一年生夏編 恋人と過ごす夏

 街灯の光の下、私はイワンを見つめます。

「学院にいる間、うわの空だったから」
「イワンが最初に教えてくれてたら、あそこまで驚かなかったんです」

 つい責めるような口調になってしまって、自己嫌悪に陥ります。
 イワンは悪くないのに。

 国の未来のために、魔族の国と交流してほしい。私がそう願ったからこそ決まった交換留学です。
 国同士理解を深めるには必要なことだとわかってはいます。

 でも、会えないのは辛いです。
 
「どれくらいで、帰ってこれるんですか」
「まずは一ヶ月。一時帰国して、双方留学続行に合意なら、そこからまた一ヶ月。計二ヶ月だ。これがうまく行くようなら、来年からは定期的に交換留学が続けられることになる」
「二ヶ月もあちらにいるんですか……」

 秋の間はほぼ会えないということです。

「そんな顔するな」

 イワンの胸に顔を埋めます。尖った爪先が優しく私の頭をなでてくれます。

 今回は試しだから交換留学は一人ずつ。来年以降徐々に人数や期間を伸ばすそうです。三ヶ月、半年。
 最初のうちは、アルコン魔法学院とアウグストの魔術学園でだけ。

 いつか遠い未来、他の学校でも当たり前に交換留学が行われるようになるかもしれません。

「イワンは歓迎されるんでしょうね。きっとかわいい子もたくさんいます。あちらの国のほうが居心地良くなってしまったらどうしましょう」
「どういう心配をしてるんだ、お前は」

 イワンのお祖父様、ランヴァルドさんはもともとアウグストの王子。つまりイワンも、あちらの国では王族の家系です。
 汚らわしい魔族だなんて言われることなく、夢魔の姿のままで生きていける。

「オレはローレンツや交換留学生がお前にちょっかい出さないかのほうが心配だ」
「それこそ、なんの心配をしてるんですか」

 私が手を出されるなんてないでしょう。イワンという婚約者がいるのに。

「セシリオとローレンツだけでも厄介なのに。お前は人に愛想よくするから、留学生も世話を焼かれたら好意を持たれていると勘違いするだろう」
「交流が目的の留学生さんなのに、冷たくするわけにはいかないでしょう」
「学院のことを教えるのは構わないが、最低限にしろ。オレ以外の男と必要以上に話すな」
「独占欲強いですね」

 私と男性の接触機会を徹底的に排除するのは、いっそ清々しいです。ヤンデレの鏡ですね。

「それに、オレはあちらに行って、次代の王は期待できるとたくさん吹聴しておく。セシリオならいい王になると。お前の目標に貢献できるだろ」
「そうですね。魔族と人間が分かり合える国になってほしいです」

 イワンがアウグストで頑張るなら、私もこの国でできることをしましょう。

「私も、留学生さんにルシール王国のいいところたくさん話して、アウグストのいいところも聞きます。もちろん、勘違いされないように気をつけます」
「……そうだな。留学生も魔族なら魔族のつがいがいると色でわかるだろうし」
「色?」
「人間は感じないだろうが、魂に色がある。つがいと魂を分け合っている者独特の」

 イワンは私の胸に手を当てます。

「もちろん、オレも同じ色になっている。魂を見ればつがいがいるかどうかすぐにわかる。だから言い寄ってくる魔族はいないだろう」
「そうなんですね」

 イワンの左胸に手を乗せて、手のひらを介して鼓動を感じます。 
 私たちの魂は繋がっている。
 一時的に遠くに離れても、ここにあります。
 ぎゅっと抱きしめられて、目を閉じます。

 私にも魂の色が見えたらいいのに。私たちの魂はどんな色なんでしょう。

「来月の学院祭のときには一時帰国するから」
「はい。私にできることをして、待ってます」

 一週間後、イワンは交換留学のためアウグストに旅立ちました。
 もうすぐ秋。イワンのいない秋。
 アウグストから交換留学生がやってきます。
 学院祭が終われば定期テストもあります。

 イワンが帰ってきたとき胸を張ってお迎えできるよう、がんばりましょう。



夏編END 秋編に続く

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