一年生秋編 交換留学生が来る秋、イワンのいない秋。
家に帰ってからどっと疲れが出ました。
ヴォルフラムくんが来た初日だけでこんなに大変だなんて、誰が予想していたでしょうか。
イワンが発ったのは二日前。
もしもここにイワンがいたら、知恵を貸してくれたでしょうか。
お風呂のお湯を両手ですくって顔を濡らします。
簡単に弱音を吐いちゃだめですね。一ヶ月で一度帰国してくれると言ってましたし、がんばらないと。
イワンはあちらでの食事はどうしているのでしょう。
魔族の多い国ですし、クラスメートに話せば握手で分けてくれたりするんでしょうか。
生命維持のためとはいえ、他の女の子からキスでもらったりしないですよね。
イワンのつがいは私ですから、他の子にそんなことされたら怒りますよ。
でも、ヴォルフラムくんが一方的にミーナ様について回っているように、イワンに惚れ込む女の子が現れないとも限りません。
もしいたら嫌ですね。
湯面に映る自分の顔が怒って見えます。私はこんなにも独占欲の塊で、嫉妬深い女だったんですか。
お風呂から上がってリビングに行くと、レネがしーちゃんを連れてきました。
「姉さん。さっき窓からこの小鳥が入ってきたんだ。イワンさんの使い魔だって名乗ってるんだけど」
「小鳥ちゃんが喋っても驚かないなんて、さすが私の弟」
「何言ってるのさ。姉さんは先月、家の中でペンちゃんを喋らせる練習をしてたじゃない」
そうでした。外でやると怪しまれるから、ペンちゃんをリビングに残し、母さんとレネに別室から声を送れるか練習してたのです。
私の力不足で、うまくいきませんでしたが。
しーちゃんがイワンの声で笑っています。
『一年生にはまだ無理だ』
「そんなぁ」
けれど、会いたかった。声を聞きたかったんです。しーちゃん越しでも嬉しいです。
「留学先でなにかあったんですか? お部屋で聞きますよ」
しーちゃんのおやつ用に、はちみつを小皿に盛って部屋に戻ります。
ベッドに座って足を投げ出すと、しーちゃんがサイドテーブルに移ってはちみつをなめます。
遠くから飛んできたから疲れましたよね。
その様子を見つめながら、私は今日あったことを話しました。
ヴォルフラムくんがミーナ様にご執心だってこと。
『それはまた面倒な奴だな。アラセリスでなく、会長が追い掛け回されることになるなんて、想像していなかった』
「たしか、ダンタリオンという種族でしたか。心を読めるって不思議な力ですね」
『気味悪がらないところがお前らしい』
と言われても、そういう魔法があるというだけのことですし、気味悪がるポイントがなかったんですよね。
ミーナ様は気味悪がってはいないけれど、転生したことや未来を知っていることをまわりに暴露されるのではないかと不安がっていました。
『ヴォルフラムに追われるのが会長の望むところでないなら、早急に話をつけとけ』
「努力します」
教室にいる間はローレンツくんが止めてくれるとして、二ヶ月間休憩時間までつきっきりになったらローレンツくんが疲れそうです。
話、通じるといいんですけど。
「イワンの方はどうです? 学校は楽しいですか? 生気、足りてます?」
『高待遇すぎて末恐ろしい。祖母さんとの政略結婚さえなければ、祖父さんを次期国王にと期待するやつも多かったらしい』
その期待たっぷりだった王子にうり二つの孫。歓待しないわけがないですね。
「辛い思いをしているんでないなら良かったです」
『辛いことはないさ。魔力や生気に関しては、使用人から握手でもらって食いつなぐ感じだな。あまり美味くはないが、何も食えないよりはマシだ』
女の子からキスでもらうんじゃないんですね。安心しました。浮気はだめ絶対です。
『顔に出てるぞ』
「へ?」
『浮気してないか心配してたな。もともとお前と婚約するまでは、親父やセシリオからそうやって魔力を分けてもらっていたんだ』
姿はしーちゃんでも、しーちゃんの向こうにいるのはイワンです。私をからかう笑みが目に浮かぶようです。
『一ヶ月なんてすぐだ。そんな顔するな』
「……はい」
