一年生夏編 恋人と過ごす夏

 勝敗が決したあと、表彰式が行われました。
 観覧の方たちが見守る中、学長先生とセシリオ様、ミーナ様が進み出てきます。

「イワン、アラセリス、実に見事じゃった。そなたたちの魔法士としての成長を、これからも期待しておるぞ。ほっほっほ」

 学長先生からありがたいお言葉と、手書きのサイン色紙を授与されました。

 ……うーんと、なんていうか、とても達筆ですね。ミミズが這うような、独特のクセ字です。
 うん、これは記念としてお母さんにあげましょう。

 イワンも一瞬いらねーって顔をしましたが、先生の手前、優等生の笑顔に切り替えました。
 セシリオ様が尋ねてきます。

「副賞はどうするんだい?」
「そうでした。どうしましょう。何も考えてませんでした」

 誰に何かしてもらいたいってとくに考えてなかったです。
 ミーナ様がイワンに問いかけます。

「セリスさんは考え中のようですから、イワン。誰に何を頼みますか?」
「じゃあセシリオに。こういう魔法大会のような催し物を、学内だけでなく国民も観覧できるような形で開催してくれ」
「それはまた大規模な願い事だね」

 生徒会のセシリオ様でなく、王族のセシリオ様への願い事です。

 イワンは何を思ってそんなことを言い出したのでしょう。
 セシリオ様は説明されなくても意図を理解できたようで、楽しそうに答えます。

「いいだろう。その提案は国としてもメリットが大きい。父上に打診するよ」
「愛されてるわね、セリスさん」

 ミーナ様は意味ありげな笑顔で私に話を振りました。

「私に関係してます?」
「国の行事で魔法を見る機会が増えれば、魔法を使えるのは当たり前だと思う人も増える。そうすれば、国民の皆様からの偏見も減るでしょう」

 私のために、王族の権限を使わせちゃうんですか。
 なんだか目の奥が熱いです。
 イワンを見上げると目をそらされました。

「さぁ、セリスさんは何を望みます?」

 ミーナ様に聞かれて、私は自然と答えていました。

「ではセシリオ様にお願いします。もっと魔族の国と交流を盛んにして欲しいです。理解が深まればきっと、汚らわしいなんて言う人もいなくなります」

 私とイワンが結婚するなら、いずれ生まれてくる子は魔族の血を宿します。
 私たちの子が差別で悲しい思いをしなくても済むように。

「ははは。君たちは本当に似た者同士だね。確かにそこは、王族がしっかりしないといけないところだ」

 セシリオ様は深くうなずいて、国王陛下にかけあうと約束してくれました。

 表彰式も終わり、みんなそれぞれ帰路につきます。

「イワン。一緒に行ってほしいところがあるんです。今から時間をもらってもいいですか?」
「かまわないが、どこに行きたいんだ」
「町外れにある教会です。まだお父さんに紹介してなかったでしょう」

 イワンは目を見開いて、それからふわりと微笑みます。

「そうだな、まだ挨拶していなかった」

 夕焼けの中、教会までの道を手を繋いで歩きます。
 伸びた影が一つになっているの、面白いですね。

 教会に隣接する墓地は私たちしかいなくて、静まりかえっています。
 お父さんのお墓の前に立ち、私はイワンを紹介します。

「お父さん、しばらく来れなくてごめんなさい。私、魔法学院に入学したんです。この人はイワン。私の大切な人です」

 返事がくることはないのはわかっていても、つい話しかけてしまいます。
 きっと聞いていてくれると思うから。

 イワンは公用のお辞儀をして、同じように語りかけます。

「ご挨拶が遅れました。イワンと申します。これから先アラセリスの時間をもらうことを、お許しください」

 報告を終えて、教会を覗くと明かりがついていました。ここには懺悔をする人や故人を弔う人が訪れます。
 神父様はお留守なのか、離席中の札が置かれています。
 ステンドグラス越しの夕日が床を彩ってきれいです。
 二人で教会の中を歩くと結婚式の予行練習みたいですね。

「大好きですよ、イワン」
「知ってる」
「イワンも言ってください」

 本当に素直じゃない人です。
 私の右頬にかかっていた髪を指でそっとのけて、手で包み込むように触れます。

「……一度しか言わないからな」

 唇が触れる間際に、イワンは低く囁きます。

「愛している」

 漆黒の翼が、鮮やかに彩られます。
 私もイワンの背に手を回して、口づけに応えます。

「一度じゃ足りません。もっと言ってください」

 願わくば、イワンが悪魔の姿のままでも生きられる国になってほしいです。
 私はその隣で、一緒に歩みたい。

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