一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。
翌日。昼食をとってすぐ、私とミーナ様、セシリオ様は生徒会室にいました。
極秘に話したいことがあると、ミーナ様がお呼び立てしたのです。
ヴォルフラムくんはルシール王城に仮住まいの身。セシリオ様に事情を話すのが必要だと判断しました。
セシリオ様は普段と変わらぬ面持ちで席につきました。
「昨日のヴォルフラムのこともあるし、会長が話したいことというのは穏やかな話ではなさそうだね」
「そうですわね。……セリスさんが誘拐されたとき、わたくしが『犯人はマリベル・レスティだ』と言ったときのことを覚えていまして?」
どこから話していいのか悩むようで、ミーナ様は言葉を探しながらゆっくり話します。
「そんなこともあったね。そのことと秘密の話に何か関係があるのかな?」
「ええ。わたくし……いいえ、アタシはこの世界の分岐する未来を知っているの。正しくは、セリスさんが一年生の間に起きる未来の分岐を」
しばらくの沈黙のあと、セシリオ様は私とミーナ様を見比べます。
「この話し合いの場にいるということは、セリスくんも知っているということかな」
「はい。ミーナ様は、私に降りかかる不幸を先に教えてくれていたんです。だからレスティ先輩の暴挙にいち早く気づけた」
ミーナ様がいなければ、私は生きてここにはいません。
「セリスくんが会長にだけ絶対的な信頼を置いているのには、そういう理由があったのか」
「そう見えてました?」
「そうさ。最初、なんでセリスくんに異様なまでに警戒されているのかと思った」
あなたに襲われる未来を示唆されていたからです、とは口が避けても言えません。
「セシリオ様と過度に親しくなると、マリベルさんがあの暴挙に出ると聞いていたからです」
「なるほどね。不幸な未来から逃げようとして、それでも起こってしまったのがあの事件なわけか」
嘘は言ってません。
信じてくれたのか、それとも。セシリオ様は顎に手を当てて考え込みます。
「信じてくれるの?」
「信じるしかないだろうね。あの日の君は普段と様子が違ったし、事実犯人はマリベルだった。それをわたしに打ち明けるからには、わたしも協力しないと避けられないような不幸があるからなのかな」
「今この時間が、アタシの知らない未来に分岐しているからよ。知り得ない新たな不幸の道ができていてもおかしくはないの」
ミーナ様はギジェルミーナとしてではなく、美生として言葉を紡ぎます。
「アタシの知り得る未来では、ヴォルフラムはセリスさんに惚れ込んで追いかけ回して、イワンとの仲を裂くような行動に出ていたの。けれど……」
「今のヴォルフラムは会長にご執心、だから何が起こるかわからない、そういうことだね」
確かめるように言うセシリオ様の言葉に、ミーナ様は頷きます。
「未来の軌道修正を図ろうとした結果、ヴォルフラムが君の知る未来の通り、イワンとセリスくんの仲を裂こうとする、ということになったらどうなる」
「……わからないわ」
それは誰にもわかりません。
「そう怯えることはないよ。本来、未来は誰も知らないし見えないものなんだ。今できる最善を尽くせばいい」
セシリオ様の言うとおりです。
未来は見えないのが普通。たまたま、ミーナ様がこの世界の先を知っていた状態のほうがイレギュラーなのです。
「最善?」
戸惑い聞き返すミーナ様にセシリオ様は頼もしくも笑顔を保って答えます。
「ヴォルフラムにも同じことを説明すればいい。ただほんの少しだけ未来を知っていただけで、特別な存在ではないのだと」
下手な勘ぐりで追い回されるくらいなら、正面突破で打ち明ける。
イワンも同じようなことを言っていましたね。
追われたくないならさっさと話して解決しろと。
「不安ならわたしもその場に同席する。どうだい?」
手を差し伸べられて、ミーナ様はセシリオ様の手を掴みました。