こうして気遣ってしーちゃんを飛ばしてくれて、嬉しいです。早くイワンに会いたいです。
ヴォルフラムくんが来た初日だけでこんなに大変だなんて、誰が予想していたでしょうか。
イワンが発ったのは二日前。
もしもここにイワンがいたら、知恵を貸してくれたでしょうか。
お風呂のお湯を両手ですくって顔を濡らします。
簡単に弱音を吐いちゃだめですね。一ヶ月で一度帰国してくれると言ってましたし、がんばらないと。
イワンはあちらでの食事はどうしているのでしょう。
魔族の多い国ですし、クラスメートに話せば握手で分けてくれたりするんでしょうか。
生命維持のためとはいえ、他の女の子からキスでもらったりしないですよね。
イワンのつがいは私ですから、他の子にそんなことされたら怒りますよ。
でも、ヴォルフラムくんが一方的にミーナ様について回っているように、イワンに惚れ込む女の子が現れないとも限りません。
もしいたら嫌ですね。
湯面に映る自分の顔が怒って見えます。私はこんなにも独占欲の塊で、嫉妬深い女だったんですか。
お風呂から上がってリビングに行くと、レネがしーちゃんを連れてきました。
「姉さん。さっき窓からこの小鳥が入ってきたんだ。イワンさんの使い魔だって名乗ってるんだけど」
「小鳥ちゃんが喋っても驚かないなんて、さすが私の弟」
「何言ってるのさ。姉さんは先月、家の中でペンちゃんを喋らせる練習をしてたじゃない」
そうでした。外でやると怪しまれるから、ペンちゃんをリビングに残し、母さんとレネに別室から声を送れるか練習してたのです。
私の力不足で、うまくいきませんでしたが。
しーちゃんがイワンの声で笑っています。
『一年生にはまだ無理だ』
「そんなぁ」
けれど、会いたかった。声を聞きたかったんです。しーちゃん越しでも嬉しいです。
「留学先でなにかあったんですか? お部屋で聞きますよ」
しーちゃんのおやつ用に、はちみつを小皿に盛って部屋に戻ります。
ベッドに座って足を投げ出すと、しーちゃんがサイドテーブルに移ってはちみつをなめます。
遠くから飛んできたから疲れましたよね。
その様子を見つめながら、私は今日あったことを話しました。
ヴォルフラムくんがミーナ様にご執心だってこと。
『それはまた面倒な奴だな。アラセリスでなく、会長が追い掛け回されることになるなんて、想像していなかった』
「たしか、ダンタリオンという種族でしたか。心を読めるって不思議な力ですね」
『気味悪がらないところがお前らしい』
と言われても、そういう魔法があるというだけのことですし、気味悪がるポイントがなかったんですよね。
ミーナ様は気味悪がってはいないけれど、転生したことや未来を知っていることをまわりに暴露されるのではないかと不安がっていました。
『ヴォルフラムに追われるのが会長の望むところでないなら、早急に話をつけとけ』
「努力します」
教室にいる間はローレンツくんが止めてくれるとして、二ヶ月間休憩時間までつきっきりになったらローレンツくんが疲れそうです。
話、通じるといいんですけど。
「イワンの方はどうです? 学校は楽しいですか? 生気、足りてます?」
『高待遇すぎて末恐ろしい。祖母さんとの政略結婚さえなければ、祖父さんを次期国王にと期待するやつも多かったらしい』
その期待たっぷりだった王子にうり二つの孫。歓待しないわけがないですね。
「辛い思いをしているんでないなら良かったです」
『辛いことはないさ。魔力や生気に関しては、使用人から握手でもらって食いつなぐ感じだな。あまり美味くはないが、何も食えないよりはマシだ』
女の子からキスでもらうんじゃないんですね。安心しました。浮気はだめ絶対です。
『顔に出てるぞ』
「へ?」
『浮気してないか心配してたな。もともとお前と婚約するまでは、親父やセシリオからそうやって魔力を分けてもらっていたんだ』
姿はしーちゃんでも、しーちゃんの向こうにいるのはイワンです。私をからかう笑みが目に浮かぶようです。
『一ヶ月なんてすぐだ。そんな顔するな』
「……はい」
こうして気遣ってしーちゃんを飛ばしてくれて、嬉しいです。早くイワンに会いたいです。