。

「アラセリスさん、お昼も生徒会の仕事なの? イワンさんも留学中だし、良かったらわたし、学院祭の準備を手伝うよ」
「本当ですか!? 助かりますー!」

 魔法学院の学院祭は、生徒が主体となって開催するお祭。
 庶民の学校祭は学外のお客様も自由に出入りできましたが、魔法学院で呼べるのは保護者や親族だけです。

 貴族の子女が多いので、誘拐や加害防止の観点から部外者立入禁止なのです。

 各クラスから提出された企画ついて学長先生の許可を取ったりなんなり、まとめ役の生徒会は連日大忙し。
 生徒会は生徒会でなにか出し物をしてくれとも言われていて、手が足りないです。

「母さんにもね、生徒会のお手伝いをするよう言われているから」
「あぁ、クララさんとステイシー先生が女神様に見えます」

 クララさんの優しさと友情に感謝です。

「なら僕も手伝うね。生徒会忙しいのデショ。生徒会の手伝いならギジェルミーナと話してもイイよね」
「おい、ヴォルフラム!」

 身を乗り出してきたヴォルフラムくん。またローレンツくんに捕まりました。
 生徒会を手伝ってくれるのはありがたいですが、ミーナ様に近づきたいという下心丸出しはいけません。

「下心というのはひどい。僕は心に正直に生きる。魔族ダカラ。ギジェルミーナは面白い魂。近くでじっくり観察してみたいね。ギジェルミーナみたいな人、魔族にもいナイ」

 微妙にアブナイことを、堂々と胸を張って言われました。

「興味があるのはわかりましたが、追いかけ回しちゃだめです」
「逃げるものは追いたくなる、それは本能ダヨ」
「理由もわからず追われたら、逃げたくなるのも本能ですよ」

 やっぱり正面切って話し合いしなきゃだめみたいですよ、ミーナ様。

「……なんかこいつ、ほっとくと危なそうだから、俺も生徒会の仕事手伝うぜ。セリスたちの邪魔をしそうになったら俺が止める」
「あぁ、ありがとうございますー。そうしてもらえると助かります」

 生徒会の仕事中にも追い回されたら、ミーナ様が心労で倒れちゃいます。

 ヴォルフラムくんが生徒会のお手伝いをしたいうんぬんは横においておいて、放課後、セシリオ様も交えて話をすることになりました。


image
6/23ページ