「そうね。お願いするわ。未来は見えないのが当たり前。望む先は自分で勝ち取るものよね!」
極秘に話したいことがあると、ミーナ様がお呼び立てしたのです。
ヴォルフラムくんはルシール王城に仮住まいの身。セシリオ様に事情を話すのが必要だと判断しました。
セシリオ様は普段と変わらぬ面持ちで席につきました。
「昨日のヴォルフラムのこともあるし、会長が話したいことというのは穏やかな話ではなさそうだね」
「そうですわね。……セリスさんが誘拐されたとき、わたくしが『犯人はマリベル・レスティだ』と言ったときのことを覚えていまして?」
どこから話していいのか悩むようで、ミーナ様は言葉を探しながらゆっくり話します。
「そんなこともあったね。そのことと秘密の話に何か関係があるのかな?」
「ええ。わたくし……いいえ、アタシはこの世界の分岐する未来を知っているの。正しくは、セリスさんが一年生の間に起きる未来の分岐を」
しばらくの沈黙のあと、セシリオ様は私とミーナ様を見比べます。
「この話し合いの場にいるということは、セリスくんも知っているということかな」
「はい。ミーナ様は、私に降りかかる不幸を先に教えてくれていたんです。だからレスティ先輩の暴挙にいち早く気づけた」
ミーナ様がいなければ、私は生きてここにはいません。
「セリスくんが会長にだけ絶対的な信頼を置いているのには、そういう理由があったのか」
「そう見えてました?」
「そうさ。最初、なんでセリスくんに異様なまでに警戒されているのかと思った」
あなたに襲われる未来を示唆されていたからです、とは口が避けても言えません。
「セシリオ様と過度に親しくなると、マリベルさんがあの暴挙に出ると聞いていたからです」
「なるほどね。不幸な未来から逃げようとして、それでも起こってしまったのがあの事件なわけか」
嘘は言ってません。
信じてくれたのか、それとも。セシリオ様は顎に手を当てて考え込みます。
「信じてくれるの?」
「信じるしかないだろうね。あの日の君は普段と様子が違ったし、事実犯人はマリベルだった。それをわたしに打ち明けるからには、わたしも協力しないと避けられないような不幸があるからなのかな」
「今この時間が、アタシの知らない未来に分岐しているからよ。知り得ない新たな不幸の道ができていてもおかしくはないの」
ミーナ様はギジェルミーナとしてではなく、美生として言葉を紡ぎます。
「アタシの知り得る未来では、ヴォルフラムはセリスさんに惚れ込んで追いかけ回して、イワンとの仲を裂くような行動に出ていたの。けれど……」
「今のヴォルフラムは会長にご執心、だから何が起こるかわからない、そういうことだね」
確かめるように言うセシリオ様の言葉に、ミーナ様は頷きます。
「未来の軌道修正を図ろうとした結果、ヴォルフラムが君の知る未来の通り、イワンとセリスくんの仲を裂こうとする、ということになったらどうなる」
「……わからないわ」
それは誰にもわかりません。
「そう怯えることはないよ。本来、未来は誰も知らないし見えないものなんだ。今できる最善を尽くせばいい」
セシリオ様の言うとおりです。
未来は見えないのが普通。たまたま、ミーナ様がこの世界の先を知っていた状態のほうがイレギュラーなのです。
「最善?」
戸惑い聞き返すミーナ様にセシリオ様は頼もしくも笑顔を保って答えます。
「ヴォルフラムにも同じことを説明すればいい。ただほんの少しだけ未来を知っていただけで、特別な存在ではないのだと」
下手な勘ぐりで追い回されるくらいなら、正面突破で打ち明ける。
イワンも同じようなことを言っていましたね。
追われたくないならさっさと話して解決しろと。
「不安ならわたしもその場に同席する。どうだい?」
手を差し伸べられて、ミーナ様はセシリオ様の手を掴みました。
「そうね。お願いするわ。未来は見えないのが当たり前。望む先は自分で勝ち取るものよね!」